森のさがしもの
山の秋は綺麗でにぎやかです。木の葉が黄金色に輝きだします。朝日を浴びて紅葉の葉っぱは赤く光り、木の葉を通して木漏れ日の光が地面まで走り、風が吹くたびに山全体が光と共演してシンフォニーを奏でるようです。小鳥たちもそれに合わせるように囀ます。
リスのスーは食料集めに大忙しです。秋の山は実りでいっぱい。ベリー類や栗やドングリやカキやザクロ、赤い実、黄色い実、紫の実。それはもう盛り沢山。あちこちを走り回って食べまくります。お腹いっぱい食べて体に栄養を蓄えてよく太ってから冬眠しないと春まで体がもちません。たーくさん食べたからそろそろ今日は限界。はて、とリスのスーちゃんは考えました。「そうだ、取っておけばいいんだよ。でも、誰かに取られるかもしれない。ンン、、、隠さなきゃ。」だからスーちゃんはこっそりと土に埋めました。それもたくさん。どこがいいのかなと、場所を考えながら土の中に貯蔵庫をあちこちに作りました。気のふし穴や木の室にも貯蔵庫を作りました。毎日毎日食べきれなくなるとあちこちの貯蔵庫に埋めました。あんまり沢山埋めたから、どこに埋めたのかよくわからなくなってしましました。でもそこはおおらかなスーちゃんのことです。「ま、いいや。」「その辺にたくさん埋めたから大体わかるよ。」と思って、冬の雪が降るギリギリまで木の実を貯蔵庫に埋め続けました。
そうしてとうとう冬、スーちゃんは安心して冬眠することにしました。
山に初雪が降りました。真っ白い雪に山が覆われ、山は銀世界です。光が当たるとキラキラとまぶしく光りました。どこにも緑の葉も木の実も見えません。雪はどんどんどんどん降り続けました。真っ白な銀世界の山に全く食べ物がなくなった時に、あれ、誰か雪を掘り返す動物がいますよ。あれ、小鳥も雪を掘り返していますね。
「あー、良かった、リスさんありがとう。あなたのお陰で今日も生き延びることができるよ。この木の実があればあとちょっとは生き延びられる。助かったよ、ありがとう。」
木の実を食べてみんな心ではこの宝物を埋めてくれた誰かにお礼を言いましたが、当人のリスには届かないお礼の声です。
早春のある日、リスのスーちゃんは目を覚ましました。そうして、取っておいた木の実を探しに貯蔵庫に向かいました。「あれ、ない。あれ、ここにもないや、あれ、私、忘れちゃったのかな。おっかしいなあ。あれ、私はばかだなあ、いやになっちゃうよ。」
いいえ、違いますよ、あなたは森のセーフティーネット、みんなの命の恩人なんです。
「あ。あった!」 良かった、ちゃんとリスのスーは自分の埋めた木の実の一つを見つけました。そして、また、ひとつ。またひとつ。
そうして、スーちゃんがお腹いっぱいになった後、まだ掘り起こされるのを忘れられたドングリが、春の日を浴びて双葉を出しました。この双葉は何年かしたら、大きなクヌギの木になって、またドングリの実をたくさんつけるのでしょうね。そうしてまたリスのスーの子孫はせっせと木の実を土の貯蔵庫にしまうんでしょうね。
森の探し物、スーちゃんは一生懸命にさがしましたが、実は働き者でおおらかで忘れん坊で人?のいいリスのスーちゃんは・・・・・、本当は宝探しの仕掛け人、森の生態系の仕掛け人なんですね。ね、スーちゃん?
あれ、スーちゃんは知らん顔。自分がそんなに良いことしたとか、偉いなんて夢にも思ってないみたいですよ。
誰ですか?どこにしまったか忘れるなんてバカじゃんっなんて、スーちゃんの悪口を言っている人は?そういう人には宇宙全体の、いいえ、山の自然の循環や生き物たちの自然な助け合いの大きな輪がみえていないんですよ。ね?
やがて山にも本格的な春がきました。木々は綿毛の付いた芽吹いたばかりの新芽を付け山全体がほわっと煙って見えます。山桜が誇らしげに赤っぽい新芽と一緒にピンクの花をつけ、山つつじがあちこちで真っ赤に咲き、鳥がにぎやかに歌いだしました。これから、リスのスーちゃんたちも、森の動物たちも、鳥たちも、恋の季節を迎えます。山全体が生命力でキラキラと楽しく輝くようです。
山の探し物、のお話でした。ドンドコシャン。 おしまい。