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第99話 サラリーマンは辛いよ

「いやぁしっかし、まんまと(だま)されたぜ紅麗(ホンリー)ちゃんよぉ。まさかキミまでが向こう側の人間だったとはねぇ……」


「……」


 (さわ)やかな海風が頬を伝い、そして丘の(いただき)へと向かって、軽やかに吹き抜けて行く。

 本来は笑顔の一つも浮かべたくなる、そんな気持ちの良い風のはずなんだが、なんだか俺と彼女の間を流れる、気まずい『すきま風』……の様に感じてしまうのは、俺だけの思い過ごしだろうか。


 例の東屋(ガゼボ)を退席したあと、いまだ彼女は一度も口を開こうとしない。

 薄紫色(うすむらさき)の花々が咲き誇る庭園の細道。

 その中を、終始無言のまま、俺を先導する形でゆっくりと歩みを進める彼女。


 あの……えぇっと……誰だったっけかなぁ?

 アゲなんとか……コルうんちゃらか、マロネイア……だったか?

 そうそう、マロネイア、マロネイア。


 アイツとの小一時間ほどに及ぶ会談。

 まぁ、会談と言っていいのかどうかはわからんが。


 政治色の濃い、カウンター気味の言葉を投げつけられたのは、ほんとに最初の五分ほどだけ。

 それ以降は、当たり(さわ)りのない会話が中心だった。


 この国の気候の話や、好きな観劇の話なんかぐらいだな。

 時折、神界……あぁ、この国の連中は、日本の事を神界と呼んでいるらしいが……の事なんかも質問されたが。


 とは言っても、どこまで話して良いかも分からねぇしな。


 そこは日本人最強の武器、『愛想笑い』ってヤツで、何とかその場を(しの)ぎ切る事が出来たと思ってる。


「なぁ、紅麗(ホンリー)ちゃんよぉ。俺ぁ、別に怒ってなんかいねぇぜ? 別に何かされた訳でもねぇし。片岡だって眠らされただけで、今頃は侍女の(ねー)ちゃん達に宿泊施設の方へ連れて行ってもらってんだろ? だったら、別に問題はねぇじゃねぇか。紅麗(ホンリー)ちゃんにだってさぁ……ほら、なんつうか、そのぉ、何らかの事情があったんだろうしよぉ」


「……」


 俺の目の前で揺れる白銀の髪。

 南国を思わせる少しキツめの陽光を受け、音も無くキラキラと(きらめ)いて見える。

 そんな彼女の背に向かって、どうせ答えてはもらえぬものと、なかば(あきら)めつつも、玉砕覚悟でもう一度話し掛けてみた。


紅麗(ホンリー)ちゃんもそろそろ機嫌をなおしてだなぁ……って、おぉ! ビックリしたぁ!」


 突然、俺の方へと振り向く彼女。

 深紅(しんく)に輝く二つの瞳が、俺の心を射貫くかのごとく見据えて来たのだ。


 うわぁ。なんだなんだ。

 あんまりしつこく声を掛けたから、怒っちゃったか?


加茂坂(かもさか)様……」


「おっ、おぉ。どした? 紅麗(ホンリー)ちゃん」


「どうか……どうかお許し下さいませ」


 直前の勢いとは一転。

 今度は伏し目がちに、俺の目の前で(ひざまず)いてみせる銀髪の少女。


「正直に申し上げます。先程本国に着いた際、マロネイア様からの東屋(ガゼボ)へのご招待について、連絡を受けておりました」


「おぉ、そうか。まぁ、そうだろうな。そんで、俺をあの場所へと誘導した、って訳か」


「……はい、その通りでございます」


 やっぱりな。

 どうにも出来過ぎな話だと思ったんだ。


「でもなぁ。もし俺がこの辺りを散策しよう……なんて言い出さなかったら、どうするつもりだったんだ?」


「はい、加茂坂(かもさか)様を宿泊施設の方へお送りした後、出席の可否について確認するつもりでございました。ただ……」


「ただ……なんだ?」


「はい、宿泊施設の方には、既に多くの陳情(ちんじょう)を伴うお客様がお待ちであると聞き及んでおりましたので。また、階位は加茂坂(かもさか)様より低いとは言え、マロネイア様はエレトリアの大貴族。マロネイア様との会談を優先された方が後々の事を考えた場合に有益であると考えた次第です」


 あぁ、なるほど。

 俺を(たず)ねて来た客の中でも、マロネイアって言う貴族は、別格って事か。

 それに、一度待ってる客の前に俺が顔を出しちまったら、なかなか席を外し辛いと言うのもあるんだろう。


「また、言い訳にもなりませんが、ここはパルテニオス神の神殿管理区域。まさか戦闘奴隷を含む()()()()()()()を潜伏させているとは思いもよらず。私の浅慮(せんりょ)により、加茂坂(かもさか)様を大変不快な目に合わせてしまいました事、心よりお詫び申し上げます」


 謝罪の言葉とともに、更に深々と頭を下げる彼女。


「あぁ、いや。結果的に何事も無かったんだから大丈夫さ。それに、もし本当にヤリ合う事になったとしたら、紅麗(ホンリー)ちゃんも加勢してくれるつもりだったんだろ?」


「はい。我が一命に替えましても」


 再び顔を上げた彼女の瞳には、固い決意とともに、(わず)かばかりの涙が浮かんでいて。


 おいおいおい。ヤメてくれよ。

 まるで俺が泣かせたみたいじゃねぇか。


 慌てた俺は、とりあえず周囲を見回してみるが、特に人影は見当たらない。


 あぶねぇ、あぶねぇ。

 こんなところを誰かに見られたら、パワハラかなんかで一発アウトだぜ。

 とにかく、なんか話題を変えないとだな。


「あぁ、えぇっと。しっかし、心配したほどの事ぁ無かったよな。さっきのだって、単なる茶会だったし……」


 ――ギリッ!


 ん? なんだ? 今のギリッ! って音。

 なんだ? 紅麗(ホンリー)ちゃん?

 どうした、紅麗(ホンリー)ちゃん?

 何があったんだ、紅麗(ホンリー)ちゃん?


 なんか、さっきより更に表情が(けわ)しくなってねぇか?

 あのギリッ! って音。

 もしかして、紅麗(ホンリー)ちゃんの歯噛みの音?

 え? マジ。マジなの?

 なんで? 俺、なんか変なコト言った?

 

「単なる茶会……?」


 (つぶや)くように話し始める紅麗(ホンリー)ちゃん。


「私が力不足であったが為に……」


 やべ、失敗した!

 またこのモードに突入しちゃったよ。


加茂坂(かもさか)様の大切な……」


 大切? 大切って、何?

 俺、何か大切なもの、どうかしたっけ?

 片岡か? 片岡の事を心配してんのか?

 いや、俺。

 別に片岡は思ったほど大切じゃねぇぞ。


貞操(ていそう)がっ……!」


「ん?」


「てっ、貞操(ていそう)がぁ……本当に申し訳無く……」


「んん? ていそうぅ?」


 急にナニ言ってんだ? 紅麗ちゃん(コイツ?)


「わっ、私がもっとしっかりさえしていれば、あんな、どこぞのウマの骨とも分からぬ女官に、聖職者である加茂坂(かもさか)様の大切な《ピー》を(くわ)えさせる様な事態になどさせなかったものを……」


 んぁ?


 あぁぁ……それ。

 その事ね。

 はいはいはい。

 ありましたねぇ……そんな事が。


 そう言えば茶会の最後ぐらいに、給仕してくれてた女の子の一人が、急に俺の椅子の前で(ひざまず)くもんだからさぁ。

 なんだ、なんだ? って思ってる内に、あっと言う間にふんどしもどきを引っぺがされてさぁ。

 流石に四十を過ぎてると、そんな急に元気になんてならねぇモンだけど。

 まぁ、なんっつぅか、シチュエーションがシチュエーションだし、女官連中の着てる衣装がまた、エロいっつーかさぁ。

 既に準備万端……とまでは行かないまでも、半勃(はんだ)ちの状態だったからなぁ。

 そんなこんなで、いきなり(くわ)え込まれた時にゃ、そりゃ驚いて……って、なに言ってんだ、俺?


「って言うか、ソコ? 紅麗(ホンリー)ちゃんが心配してくれてたトコって、ソコなの?」


 って言う俺の言葉に、キョトンとした表情を浮かべる彼女。


「はい……ん? 逆に、それ以外に何か?」


「あぁ、いや。もっとさぁ、なんて言うかそのぉ、俺の命が危ないとかさぁ、そういう感じのさぁ……」


「ご冗談を。その様な事は決してございません。ここはパルテニオス神の神殿管理区域。そんな場所で刃傷沙汰(にんじょうざた)を起こせば、マロネイア様ご本人にまで責が及びます。大貴族ともあろう御方が、その様な愚策に走るはずはございません。しかも、私が傍にいる事を承知で武力に訴えるなど、自殺するにも等しい愚行と言わざるを得ませんので」


「え? それじゃあ、紅麗(ホンリー)ちゃんの力で、この件も止めてくれれば良かったじゃん」


「いや……流石に加茂坂(かもさか)様の房事(ぼうじ)に関して、案内役でしかない私がとやかく言うのは少々(はばか)られますし、それに、加茂坂(かもさか)様の閨房(けいぼう)(つかさど)るべき片岡さんが眠らされた状態でもありましたので、なかなかに言い出し辛く……」


 なんて言いつつ、顔を赤らめ、ちょっとモジモジしてる紅麗(ホンリー)ちゃん。

 うん、うん。

 オジサン、もう四十を過ぎてるけど、ちょっとこの娘カワイイと思うぞ。


 って事は。

 マロネイアの話は最初から知っていた。

 それに、最初っから危ない目には合わないとも思ってた。

 ただ、最後の方での()()接待は、ちょっと許せない。

 本来は俺の閨房(けいぼう)担当……ってなんだよそれ……の片岡が止めるべき所を、相手方の術中にはまって、まんまと眠らされちまった。

 そんでもって、役割外の紅麗(ホンリー)ちゃんは、それを制止する事も出来ず、悔しい想いをした……って言うのが紅麗(ホンリー)ちゃんの感想かぁ。


「うぅぅむ……」


 なんだそれ?


 正直。

 彼女に掛ける言葉が、なんも思い浮かばねぇ。


「まっ、まぁ。紅麗(ホンリー)ちゃんは、しっかりやってくれてたよ。だから、紅麗(ホンリー)ちゃんは悪くない。問題は、そう……片岡だな。そうそう、片岡、片岡。アイツが悪いんだよ。要するに、アイツが間抜けだから、一服盛られて眠っちまって、俺をあんな卑猥(ひわい)な接待から守れなかった! って事が原因な訳だからなっ!」


 と、苦し紛れの理論を展開しつつ、横目で彼女の様子を伺ってみる。

 最初こそ呆気(あっけ)にとられた様な顔つきだったけど、後半に至る頃には、意外と真剣な表情で(うなず)いていて。


「はい、流石は加茂坂(かもさか)様。御指摘の通りかと。やはり、片岡さんには加茂坂(かもさか)様の閨房(けいぼう)を預かる身として、もっと真剣に業務へ打ち込んでもらえる様、強く指導すべきであると心得ます。承知致しました。お任せ下さい、私が責任を持って片岡さんを教育し直して御覧に入れます」


「うん、あぁ……そうだな。……よろしく……頼む」


「はい、畏まりました!」


 先程までとは打って変わって、爽やかな笑顔を浮かべる紅麗(ホンリー)ちゃん。


 うん、まぁ。いっか。

 片岡には悪いけど。

 紅麗(ホンリー)ちゃんの機嫌も直った様だし。

 ちょっと彼女にシゴかれてもらう事にしよう。


 そうさ、そうだよ。

 片岡も注意力散漫って事だよな。

 気が抜けてンだよ。


 常在戦場。

 常日頃から自分の飲み物にも気を配るべきなんだよな。

 それがお前ェ、自分が眠らされてちゃ、使いモンにならねぇって事だかんな。

 うんうん。そうだ、そうだ。

 なんやかんやで、アイツが悪い。


 なんて、とにかく自分を納得させつつ。

 俺達二人は当初の予定より一時間ほど遅れで、宿泊施設の方へと向かって行ったのさ。


 それから、ものの五分も歩いただろうか。


 この辺りまで来ると、庭園を横切る小道の辻々には、最初の頃に付き従っていた女官らしき女たちが待ち構えていて、俺に向かって優雅なカーテシーを披露した後に、そのまま俺の後ろへと並んで歩き始める。


 なるほどな。

 最初に人払いした女官たちは、ここで待たせていたと言う訳か。


 そして再び十名ほどの女官を引き連れ、俺は今夜の宿となる宿泊施設の前へと到着したんだ。

 

 ほほぉ……。

 宿泊施設っつっても、ちょっとしたホテルほどの広さはあるなぁ。

 かなり豪華な建物だと言って良い。


 総大理石造りの建物は、古代ギリシャ的な(おもむき)を残しつつ、南国風にアレンジされたものだ。

 エントランス部分は解放感のある吹き抜けで、古代ギリシャ風のトガを(まと)った老紳士風の男たちがそこかしこで輪を作り談笑している。

 ちょっとした社交場と言った風情か。


「ほぉぉ。なかなか良い場所だな。ここが今日の宿か?」


「はい、猊下(げいか)。こちらの建物は迎賓館(げいひんかん)となっており、外部や遠方からお越しの方々の宿泊場所となっております」


「って事は、蓮爾 (れんじ)様や、他の司教の方々もココに居るって事か?」


 俺は少々ビビりながらも、紅麗(ホンリー)ちゃんに耳打ちしてみる。


「いいえ、司教クラスの方々はそれぞれ、専用のお部屋をお持ちです。蓮爾 (れんじ)様も同様にございます。こちらの建物に宿泊されるのは、司祭枢機卿、助祭枢機卿、もしくは来賓となる有力貴族の方々となるでしょう。つまり、加茂坂(かもさか)様は、この迎賓館の中では最上位グループに位置するとお考え頂いて結構かと思います」


 なるほどね。

 司教クラスはもう一段、格が違うって事か。


「ご無礼致します」


 突然、見知らぬ男が俺の目の前で(ひざまづ)いて見せた。

 当然のごとく、紅麗(ホンリー)ちゃんが俺とその男の間に割って入る。


「ご承知の通り迎賓館のエントランスは社交の場。お声がけいただく事について、異議を申し立てる事はございません。しかし、御覧の通り猊下はたった今ご入館されたばかり。一度お部屋にお入りいただき、再度エントランスにお越しいただいた際にお声がけいただく……と言うのが筋ではございませぬか?」


 物静かな中にも、毅然(きぜん)とした態度の彼女。


 事前に受けたレクチャーでは、よほどの知り合いでも無い限り、目下の者が目上の者に話し掛ける事はタブーだ。

 ただ、社交場や議場、もしくは最上位者が許可する場合……一般的に言う無礼講ってヤツだな……においては、その限りでは無いらしい。


 さっき紅麗(ホンリー)ちゃんが言った通り、このエントランスは社交場としての位置付けらしいから、俺がフラフラと歩いていれば、たとえ目下の者でも目上の者に声を掛ける事が出来ると言う、非常に貴重な場となっているんだろう。


 このルールを最大限活用して、位の低いヤツらは、なんとか上位のヤツらに陳情を捻じ込もうと、このエントランスに(たむろ)していると言う訳だな。


 と、ここまで考えたところで、一つ気が付いた。


 あぁ、そうか。そう言う事か。

 なんだったら俺の様な司祭枢機卿の所へ来るよりも、司教の方へ直接陳情に行く方が何倍も効率的が良いに違いない。

 だけど、司教連中はもともと泊まる場所が違ってて、下々の連中が会う事すらままならないと言う訳だ。

 となると、司教とパイプを持つ中間管理職である司祭枢機卿や、助祭枢機卿の価値が出て来るって寸法かぁ。

 なるほどなぁ。良く出来てやがるぜ。


「ご無礼の段、誠に申し訳ございません。私、ベルガモン王国より参りました、宰相補のエミルハンと申します。御方は東京教区の司祭枢機卿猊下(げいか)とお見受け致します。もしお時間をいただける様であれば、当国宰相が是非ともご挨拶をさせていただきたいと申しておりまして……」


 へぇぇ……。

 ベルガモン王国って言うのがどの程度デカい国なのかは知らねぇが。宰相補って言やぁ、一国の総理大臣の次に偉いヤツって事だろ?

 そんな大の大人が、俺の目の前の紅麗(ホンリー)ちゃんに(ひざまず)いて懇願するなんざ、並大抵の事じゃねぇわなぁ。

 まぁ、向こう側で俺達をコソコソ見てるヤツがコイツの上役って事なんだろうけど。

 ソイツが無茶言うもんだから、部下が必死になってお客を説得に来た……って所か。どこの世界も、サラリーマンは世知辛いねぇ。


猊下(げいか)、如何致しましょう」


 少し困り顔の紅麗(ホンリー)ちゃん

 俺は自身のトガを軽く胸元で押えながら、彼女の耳元に囁きかけた。


「なぁ、紅麗(ホンリー)ちゃん。どうしたら良いと思う?」


「そうですねぇ。ベルガモン王国は東の大国です。アウエルやバルミュラ、ラタニア人との交易においては、その中心となる貿易国で、このメルフィ王国とも大変関係の深い国です。挨拶を受けておいても損は無いかと」


「分かった。それじゃあ、挨拶ぐらいだったら受けておくか」


「承知いたしました。ただ……多少はお覚悟いただく必要がございます」


「ん? 覚悟って? なに? なんの覚悟」


「いえ、大した事ではございませんが、まぁ、一応でございます」


 そう言うなり、にっこりと微笑んでみせる紅麗(ホンリー)ちゃん。


 なんだ? 覚悟って。

 そんなにヤバい事なのか?

 でも彼女は、大した事じゃねぇって言ってたけど。

 まぁ、考えててもしゃあねぇか。


「と言う事で、猊下(げいか)、如何致しましょう」


 紅麗(ホンリー)ちゃんが芝居がかった様子で、もう一度聞いて来る。


 あぁ、もう始まってるのか。

 やばい、やばい。

 余計な事考えてる場合じゃねぇな。


「うむ。よかろう」


 俺は自身の引き出しに仕舞ってあった()()の『威厳(いげん)』や『貫禄(かんろく)』と名の付くモノを総動員して、出来るだけ重々しく返答をしてみせる。


「ありがとうございます。それでは早速。ささ、どうぞこちらへ」


 俺は促されるまま、偉そうなオッサン……っつっても、俺もオッサンだが……連中の輪の中へと連れて行かれる事になった訳だ。


 そして、(わず)か数分後。

 俺の周りには、黒山の人だかりが出来上がっていた。


 いつ尽きるとも知れぬ挨拶攻勢。

 もう、最初の頃に挨拶した人間の顔も名前も覚えちゃいねぇ。

 なんだったら、二週目に並んでたとしても、また最初から初めましてと言ってしまうに違いない。


 かぁぁぁ!

 紅麗(ホンリー)ちゃんの言ってた覚悟って、この事かぁ!

 いったいどこで切り上げて良いやら、ぜんぜん分かんねぇ!


 俺はその後も、延々と続く陳情の嵐に翻弄(ほんろう)され続けるハメになっちまったのさ。

ちなみに! 今回チョイ役で出演致しました宰相補のエミルハンさん。プロピュライア祖父が創造主の異世界でとりあえず短期留学希望の方の「第264話 侵略者側の思惑」に出て来ますです(笑)

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