表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/230

第50話 三人の司教

「それにしても、久しぶりだねぇ……」


 そう声を掛けて来たのは上質な黒革(くろかわ)のコートに身を包む一人の青年。

 無造作(むぞうさ)にかき上げるしなやかな金髪(かみ)は、都会のネオンに照らし出されて七色に輝いて見える。


 おっ、お前っ!?


「またキミに会えてうれしいよ……ブラックハウンド」


 聞き覚えのある声。

 見覚えのある顔。

 沸々(ふつふつ)と心の底から()(おこ)るのは()()()の痛みか? 屈辱(くつじょく)か? それとも……。


「キシャァァァァ! グワァオロロロロ!!」


 口をついて出たのは、辺り一面に(ひび)き渡る咆哮(ほうこう)


 ドッ、金髪(ドS野郎)じゃねーか!

 なんでこんな所にお前がっ!?


 いや、現れて当然か。

 例の黒トレンチコート男だって居たんだ。

 あの男が金髪(ドS野郎)を呼ばない訳が無い。

 チクショウ!

 折角あと一息で逃げ切れるって所なのにっ!


 金髪(ヤツ)は両手をコートのポケットに入れたまま、軽いステップで僕の目の前へと進み出て来たんだ。


 ヤバい、ヤバいっ!

 この男は絶対にヤバいっ!

 何しろブラックハウンドは金髪(この男)()()()いる。

 って事は僕も金髪(コイツ)には勝てない、つまり……。


 僕の心臓は早鐘(はやがね)の様に鳴り始め、足元はガタガタと震え出す始末。

 正直、立っているだけで精一杯。

 今にも腰砕(こしくだ)けに座り込んでしまいそうだ。

 もしかしたら、尻尾だって負け犬の様に丸まっているのかもしれない。

 だけど、それを確認する余裕なんてあるはずも無い。


 ()られる。

 僕の方が……(コロ)されるっ!!


 うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!


「キシャァァァァ!!」


 闇夜(やみよ)(つんざ)絶叫(ぜっきょう)

 気付けば僕は無我夢中(むがむちゅう)金髪(ドS野郎)(おそ)い掛かっていたのさ。


「キシャァァァァ! キシャァァァァ!」 


 恐怖(きょうふ)と混乱。

 そして一つまみの自惚(うぬぼ)れ……。


 それら綯交(ないま)ぜとなった激情(げきじょう)が、僕を無謀(むぼう)なる突撃(とつげき)へと駆り立てる。


「グワァオロロロロァァ!!」 


 鋼鉄(こうてつ)を切り裂き、大地をも穿(うが)つ。

 繰り出したのは、魔獣渾身(こんしん)鉤爪(かぎづめ)


 ――ビシッ!! バキッ、バキバキバキッ! ズズゥゥン!


 屋上に埋め込まれた鉄骨は(ゆが)み、コンクリートが粉々となって(はじ)け飛ぶ。


「おいおい。まだ挨拶(あいさつ)の途中だろ? これだから理性の無い魔獣は嫌いなんだよなぁ」


 チッ!! 外したかっ!


 金髪(ヤツ)は僕の前足を難なく(かわ)すと、まるで何事も無かったかの様に再び近づいて来るでは無いか。


因縁(いんねん)の対決とは正にこの事だな。()()()随分(ずいぶん)と世話になったが、今回はそうは行かないよ」


 ()()()は世話になっただって?

 いやいやいや。

 結局、お前がブラックハウンドを殺したんだろっ!?

 ヤラれたのは僕の方だ!


「グォロロロロ……!」


 精一杯の(うな)り声と共に、金髪(ヤツ)の事を(にら)みつける。

 しかし、金髪(ヤツ)は全く()(かい)さず。


「はははは。強者は強者を知る……と言う所かな? お前も僕に会えて嬉しいって事なんだろ? なぁ、ブラックハウンド?」


 何言ってやがる。

 お前に会いたいなんて思う訳無ぇだろっ!

 この戦闘狂(バトルジャンキー)がっ!


「キシャァァ!!」


 ――ビシッ!! バキバキバキッ! ズズン!


「キシャァァァァ!!」


 ――ビシッ!! バキッ、バキバキバキッ! ズズゥゥン!


 攻撃こそ最大の防御。

 金髪(ヤツ)に反撃の切っ掛けなんて(つか)ませやしないっ。

 このまま手数(てかず)(パワー)で押し切ってやるっ!


 矢継(やつぎ)(ばや)に繰り出される斬撃(ざんげき)

 その一つひとつが必殺であり、一度(ひとたび)でもその身に触れようものなら、人の体などズタズタに切り()いてしまう事だろう。


「キシャァァ!!」


 ――ビシッ!! バキバキバキッ! ズズン!


 しかし、金髪(あの男)百戦錬磨(ひゃくせんれんま)

 僕の大振りの攻撃がすんなりと当たる訳も無く。


 人並外れた身体能力に、特徴的な長い耳。

 金髪(ヤツ)もどうやらエルフらしい。


 だが、金髪(ヤツ)がエルフかどうかなんて関係ない。

 いくら超人(エルフ)と言えど、所詮(しょせん)は人間モドキ。

 ブラックハウンドとは(くら)ぶべくもない。

 このまま、消耗戦(しょうもうせん)に持ち込みさえすれば、いつか必ず機会(チャンス)が訪れるはずだ。


 焦るな。

 これで良い。これで良いんだ。

 その証拠にヤツは全く攻撃して来ないじゃないか。


 そう割り切った僕は、攻撃を繰り出す腕に更なる力を込めて行ったのさ。

 しかし。


 ――フォォンッ! キィィィィン!


 これはっ!


 研ぎ澄まされた僕の聴覚(ちょうかく)が、右後方から迫り来る空気の(ゆが)みを察知(さっち)する。


「グゥッ!」

 

 咄嗟(とっさ)に半身を(ひね)って(かわ)そうとしたが間に合わないっ!


 ――シュバッ! 


「グルゴアァァァァッ!」


 やられたッ! 右足ッ!


 視界の端には高々と吹き上がる血飛沫(ちしぶき)が映る。


 クッ! 喰らったっ!

 この魔法(わざ)は、例の司教だなっ、間違い無いっ!

 何処だっ、何処に居るっ?!


 即座に周囲を見渡してみたけど、その痕跡(こんせき)すら(つか)む事が出来ない。


 って言うか、結界が張られてたら魔法は使えないんじゃ無いのかよっ!

 クロめぇ! 嘘つきやがったなっ!


 こんな所で文句を言っても始まらない。

 でも言わずにはいられない。


 チクショウ! 何処だっ、何処に居るんだっ!


「キシャァァァァ! グワァオロロロロァァ!!」


 敵の所在は分からない。

 今の僕に出来る事と言えば、周囲に向かって闇雲(やみくも)斬撃(ざんげき)を繰り出す事だけ。


 ――フォンッ! キィィン! フォォンッ! キィィィィン!


 その間も敵からの攻撃は間断(かんだん)無く僕の体を引き裂き続ける。


 ――シュバッ! シュバッバッ!


 肩に腕、後ろ足に脇腹。

 至る所から(ほとばし)鮮血(せんけつ)

 既に全身は血まみれの状態だ。


「キシャァァァァ! キシャァァァァ!」


 駄目だっ! このままじゃ、このままじゃあっ!


 度重(たびかさ)なる見えない敵からの攻撃。

 何とかしなければと(あせ)る気持ちが重圧(プレッシャー)となり、パニックを引き起こし掛けたその時。


『……ケシ! 落ち着け、タケシィッ!』


 突然、脳内に鳴り響く強い思念。


 はぁ、はぁ……っはぁ、はぁ……。

 クッ……クロぉ!?


『タケシ、聞こえるか、タケシ』


 うっ。うん。聞こえる。

 聞こえるよ。クロ。クロォ……。


『大丈夫だ、タケシ。落ち着け、まず暴れるのを止めろ。このままでは自動治癒(オートヒーリング)による回復が追いつかなくなる。それにもう一度自分の体を見直してみるんだ。確かに痛みは感じるかもしれないが、傷の殆どは既に(ふさ)がっているはずだ』


 え……?


 僕はクロに指示された通り一旦その動きを止め、次に自身の体の状態を探ってみた。すると……。


 確かにクロの言う通りだ。

 攻撃を受けた直後は痛みを感じるものの、(しばら)くするとその痛み自体は急激に(やわ)らいで行く。

 気付けば、体中のあちこちから濛々(もうもう)とした水蒸気が舞い上がっているじゃないか。

 これは、間違い無く自動治癒(オートヒーリング)が効果を発揮している(あかし)


 でもクロ、このまま何もせず、ジッとしてる訳にも行かないだろ?


 当然の疑問。

 何の打開策(だかいさく)も無く、攻撃を受け続けるばかりではジリ貧だ。


『いや、(あせ)るなタケシ。グレーハウンドの背中は他の部位よりも強度が高い。恐らくはブラックハウンドでも同じだろう。まずは顔、腹、足先なんかの弱い部分を(おお)い隠すんだ』


 クロに言われた通り。

 僕はその場に(うずくま)ると、体を丸くして防御の姿勢を取り始めたのさ。

 その間も何度か背中に斬撃(ざんげき)を受けた感はあるけど、さっきまで感じていた様な激しい痛みはない。


 クロ、これなら大丈夫そうだ。

 あんまり痛くない。


『よし、タケシ。ようやく落ち着いて来た様だな』


 本当に助かったよ。クロ。

 あのままだったら、ホントマジでヤラれる所だった。

 さっきはチョット(ひど)い事を言ったりもしたけど、やっぱりクロは頼りになる。


 って言うか、クロ、今何処に居るの?

 思念って結界内だと使えないんじゃ……。


『その通りだ。良く聞けタケシ。私は今、お前の足元まで来ている。本来はお前が敵を他の場所へと誘い出した後、私が如月(きさらぎ)香丸(こうまる)を連れて逃げる算段だったが、あまりにもお前が不甲斐ない状況だったものでな』


 あっ、あぁぁ……確かに。

 隣のビルへと飛び移る決心が出来ず、かなりの時間を浪費(ろうひ)してしまったんだよな。

 クロに無用の心配を掛けてしまった様だ。


『そこでお前と話をすべくお前の足元まで近寄ってみたは良いが、その後すぐにこの戦闘が始まってしまったからな。戻るに戻れなかったと言う訳だ』


 あぁ……申し訳ありません。


『いや、謝る事は無い。いくら魔獣の体に変わっているとは言え、この高さで飛ぶのはかなりの恐怖だろう。しかし、あまり時間は無い。例の氷を操る司教までが参戦して来たとなれば、こちら側に勝てる見込みは限りなくゼロだ』


 あぁ、やっぱり無いんだ。


『無い。司教一人だけでも十分手強(てごわ)いのに、三人を相手に戦うなど自殺行為に等しい。タケシ、ここは冷静になれ。ヤツに復讐(ふくしゅう)したい気持ちも分かるが、ここは一旦撤退(てったい)する事を考えろ』


 いやいや。

 別に復讐(ふくしゅう)がどうとかなんて思ってた訳じゃないけど……でも確かに金髪(ドS野郎)を見た途端、逆上(ぎゃくじょう)していたのは事実だ。そうだ、本来の目的は戦う事じゃない。まずは綾香(あやか)香丸(こうまる)先輩を逃がさないと。


『そうだ、その通りだタケシ。前にも話した通り、ビルの尾根伝いに隣の建物へと逃げる手段も考えられるが、今現在その方向には如月(きさらぎ)達が隠れている。しかも、どうやら何処まで行っても建物の高さは殆ど同じらしい。結局は何処かで地上へと下りねばならん』


 そうなんだよ。

 問題はそこなんだよ。


『そこでだ。隣の建物に飛び移るのではなく、いっその事、このままこの建物から飛び降りる事にしよう』


 いやいや、ちょっと待って、クロ。

 隣のビルに飛び移るのだって怖いのに、ここから飛び降りるって、一体どういう事?

 って言うか、そっちの方が怖いよ。


『説明が不足した様だな。飛ぶと言うよりは、外にある非常階段を伝って下りて行く感じだ。ブラックハウンドの爪は鋭い。先程から何度もお前がやっている通り、この建物の外壁程度であれば簡単に爪を打ち込む事が出来るだろう。しかもだ。外非常階段は露出部分も多く爪を掛けやすい。ここを伝って地上へと下りて行くんだ。現在(いま)のお前の体格であれば、半分程も下りれば、あとは飛び降りても大した怪我は負うまい。あとは自動治癒(オートヒーリング)が発動する事を祈ろう』


 おいおい。

 祈るって、一体誰に祈るんだよ。

 チェッ、結局最後は神頼みかよ。


 しかしまぁ、それしか方法は無さそうだな。

 時間を掛ければかけるほど、ヤツらの戦力は増えて行く一方だ。 


 分かった、クロ。やってみるよ。


 そうと決まれば善は急げだ。

 僕は丸めた体の陰から、ほんの少しだけ鼻先を(のぞ)かせてみた。


 すると……匂う。におう。

 自分達が上って来た非常階段の方角は右斜め前。

 距離もそう離れてはいない様だ。

 しかも、僕が防御姿勢を取ってからは、見えない敵からの攻撃もまばらになっている。


 魔力を使い果たしたのか、それとも攻撃が無意味であると悟ったのか。


 いや、それ以上に不気味なのは金髪(ドS野郎)の方だ。

 金髪(ヤツ)は最初に話し掛けて来たっきり、その後一向に攻撃して来る様子が見受けられない。


 ……なぜだ?


 いや、いまその疑問を探っている余裕は無い。

 まずは非常階段を足掛かりにして、地上へと逃げる。

 まずはそれが最優先。


 僕は周囲を警戒しつつも、非常階段に向かって走り出すタイミングを図り始めたんだ。

 すると。


「キミが来るとは思わなかったよ、アイスキュロス」


 この声は風魔法の司教。

 何処だ、何処にいる?!


 耳をそばだて、声のする方向を探ってみるけど、なぜか方向が定まらない。

 まるで洞窟の中にでも居るかの様に、ヤツの声が色々な所から反響して聞こえて来る。


『タケシ、ヤツは風魔法の使い手だ。恐らく、風を操る事で音の伝わりを()じ曲げているんだろう。声の方向からヤツの居場所を割り出すのは(あきら)めた方が良い』


 クロの言う通りだ。

 そう言えば壱號(いちごう)達は、ヤツに触れる事すら出来なかった。

 恐らく魔獣の持つ高度な知覚でも感知できない、何らかの方法を使っているに違いない。


「いやいや、バジーリオ司教も人が悪い。折角こんな楽しい現場があるのなら、一声掛けて下さってもよろしいでしょうに」


 こっちの声は金髪(ドS野郎)だ。

 コイツの居場所は分かる。僕の左側、恐らくビルの塀の上に立っているんだろう。


「いや、キミは先日の作戦(ミッション)蓮爾 (れんじ)司教ともども()()したばかりだからね。まずはその傷を(いや)す方が優先だと考えたのだよ。これも先輩司教としての気遣いさ。悪く思わないでくれたまえ」


「……失敗?」


 金髪(ドS野郎)の声に不満の色が強く(にじ)む。


「おや? 失敗と言う言葉がお気に召さなかった様だね。まぁそうだね。あの失敗はキミの所為では無いな。全ては敵の戦力を甘く見た蓮爾 (れんじ)司教の責任と言う事になるだろう。安心したまえ。手駒(てごま)のキミがいちいち気に病む事では無い」


「……」


 不満が……更に怒りへと変わって行くのが手に取る様に分かる。


「さて、誰に呼ばれて来たのかは知らないが、キミの役目は無いよ。まぁ、せいぜい私の邪魔はしない事だね。これ以上失敗を重ねれば、司教になりたてのキミと言えど降格は免れないからね。あははははは」


 風魔法司教の鼻につく高笑(たかわら)い。

 僕が金髪(ドS野郎)の立場だったら、間違い無く一発ぶん殴っている所だ。


「ふぅ……そうですか。それではバジーリオ司教のお手並みを拝見させて頂く事に致しましょう。少々このブラックハウンドとは因縁があったのですが……まぁ良いでしょう。きっと()()の機会もあるでしょうし」


「ふっ、バカな事を。ブラックハウンドは私がココで仕留めます。再戦の機会などありませんよ。せいぜい長生きをして、新たなブラックハウンドの誕生を待つ事ですね」


 とここで、新たな声が。


「フォッフォッフォ。そうじゃ、その通りじゃぞ、アイスキュロス。折角の機会じゃ。年長者には花を持たせると言う事をここで学んで行け。今は蓮爾 (れんじ)の所に居るが、この先どうなるかは誰にも分からぬ。のぉ、アイスキュロスよ」


 なんだよ、老人(じーさん)司教まで出て来やがったぞ。

 完全に囲まれたっ!

 クロ、どうする、行く? 今行くっ?!


『あぁ、司教連中が無駄話を続けているこの内に、サッサと非常階段から地上に下りる事にしよう』


 よしっ、分かった!


 僕は非常階段のある方向をもう一度確認。

 魔獣の足であれば、(わず)か数歩と言う距離だ。

 そのまま非常階段脇の手摺(てすり)に爪を掛け、下半身をビルの外へ。

 更には空いた片方の腕で、非常階段本体を(つか)む事が出来れば、まずは体を固定する事ができる。

 その後は臨機応変(りんきおうへん)だな。

 出たとこ勝負ではあるけれど、今はそんな贅沢(ぜいたく)を言ってはいられない。

 

 脳内でのシミュレーションは完了。

 よしっ、行くぞっ!


 僕は完全回復した下半身に力を込め、思い切りコンクリート製の床を蹴り上げたのさ。


 ――ドゴォォン、ドドドドドドッ!


 え!?


 突然の爆音とともに訪れたのは、言い様の無い浮遊感(ふゆうかん)


「キシャァァァァ!」


 うわぁぁぁぁぁぁ! 何だ、どうした!?


 ――バキバキバキ、バキバキバキッ!


 本来は非常階段にむけて高速で飛翔(ひしょう)しているはずの僕の体。

 しかし、視点は先ほどと同じ高さのまま。

 いや、どちらかと言えば更に低く、埋没(まいぼつ)している感じすら……。


 埋没(まいぼつ)っ!?

 しまった、落とし穴かっ!


 気付けば自分の踏みしめた屋上部分が大きく陥没(かんぼつ)し、完全に下半身が埋まってしまった状態に。


『タケシ! 何をしている、早く出ろっ! さもないとヤツらからの攻撃がっ!』


 クロが叫ぶ。

 それとほぼ同時に聞こえて来たのは、あの耳障りな音。


 ――フォォンッ! キィィィィン!


 ――シュバッ! シュバッバッ!


「キシャァァァァ! グワァオロロロロァァ!!」


 四方八方(しほうはっぽう)から次々と打ち込まれる斬撃(ざんげき)

 屋上の床面から露出している上半身は、自身の流す鮮血によって、みるみる内に(あか)く染め上げられて行く。


『タケシ! タケシッ!』


 駄目だっ、下半身が完全に埋まった!

 しかも足先には何もない空間が広がっている。

 全く踏み出す場所が無いんだっ!


『なに!? それであれば、上半身ごと一回下に落ちろ! 完全に落ちてから、改めて建物の壁をぶち破れば良い。タケシ、まずは一旦……あっ! あぁっ!』


 クロが目にしたもの。

 それは同時に僕の目にも映っていた。


 こっ、これって!


 先程大きく陥没(かんぼつ)した大穴。

 それがみるみる内に修復され、僕の上半身だけを残してきれいさっぱり復元されてしまったのだ。

 

 (はた)からみれば、屋上のコンクリートの床面にブラックハウンドの下半身だけが綺麗に埋められてしまった様な格好だ。


「フォッフォッフォ。どうじゃ、驚いたか? コンクリート等を扱うのは少々骨じゃったが、まぁ、この際だから仕方が無い。それに、一般市民を巻き込むのも気が引けたでのぉ。先に加茂坂(かもさか)に言って、避難させておったのじゃ。まぁ、それにしても見事にハマってくれたのぉ。フォッフォッフォ」


『タケシッ! この老人、クリストフォロス神の祝福を持っているらしい。地盤はヤツの能力で如何様(いかよう)にも改変できるぞっ!』


 んだよ! その不思議能力ぅ!


 下半身は依然足場が見当たらず、踏ん張る事が出来ない。

 かと言って、上半身も胸の部分から上だけでは腕のストロークも限定されて、コンクリートの床を撃ち砕く事なんて出来やしない。


 駄目だ、これじゃあ、手の打ちようが無い。

 しかも、そのもがいている間も、見えない斬撃(ざんげき)が絶え間なく襲って来るのだ。


 ――フォォンッ! フォォンッ! キィィィィン!


 ――シュバッ! シュバッバッ! 


 腕と言わず、頭と言わず。

 全身から白い水蒸気が止めどなく噴き出しているのが分かる。

 それでも、回復のスピードが全く追いついて行かない。

 そればかりか、だんだんと……いや、目に見えて回復の速度に遅れが。


 クロっ、ヤバいっ。

 体に……体に力が入らない。

 これ、もしかして魔力が切れて来たんじゃぁ……。


『タケシッ! タケシィッ!!』


 徐々に消えゆく意識の中、クロの悲痛な声だけがリフレインしていたんだ。

いやー、更新遅れてすんませんw

ちょっと本業が忙しくて、帯状疱疹なんかになっちゃったりしちゃったりしてw

いやいや、これが笑い事じゃないんですよ。本当ですよ、えぇ本当なんですから。

この帯状疱疹って、誰でも疲れたりするとなるらしいんだけど、薬をちゃんと飲まないと後遺症も出るらしいんです。ひぃぃぃ!なんてこったい!

みなさんも体調には気を付けてねww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ