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第39話 遭遇

『ヤツらは?』


『……部屋の方へ向かったよ』


『迷ってる素振りは?』


『いや……無いな』


 男達はフロアマップを軽く一瞥しただけで、そのまま418号室へと向かって行ったようだ。


 まさに間一髪だった。


 あの時。

 エレベータが到着する直前に、クロが声高(こわだか)に叫んだ。

 ()()()()()……と。

 否応(いやおう)もない。

 ()()()()()()からの厳命。


 僕は反射的にエレベータ横の非常階段へと体を滑り込ませたんだ。


 (わず)かに開かれた非常階段の扉。

 男達の会話に耳を(そばだ)てる一人と一匹。


『どうする、クロ? まさかヤツらが追って来るなんて』


『タケシ、とにかく時間が無い。まずは香丸(こうまる)たちと合流し、一刻も早くこの場を離れよう』


 確かにその通りだ。

 虱潰(しらみつぶ)しに探されたら、絶対に見つかってしまう。


 僕は慎重にドアを閉めると、綾香(あやか)たちの待つ部屋へと向かって階段を駆け上がって行ったんだ。


 ◆◇◆◇◆◇


加茂坂(かもさか)さん、ここですね。418号室」


 何の変哲も無いビジネスホテルの部屋だ。

 女としけ込むにゃあ、色々と物足りねえが。

 まぁ、()から一番近いホテルと言えば、当然ココだわな。


 あの後。

 俺は()()()()が生きていた事を蓮爾 (れんじ)様に報告すると、その足で警備室へと舞い戻った。

 何の為にって?

 当然、もう一度防犯カメラをチェックする為さ。


 防犯カメラの取り付け位置の制限なんだろうな。

 道路の向こう側に(たたず)む少年の顔は、残念ながらあまり映ってはいなかった。

 しかし、少女の方は違った。

 一目見て判ったよ。……ヤツだ。

 俺達を挑発するかのように指を立てるその仕草。

 まるで、自分を捕まえて見ろ! とでも言いたげなその表情。


 コイツ、一体何を考えてるんだ。正気か!?

 いやまさか、単身このビルに殴り込みでもするつもりだったんじゃねぇだろうな。


 いや、全く無い話じゃねぇ。

 もしヤツが不死身の召喚士であり、かつ闇の猟犬(ブラックハウンド)を自由自在に召喚出来るのだとしたら……。


 まぁ、もしそうなったら、信者の半分ぐらいは喰われちまっただろうな。


 しかし、教団には蓮爾 (れんじ)様をはじめ、多くの司教連中が居る。

 相手がいくら闇の猟犬(ブラックハウンド)とは言え、そう簡単に遅れを取る事はねぇだろう。


 ただなぁ。蓮爾 (れんじ)様がなぁ……。


 先日の高架橋での一件。

 列車の脱線に伴い、多くの犠牲者が出た事は否めない。

 ただその殆どは重傷もしくは軽傷の人達で、闇の猟犬(ブラックハウンド)に殺された人達を加えたとしても、恐らく死者が二十名を超える事は無かったはずだ。


 しかしだ。

 最後の最後。

 蓮爾 (れんじ)様が()()()を解放()()


 いや、()()()()()()


 怪我の具合で身動きが取れなかった百名単位の信者たち。

 その殆どが蓮爾 (れんじ)様の()()()となってしまったんだ。


 まさに地獄絵図。


 あの事件で一番多く人を(あや)めたのは、アイスキュロスでも闇の猟犬(ブラックハウンド)でも無い。

 蓮爾 (れんじ)司教枢機卿……彼女だ。


 ふぅぅ……あの()は強大過ぎる。


 彼女が()を行使しなくても済む様にする事。

 それこそが被害を最も少なくする為の最善な方法と言う訳だ。


「……吉田ぁ、何か聞こえるか?」


 吉田は俺が指図する前にドアの前へとしゃがみ込み、無言で耳を(そばだ)てている。

 コイツはまだ若いが、最近じゃ色々な行動が板に付いて来た様だな。


 実は、ビジネスホテルの廊下側の扉の下には結構な隙間(すきま)がある。

 ビジネスホテルに泊まった事がある人ならば分かるだろう。

 隣の部屋の物音はあまり聞こえないくせに、廊下を歩く人の声が良く聞こえると言う事が。


 あれは、アンダーカットと呼ばれるドア下にある隙間(すきま)所為(せい)だ。


 昔は新聞や手紙を投げ入れる為……などと言われていた様だが、実際の所、部屋の換気を行う為の方策の一つに過ぎない。


「聞こえて来るのは、近藤さんの寝息だけっスね。女の声は聞こえません」


 だからと言って、女が居ないとは限らねぇ。

 一戦終わって、熟睡の真っ最中かもしれねぇしな。

 ただまぁ、()()の最中じゃなくて良かった。

 いくら仕事とは言え、流石にそれぁ気まずいっちゃあ、気まずいからな。


「吉田、もう一回電話鳴らして見ろ」


 俺がそう言う前に、吉田は既に電話をかけはじめていた様だ。


 ――ブブブブブ、ブブブブブ……


 部屋の中から携帯の振動音が聞こえて来る。

 間違いない。

 近藤はこの部屋に居る。


「どうするかなぁ。単に女と寝てるだけだったら、起こすのも悪ぃしな」


「そうですね。例の少女でなければ、緊急性も無いでしょうし」


 ホテルのフロントで『緊急事態だからマスターキーで開けてくれ』と頼んではみたものの、いくら関係者でもそれは無理だと断られている。


 それはそうだよな。

 俺達は別に警察でもなんでもねぇ。

 そう簡単にホテルの部屋へ踏み込めるはずも無い。

 事件性が立証できなければ、フロントだって個人のプライバシーには踏み込みたくは無いだろう。


「どうします? 撤収しますか?」


「そうだな。一度玄関ロビーに出てから、もう少し携帯を鳴らしてみようか。それでも起きなきゃ一旦帰るとしよう」


「はい、わかりました」


 今の所、手掛かりは少女と少年の二人だけ。

 ただ、防犯カメラに映った少年。

 近藤が少年の横を通り過ぎた際に、何だか近藤を追いかけようとしていた様にも見えたんだ。


 俺の勘違いか?


 その後も、手の空いていた教団連中を集めて近藤の足取りを追ってはみたが行方知れず。

 しかもアイツぁ電話に出やしねぇ。


 仕方なく俺ぁ、ヤツの行きそうな飲み屋数件に電話を掛けてみたんだ。

 すると、古い友人でもあるBARのマスターが、ついさっきまで若い女と飲んでたって言うじゃねぇか。


 まだ嫁さんの喪も明けねぇ内に、一体、何してやがんだよアイツぁ。


 ただ、俺の中で何かがザワついた。


 ……何か嫌な予感がする。


 何かは分からねぇ。

 ただ、俺は俺の勘を信じてる。

 これまでも、その勘を信じた事で、俺は何度も命拾いをして来たんだ。

 何があっても、これだけは絶対に譲れねぇ。


 その後合流した吉田の話だと、携帯のGPS機能を使えば、直ぐに居場所が分かるって言うじゃねぇか。


 チッ!


 今時の携帯ってヤツぁ、一体どうなってやがんだろうな。

 って言うか、俺達が一生懸命探してたのは何だったんだ?


 へっ、まぁいい。

 とりあえず近藤自体は無事の様だし、コイツの事は放っておいて、本命の少年と少女を探すとするか。


 俺は新しいタバコを取り出そうと、胸の内ポケットへと手を突っ込んだのさ。


 ……ん? うぅぅん。


 そして、俺が取り出したのは、いつものタバコ……では無く、一双の手袋だった。


「まぁ、念のため、念のためだ……」


 俺は自分自身に言い聞かせる様にしながら手袋をはめると、そっとドアノブへ(かざ)してみる。……すると。

 薄っすらと浮かび上がる魔力の残滓(ざんし)


加茂坂(かもさか)さん、どうっスか? 何か出ますか?」


 吉田のヤツも後ろから(のぞ)き込んでくる。


 いや、この程度の魔力残滓(まりょくざんし)であれば、良くある事だ。

 なにしろ、近藤は俺と違ってある程度の魔力を持つ男だ。

 その能力を買われて、今年中には助祭から司祭の地位へと昇格する事になっている。

 その近藤が泊まる部屋であれば、ドアノブに魔力残滓(まりょくざんし)があってもなんら不思議では無い。


「だが……コイツぁ……」


 問題はその強さだ。

 近藤がドアノブに触れた程度で、本当にこれだけ光輝くものだろうか?

 俺は更にドアの床面へと手を(かざ)してみた。

 すると……。


「あぁっ!」


 ドアの隙間(アンダーカット)からとめどなく(あふ)れ出る強靭な紫の光。


加茂坂(かもさか)さん、どうしたんスか? 加茂坂(かもさか)さん?」


 ヤベぇ……ヤベぇ、ヤベぇっ!


「吉田っ! 人を集めろっ! このホテルを包囲するんだっ! それから教団にも連絡しろ。この時間でも連絡の取れる司教連中は居るはずだ。ゴタゴタ言う様なら蓮爾 (れんじ)司教枢機卿命令だと言ってやれっ!」


「はっ、はいっ!」


 間違いねぇ、ココにっ! この部屋にヤツが居る。

 このハンパねぇ魔力反応がその証拠だ。


 俺は緊張で震える手を抑え込みつつ、携帯電話の発信ボタンを押した。


 ――プルルルッ……ブッ


『はい、阿久津(あくつ)です』


 さすがは阿久津(あくつ)

 ワンコールかよっ。


「阿久津か、今何処に居る?」


『いま、ホテルの外周を調べ終わって、ロビーに入る所です』


 阿久津(あくつ)は俺のチームの最古参。

 俺の右腕と言っても良い、信頼できる男だ。


「よし、そのままフロントの男を脅して、マスターキーを持って来させろ。手段は選ばねぇ。最速で行動しろ」


『承知しました』


 ――プッ


 阿久津(あくつ)の返事はいつも素っ気ない。

 だが、アイツがヤると言ったら、是が非でもヤる。

 そう言う男だ。


「吉田っ、何やってる、状況を知らせろ!」

 

「はいっ、警備課に連絡が付きました。十名ほど連れて来てくれるそうです。それから、教団本部に居られたバジーリオ司教とリッカルド司教にもお声掛け頂けるとの事」


 バジーリオとリッカルドか……。

 確かアンブロシオス神と、クリストフォロス神の祝福だったはずだ。

 流石に司教二人は過剰戦力か?


 いや、あのアイスキュロスでさえ手こずった相手だ。

 生身の人間では歯が立つまい。

 ここはやはり司教連中に出張(でば)ってもらって、最前線で戦ってもらわないと。


 教団本部のある南青山から赤坂見附経由で新橋まで。

 車で十五分から二十分と言う所か?

 いや、この時間帯だ。車通りも少ない。

 司教のジジイどもがモタモタさえしてなきゃ、もっと早く到着できるはすだ。


 それまでは……待機か。


「よし分かった。とりあえずこの場で待機する。もしかしたらヤツが部屋から出て来るかもしれねぇ。銃の確認だけはシッカリしておけ」


「はっ、はいっ!」


 緊張した面持ちの吉田。

 俺達は一旦、四階エレベータホールまで後退する事にしたんだ。


 ◆◇◆◇◆◇


『先輩っ、香丸(こうまる)先輩っ!』


 返事が無い。

 やはり聞こえないか。

 それとも、もう眠っているのか?


 八階にある部屋の前。

 今この部屋には香丸(こうまる)先輩と綾香(あやか)が居る。

 ただ、先輩と別れてから既に一時間以上が経過している事を考えると、既に眠っていたとしても、それはそれで仕方の無い事だろう。


『どうした、香丸(こうまる)は返事をしないのか?』


『そうなんだよ。どうしょう。ドアをノックしてみようか』


 深夜のビジネスホテル。

 足音すらも(はばか)られるこの空間では、ドアをノックするにもかなりの勇気が必要となる。


『いや、待て。隣の部屋にも人が居るのだろう。気付かれるのは得策では無い。私が如月(きさらぎ)を呼んでみよう』


 確かに。

 僕と香丸(こうまる)先輩との思念通話はまだまだ素人レベルだ。

 だけどクロと綾香(あやか)との間であれば、かなりの感度が期待できる。


 リュックの口から顔を出し、何やら眉間に皺を寄せた表情のクロ。

 その直後。


 ――ドタッ、ドタドタドタッ!


 誰かが(あわただ)しく駆け寄って来る気配がする。


 ――ガチャ……カチャ


 小さく開いたドア。

 そこから申し訳無さそうに顔を覗かせたのは綾香(あやか)だ。


「あっ……あのぉクロ様、ごめんなさい。ちょ、ちょっと()ちゃってて……」


 乱れた髪に、紅潮した頬。

 首から下の様子はドアの影になっていて見えない。


 うぅぅん? ……()てた? ねぇ、()てたの?

 って言うか、ホントに()てた?

 ()てたって割には、寝ぼけてる感じが全然しないけど……。


 それに、なんだか息荒くない?

 はぁはぁ、言って無い? ねぇ、はぁはぁ言ってるでしょ?

 それって、どう言う事?

 今ドアまで走って来たから?

 それで、はぁはぁ言ってるって事?

 ホント? ホントにそれだけ?


「はい……はいっ、分りました。直ぐに支度します。ちょちょちょ、ちょっとだけお待ち下さい」


 ――じゅるり


 綾香(あやか)は真剣な表情でクロからの思念に(うなづ)きつつも、右腕で口元に付いたヨダレを(ぬぐ)ってみせる。


 何だか仕草が男前だなぁ。おい。

 それに今さぁ、ちょっとドアの中見えたけど。

 キミ……(なん)にも着て無いよね。

 キミ、裸のまんまだよね。マッパだよね。


 どう言う事。ねぇどう言う事?

 寝る時は下着も着けない派なの?

 モンローみたいに、寝る時に身に付けるのは香水だけって事?

 いつの間にそんな大人な女性になってたの?

 ねぇ、言ってみなさいよ、お母さん怒らないから。

 って言うか、私、アナタをそんな娘に育てた覚えは無いわよっ!


『あぁ、うるさい。静かにしろタケシ。お前の思念がダダ()れだ』


 あぁ、はい……さーせん。


 だって、だってさ。 綾香(あやか)があんな事になってたんだよ。

 あんな……あんな事になってただなんて。

 だって、あんな、あんな……!?。


『えぇい、何度もうるさい。単に香丸(こうまる)()()()()いただけだろう。気にするな』


 いやいやいや、気にしますって。

 って言うか、そこ以外、気にする所って他にある?

 ねぇあるの? あるんだったら、ちょっと教えて欲しいわっ!


『そんなに気になるのなら、後から本人に聞け。そんな事より如月(きさらぎ)達は五分程で出て来るらしい。その間、タケシは非常階段の方を監視しておいてくれ』


 へぇぇい。

 叱られちゃった。


 リュックからクロを出してあげた後、自分は八階のエレベータホールへと移動する。


 エレベータは一階で止まったままだな。

 それに、非常階段の方も特には動きは無さそうだ。


 そう言えば、例の黒トレンチコートのヤツ。

 どうやってここを嗅ぎつけたんだろう。

 今頃、近藤さんと会って話をしているのかな。

 特に証拠になる様な物は残して無いはずだし。

 意外と単純に近藤さんを探しに来ただけなのかも……。

 

 やがて、約束の五分となり、更に十分が経過する。

 女子の準備には時間が掛かる……とは言うけれど、この緊急事態にこれでは先が思いやられる。


『ねぇクロ、まだ?』


『まだ掛かるらしい。そっちの様子はどうだ?』


 もう一度、エレベータと非常階段の方を確認してみる。


『今の所、全く動きなし』


 なんだよ。取越し苦労だったのかなぁ。

 よく良く考えてみれば、僕たちと近藤さんとの接点は何も無い。

 例えば、近藤さんが自宅に帰らないもんだから、教団の人達が心配して探しに来たって事は無いだろうか。

 うぅぅむ。なんだか、そっちの線の様な気がして来たぞ。


 と、そんな事を考えていた所に、ようやく遅刻娘二人が登場だ。


「ごめんなさい、遅くなっちゃって」


 既に準備万端。

 相も変わらずお美しい姿の香丸(こうまる)先輩。

 お顔の方もバッチリメイクが仕上がっている。

 まぁ、これだけの事をあの短時間で終わらせたのだから、それはそれでスゴイ技術だとは思うな。


「いえいえ、大丈夫です。それに、先輩はいつ見てもお綺麗ですよ」


「あらあら。犾守(いずもり)君ったら」


 香丸(こうまる)先輩がそう言いながら、僕の頬に軽くキスをしてくれた。


 はぁぁぁ、良いかほり。良いかほりだわぁ。


 それに引き換え、もう一人の娘ったら。

 髪の毛は乱れたままだし、服装もとりあえず着たって感じだし。

 まぁ、元々の()()自体は綺麗だから、それはそれでラフな感じで良きではあるけど。


「って言うか、犾守(いずもり)君は、あんまり香丸(こうまる)さんに近付かないでよねっ」


 と、いきなりな事を(のたま)った上に、僕と先輩の間に割り込んで来やがった。


 てめぇコイツ。

 最初は僕に嫉妬してるのかとも思ってたけど、ガチじゃねぇか。

 ほんまもんのガチなんじゃねぇか。

 それに、そんなにギュウギュウ入って来たら、色々な所がギュウギュウしちゃって、もう、僕の方だってギュウギュウしたくなっちゃって、うきー!


『お楽しみの所悪いが、もう行くぞ』


 ほらぁ、クロがご機嫌ナナメじゃん。

 また叱られちゃったじゃん。

 全部綾香(あやか)の所為だかんね。


「んべーっ!」

「べーっ!」


 僕が綾香(あやか)に舌を出すと、彼女も負けじと小さな舌を出してくる。


 ちくしょう……カワイイな。

 今回の件はこれで許してやろう。


「で、どうする? エレベータで一階まで降りてそのまま外へ?」


『いや、エレベータでは見つかった時に身動きが取れない。ここは階段で降りて行くのが良いだろう』


「わかった。クロの言う通りにするよ」


 僕はそう答えながら、同意を取ろうと、娘二人にも視線を送る。


「え? クロちゃんは何て?」


 あぁ、そうか。クロとの会話は他の二人には聞こえてないのか。


「えぇっと、クロが言うにはエレベータは見つかった時にヤバいから、階段で降りようって」


「そうね。確かにその通りかも」


 先輩は何時だって僕の意見に賛成だ。


「えぇぇ、ここ八階でしょ? 階段で降りるのぉ!」


 綾香(あやか)は何時だって僕の意見に反対だ。


「くっ、クロの提案なんだよ。一応賛成多数で可決されました。だから階段で行きます」


「はいはい。クロちゃんの指示なら仕方が無いわね」


 うぬぬぬ。何と言う不届き千番。

 かりそめにもご主人様に向かってのその所業。

 いつかはこの手で成敗してくれるぅ。

 そんでもって、ヒィヒィ言わせてくれるわっ!

 覚悟しておくが良いっ!


『私の事を擁護してくれるのはありがたいが、ヒィヒィは余計だ』


 はい、ごもっともです。

 また叱られちゃった。てへ。


「それじゃあ、非常階段の方へ……」


 とそこで、非常階段の隣にあるエレベータを見てみると、いつの間にか四階に止まっているではないか。


 ん? 黒トレンチコートの二人が帰ろうとしているのか?

 それとも、他に誰か来たのか?


「クロ、どう思う?」


『今の段階では判断出来ん。一旦降りて行って、四階の非常階段の所から様子を見てみよう。もしヤツらが帰ったのであれば、下手に一階に行くと鉢合わせとなる可能性もある。その時は部屋に戻って隠れていた方が良いだろう』


「分かった、そうしよう」


 僕は他の二人に付いて来るよう合図を出すと、静かに非常階段の扉を開けたんだ。


『タケシっ!』


「え?」


 ――パン、パンッ!


 けたたましい炸裂音が非常階段に鳴り響いた。

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