第33話 一縷の望みとは
「で? 誰が誰の事を好きだって?」
背後から唐突に掛けられた声。
「え? なっ、何の事だよ?」
慌てて振り返る僕の額には。
――ペシッ!
よくしなった彼女の中指が見事に炸裂。
「あ痛ッ!」
「え? なっ、何の事だよ? ……じゃないわよ。突然私を呼び出すなんて、ホントもぉ面倒臭いわねぇ。わざわざ呼びつけておいて、まさかアナタが私の事を好きだって言う話じゃないでしょうね?」
そのまま、彼女は何の断りも無しに僕の目の前の席へと腰を下ろしてしまう。
「そっ、そんな訳無いじゃん」
「ナニよっ! そんな訳無いですってぇ!? アナタ、こんな美少女に面と向かって、よくそんな偉そうな口がきけるわね?」
いやいやいや。
偉そうもなにも、そんな事より、良く自分の事を美少女だって言ってのけたよね。
どっちかっちゅーと、そっちの方がよっぽど難易度高くない?
「あぁ、いやっ、えぇっと。如月さんが美少女なのは十分わかってるんだけど、今日聞きたいのはその件じゃなくって……」
「あらそう。ふぅぅん、そうね。私が美少女だってわかってるなら、それで良いわ」
えぇぇ。それで良いんだぁ。
なんだか初っ端から一気に疲れるなぁ……。
そんな出鼻を挫かれた感満載の僕は、駅前にあるファミリーレストランで如月さんと待ち合わせをしていた所。
ランチ時には結構込み合うんだろうけど、この時間帯であれば比較的空いてて、込み入った話をするにはとても重宝する場所だ。
「それじゃあ相談事って何? 恋愛相談だったら良い占い師を紹介するわよ」
占い師ぃ?
「いやぁ……占い師が何とか出来る話……じゃなくてぇ」
「大丈夫よ、凄く良く当たるって今学校で評判なんだからぁ。もう、クラスの好きな子とかバンバン当てちゃうし。ホントに凄いのよぉ!」
「へっ……へぇぇ。って言うか、別に恋愛相談な訳じゃ無いから……」
「何言ってるのよ。私達の年頃で相談事って言ったら恋愛相談しか無いでしょ? ホントにもぉ。あなたバカなの?」
おいおい、いきなりバカ扱いかよ。
「いやいや、相談したいのはマジで恋愛じゃなくってぇ……」
「あ、そう言う事。あぁぁ、はいはい。そっちね。そっち系の相談って事よね」
突然、何かひらめいた様子の如月さん。
あからさまなドヤ顔がちょっと怖い。
「え? 凄いね、突然何か分かったの?」
「それはそうよ。恋愛相談で無ければ、コレ以外、他に何の相談事があるって言うのよぉ」
よく見れば、彼女の親指と人差し指が丸く輪を作ってる。
おいおいおい。
「要するにお金でしょ? でも、残念だけどあなたに貸すお金なんて無いわよ」
「えぇぇ……」
「何が、えぇぇぇ……よ」
そう言えば、さっきから僕のモノマネちょいちょいブッコんで来るけど、異常に上手いな。
「はっ、はぁぁん。そう言う事。はいはい。今度こそ理解したわ。つまり、今月分のお金が払えないから待ってくれって事でしょ。そうでしょ、そう言う事なんでしょ。まぁ、アナタと私の仲だから、待ってあげない事も無いけれど、それでも親しき仲にも礼儀ありって言うからね。しっかりトイチで利子取るから。そこの所はよろしくね。で? 何日ぐらい遅れるの? と言うより、今月は何回アタシの体を使ったのよ? まずは支払日の延長を交渉するより、総額を確定させないとだわよね」
おいおい、コイツ、突然ナニ言い出すんだよぉ。
「いや、そっちの話でも無くってさ」
「そっちもこっちも無いわよ。私も伊達や酔狂でアナタに体貸してる訳じゃ無いのよ。しっかり払うもの払ってもらわないと、こっちだって生活掛かってんのよ」
いやいやいや。いつの間にそんな商売になってたんだよ。
「で?」
「え?」
「何回使ったの?」
「えぇ?」
「ほらぁ。お姉さん怒らないから言ってみなさい」
いつから僕のお姉さんになったんだよっ!
って言うか、タメだろっ。
「いやぁ、でも……」
「そんなに畏まらなくても良いのよ。だって若い男の子だものぉ。手元にこんな美少女が居れば、使うなって言ったって使っちゃうわよねぇ。そうそう、そうなの。これは仕方の無いことなのよ。だって生理現象だもの。それにね、私にしてみれば商売的に考えて、逆にお使い頂いて誠にありがとうございますっ! てな感じよ。ホントよ、本当。だって、私のお得意様なんですものぉ」
いつの間にやら満面の笑みを浮かべる如月さん。
とは言え、どちらかと言うと営業スマイルの様にも見えるけど。
「えぇぇ、そうかなぁ」
「えぇ、そうよ。ホンッとそうなの」
「そう? ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってて。えっとぉ……」
そうか。そうだよな。
僕はお得意様なんだからな。
先月分だってキッチリ支払いは済んでるし。
まぁ、でも結構値段も高いからなぁ。支払いを考えるとあんまり使ってないんだよなぁ。
なぁんて思いながらも、指折り数えてみると。
おぉ、それでも結構使ってるな。
「今月はヨン……、あ、今日の朝も使ったから、五回ですっ!」
意気揚々と答える僕。
そんな純真な僕に向かって、彼女が放った言葉はたった一言。
「最っ低……」
はうっ!
あれれっ? 僕、お得意さんじゃなかったの!?
これって生理現象だから、ギリOKって話じゃ無かったっけ!?
しかも彼女の目がっ!
あぁっ! 完全にクズを見る目だっ!
僕の事をヒトデナシだと思ってる目だっ!
「ねぇアナタ……恥ずかしく無いの。いくら私が美人だからって、こんな知り合いの女子の体をオカズにするなんて。ホント、人としてウジムシ以下だわ」
いやいや、人としてウジムシ以下って、どう言う意味だよ。
ウジムシだって生きてるんだよ。
生きてる上で、僕たちは対等な仲間なんだよっ!
それなのに、それ以下って……。
「はぁぁ……仕方がないわね。スマホ見せて……」
「え? スッ、スマホ?」
「そうよ。スマホよ。何してるのよ。早くなさい」
「いやぁ、流石にスマホを見せる訳には……」
「何ふざけた事言ってるのよっ、アナタに拒否権なんてある訳無いでしょ! サッサと見せなさいよっ!」
彼女ったら突然、僕の手の中にあるスマホを奪い取ろうとしたんだ。
「あぁっ!」
だけど、僕だってそう易々と奪われる訳には行かないさ。
何とか奪われまいと彼女の腕にしがみついて見せるけど。
「ちょっ、チョット! どこ触ってるのよっ! エロなの? あなた公衆の面前で堂々と破廉恥な行為をしようって魂胆なのっ! キャー、皆さぁぁん、この人痴漢ですよぉ……むぐむぐむっ」
僕は大慌てで彼女の口元を抑えにかかった。
ちょっと、この娘マジか。
真昼間のファミレスで、マジで叫ぶヤツいるぅ!?
それでも彼女の奇行は止められない。
「あぁぁれぇぇぇ! 店員さぁぁん、助けてえぇぇ!」
「わっ! 分かったからっ! スマホ渡すから、ちょちょちょ、ちょっと静かにっ! 静かにっ!!」
流石にこれは洒落にならない。
ついに観念した僕は、力なく彼女の腕から手を離したのさ。
「もぉ……最初から素直にそうすれば良いのよぉ。で? 画像はぁ……はいはいはい。あららぁぁ……やっぱり……」
「やっ、やっぱりって何だよぉ」
「だってそうでしょ? 先月あれだけ私をオカズに使ってたはずなのに、今月に入ってまだ五回だなんて、オカシイと思わない?」
いやいや、オカシイって……。
んん? 待てよ。まだ……って事は、少ないって事?
「とっ……言いますと?」
「ほら、あなたの画像ライブラリ。私の裸の画像で一杯じゃなぁい。つまりこれを使ってたって事でしょお? えぇぇっと……うわっ、うわうわうわっ! ガッツリね。あなたガッツリ撮ってるわねぇ。こんなのも? あらっ、こんなのまでっ! キャー、私こんな格好させられてるぅぅ!」
はうはうはう!
見ないでっ! お願いっ、見ないで下さいっ!
それ自撮りです。自撮りなんです。
貴女の裸ですけど、それ、自撮りなんです。
だから何だか……何だか自分が恥ずかしいぃぃ!
「って事で、はいっ、集計終わりましたぁ。私のエロ画像が現時点で百と三十二枚御座います。これは明らかに著作権侵害となりまぁぁす。って事で、エロじゃ無い生写真は一枚二千円、エロの方は……そうねぇ。買い取りだったら一枚十万円って所かしら。って事になるとぉ……あらあら。軽く一千万円は超えるわねぇ……。どうするぅ? 犾守君ぅん。今ここで耳揃えて一千万払ってくれるぅ?」
なんで猫撫で声なんだよぉ!
そんなお金、払える訳が無いじゃないかっ!
「いいえ……サーセン。本当サーセンした。マジ勘弁して下さい」
「アナタねぇ。人間ヤッて良い事と悪い事があるのよ。十七にもなって、そんな事も分からないの? それに謝ればなんでも済むと思ってもらったら困るの。ホント、謝って済むんだったら、警察なんて要らないのよ」
マジかぁ、マジなのか。
このセリフ、一生の内に生で聞く機会があるなんて思ってもみなかったわ。
「ホント、サーセン。マジ、サーセン」
「ふぅぅ……ねぇ、犾守君?」
どうした如月さん。
突然静かになったぞ如月さん。
それにその恰好。
ゲンドウか? そのポーズは今はやりのゲンドウなのかっ!?
「と言っても、私だって鬼じゃ無いの。か弱くも美しい女子高生なのよ。だから、多少の温情って言うモノも持ち合わせているわ」
いやいやいや、か弱い女子高生が男子高校生のスマホ取り上げて、中のエロ画像使って大金を脅し取ろうなんてしませんって。絶対にそんな事しませんって。
「いきなり高校生に向かって一千万円用意しろって言っても無理よねぇ。それに、私も毎月何回私の体をオカズに使ったのかなんて、数えるのも面倒な訳よ。って事で、今後はサブスクって事にして、見放題取り放題プラン、月額五万円で手を打ちましょうか。支払いは毎月支払いで、途中解約制限期間は五年で良いかしら。ちなみに、途中解約制限期間が三年と七年のタイプもあるけど、三年の場合は月額八万五千円、七年の場合だと、かなりお得で月額四万円になるけど、どれが良い?」
出たよ。出ましたよ。
商売人としての血が騒ぐんだろうな。
でもこの娘、理系だって言ってなかったっけ?
にしては、経済強いよな。
あぁ、結局のところ、数字に強いって事なんだろうな。
「ごっ、五年プラン……で」
「はいっ、ありがとうございます。五年プラン成立です。それじゃあ、さっそくこちらの紙にサインをお願いしますね」
そんな彼女がテーブルの上に広げたのは、細かな文字で記載された契約書。
ほぼ、保険の契約書と遜色の無いレベルの文字の小ささだ。
おそらく人が読むことを全く想定さえしていないんだろうな。
「って言うか、これ、最初から用意して来てたの?」
「当然でしょ。そこまで話の流れを想定した上で行動するのが、人間としての基本なのよ」
すんません。
そう言う意味では、僕、人間としての基本が出来てませんでした。
「はい、ありがとうございます。それじゃあ、記載頂いた銀行口座から、毎月一日に引き落とされるから、残高不足にならない様に気を付けてね。できれば先月末までに入金は済ませておいた方が良いわよ。残高不足で引き落とし出来なかった場合は遅延金と一緒に、振込者手数料負担で振り込んでもらう事になるから」
「はい……わかりました」
なんなんだ? これは。
ちょっと相談事をしようとしただけで、
自撮りのエロ写真は見られるわ、何だかわかんないサブスクの契約は結ばされるわ……。
「で、私の話は以上で終わりだけど、まだ時間に余裕があるから、私にプリンアラモード奢ってくれたら、あなたの相談に乗らないでも無いわよ」
まだ毟り取る気なのかよぉ。
ホント、末恐ろしいヤツだなぁ……。
しかしまぁ、今のところ彼女に頼るしか方法がないからな。
うん。とりあえず、さっきまでの話は一旦忘れよう。
とにかく気を取り直して……。
こうして僕はようやく本来の目的について話し始める事ができたのさ。
「いや、聞きたかったのは他でも無いんだ。如月さんのお母さんの事なんだよ」
「……」
如月さんったら、あからさまに嫌そうな顔だな。
まぁ、そうか。一人娘を置いて宗教に走る様な人だもんなぁ。
そんな話、したくは無いわなぁ。
「いや、実はさぁ、僕の親友が今、意識不明の重体ってヤツでね。生死の境を彷徨ってる状況なんだ。いや、ホントマジの話なんだよ。それで、ちょっとした噂なんだけど、何処かの宗教団体ではさぁ、そう言った重症の患者でも、ある程度の金を積めば治してもらえるって聞いたんだ。如月さんのお母さんも新興宗教に入ってるって聞いてたし。もしかしたら、どこの団体なのか知ってたら教えてほしいなと思って……」
なんとなく話をボカシてはいるものの、僕とクロの間では、如月さんのお母さんはかなりの確率で、例の宗教団体に所属していると考えている。
と言うのもクロの話によると、彼女自身、どうやら以前から洗礼を受けていたのは間違い無いらしい。
クロがこちらの世界に来て、既に洗礼を受けた状態の人間に出会ったのは、今のところ教団の連中を除くとわずか三人。
一人は如月さん、二人目は僕。そして三人目が陰真先生。
僕と陰真先生がなぜ洗礼を受けた状態だったのかは分からない。
どこか、先祖の中に関係者が居ただけなのかもしれない。
しかし、如月さんの場合は母親が現時点でどこかの宗教団体に所属していると言っていた。
となれば、その宗教団体が、僕たちの事を狙う団体と同一である可能性は非常に高い。
まぁ、複数の宗教団体を渡り歩いてきたと言う事も考えられるけど、それはそれとして、少なくとも過去の宗教団体を順に追って行けば、いつかはたどり着けるはずだ。
そう言う意味では、如月さんのお母さんの情報は是非とも欲しい所だ。
「あのぉ、如月さんの家庭の事情に土足で上がり込む様で本当に申し訳無いんだけど、どこの宗教団体に所属しているのか教えてもらえないかなぁ。もし複数の宗教団体に所属した事があるなら、それも一緒に教えてもらえると助かる。あぁ、それから、如月さん本人もどこかの宗教団体で洗礼……っぽいものを受けたって事は……」
そこまで言った所で、如月さんの様子が突然険しくなった。
んん? 触れてはいけない部分だったか……。
下唇を噛み、少しワナワナと震えだす如月さん。
「あぁ、ごめん。いや、話したくなければ良いんだ。そこまで如月さんを追い詰めるつもりは……」
「……ンエン……」
震える口元。
そこから彼女がやっとの事で絞り出したその声はあまりにもか細くて。
「え? 何? ごめん、聞き取れなかった。もう一度言ってもらえないかな……」
依然、俯いたまま唇を噛みしめる彼女。
僕はテーブルに身を乗り出しながら、もう一度彼女に問いただしたんだ。
それが、彼女の事を更に不快にすると分かっていても。
如月さん、ごめん。
僕の方も親友の命が掛かってるんだ。
ここで引く訳にはどうしても行かない。
すると、彼女は多少苛立ちのこもった声でこう言ったのさ。
「いっ……一万円。一万円寄こしなさいよっ」
「いっ、一万円?」
なんだよ。また金かよっ!
しっかし、流石にここまで来ると、かなりドン引きだわ。
「わっ、分かったよ。金なら払う。だから教団の事を教えてくれないか?」
「……」
しかし、彼女からの反応は……無い。
あぁ、金を払わないと喋らないって事ね。
分かったよ。わかった。
ホントにがめついヤツだな。チクショウ!
僕は財布から一万円札を抜き取ると、彼女の目の前へと放り投げたのさ。
「ほら、これで良いだろっ! 頼むよ、教えてくれよっ!」
「……」
やがて彼女は目の前に放り投げられた一万円を手に取ると、静かにこう呟いたんだ。
「……神聖清流会。パルテニオス教とも呼ばれてる。全能神レオニダスを中心とした十柱が一柱」
手に持った一万円札を見つめながら、彼女は更に言葉を重ねて行く。
「新興宗教って言っても、昔は割と普通の感じだったわ。私が子供の頃なんて日曜になったら礼拝に行く程度だったのよ。お母さんと私と。いつも二人で手を繋いで行ってたの。礼拝って言っても短い時間だったから、子供の私でも全然平気。天気の良い日なんて、ピクニックみたいで本当に楽しかった……」
さらに、その一万円札の中央部分を彼女は軽く摘まんで見せる。
「でも最近ではすっかり変わってしまったわ。信者に対して寄付を募る様になって行ったの。はじめの内はそんなに大した額じゃなかったみたいよ。でも次第にその額が増えて行き、支払う事が出来ない人には、教団に対する奉仕活動が課せられて行ったわ。お母さんったら、朝から晩まで働いて……働いて、働いて。やがて、親戚と言う親戚からお金を借りて、それも返せなくなった頃には、もう取返しのつかない事になっていたのよ……」
そう言いながら、彼女は手に持った一万円札をゆっくり、ゆっくりと引き裂いて行く。
「早くに亡くなったお父さん。そのお父さんの分までいつも優しい笑顔で私の事を包んでくれたお母さん。そんなお母さんを、どうして? どうして私から奪って行くの? 全部ぜんぶっ! どうして私から取り上げてしまうのっ! 憎いっ、憎いっ! 憎い、憎い、憎いっ! あんな教団、この世から跡形もなく消えて無くなっちゃえば良いのよっ! だから私はクロちゃんの話に乗ったの。そう、クロちゃんだったら、教団を潰してくれるって思ったからっ」
彼女の手の中の一万円札は、二つになり、四つになり……やがて、バラバラに引き裂かれて。
「ねぇ、犾守君」
「あっ……あぁ……」
その一部始終を見ていた僕は、喉に何かつかえた様な気がして、うまく言葉を話す事が出来ない。
「お願いだから……教団を……潰して」
そう言いながら、ようやく顔を上げた彼女。
そんな彼女の瞳からは、大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
「そして、二度と……二度とこの話を私にさせないで……でないと……でないと私。犾守君の事が……嫌いになっちゃうかも……しれないじゃないっ!」
――ガタンッ!
それだけを言い残すと突然立ち上がる如月さん。
彼女はそのまま一度も振り返る事なく、店を出て行ってしまったんだ。
ただただ、その姿を茫然と見送る事しか出来ない僕は……。
僕は……僕は……つっ……。
あぁぁぁぁぁ! マジで、マジで、マジでぇっ!
……マジで、心底最低なヤツ……って事……だな。




