第31話 ファイナルラウンド《後編》
「コイツ!……ヤバい……くっ!」
――ビシッ! ビリビリビリッ!
頬をかすめる丸太の様な太い腕。
間一髪。
避けてはいるものの、その風圧だけで皮膚の表面が切り裂かれそうになる。
「……ヤベッ!」
息つく暇無く来襲する拳打。
零れ出す恐怖心から、思わず後ろに逃げたのがマズかった。
ダメだっ! 避けきれんっ!
想像を遥かに超えるリーチ。
見切ったはずの拳が僕の額をしこたま殴打する。
――ゴッ!
痛み? そんな物は全く感じない。
僕が感じたのは『驚き』と『衝撃』。
その二つだけ。
たったそれだけで、僕の脳内は大混乱だ。
「ガハッ!」
呼吸が戻った時には、既に上半身は床面スレスレ。
うっ、意識飛んだっ!
ヤバいッ! 頭っ!
床に叩き付けられた衝撃を右肩でなんとか吸収すると、体を丸めて頭部を保護。
そのまま転がる様にして、リングサイドへ逃げ込む事しかできない。
「場外っ! 場外っ! 『Boby』はリングサイドへ!」
即座にレフェリーから中断の声が掛かった。
「『ミスターT』ワンペナルティだ。スリーペナルティで反則負けとなる。注意する様に」
チッ! もう知ってるっつーの!
僕はレフェリーの指摘に頷きつつも、ゆっくりとその身を起こして行く。
ファイナルラウンド二戦目。
因縁の佐竹に辛勝した僕は、早速次の相手と拳を交える事に。
そのお相手と言うのがコイツ。
見上げる程の巨体は優に二メートルを超え、しかも、どこか見覚えのあるその顔と風体。
って言うか、コイツ入り口のブラザー系用心棒じゃん!
コイツまで参戦してんのかよっ!
お前っ、こんな所に居て良いのか?!
入口はどうした? 入り口の警備がお前の本業だろっ!?
と言ってみた所で、どうしようもない……。
「ふぅぅ……ふぅぅ……」
継戦の意思を確認するレフェリー。
僕は息を整えながら、ファイティングポーズを取って見せる。
しっかし、コイツ……恐ろしく、強い。
体ばっかりの木偶の棒かと思ってたけど。
そうじゃ無い。
間違いなくコイツも格闘技を習得してる。
場合によれば軍隊経験すらあるかもしれない。
とにかく鍛え上げられた体の出来が半端無い。
裸となった上半身には、惚れ惚れとするぐらいの筋肉が盛り上がる。
そのお陰もあってか、リングサイドからの黄色い声援がとにかく姦しい。
「両者、ファイツッ!」
レフェリーの掛け声とともに試合再開だ。
ヤツは軽くステップを踏みながら僕の方へと近付いて来る。
後ろに下がってはダメだ。
さっきと同じだ。
リングサイドに追い込まれ、逃げ場が無くなってしまう。
僕はヤツからの圧力を受け流しつつ、円形のリングサイドに沿って右へ左へと逃げ回るのが精一杯。
しかし、そんな小賢しいマネなど通用する相手では無かった。
巨体に似合わぬ軽いステップ。
しかも、無尽蔵とも思えるジャブの連打が僕の行く手を巧妙に阻み始める。
――ビシッ! ビシッ、ビシッ!!
ダメだ。これ以上逃げるのは無理だ!
撃ち合うか?。
いや、手数を増やしても被害が増すばかり。
こうなったら、一撃で決めてやるっ!
覚悟を決めると、僕は静かに呼吸を整え始めたんだ。
繰り出すは、佐竹の記憶から呼び起こした最強の正拳突き。
この一撃に全てを賭ける。
僕は敵との絶対防衛ラインを表すかの様に左手を前方に突き出すと、右手を腰の位置に定めて己が気力を充実させて行く。
すぅぅ……はぁぁぁぁっ……。
僕の突然の行動に、一瞬ではあるが怪訝な表情を浮かべる『Boby』。
しかし、そんな躊躇もほんの束の間。
小刻みにその巨体を振りながら、僕の間合へと近付いて……。
――ビシッ!
突然、強烈なジャブが僕の顔面へと放たれた。
「くっ!」
またもや間一髪。
自身の首を僅かに傾け、その拳を躱す事に成功。
だけど……リーチの差がこれ程とは。
ヤツは僕の射程外から自在に攻撃を仕掛けて来る。
だけど、僕の拳は届かない。
これでは反撃する事すらままならない。
まさにヤラれっぱなしだ。
僕の出方を探ろうとでも言うのだろうか。
小刻みにジャブを繰り出して来る『Boby』。
僕はそれをウィービングやダッキングでただひたすら躱してみせる。
よし、見えてる。
ヤツの拳も僕には当たらない。
どんな攻撃だって、当たらなければどうと言う事は無い。
このまま凌ぎ切ってみせるっ!
守りの姿勢を崩さない僕に対し、徐々に苛立ち始める『Boby』。
そんなヤツの様子が手に取るように分かる。
さぁ、来いっ。
来いっ!
僕を追い詰める為、ヤツはジリジリと間合いを詰め始める。
――ジリ……ジリッ
あと十センチ……五センチ……三センチ……。
――ゴォッ!
「うぉっ!」
重厚に張り巡らされた弾幕の向こう側から、轟音とともに迫り来る超巨大砲。
ヤベェッ!
脳内にこだまする本能的な恐怖。
そんな感情を一切合切、全部無視!
最後の勇気を振り絞り、迫り来る拳に向かってあえて体重を傾ける。
そして……!
「うぉぉぉ!」
咆哮搏撃。
僕は襲い来るヤツの腕を搔い潜り、全体重を乗せた正拳突きをヤツの鳩尾に向かって解き放ったんだ。
――ミシッ! メリメリッ……!
間合い十分。
完璧なクロスカウンター!
獲ったっ!
実際に命中したのはヤツの鳩尾では無く、左脇腹付近。
相手も左ストレートを放った直後だった所為か、多少着弾地点にズレは生じたものの、急所である事に変わりはない。
このままヤツの体深く拳をめり込ませて、内臓ごと破壊してやるっ!
僕はヤツの体を抉りつつある拳に対し、更に加速するよう命令を下した。
……が、しかし。
――グキッ
不吉な音。
なんだ? 何が起こった?
その音に遅れる事、刹那。
右腕の神経回路を経由して脳へと届けられたのは、鈍い痛み。
てっ、手首っ!
本来はヤツの脇腹へと深く突き刺さっているはずの右手。
それがなぜか、あり得ない形で折れ曲がっているでは無いか!?
コイツの体っ! コンクリートかよっ!
ヤツの体にぶち当たり跳ね返された右手と、更に追撃しようとする右腕に挟まれ、その強大な負荷に耐えきれなくなった右手首が脆くも砕けたに違いない。
「ぐぬっ!」
先程の鈍い痛みは予兆に過ぎなかった。
右腕を駆けのぼる痛みはまるで神経回路を焼き尽くす勢いで脊髄へ、そして脳へと襲い掛かって来る。
「ぐわぁぁぁ!!」
誰に憚る必要があろうか。
その激痛を少しでも紛らわす為、僕は最大級の悲鳴を上げたんだ。
うわぁぁぁぁ! 痛いっ! 痛いィィッ!
たっ、助けてッ! クロッ、クロォォ!
そんな絶叫の最中っ!
――ブォォォォッ!
再び聞こえる不穏な響き。
何だっ! まだあるのかっ!
狭まる視野に辛うじて映るのは。
奇妙な形に捻じ曲がる自身の右腕。
そして、薄ら笑いを浮かべるヤツの顔に、引き戻されて行くその左腕。
何がっ、何が来るんだっ!
空間を揺らし、得体の知れないナニかが僕へと殺到して来る。
それだけは間違い無い。
あっ!……ヤツの右腕。
ドコ行った?
――ミシッ!
ヤラれたっ!
意識外からの攻撃……っ!
その音とともに、自分の視界がグルリと反転する。
『タケシ! タケシィッ!』
消えゆく意識の中で最後に聞こえたのはクロの叫び声。
クロ……。
クロォ……。
ゴメン……クロォ……。
僕……。
負け……負けちゃっ……た……。
◆◇◆◇◆◇
ここは……。
何も見えない。
真っ暗闇の世界。
そして何も……聞こえない。
……?
いや、聞こえる……。
誰かの声? ……か?
「はぁ……はぁ……はぁ」
誰かの荒い息遣い。
「アタシ……これ……が……好き……」
何が?
「……背徳……感……たまら……い……の」
ハイ……トク……?
「体は……正直……」
正直?
「……シ……カン……とは……違う……」
……違う?
「はぁ……はぁ……アァッ!」
え? えっ?
それは記憶の断片?
それとも自身が作り出した幻想?
やがて……。
その蠱惑的な感情の昂りが頂点へと達する頃。
――ズキッ!
「痛ッ!」
「……くん? ……くんっ!」
再び誰かの声。
「……ずもり君、犾守君!」
誰かが……呼んでる。
「大丈夫? 起きてっ! 犾守君っ!」
少しずつ戻り始める意識。
徐々にその声がハッキリと聞こえ始める。
「犾守君っ!」
聞き覚えのある声。
左手に感じられる温もりに促され、僕はようやく目を開けたんだ。
「あぁ、犾守君、良かったぁ! やっと気が付いたのねっ!」
声のする方へと朧気な視線を向ければ、そこには美しい瞳が。
「あっ……如月……さん」
「ホントにもぉ! 如月さんじゃ無いわよぉ! 病院に担ぎ込まれたって聞いて来てみたら、意識が戻らないままだって言うんですものぉ! 流石の私だってビックリするわよぉ!」
どうしてココに如月さんが?
と言うより、ココは何処……だ?
そっと辺りを見渡して見れば、白を基調としたシンプルな部屋。
そして、自分が寝かされているのは……ベッド……だな。
ホントに……病院……だなぁ。
麻酔でも打たれているのか、右半身に全く感覚が無い。
しかも、視界が半分……?
唯一自由に動きそうなのは左手だけらしい。
その手でそっと自分の顔に触れてみる。
すると、右目を除く顔中に包帯の感触が。
あぁ……だから視界が半分なのか。
妙な納得感とともに再び辺りを見渡して見るけど、如月さん以外には誰もいない。
「あっ、あのぉ、香丸先輩たち……は?」
「あぁ、午前中までココに居たんだけど、私が来たから一度着替えて来るって言って自宅に帰られたわ。クロちゃんも一緒よ」
そうか……よかった。
香丸先輩たちも無事だったんだ。
これで、自分に関係する人達は全員無事が確認された事になる。
ひとまず安心と言う所だろう。
となると、次に気になるのは試合の結果だ。
「試合は? 例の試合はどうなったの? 僕、ここで寝てるって事は負けちゃったって事でしょ? となると……如月さん……ヤラれ、ちゃったの?」
――ボクッ!
「ぐえっ!」
突然鳩尾に食い込む華奢な拳。
華奢は華奢でも、逆に手が小さい分、鳩尾への食い込み方が半端ない。
「ゲホッ! ゲェェッホ!」
ベッドの上でのたうち回る僕に向かって、蔑む様な視線を投げつけて来る如月さん。
うぅぅむ。それはそれでご褒美と言う事で……。
「もぉ、失礼ねっ、そんな訳無いでしょ!」
「いや、でも優勝賞品が如月さんって……」
確かにそう聞いていたし、北条さんもそう言っていたはずだ。
「それは言葉の綾ってヤツよ。本気でそんな事したら人身売買になっちゃうでしょ! アレは副賞として、私との『優先デート権』がもらえるって話なの。元々私との『デート権』なんて三か月先まで予約でいっぱいなんだから。それを『優先』してもらえるってだけで、まさにお宝っ! プラチナカードものよっ!」
えぇぇぇ、なになに?
なんだ、それだけ? それだけなの?
って言うか、如月さんったら、めっちゃ鼻高々!
めちゃめちゃ、鼻高々だわぁ。
それに三か月先まで予約がいっぱいって言ってるけど、この前聞いた時には二カ月先って言ってなかったっけ?
盛ったな。この娘、ちょっと盛ったなっ!
「ははぁ。そりゃようござんした。それで? 神々の終焉は誰が優勝したの? あの僕を倒した『Boby』ってブラザー系用心棒?」
そう冗談めかして言ってはみたものの、正直確信している。
『Boby』は強い。
恐らく神々の終焉においても、その強さは群を抜いているのではないだろうか?
何しろこれだけ身体能力の向上した僕ですら、手も足も出なかったのだから。
「あぁ、神々の終焉の優勝者ね。結局勝ったのはブラッディマリーさんね。確かこれで三連覇かな?」
「えぇっ! 先生がっ!」
「え? 先生?」
あ、ヤベ。如月さんは彼女が先生だって事知らないんだった。
「あぁ……いや。あのぉ……格闘技の先生にしたい……ぐらいの人だなぁ……って」
「ふぅぅん。まぁ、そうね。確かに無茶苦茶な強さだからねぇ。途中、何回か不参加の時もあるんだけど。そう言えば前回行われた三月上旬の試合は参加して無かったわね」
そりゃそうだろう。
二月末から三月上旬は期末テストで忙しいからな。
「って事は、如月さんはブラッディマリーとデートするって事?」
つまりそう言う事?
だってそう言う事になるんだろ?
「うぅぅん、それがねぇ。結局優勝賞金だけ貰って、副賞は辞退されたって言うかぁ……」
あぁ、まぁね。
女教師がJKとのデート権もらっても仕方が無いものね。
って言うか、如月さんはちょっとアリだったかもしれないけどね。
うんうん。
薄々感づいてるよ。
僕はそう言う事には聡い方なのさ。
色々と空気が読めるからね。
うんうん。
如月さんはどっちかって言うと……。
「……でね。私の代わりに他の物が欲しいって事になってぇ……」
ほうほう。
陰真めぇ。
他の物が欲しいだとぉ!
とんだ業突張りの女ギツネだな。
金か? 金なのか?
優勝賞金がいくらか知らないけど、更に上乗せを図ろうって魂胆だな。
ホント、太ぇ野郎だぜぇ。
「って事で、私の代わりに貰われたのが、犾守君って訳」
「へ?」
「え?」
「……僕?」
「そう。あなた」
「うぅぅん……なんで?」
「さぁね。知らないわよ。一部の噂じゃ手に入れたショタを性奴隷にしてるって話だけど……」
あっ……あぁぁぁぁ。
……そう。
そゆことぉ。
「まぁ、噂は噂だし。それに、犾守君ったらあの時も『Boby』に結構コテンパンにヤられてたけど、パッと見、あの時より怪我が酷くなってそうだもんねぇ。結構ブラッディマリーに虐められてたんじゃないの? って言うか、実際犾守君がブラッディマリーに連れて行かれたんだから、何があったのかぐらい覚えてるんでしょ?」
「あぁ……全然。全然覚えて無いんだ」
いや、マジで覚えて無い。
って言うか、記憶が途切れ途切れで……。
良い事があった様な、悪い事もあった様な……。
「まぁね。性奴隷にされてましたぁ。なあんて、流石の犾守君も言い辛いでしょうからね。これ以上は追求しないでおいてあげるわ」
いやいやいや。
流石の犾守君って何だよ。
どのへんが流石なの? ねぇ、どのあたりが流石だって言うの?
「さて。それじゃあ看護師さんに目が覚めましたって連絡して来るね。それから香丸さんにも電話して安心させてあげなくっちゃ」
そう言い残し、扉の方へと歩き出す彼女。
「あっ……あのぉ」
僕からの声掛けに、彼女がふと立ち止まる。
「さっ、さっきはありがとう、如月さんの声が聞こえて……それで……えぇっと、そのおかげで目が覚めたんだ。ホント、マジ助かったよ……」
一瞬の沈黙の後。
いまだ僕に背を向けたまま、突然クスクスと笑い始める彼女。
「……うふふっ。こちらこそ。……聞いたよ。犾守君ったら私の為に体を張って神々の終焉に出場してくれたんだってね。私の方こそ……あのぉ……感謝してるっ。ホントにありがとう……」
こんな素直な如月さん……初めてだな。
あぁ、ヤベ。
なんかドキドキして来た。
「えぇっとぉ……何て言うかぁ……そのぉ……」
何て返せば良いんだ? こんな時は?
参ったなぁ、これ。メチャメチャ照れくさいぞぉ!
結局そのまま、無言でモジモジとし始める二人。
うわぁ! キツイ。
正直ベース、マジ辛い。
こういうシチュって慣れて無いんだよな。
どうしよう。これ、どうしたら良い? どうしたら良いっ!
これ以上無言が続いたら、確実に死ねるッ!
そんな言いようの無い緊張感あふれる室内に、ようやく待望の救世主が現れた。
「きゃあぁぁぁ! 犾守君ぅん! 目が覚めたんだぁぁぁぁ!」
悲鳴の様な大音響とともに、突然部屋の中へと走り込んで来たその女性。
ご自慢のナニをブルンブルンと揺らしながらの登場は、ご存じ香丸先輩だ!
「大丈夫? 本当に大丈夫なの? うわぁぁん! 良かったぁぁぁ目が覚めてぇぇ。それより、ホントにゴメンねぇ。犾守君が頑張って試合してる間中、私ったら飲んで寝ちゃってたぁぁ。もう暫くは飲まないぃぃ! うわぁぁぁん!」
「たははは……」
典型的な泣き笑い。
もともと情緒が少々不安定気味の人だからなぁ。
それに抱き付いてくれるのは嬉しいんだけど、体中の骨がなんだかちょっとギシギシするっ!
はうはうはう! めっちゃ痛い。めっちゃ痛いわぁ!
って言うか、飲まないのは『暫く』だけなんだね。
まぁ、香丸先輩らしいっちゃらしいけど。
とりあえず天然な香丸先輩の登場により、場の空気は一気にほんわかムードへと。
『お楽しみの所悪いが、お前に連絡事項が二つある』
おっ、クロからの思念だ。
いやいやいや。楽しんで無いよ。
本来は香丸先輩に抱き付いてもらえるなんて、めっちゃご褒美なんだけど。今は……今は拷問でしか無いもの。
なにしろ香丸先輩が僕へと抱き付く度に、体中の骨と言う骨が悲鳴を上げているのが凄く分かるんだもの。
『まぁな。ただ、元々Mっ気のあるお前の事だ。それすらご褒美だろうよ』
うぅぅん。クロさんったら、流石に分かってらっしゃる。
『そんな事より、まず第一にブラッディマリーの件だ』
陰真の事?
あぁ、優勝したって事でしょ。さっき如月さんから聞いたよ。
お気に入りのスカジャンに身を包むクロ。
彼女は僕が香丸先輩に良い様に弄ばれている様子を壁際でクールに見つめている。
んん? いつになく真剣な表情だな。
『いや、残念ながらその事では無い。重要なのは、彼女が祝福の保有者だと言う事だ。間違い無い。しかもアレクシア神の祝福に相違ない。これは最高の戦力となる。是非仲間に引き入れたい』
え? って事は教団関係って事!
ヤバい。まさか先生が教団関係者だなんて。
となると、学校内も安全では無いって事か?
その突然の情報に、冷たい汗が背中を流れ落ちる。
『いや、どうやら教団関係者では無い様だ。珍しい事だが野良だと考えられる』
野良? 野良って何?
『それは、先天的に神の祝福を持ちながらも、教団に所属しない者達の事だ。非常に稀な例ではあるが、決して無い訳では無い』
マジか。
だから神々の終焉で優勝出来たって事?
なるほどっ! それなら辻褄もあう。
で? アレクシア神の祝福って?
『まぁ待て。それは追々と説明しよう。それよりも問題はもう一件の方だ』
もう一件?
『そうだ。お前の友人に飯田と言う男が居るな』
え? あぁ、居るよ。
良く知ってるねぇ。クロォ。
『あぁ、お前の記憶を覗いたからな。その飯田だが……昨日から意識不明の重体だ』
「え? 意識不明って……なっ! 何があったのっ!」




