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第230話 安全牌(あんぜんパイ)

Ambush!(伏兵よっ!)


 リーザからの突然の警告に、俺と片岡は弾かれるように地面へと身を伏せる。

 激しい鼓動が打ち鳴らされる中、二人は息を殺し素早く周囲へと視線を走らせた。


 何処だ?

 何処から撃って来た!?


 しかし、目に映るのは丈の低い藪と木立ばかり。

 敵兵と思われる人の姿は微塵も見当たらない。


 マズいっ!

 あの調子で狙われたら、(かわ)し続けるなんて土台無理だ。

 どうする!? 後退するか? でも、どっちに?!

 クソッ!


 矢の射角を見れば、射手のおおよその位置取りぐらいは見当が付く。ただ、敵が一人とは限らない上、敵の手の内が分からない状態で下手に動くのは愚の骨頂としか思えない。


「探せっ、片岡ッ!」

「はっ!」


 俺からの切羽詰まった命令に、腹ばいになっていた片岡が、更に前方の藪へと注意を向ける。

 恐らく、敵はその瞬間を待っていたのだろう。

 

 ――バサッ! バサバサバサッ!!


 俺達の行動を嘲笑うかのように、今度は頭上から大きな物音が。

 慌てて上空を見上げてみれば、今度は黒い大きな塊が大木の枝をへし折りながらも、がら空きとなった片岡の背中目掛けて落下して来るでは無いか。


 すんでの所で身をよじり、衝突を回避する片岡。


 ――ギャリギャリギャリ!


 しかし、黒い塊と片岡が交錯した途端、甲高い金属音とともに彼女の脇腹から激しい火花が飛び散った。


「グゥッ!!」


 落下した黒い影は地面で大きくバウンド。

 更にゴロゴロと転がり、僅か数メートル先の藪の手前で停止する。


 何だコイツっ!


 薄暗い森の中、木漏れ日を頼りに目を凝らして見れば。

 薄汚れたチュニックに、雑な造りの胸当て。右手には細身のダガーを握りしめ。左腕には丸い盾のような防具を装備している。体格的にはかなり小柄で、しかもあどけなさの残る顔付きを見る限り、年端も行かぬ少年である事は明白だ。


 クッソ、今度は子供かよっ!

 嫌な手ぇ使って来るぜぇ!


 少年兵はほんの一瞬片岡の様子を確認するも、致命傷を与えていないと判断するや、細身のダガーを腰だめに構え、いまだ体勢の整わぬ片岡へと一気に飛び掛かった。


 ――ギギィィン!


 二撃、三撃と素早く繰り出される少年のダガーに片岡は防戦一方。

 僅かの間に抜き放った(グラディウス)で、何とか少年の剣戟を受け流してはいるものの、まともに傷を受けていないのは、単に彼女が身に着けている防具の優秀さ故の事だ。


 このままじゃ長くは持たねぇ。

 どうする? どうするっ!?


 俺は咄嗟に手近な所に落ちていた石礫を拾い上げ、今まさに片岡へ覆いかぶさろうとする少年の頭部めがけて思い切り投げつけた。


 ――ガコッ!


 俺の石礫が思いのほか真っ直ぐ飛んで、少年の側頭部に『命中しそう』になった事自体、正直意外だったが、それ以上に、少年が俺の咄嗟の行動にまで注意を払い、俺が投げつけた石礫を左腕に装備した盾によって完全に防ぎ切った事の方が驚きだった。


 くっそ!

 めずらしく当たったと思ったのにっ!


 とは言え、俺の石礫を避ける際、ほんの一瞬だが片岡への攻撃が止んだ事もまた事実。()()片岡が、この隙を見逃すはずが無い。


「ぅおりゃぁぁぁぁぁ!」


 三十路の女性が口にするとは思えぬ嬌声。それとともに、一気に体勢を立て直した片岡が猛然と少年に斬りかかる。


 ――ギィン、ガコッツ! ギィン、ガコッツ!


 力強い片岡の剣戟に押され、今度は少年が防戦一方だ。

 少年と比べ膂力に優れ、体格的に上回る片岡である。一度主導権を奪ってしまえば、彼女の独壇場になるのは明らかだった。


 ――ギィン、ガコッツ! ギィン、ガコッツ、ガコッツ!


 片岡の(グラディウス)により打ち据えられる度、少年は一歩、また一歩と後退を続ける事しか出来ない。

 やがて片岡は、少年を大木の目前へと追い詰めた。


『遊びは終いだ。降参しなっ!』


 この時点で少年の左腕に装備していた盾はすでにボロボロ。

 恐らく、片岡の追撃を受けたとしても、あと一、二撃が関の山だろう。

 少年にしてみれば、既に後が無い状態だ。


 片岡からの非情とも言うべき最後通告に、少年は己が唇を真一文字に結んだまま、真っすぐに片岡の目を見返して来る。


『『……』』


 互いに相手の出方を待つ事、一拍。

 少年は苦悶の表情を浮かべながらも、ゆっくりと口を開いた。


『……いやだ!』


 次の瞬間。


『ウオォォォ!』


 進退窮まる少年の背後より白刃輝く槍の穂先が突然現れ、片岡の心臓めがけて一直線に突き出されたのである。

 その槍を握るは新たな少年。

 一体何処に隠れていたと言うのか。それとも、最初からこの場所に居て、片岡が来るのを虎視眈々と待ち構えていたとでも言うのだろうか。


 ――ギィン!


 間一髪!

 片岡が左手の籠手で槍の穂先を跳ね上げる。

 しかし、攻撃はそれだけに留まらない。


 ――トス!


 今度は大木の反対側。

 同じく少年の背後となる木の陰より、初撃に使われたのと同じ矢が片岡の右腕へと襲い掛かった。

 

 ――ギィィン!!


 しかし、幸いな事にこの攻撃も片岡の鎖帷子(チェインメイル)により弾かれてしまう。このチェインメイル、エレトリア正規軍においてファランクス構築を想定し、右腕側の防御力を高めるため、肩口を中心に金属プレートによる補強が施されていたのである。どうもこれが幸いしたようだ。


 敵からの思わぬ二連撃にバランスを崩す片岡。

 彼女はたたらを踏みながらも二歩、三歩と思わず後退を余儀なくされてしまったのだが、そんな彼女の立っていたはずの空間を、更に二本の矢が通過して行く。


 ――ヒュ、ヒュン!!


 少年兵との攻防に気を取られ、いつの間にか大木の陰から身を乗り出してしまったのだろう。初撃においてバロネッサに矢傷を負わせた弓兵までもが狙い撃って来る。


「片岡っ! 一旦引けっ!」


 片岡の方も自身の不利を理解したのだろう。

 俺への目配せのみで、急ぎ元いた大木の陰にある藪の中へと舞い戻る。

 当然、例の少年たちはこの隙に乗じ、しっかりと姿をくらましてしまった。


 くっそぉ。

 敵の射線に入れば弓を射かけて来る。

 かと言って、延々この場に隠れていたとして、小僧どもがいつ仕掛けて来るのかもわかりゃしねぇ。このままじゃジリ貧だぜ。何とか打開しないと……。


 俺が藪の中に戻ると、リーザがバロネッサを抱きかかえたまま、不安気な表情で俺の事を見つめて来た。

 俺は一度だけ目を閉じ、腹を決めると、意を決してリーザに宣言する。


「俺達はここから脱出する。リーザ、お前はどうする? 付いて来るか?」


 俺から投げかけられた言葉は、当然彼女の想定の範囲だったのだろう。

 とは言え、簡単に判断できるはずも無く。

 彼女は再び親指の爪を噛みながら、険しい表情で黙り込んでしまう。


 リーザにはいくつかの選択肢がある。

 一つは、俺達とともに脱出を試みる方法だ。当然それは戦闘を伴う事になる。全員で戦えば生き延びる可能性は高まるだろうが、リーザ本人の命が保証されねぇ。上手くコトが運べばバロネッサだって助かる道もあろうってモンだが、下手すりゃ全滅。オールオアナッシングってヤツだな。


 もう一つは、バロネッサを見捨てて、自分だけ逃げ延びる方法。彼女にしてみりゃ、俺達なんて今日会ったばかりの他人に過ぎねぇ。一緒に戦うメリットなんて全然無いと言って良い。しかも、自分から話していた通り、バロネッサは何らかの方法で復活する事が出来るって言うじゃねぇか。もちろん、その行動に伴う代償が何なのかはハッキリしねぇが、少なくとも自身の安全を考えるんだったら、これが一番の安牌(あんパイ)……いや違うな。


 ここで俺はもう一つの可能性に気が付いた。


 一番の安全牌(あんぜんパイ)は、その折衷案だろぉな。一旦、俺達と一緒に戦うと宣言しておいて、乱戦になった途端、自分一人だけ逃げちまうって寸法だ。俺達が戦っている間は敵もまともにゃ追っては来れねぇだろうし。自身の逃げられる可能性も高まるってモンだ。となると、考えれば考えるほど、リーザはあてに出来ねぇって事だよなぁ……。


 そんな中、リーザに抱きかかえられたままのバロネッサが急に意識を取り戻したようだ。リーザは慌てたようにバロネッサの口元に自らの耳を寄せ、小さく頷きながらも彼女の言葉を聞き取り始める。


 やがて、全ての言葉を受け止めたリーザは、バロネッサを地面にそっと横たえた後、真剣な眼差しで俺達の方へと向き直った。

ヤバい、ヤバいっす。期末、忙しいっすw

四月にはいったら、ちょっとは余裕出て来るかなぁw

出て来ると良いなぁw

そんな作者に励ましのお言葉をぉぉぉw

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