第14話 下賜された第一奴隷
「ねぇ、犾守君は何飲むぅ? お酒って飲めるんだっけ?」
飲める訳無いでしょ? 僕、高校生だもの。
速攻で逮捕されちゃうよ。
先輩ったら、間違い無く知ってて聞いてるよね。
って事は?
これは『大喜利のお題』って事になるのかな?
なるほど。なるほど。
そうなんだね。そう言うことなんだね。
ここで僕が小粋な返答をするかどうかで、先輩のボーイフレンドの一人に加えてもらえるかどうかが決定する。
非常に重要な局面である……って事で間違いないんだよね!
うぅうむ。
そうか、そう来たかぁ。
となると、例えば……。
《それじゃあ、いただきます!》
いやいや、これはダメだ。流石に法律違反は良く無い。
《いやだなぁ先輩。僕高校生ですよ?》
堅い。堅すぎる。これでは、先輩の好きそうなウィットに富んだ大人の男とは到底言い難い。
うぅぅむ困った。
どうする? どう言う回答が正解なんだ?
ひたすら悩みに悩み抜いた挙句、無理くりひねり出した答えが次の通り。
「やだなぁ先輩っ! 今の僕にお酒なんていりませんよぉ。なにしろ僕は、先輩のその『美しさ』に酔いしれている訳ですからねっ!」
キラーン!
更に合わせ技として繰り出す渾身のウィンク!
お酒はしっかり断りつつも、さりげなくセリフの中に先輩の美しさを褒めたたえると言う高度なテクニック。
これぞ大人のセリフ。大人の口説き文句!
どうです、先輩っ! 僕のこの回答っ、何点ですかっ?
「……」
先輩ったら、突然のキョトン顔。
「うぅん? そう言う事は、大好きな彼女に言ってあげたら良いかもね」
うぅぅわぁぁ! 外したぁ!
ゴールポストギリギリを狙って行ったけど、めちゃめちゃ吹かしちゃったぁぁ!
もぉぉぉ、クロスバーの上空十メートルぐらいを通過しちゃったよぉぉぉ!
スタジアム全体が一斉に溜息だぁぁぁ!
決定力不足ハンパねぇぇぇ!
先輩ったら、一ミリも笑ってねぇよ。
しかもその後、先輩が僕の鼻の頭をチョンって。
はうはうはう!
軽くあしらわれちゃった。
大人な女性って難しいぃぃ! 何が正解なのかわかんねぇぇ!
でもこれはこれで、うれしぃぃ!
後でもう一回『鼻チョン』してって、お願いしてみよーっと!
そんな自分の大失態に一人身悶えする中、先輩はキッチンから飲み物を持って再び登場。
「はい、犾守君はスパークリングウォータね。私はビール飲んじゃおっかなぁ」
――カシュッ!
「はいはい、乾杯、かんぱーい!」
先輩ったら先に一人でキューっと!
もぉ、意外と自由人だなぁ。
「ぷはぁ! おーいしぃ。犾守君も早く飲める様になると良いねぇ。そしたら、二人で飲みに行こうね」
「はっ、はいっ」
それからはバイトの話とか、高校時代の話とかで盛り上がる、盛り上がる。
先輩ったらめっちゃ聞き上手でさ。
もともとヲタクで根暗な僕だけど、先輩の前だとすごく自然体で話が出来るんだ。
ただ……先輩が五本目のロング缶を開け始めた頃から事態は急変し始めたのさ。
「れぇれぇ、犾守君はさぁ。結香ちゃんと付き合ってるのにぃ、ろうして、私のところに来たろぉ?」
おりょりょ、先輩ったら呂律が回らなくなって来たぞ。
しかも、ちょっと目が据わってる。
酔うと絡むタチか?
「いえいえ、如月さんとは全然付き合ってなんて……」
「ウソおっしゃいっ!」
先輩ったら突然そう叫ぶと、僕の鼻をピンッ! って弾く。
痛っ!
いやぁん、先輩痛いよぉ。
ちょっと嬉しいけど、どっちかって言うと、さっきの鼻チョンの方が良かったなぁ。
「らってさぁ、犾守君が着てた服ってさぁ、今日結香ちゃんが着てた服といっしょれしょぉお! お揃いなの? 犾守君ったら、そう言うのが好みらのぉ?」
ヤバっ!
確かにさっきまで着てた服って、先輩も見てる服だよなぁ。
流石いまどき女子。
そういう所は見逃さないっ!
「いやいや、偶々。偶然重なっただけでぇ……」
「……」
あれ? 先輩ったらまたキョトン顔。
って言うか、大きく見開かれた瞳から、今度は大粒の涙がポロッ……ポロッと。
うわうわうわぁ! ヤバイヤバイヤバい!
「犾守君って、ろうして私に嘘つくろぉ? らって、パーカーもパンツも、シューズも全部一緒らんだよぉ? それに……それにぃ」
え? まっまだ何かあるのぉ?
「犾守君のリュックの中から、私の……私のブラが出て来たんらもんっ!」
あちゃぁぁ。
そうだった。今日先輩に借りたブラがそのままリュックに入ってたんだぁぁ!
こここ、これはどうする? どう言い訳する?
絶対絶命、全く言い逃れ不可能やんっ!
「うぇぇぇん、犾守君の嘘つきぃぃ!」
うわぁぁ。先輩ったら突然泣き出しちゃったよ。
今度は泣き上戸かよぉ!
「いやいや、先輩聞いてください。今日は色々と事情があって、如月さんの妹さんにバイト代わってもらったんですけど、その時着てた服が余りにもバイトに行く感じのラフな服じゃ無かったもんですから、仕方なく、ホント仕方なく、僕の服を貸してあげてただけなんですよ。それで、その服を夕方に返してもらったって言う、ただそれだけなんで」
「でもさ、でもさぁ。わざわざ、それを返してもらってから直ぐに着るぅ? やっぱり犾守君ったら結香ちゃんが好きなんだぁ。うぇぇぇん」
痛いっ!
痛い所を突いて来る。
と言うより、僕の言ってる事が既に無茶苦茶なもんだから、なんの言い逃れにもなってないぞ!
確かに服を貸した所までは良しとしよう。でも、それをわずか数時間後に僕が着てるって、軽い変態入ってるよね。完全にそっち系のフェチ、ある意味異常者的な感じがするよね。
うわぁぁ、僕、先輩から完全に変態だって思われてるぅぅ!
「違います! 先輩っ。僕の好きなのは、一年前からずっと先輩ただ一人です。本当なんです。絶対に如月さんとは、そんな関係じゃ無いんです!」
そんな関係じゃ無いって、だったら、一体どんな関係なんだよぉ。
実質、僕では無いにせよ、僕の体を使って一回クロがヤッちゃってるし。
この前だって、三時間ぐらいお風呂場でこねくり回したのは僕自身だし。
そこまでやらかしといて、とても赤の他人とは言い難いっ!
「えぐっ、うぇっ……うぐっ、うぐぅぅ」
「本当です。本当の事なんです。まるで嘘の様ですけど、全て本当の事なんですっ!」
うぅぅわぁぁ。全部嘘さ。そんなもんさ。完全に幻なのさぁぁ!
僕、完全に噓つきに堕落してしまいました。
神様ごめんなさい。本当に申し訳ありません。
いや、でもこれで良いんだ!
これこそが大人への階段。
真の男への登竜門。
ウソの一つや二つ。隠し事の十や二十。
それすら持ってないヤツが男を語ってもらっちゃ困るって話だぜいっ!
って思ってたら。
先輩の方もなんだか、ちょっと落ち着いて来た様で。
「……うん……わかった」
え? 先輩、分ってくれたの?
なんだよ先輩。
案外先輩もチョロいな。
って言うか、お酒で正常な思考回路がぶっ飛んでるに違いないな、これ。
「じゃあさ、犾守君さぁ……」
「はい。何でございましょう。この犾守、香丸先輩の僕にございます。何なりとお申し付けください」
「そしたらさぁ……」
「そしたら、そしたら?」
「私にさぁ……」
「はいはい、私に?」
「キスして?」
やったよ。
やっちまったよ。
香丸先輩ったら、ついにヤッちまったよ。
言うに事欠いて、キスしてって言っちまったよ。
先輩ったら、キス魔、キス魔だったって事?
絡み酒の、泣き上戸の、キス魔って、酒乱のフルコースだな。
まぁ、確かに先輩は酔っている。
たかがビールとは言え、ロング缶四本だ。
単純計算でも既に二リットル。
人によっては泥酔の域に入っていても全然おかしくは無い。
……知らんけど。
ただまぁ、僕が無理やりするんじゃなくて、先輩がキスしたいって言うんだから、それを断る理由なんてサラサラございませんよ。
あぁ、そうですよ。当たり前じゃないですか。
良くさぁ。
そんな酔った勢いでキスするなんてっ!
とか言う人達も居るらしいけど……。
そんなもん、知るかっ! こちとら合意済みなんだよっ!
酔ってようが、酔ってなかろうが、書類に判子さえ押してありゃあ、これは合法なんだよぉ。
おいおい、僕はいつからヤクザな高利貸しになったんだ? あははは。
って事で。
さぁ、頂こうか。思う存分頂く事に致しましょうか。
つい先日までキスすらした事が無かった僕だけど。
クロのお陰で、ちょっとはコツを掴んだ様な気がしないでも無い。
まぁ、クロはネコだからペットとチューしたのと一緒って事で、僕の人生の中ではノーカウント。
でも待てよ?
如月さんとも一回チューを……。
いやいや、ブレるな、誤るな。
アレも結局中身はクロだったんだ。決して如月さんだった訳じゃあ無い。つまり……。
正真正銘。
人間の女性との初めてのチュー。
今からじっくり、たっぷり、どっぷりと堪能させて頂きますっ!
「そっそれじゃあ、失礼して……って、え?」
「すぅぅ……。すうぅぅ……」
気付けば、近くのソファーにもたれ掛かりながら、微かな寝息を立てる香丸先輩。
「はぁぁ……。そっちか。そっちのオチかぁ。まぁ、予想はしてたけどねぇ」
一瞬、このまま寝込みを襲ってしまおうか?
とも考えたけど。
流石にそれは男として、いやいや、人としてどうなの? って話だ。
しかしなぁ……。
考えて見れば、後で送って行くって言っておきながらさ。
自分はビール飲んじゃうって、それってどうなの?
最初っから、送って行く気が無かったって事なんじゃあ。
って事は、やっぱりこれって……OKって……事?
いぃや、いやいや。流石にそれは無い。
こればっかりは流石に無いだろう。
後から『そんなつもりじゃ無かったの!』なぁんて言われた日にゃ、今度こそ警察のお世話になってしまう。
「さて、困ったぞ」
このまま先輩をリビングで寝かせてしまうのも可哀そうだし。
先輩を置いて帰る……って言うのもどんなもんだろうか。
何しろ僕が帰ったあと、玄関の鍵をかける事すら出来やしない。
流石にそれでは不用心だ。
「とりあえずベッドまで運ぶかぁ」
僕は香丸先輩の事を仕方なく『お姫様抱っこ』する事にしたんだ。
「軽っ!」
かなり長身の先輩だけど、やっぱり女の子なんだなぁ。
非力な僕でも楽々持ち上げる事ができるなんて。
僕は彼女を抱えかかえたまま、寝室と思われる部屋へ。
あはは。
寝室の方は流石に女の子の部屋だな。
ベッドの横には大小様々なぬいぐるみが添い寝してるし、少し少女趣味もあるのかな? お布団カバーも全部ピンクって。
ちょっと先輩のイメージとは違ってて、逆にギャップ萌え、好感度爆上がりだな。
そんな不届き千万な事を考えつつも、僕はそっと彼女をベッドの上に寝かせてあげたんだ。
「お休みなさい……先輩」
そして、部屋を出ようとした時。
「意気地なし……」
微かにそんな声が聞こえて来た様な気もするけど……。
さっきから抗いようの無い眠気に襲われていた僕は、そのままそっと寝室のドアを閉じたのさ。
でも、今日は本当に色んな事があったなぁ……。
リビングへと戻って来た僕は、崩れる様にソファーへと身を横たえたんだ。
◆◇◆◇◆◇
「……」
遠くから聞こえる。
誰の声だろう。
「……初めて……こんなの……初めて……」
香丸先輩?
「ダメ……」
どうしたんだろう。
何がダメなの?
「……くっ……」
うなされているんだろうか?
辛そうな声だ。
「……なるっ、なるわっ……」
何になるって?
「……Yes……答えはイエスよっ……」
そうか……イエスなんだ。
「……だから……だから、お願いっ……」
何かお願い事が?
「……$%HDFS’#)#……」
良く聞き取れない。何かうわ言の様な……。
ただ、苦しさの中にも愉悦混じりのその声は、その後も僕の耳を永遠とくすぐり続けるんだ。
やがて僕はそんな声も届かないぐらい、更なる深い眠りへと落ちて行ったんだ。
◆◇◆◇◆◇
「……ございます」
ん?
「おはよう、ございます」
んん?
「お目覚めでしょうか? 犾守様」
犾守様ぁ?
まだ開ききらない瞼を擦りながら、声のする方へと顔を向けてみる。
「犾守様、朝食の準備が整いました」
「あぁ、朝食……」
あれ? 僕は今どこに居るんだ?
実家か?
朝食って……一体誰が?
依然働かない頭で、何とかその理由を考え様とするんだけれども。
――チュッ、チュルッ
突然、唇に感じる濃厚な圧迫感。
更に甘く蕩けるような触手が、僕の口内をまさぐり始める。
え? 何々、ウソ、何コレ、何これ?
驚きの余り大きく見開かれた僕の瞳。
そこには、とても信じられないものが映し出されたんだ。
「ちょちょちょ、香丸先輩っ!」
先輩ったら、両目をつむったまま。
僕の唇から更に首筋へと舌を這わせて来る。
「先輩ッ! ちょっと待って! ちょちょちょ、ちょっとまって!」
そう慌てふためく僕の様子に、ようやく先輩もその手を止めてくれたんだ。
「あぁ、ごめんなさい。ついつい、昨日の事を思い出して止まらなくなっちゃったわ。うふふ。奴隷の分際で、ご主人様になんて事を……」
そう言いながらも、恥ずかし気に頬を染める香丸先輩。
何事だ?
いや、昨日って?
昨日、何があった?
思い出せ、思い出すんだ。
いや、僕は何もしてないぞ?
なんだったら、チューすらしていない。
って言うか、今のチューって、何? どう言う事?
ただでさえ回らない頭が、更に空転を始めた頃。
『タケシ、何をビビっている?』
あっ! クロ?
そう言えば後半からすっかり存在感無くしてたよな。
お前っ、何してたんだ?
『何してたも無いだろう? 確か、お前にも言ったはずだよな。お前が奴隷にしないならば、私の物にすると』
え? クロったら、先輩を!
香丸先輩を奴隷にしちゃったの?
『当然だ。向こうもお前に好意を持っていたからな。誓約は簡単に結べたよ』
うぅぅわぁぁ! マジかぁ?
って事は……もしかして……。
『あぁ、交尾は済ませた』
うぅぅわぁぁ!
交尾って言っちゃった。交尾って言っちゃったよぉ!
ロマンもへったくれも無い、交尾って何なんだよぉ!
『なんだ、交尾も知らんのか? 交尾と言うのはだな、生殖行為の……』
知ってるよぉ!
そんな事言われなくったって、めちゃめちゃ知ってるよぉ!
小学校の時に、もう習ってるし、復習だって何度もやったよぉ!
おしべとめしべが……ってヤツだろう?
って、そんな事ぁどうでも良いんだよっ!
『それであれば良かった。説明する手間が省ける』
なんなんだよぉ、その事務的な感じ。
ホントにもぉ! そう言うトコッ!
クロに是非直してもらいたい事の、堂々第一位がまさにそう言う所っ!
って言うか、あれ?
ちょっと待てよ?
香丸先輩ったら、クロの事じゃなくって、僕の事をご主人様って言ってたけど、これってどう言う?
『はっはっは。良く気付いたなぁ。お前は奴隷の身分とは言え、昨日はあぶない所で私を助けてくれたからな。今回は褒美だ。あの女は、お前に下賜してやろう。後で「隷従の首輪」を確認するが良い。お前の名前が刻まれているはずだ』
はっ、ははぁぁ。
クロ様、ありがたき幸せ……。
なぁぁんて、僕が言う訳無いだろう!?
だってだって、先輩ったら結局クロがヤッちゃったんじゃん。
そもそも、僕がヤルつもりだったのに、クロがヤッちゃったんじゃん!
『何を言う。お前がちゃんとヤらないから私が直接手を下し、しっかりとあの女を奴隷にした上で、お前に下賜してやったんだろう?』
いやいやいや。
僕は奴隷が欲しいんじゃなくて、その過程を楽しみたかったの。
って言うか、過程以外に楽しむ所無いじゃん。
奴隷になったからって、僕に何のメリットも無いでしょ?
『なんだ、そんな事か。要するに、タケシはこの女と交尾がしたかったと言う事なんだな?』
いやいや、そうじゃ無くって……って言うか、そうなんだけど。
まさにその通りなんだけど、だけどちょっと違くて。
なんて言うのかなぁ。
プロセス? 人にはプロセスが大切って言うかさぁ。
ハラハラドキドキ、ウキウキワクワクのプロセスを楽しみたいって言うかさぁ。
だって、ジェットコースターだって、途中の走ってる所が楽しいんでしょ!
あれが、いきなりスタートした途端、ゴールしたら、金返せって事になるでしょ!
『すまん、タケシ。ジェットコースターが何なのか、私は知らん』
うきぃぃ! クロと話が合わねぇ!
『まぁ、そう暴れるな。この女はもうお前の奴隷だ。好きに命令すれば良かろう』
いやいや、奴隷だからって、何でも言う事聞くって思ったら大間違いだよ。
大体、僕なんてクロの言う事全然聞いて無いじゃん。
めちゃめちゃ自由奔放に僕は生きてるでしょ?
ほらほら、奴隷ってったって、クロが思うほど簡単には……。
『なんだそんな事か。それなら試してみると良い。確かに奴隷となっただけで主人の言う事をなんでも聞くと言う事は無い。しかし、この女の場合は少々違うかもな』
え? 少々違うって?
『まぁな。昨晩のウチに、かなり調教しておいたからな』
調……教ぅ……?
『ほら、見て見ろ。この女の顔を』
言われた通り、僕が香丸先輩の顔を見つめてみると、先輩ったら恥ずかしそうに俯いてしまう。
だけどその顔は紅潮し、明らかに恋してる人の顔だ。
『だろう? この女はお前の「情け」が欲しくてウズウズしておる。よって、お前の言う事には従順に従う事だろう』
マジかぁ。
これ、マジなのかぁ。
あの清楚で、可憐な美しさを誇る香丸先輩。
そんな彼女が、僕の『情け』が欲しくて頬を染めてるってぇ?
『あぁ、そうだ』
いやいや、あぁそうだじゃないよ。
大体、そんな風にしちゃったのって、結局クロなんじゃん。
僕がやった訳でも、何でも無いじゃん。
結局の所、僕って、先輩に何もしてあげられてないって事でしょ?
『まぁな。そこの所はこれからおいおい、私が教えてやろう。なんだったら昨日の記憶もお前にくれてやるとしよう。参考にするが良い。それに、お前もこれからは奴隷を持つ身だ。精々奴隷の管理にも手を抜かず、一層励むがよかろうて』
「マジかぁぁ!」
突然取り乱し始める僕。
クロめぇ! 全然話にならねぇ。
って言うか、どうする? この後、どうする?
とりあえず『昨日の記憶』だけは、しっかり貰っとかないとなっ!
そこは重要ポイントだ。
って言うか、今までのヤッちゃった記憶って、全部クロから貰ってばっかりじゃんっ!
「ご主人様、如何なさいました? ご主人様っ!」
そんな僕の事を見かねたのか。
慌てて僕を抱き寄せ、優しく介抱しようとする香丸先輩。
「はぁ、はぁ、はぁ……なんで、なんでこんな事に……」
こうして僕は、本人の意思とは全く関係無く、突然『第一奴隷』を手に入れる事になってしまったのさ。




