二隻の船
眠い。それしか言ってない気がする。でもやっぱり眠い。
夜中に作業するからいけないんだよな。
夜中しか好きなことができない同志はいいねボタンをポチっとよろしく
~現在~
彩は自分のベッドに寝転がって、考えた。
「(私を守ってくれるのは嬉しいけど、やっぱりイライさんもなんだかんだ疲れてるよね。......迷惑かけてるんじゃないかな。時々トレーニングもしてるし、結構強くなったと思うんだけど......私がイライさんの代わりにデュエラー達を倒したら、喜んでくれるかな。)」
彩は自分のせいで他人が傷つく事が嫌だった。だからデュエラー達を追い払うことをイライだけに任せておくのも嫌だった。
~リビング~
「そんな大変な過去があったなんて……」
優太達は呆然と立ち尽くすだけだった。母親が目の前で死に、父親に見放され、親しい人たちとはもう離れ離れになってしまった。
優太達が言葉を詰まらせていると、イライが口を開いた。
「あの子はとても優しい子なんだよ。だから俺がデュエラー達を追い払ってるのを見て、イライさんだけ怪我するのは嫌だって、言ってたんだ。おれだって同じ気持ちだ。あの子に、彩に怪我なんてさせたくない。だからこそどうしたらいいか分からない......。」
「その気持ち、よく分かります。」
「皆、やること決まったね。」
「うん!」
「おう、そうだな。」
「?」
イライは優太達の会話の意図が分からなかった。
「俺たちがパトロールをすればいいってことですね!」
優太は元気よく叫んだ。
「え?いや、君たちにはそんなことをさせる訳にはいかない。危険だ……」
「いやいや、イライさんと彩さんがきちんと話し合いをできるように僕達が協力しないと!」
賢が潔く言った。
「ええ、そうすることで、少しでもモヤモヤが消えることに繋がると思いますよ。」
優花も話し合いを推奨した。
「ほ、本当にいいのか?」
「ああ、パトロールって要するにやべえ奴をぶっ飛ばせばいいんだろ?」
「例えば、君みたいなね」
「はあ?ケンカするか?」
「望むところだ。」
「ちょっと待って二人とも!」
「結局こうなるんだ……」
「アッハハ!」
イライは優太達の会話に笑みをこぼした。
~2階のベッド~
「(あの人たち、私とイライさんのために……。会ったばかりなのに……)」
彩は聞こえてきた会話の優しさに心を打たれた。
「(そういえば、私っていつも誰かに優しくさせてもらってばっかだなぁ。私って、私って、
本当に、優しい人になれるのかな……)」
~次の日~
「おはよう、諸君。」
「おはようございます。イライさん」
早起きが習慣になっているイライとたまたま早起きした優太が挨拶を交わした。
「おはようございます。優太くん、イライさん。」
「おはよう。彩さん。」
2階から彩が起きてきた。
「髪、整えてきますね。」
「いってらっしゃい。」
そのあと、残りの四人も起きて、五人はイライと共に外に出た。
「本当にありがたい。優太君たち。助かるよ。」
イライと優太達は島の真ん中にある食料庫へと向かっていた。
「ここだ。」
「でっか!」
高さは21m縦24m 横12m。壁は金属で出来ていて、厚みは30cm。巨大なシャッターがしまっていて、開けるのも一苦労しそうだ。
「オナシャスさーん。開けてくれー。」
「はーいはーい!」
ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「五分程待ってくれ。」
「「「「「暇だーーーー」」」」」
~
「ここは特に注意してくれ。昨日もここを狙われた。」
「ああ、昨日大慌てで走ってる人を見かけたけど、その人が狙ってたのかな?」
「多分そうだ。私は家に戻る。ここを中心に、街全体をパトロールよろしく頼んだよ。」
イライが敬礼したら、五人も敬礼した。
「ふふっ、賢君以外間違ってる。右手じゃなきゃダメだよ。」
そう言うとイライは小走りで家へと帰った。
「敬礼って右手だけなんだ。」
「なんか恥ずかしいね 」
その会話の一部始終を物陰から見ている者がいた。
「大崎優太……」
~イライの家~
イライは15分程経って家に到着した。
「彩。ただいま。」
「おかえりなさい。イライさん。」
「今日は優太くん達がパトロールをしてくれることになった。だから」
「知っています。」
「?」
「昨日の夜、イライさんと優太君たちの会話が聞こえてきました。」
「そうだったのか」
「私のために、私とイライさんのために、優太くんたちが、時間を作ってくれたんですよね。......私、優しい人になりたいと思ってるけど、人に優しくされてばっか。それに私はイライさんの優しさにも気づけずにあんなワガママ言って、迷惑かけて。ほんとに、何やってんだろう、私……」
「彩、大丈夫だ。」
「?」
「君が幼い頃に起きたこと、悲しみを俺は知ってるけど、理解してるわけじゃない。俺のために勇気を出してくれた君に今まで色々言ったのは、俺が悪かった。一人だけでその考えに行き着いたのなら、君は充分優しいよ。良いか、彩。人はな、人に優しくできた時が、1番幸せなんだ。俺にとって、君を守れることが、この町を守ることが一番の幸せなんだ。きっと君も、それに近い気持ちがあるんだろう。......君がくれた言葉は迷惑なんかじゃない。君のやさしさの証だ。」
「ううっううっ……」
「泣くなよ。」
彩はにっこり笑顔になって
「泣いてなんかないです。」
そう一言。
彩は袖で目をこすると
「私も、戦っていいでしょうか?」
「ああ。“一緒に”この町を守ろう。」
彩もイライも心の中のモヤモヤが晴れた。まるで澄み渡るような青空だ。
~食料庫~
「賢と優花は別の所行っててくれ。ここは俺とシュウトで見張ってるよ」
「「はーい。」」
「ハカセに会ったらお互いの状況確認するんだぞー」
「分かりましたー!シュウトさーん!」
優花と賢は手を振りながら港へ向かった。
「よし、ここを見張るか。」
「この食料庫の壁分厚すぎない?」
「ああ、この壁ですね。昔この食料庫が海賊に壊されたんですよ。だから強化されたんです。」
「強化してもまた狙われてしまっているんですね。」
「ええ。珍しい食料が大量に保管されているので、」
~政府軍北の支部~
プルルルルガチャッ!
「はいっポ。あ、ハナ少佐っポね。 報告? なるほど、大崎優太っポね。…………分かったっポ。報告書にまとめておくっポ。」
~新聞社田村~
「なあ聞いたか、ドクターファンクビートがしばらく政府軍に肩入れしてたみたいだが、急に失踪したんだってな。」
「他に記事に出来そうなことはあるか?」
「大崎優太のことはもう書いたしなあ。」
「あ、そういえばドリアン島が無茶苦茶にされたって報告が昨日あったぞ。」
「え?あの島って無人島じゃん。」
「いやだから、動植物が消えて、荒野みたいになってるんだよ。」
「やべえな。俺らも直接行って調査してみよう。」
「だな。いい記事になりそうだ。」
~ビラーク島付近の海~
「ボス!悪ぃ!またやらかしちまった!」
「マジかよwお前が無理ってなると、直接俺らが行かなきゃダメじゃん。めんどくせー。
ツガラ、クガラ、今すぐ来い。」
「何すか?急に。今ゲームしてたのに。」
「俺はボスの部屋掃除してたのに」
「俺ら四人でビラーク島に行くぞ。」
「えー、めんどくさいなぁ。」
「ずべこべ言わずにやるぞ」
「ボスが言えた口っすか!?」
「お前は任務に二回も失敗してるんだからうるさくすんなよ。」
「うっせえよクガラ!この暇人が!」
~ビラーク島イライの家~
「なあ彩。」
紅茶を飲んでいたイライは彩に声をかけた。
「なんですか?」
彩は手に野菜ジュースを持っている。2人は今までのモヤモヤを解消し、結局は彩もこれからはイライと共にパトロールをするということになった。彩は自分のこれからに期待していた。
「ありがとな。正直嬉しいよ。君が俺のために戦ってくれるなんてね。」
「イライさんこそ、私のわがままを聞いてくれてありがとうございます。それに、優太くんたちにも感謝しないと。」
~食料庫~
「意外と誰も来ねえんだな。今日は」
「彩さんがイライさんと話し合えてればいいんだけど」
「あの二人ならきっと仲直り出来てますよ。」
「そうですよね、オナシャスさん。」
このオナシャスというおじさん、強面なのにとても優しい笑顔をするのでギャップがすごい。
「あんたずっとここの管理してるのか?」
「ええ、それが仕事ですので。それに私、こう見えて昔有名なデュエラーズの中の見習いデュエラーだったんですよ。」
「凄い!昔のってことは、ページとかも見たことあるんですか?。」
「一応ありますよ。八歳だったからよく覚えてませんが」
「マジかよ」
「船長は、今生きてるとしたら82歳だったかな?」
「ベテランですね」
「ええ、そうですね。彼は偉大なデュエラーでした。クレシェンドダイヤという存在があるという情報を誰よりも早く聞きつけて、一番最初にデュエラーと呼ばれた男ですからねー。」
「え?それってつまり……」
「政府軍ができるきっかけを作った人でもあります。
名前はデュエラ・レベモン。といいます。」
「へー、そんなすげえやつもいたんだな。」
「今俺たちがこうやって旅をしてるのも、そのデュエラーのおかげなんだな。」
「そうですねー。」
~ビラーク島の港付近
「何?あの船。」
「しかも、別々の方向から二つも……」
「ハカセさん!」
賢はハカセが造った無線通信機の電源を入れた。
「どうした?賢?」
「船が二隻港に近づいてきます!」
「なんだって!?今すぐ優太に伝えなきゃ。行くよ!タイト!」
ハカセは食料庫に急いだ。五分程で到着したハカセは優太達に状況を伝えた。
「賢!大丈夫か?」
無線通信機を繋いだ。
「はい!ですがもう到着する距離です!」
「行くか。」
「うん!」
「急ごう!」
~
港付近の船の上
「ボス!遠くに政府軍の船がありますぜ!?」
「マジで?めんどくさっ。誰かわかるか?」
「おそらくディエス中将っすね」
「あー……勝てるね。うん。掃除してやる。」(クガラ)
「まあ行くか。」
~
ディエス中将が乗っている船の上
「中将!大崎賢と大崎優花が港にいます!もしかしたらチーム優太がいるのかもしれません!」
「本当か。離れたところにあるあの船と反対方向に回るぞ。森林から街に入ろう。」
「はっ!」
ディエス中将達は船を大きく旋回させ、港と反対側に回った。
「あれ?片方の船が左に曲がってく……?」
賢の声を聞いて無線の先から声がした。
「どういうことだろう?」
「優太はイライさんの家に寄って聞いてくれ!」
「分かった!」
ハカセとシュウトは優太をイライの家に向かわせて港へ急いだ。
「よし、着いたぞ。」
「優花ちゃん!賢!大丈夫?」
「!! 」
シュウトとハカセが港に到着した時にちょうど、大きな船が一隻到着していた。とても大きな船だ。炎のマーク、風のマーク、水のマーク、土のマークが船の側面に描かれている。
「邪魔するぜ。」
「てめえらは見たことねえ顔だな!」
「随分と汚らしい街だなぁ。」
「ふぁーぁ。眠いから早く行きましょうよボスー。」
四人の男がそれぞれ独り言を呟きながら船から降りてきた。
「お前たちは一体誰だ!」
賢が叫ぶと
「俺は王トウモロコシが欲しいだけだよ。」
そう答えた。
「食料庫に近づかせる訳には行かない。」
「邪魔だからどけよ。」
「どかせてみろよ!」
シュウトとクガラがお互いの拳を交えた。バチイン!と鋭い音がした。
「気圧変換(パスカルex)」
その瞬間そうクガラが呟くと
「ん?あぁ!あっ……かっ……」
シュウトは声が出せなくなった。息も出来なくなった。苦しい表情になったシュウトをクガラは殴り飛ばした。
「うあっ!」
「大丈夫?シュウトさん」
「あ、あぁ。一体何が起こったんだ?……」
「気圧をちょっといじっただけだよ。」
「気圧を?……」
「早くどけよ。邪魔って言ってるだろ。あと、汚い手で触るな。」
「こんなんでくたばるかよ。」
「ちぇっ。バビロン。来い。」
バビロン(ネブトクワガタの種)はクガラのパートナーだ。
「さっさと終わらせる。」
「俺もさっきのお返ししなきゃな。」
いつも読んでくれてありがとうございます。嬉しい限りです。今回も伏線祭りでしたね。