大会の始まり
30年前 ページという名前の男が伝説と言われていた財宝クレシェンドダイヤを見つけた。
クレシェンドダイヤは寿命の半分と引き換えに何でも願いを叶えてくれる秘宝である。
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「やっと......やっと見つけたぞ!!!」
~
そしてその効力は一人につき一回で、全部で五回と言われている。
~
「本当にそんな望みでいいの?」
「俺が決めたことなんだからいいんだよ。」
~
ページが願ったことは誰もわからない。ページは一人で旅をしていたわけではないが、なぜだか彼の願いを知る者は一人もいない。それが何故なのかも誰も知らない。現在ではそのクレシェンドダイヤを狙い数々の人々が探している。それぞれに抱えた望みを叶えるために……。
~
北の海、小さな島にあるバキリ村にも、クレシェンドダイヤを見つけることを夢見る少年がいた。
~バキリ村のとある集落
「どうもありがとう。配達ご苦労様」
「いや、これが私の仕事だから」
「雨だし、家上がる?」
「ううん、他にも仕事があるの。それにカコもミナも風邪気味で、面倒見なきゃいけないし」
「そうか、じゃあまたあとでね」
バキリ村及びこの島では二週間雨が降り続いている。シンボルである、鷹のような村のマークがそこらじゅうにある。濡れているせいでいつもより色が濃い。村全体は裕福とは言えないものの、村の人同士も仲が良く、悪い印象を抱く人は少ないだろう。バキリマウンテンという山が近くにあるせいで、天気が変わりやすいのが玉に瑕だ。
「ええ、優太、優花と賢にもよろしくいってね」
何でもないやり取りをしたあと、ナオコは黄色いレインコートのフードをかぶり直して、雨が降る中、外へ出ていった。
優太は彼女を見送ったのち、渡された封筒に目を通した。
「そういえば、配達物なんて珍しいな。手紙なのか。え?俺宛て?なになに?」
優太は封筒を破くと白い紙に書かれた品格のある奇麗な字を読み始めた。
「十日後、バキリスタジアムで、総合格闘技大会、バキリグランプリを開催します。腕にに自信のある方を募集中。皆さんのパートナーを戦わせ、優勝した者には、賞金200000ルーンが渡されます。」(手紙)
「……こんな貧乏な村で大会なんてすごいな。よく開催する気になったもんだ。でも、この賞金でもしかしたら、旅に出るための道具が買えるかも……?よし、決めた!出よう!」
優太は即決した。クレシェンドダイヤを見つけるためには海へ出なければならないが、船や備品をそろえるお金がないことが悩みだったからだ。
「選手登録は明日までにバキリスタジアムへ、か。優花ー!賢ー!」
「どうしたの?急にそんな大きな声出して呼ぶなんて」
「俺、この大会に出ることにした。異論ないよな!」
「え?」
~
「なるほど、そのお金で何買うの?」(優花)
「船とか買おうぜ!それで3人で旅に出るんだ!」
「なんでもう私たちも巻き込まれてるの!それに、優勝しなきゃお金もらえないわけだけど、お兄ちゃんってそんなに強かったっけ?」(優花)
「勝てればラッキー、負ければドンマイだよ。俺はチャンスを逃したくないんだ!」
「はあ、止めても無駄みたい……パンドラ、修行手伝ってあげよう。」
「よおし。いくぜカブト!」
「賢も手伝って。」
「......うん。」
この世界にはパートナーという名の人生の相棒を持つ者がいる。原則昆虫がパートナーとなる。パートナーが主を強く望んでいる状態と主がパートナーを強く望む状態が重なることで契約成立となる。主が死ぬとパートナーが死ぬ。しかし、パートナーが死んでも主は死なない。
パートナーになった昆虫達は知性、スキル、身体能力を主と共有できるため、パートナーを持つ人々が急増しているのだ。特にクレシェンドダイヤを見つけるための手段としてパートナーを選ぶ者が急増している。ページにもパートナーがいた。
パンドラはモンシロチョウの種で、大崎優太の妹である大崎優花のパートナーである。スキルは持っていないが、鱗粉を駆使して戦う。
カブトはカブトムシの種で大崎優太のパートナーである。スキルは、グロウアップ。能力については後述。
そして優太の弟である、賢もパートナーを持つ。その名をウチダという。カブトと同じくカブトムシの種であるが、正確にはその亜種に分類される。スキルは持たないが、風を操ることが出来る。
スキルとは生まれつき持っている能力のことを言う。スキルは契約が成立した時点で主とパートナーが両方使えるようになる。知性もおなじで、契約が成立した瞬間共有される。
三人は集落を抜けて、バキリマウンテンへと向かっていた。
「ここにはやべえ化けモンがいっぱいいるから修行にはピッタリだ。」
優太はシヤの木が生い茂る道をゆく。大きな木の枝と葉が太陽を隠し、猿達の黄色い声が鳴り響く。3人は今涼しい風が吹き込むバキリマウンテンの森を走っている。
「待ってぇ~お兄ちゃん。」(優花)
「急ぎすぎだよー!」(賢)
「選手登録するためにもこの山越えねーとな!」(優太)
雨はいつの間にか止んでいた。
優花と賢は木漏れ日の眩しさに目を細め、雨で濡れた体をタオルで拭きながらせっかちな兄を追いかけるのだった。三人が暮らしていた集落から見てバキリスタジアムは南にある。バキリスタジアムにいくためには、バキリマウンテンを越える必要がある。標高1300メートルのとても高い山だ。バキリ村のあるこの島特有の動植物が溢れている。
「修行にぴったりな動物がたくさんいるし、そいつらとちょっと準備運動したいな。」
グルルルル......。
「特にバキリライオンはなぁ……体の骨が太くて、筋力トレーニングにピッタリ……」(優太)
グオォオォォ!
「何でいったそばから来るんだよ!」(賢)
「はあ、運が良いのか悪いのか……パンドラ、準備して。」(優花)
バキリマウンテン最強の怪物。バキリライオン。体長約7メートル。牙から毒を傷口へ注入し、大抵の獲物及び狩人は毒が回って死ぬ。だが、三人は違う。
「パンドラ!ウチダ!援護してくれ!グロウアップ!」(優太)
優太は叫ぶや否やバキリライオンの後ろに回り込み、しっぽの叩きつけをかわしてジャンプした。そしてパンドラは目眩ましの粉を撒き、ウチダがバキリライオンの足に攻撃し、バキリライオンがバランスを崩して転んだ。そして優太がライオンの背中へとパンチを打ち込み、バキリライオンは背骨を砕かれて伸びてしまった。
「当分はこれ食うってことでいいよな優花。」
「うん、私が調理する。」
「( -_・)??あ、カブトが俺の出番なかったって怒ってるよ。」
「ああごめん。じゃあ、こいつ運んでくんね?」
カブトにとってはバキリライオン(推定体重18t)を運ぶことなど辛いのつの字もでないことなのだ。三人はそのままバキリマウンテンを登っていった。
~バキリスタジアム到着
「やっとこれたー。」(優花)
「優花、賢、疲れただろ。ここで休んでろよ。」
「うん、いってらっしゃーい。」(賢)
優花の息切れた声を聞いた優太は木陰に2人 (とそのパートナー)を残し、受け付け会場へと走っていった。
「俺、この大会にさんかします!」
優太に声をかけられ受付の老人はむっくり起き上がった。
「……この大会、若い者の参加が多いんじゃのう。……ここに名前を書くんじゃ。それで受付が完了する。」
優太はなんとなく自分以外の名前を見てみた。
(ファウスト マルタ ハカセ ジュエル Mr.53 カーネダ.イスキ プリンスナラ)
「すげえ!ナラ王国の王子がいるぞ!」
「君で選手登録が最後になった。大会はトーナメントで行われる。そして優勝者には200000ルーンが渡される。」
「ああ、俺はそれでいろんなもの買って、旅に出るんだ!」
「10日後にここへ集合しろ、来なかったら賞金獲得権はなくなるので気を付けてな」
「ありがとう。(みんな俺より早くここに着いたのか……みんな強そうだ、特にプリンスナラ!強いやつに勝ってこそ大会だよな!)」
~
「受付が終わった。一旦村に帰るぞ。」
「はーい」(賢)
三人とそのパートナー達はバキリマウンテンを降りていく。その間ずっと優太は大会の出場選手のことを考えていた。
「(プリンスナラがこの大会にでるなんて、すごいな。王子と戦うなんて考えたことなかったなあ)」
「そういえば、お兄ちゃんこれから赤岩さんのとこ行くの?」(優花)
「(俺もカブトとのコンビネーション高めないとな……)」
「お兄ちゃん!聞こえてる!?」(優花)
「ぅえ?ああ、ごめん。そうだね」
「ってかバキリライオン重すぎ、お兄ちゃんが持って」(賢)
「わかった。」
~
「よし、着いた」(優太)
優太達は恩人である赤岩現の家に到着した。優太達は親を幼い頃に亡くしたので、5年前まで近所に住んでいた赤岩現に時たま家に親代わりとして来てもらっていた。
その時からすでにクレシェンドダイヤを見つけるのが夢だった優太達に「いつか役に立つ」と、武術を教えていたのである。大会に出ることになったため、優太はバキリマウンテンに来てもらって修行してもらおうと思っていた。
ガチャリと古いドアを開くと、衰弱した老人がすんでいるとは思えないほど綺麗な部屋があった。女の子が喜びそうなきらびやかで大人っぽさのある十二畳ほどの部屋が一つだけ、あった。
「赤岩さん」(優太)
呼ぶと、赤岩は少し笑って優太達に手を振った。赤岩は病気だった過去があり、薬をよく飲んでいる。今日も机の上にそのような跡がある。
「また武術教えてください」(優太)
「おうとも」
いつも通りあっさり承諾した。赤岩を連れて優太達はバキリマウンテンに向かった。
~バキリ村の周辺
「ジュエル。分かってるよな俺たちが勝たないと……」
「うん、わかってるよマルタさん」
こそこそと話す二人がいた。
~バキリマウンテン
「もっとジャンプを高くしなさい。それとすべての方向からの攻撃に対応できるようにいろんな方向に飛べるようにしなさい。」
「はい」(優花)
再び降ってきた雨のせいでどしゃ降りだが、彼らには関係ない。
「グロウアップのタイミングを間違えると体力の無駄な消耗になる。気を付けろ」
赤岩のアドバイスは的確だった。なぜ戦闘に関する知識を持っているのか、優太たちが聞いても彼は教えてくれなかったが、確かに役に立つ知恵だった。
~三時間後
「今日はこんなもんだな。家に帰りなさい。」
「今日もありがとうございました。」
「なあに、アドバイスをしとるだけだ。さあ、リトルキング、うちに帰るぞ。」
リトルキングは赤岩のパートナーであり、コクワガタの種だ。コクワガタの中でも、身体能力が特に高い。いわゆるエリートである。主はもはや歩くので精一杯だが、パートナーは年を(基本的に)とらないので、リトルキングは元気である。カブト達が全員でかかっても傷一つ負わせることができないであろう強さを持っている。
三人は礼を彼に送ると、家へと向かった。赤岩は手伝われるのを嫌うので一人で歩かせるのが思いやりなのだ。
その後も修行を繰り返し、ついにやって来た
~10日後 大会当日
「起きろ!賢!優花!」
「え?もう朝?」(優花)
「違うけど今から修行だよ。」
「今から~?」(賢)
「私達観客として先にバキリスタジアム行ってるからカブトと二人きりでやってよ」(優花)
「もうみんなお疲れみたいだな。ウチダ、みんなを運んでやってくれ。」
ウチダは背中に優花と賢を乗せて歩き始めた。その後ろをパンドラがヒラヒラと舞っている。
優太はみんなを見送ると外に出た。
「あ、優太~!」(ナオコ)
「ナオコさん!」
「もう出発するの?」
「いや、体暖めないといけないんで、ここでちょっとアップ。」
「意識がすごいね、相変わらず。」
「町は本当に大騒ぎよ。プリンスナラが来ることとかあなたが出場することとかね。」
「みんな!俺の事応援してくれよな!」
「頑張ってね優太君!」(ナオコ)
「師匠の赤岩さんに恥かかせんなよ!」(村のおじさん)
「おう!」
このときは誰も思っていなかっただろう。平和だったこの村に大事件が起こることを。
~バキリスタジアム
「ついに来た。」(優太)
「フム、もう来たのかね。」
「あ、おじいさん。おはようございます。」
「調子が良さそうじゃな。」
「バッチリアップしてきたんで誰にも負ける気しないっすよ!」
老人がなぜだか少し不機嫌そうだったが、優太は触れなかった。
「こっちじゃ」
優太は石づくりの少しボロい待機室へ連れていかれた。
「集合の1時間前に来たが、君は二番目だ。ここで選手同士の争いがあった場合そいつらは失格になるんで気を付けてな」
「はい」
最初にここに着いたと思われる青年は背が高かった。ソファに座っている。白髪で、白衣を着た青年だった。
「僕はハカセ。よろしく」
この小説を書こうと思った理由は等身大株式会社のVitaさんの一言でした。
「自分でしかできないことがある。」と。一見当たり前のように見えて全然当たり前じゃないこの言葉は、現在高校生である私に衝撃を与えました。
自分にしかできないことがあるならば、それはなんだろう。もともと、何かを創作することは好きだったし、自分の作品が賞賛された時は嬉しかった。その気持ちをそのままぶつければいいんだと思って、自分の描きたいように描いているのが、この小説です。
読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに!!