序章
女神・アルルは考えた。「人間の“差別”をなくすことはできないものか」と。その考えを聞きつけた3人の男神がそれぞれ一つずつアルルに提案した。
一人目の男神・チルは「人間の住むあの六つの大陸を全て繋げて仕舞えばいい」と提案した。アルルはその意見に深く感心した。そうすることによって、混乱が生じ、人間の差別という壁を超え協力し合うのではないかと思ったからだ。
二人目の男神・トルは「チルの意見を実行した後、我々の手で作り上げた人間を地に送り、それを天にも届くほどの大樹にして、人間の信仰対象にして仕舞えばいい」と提案した。アルルはその意見に深く感激した。そうすることによって、宗教の違いとやらで争いも差別も大幅になくすことができるのではないかと思ったからだ。アルルは最後に男神・ハルの意見に耳を傾けた。しかし、ハルの意見はアルルの考えを否定するものだった。
「人間の差別を完璧になくすのは無理な話だ」
アルルは酷く動揺し「其方ならどうする」と再び意見を求めた。
「少しでも差別をなくすという目論見でチルとハルの意見を実行し、ただ一つの種の人間のみを、すべての人間の差別対象にすれば良い」と提案した。アルルは深く納得した。そうすることで、愚かな人間は共存することが可能なのだと思ったからだ。
早速、アルルは実行に移した。六つの大陸は大きく移動し始めた。山は火を噴き、海は荒れ、人間は混乱に陥った。だが、混乱に乗じて悪事を働く人間もまた増えた。アルルは大陸を一続きにした後に、人間の善悪に関する記憶や知識を全て取り除いた。そうして、アルルは人間の赤子を作り、地の人間に見えるように落とした。赤子は地に触れるなり、一瞬で天にまで届く大きな樹となった。アルルは人間に告げた。
「この大樹の名はアダム。妾の血と肉で作りし人間の化身なり。人間たちよ、崇めよ」
人間は恐れ敬った。その中でも信仰の熱い人間の一人のみにアルルは告げた。
「アダムの実を食べよ。食べた者は妾の加護を与えよう。そして、孤児たちにも与えよ。しかし、その実は選ばれし者のみが加護を受けることができる。加護を受けし者、神に敵対する者どもを打ち滅ぼす力を与えよう。…其方は、その力を持つ者たちを束ねる地位を与えよう。その力と地位を与える代わりに、その力を持たぬ者たちには隠しておけ。例え、差別されようとも。其方は、“イブ”。妾の声を聞きし者」
イブは早速アダムの樹になった実を食べて、不思議な力を手に入れた。そして世界中の孤児を集めて自分が食べた実を食べさせた。大半の者はその力に選ばれず死に至った。選ばれし者たちをイブはこう呼んだ。
―アダムの林檎
次回、ちゃんと本編入ります…