鋼竜の脅威
5メートルぐらいあるだろうか。蜥蜴を巨大にして鎧を纏わせたような怪物、鋼竜がまた1人自分の部下たちを殺してゆく。いくら鋼竜とはいえど、村の兵の7割も集まれば楽勝だろうと考えていた自分を憎む。
「隊長!もうひきましょう!」
自分の部下の提案を彼は承諾しない。
「馬鹿か、しんがりは誰が務める!あんな化け物、誰も止めらんねえ!転移魔法さえ使えれば良いんだが、霊種はこんな田舎に配属されるわけがないからな。」
霊種。それは物理的干渉をしないモノや、魔法という特異な力を持つモノなどが確認されている存在。様々な特徴を持つモノがあるが、唯一の共通点は霊種自身も含めて、自身がどのように誕生したかがわからない事である。
「隊長。霊種ならいます」
そう言い下っ端兵士が見た先には、保護されていた少女がいた。
見た感じは15、6歳ぐらいだが霊種に年齢があるかさえ分からない。漆黒の髪を持つ、まだあどけなさの残る彼女は何処か儚げだ。だが素人目でさえ何故か彼女が魔力を持つ者と分かった。
「い、いや、だが。」
「今はもうなりふりかまっている場合ではありません」
「くっ」
隊長はなりふりかまってられないと判断し、苦渋の決断をした。
「お嬢さん。転移魔法は使える?」
歩み寄ってくる部隊長に彼女は答える。
「い、いや、使えないです。すみません。」
心底申し訳なさそうにする彼女に「こちらこそ悪かった」と伝えようとするが、その前に隊長は少女を庇い盾を構える。
彼らを襲ったのは戦闘中のはずの鋼竜だった。周りを見れば兵士は全員倒れており、先程彼と話していた兵士も鋼竜の尾に薙ぎ払われていた。
「ふざけっ⁉︎ がぁっ」
彼もまた、鋼竜の前にあっけなくその命を閉ざす。
残されたのは1人の少女だけだった。
「ひぃっ!」
彼女に襲いかかるその爪は、しかし彼女に届かなかった。
鋼竜の鎧の様に重なる金属板の隙間に槍が刺さっていた。
「マナッ!」
その声はユナンの物だった。彼女は刺した槍を抜き、そのまま黒髪の少女を抱き上げる。
ユナンは悶え苦しむ鋼竜を見ながら言う。
「逃げるぞ。」
「ユナちゃん、ありがとう。怖かった。」
黒髪の少女、マナカは震えた声で言う。
「気にすんな。最初に救って貰ったのは私の方だ。帰るぞ。」
「うん!」
しかし、この先彼女らが自分たちの家に帰りつく事はなかった。
ユナンはマナカの前のみ一人称「私」を使います。