俺は男だ
「くそっ」
行商人ロンは悪態をつく。やはり慣れない道は使うべきではないと後悔しても遅い。今、彼は人を襲う機械種の1種である、機構熊に追われていた。
機械種。鋼鉄で作られた体を持つそれは、遥か昔に作られたロボットが薄い自我を持ち、繁殖方法を確立させた存在。
その中でも機構熊は凶暴で、縄張り意識が強い。普通の人間が縄張りに入れば、大勢でもない限り生き残りは絶望的と言えよう。
その絶望的な状況下にある彼は、しかし運が良かったと言えよう。何故なら...
「ガガガッガッッッ」
機構熊の動きが止まる。その体には槍が刺さっていた。胴体を綺麗に穿つ槍は機構熊を一撃で絶命させていた。
「大丈夫かー?」
その声は若い少女の声だった。金色の髪は雑に結ばれており、その顔は薄汚れているが、きちんと手入れをすれば、そこら辺の貴族の娘より美しくなることは容易に想像出来た。
「ありがとう助かったよ。君は原種でしょ?しかも女で機構熊を倒すなんて凄いなぁ」
原種。それはいわゆる普通の生物、つまり有機物で作られた肉体を持つ生物である。
人間の姿をとる物なら殆どが原種であるのだが、彼女は否定した。ただし...
「何を言っているんだ?俺は男だ」
彼女の否定した部分は女と言う部分だった。
「え?」
ロンは戸惑う。身体つきや声で女であることは明白だった。
「い、いやどう見ても女の子でしょ?」
「馬鹿にしてるのか?」
あまりの剣幕に彼は話を合わせる事にした。
「ご、ごめん、俺の見間違いだ。それにしても災難だったよ。鋼竜が出たらしくていつも使っている道が封鎖されたから、使った事のない道を使ったらこうだよ。」
「鋼竜が出たのか⁉︎どこに?」
何気なくグチを言ったつもりだったロンは、彼女(生物学的には女なので)の反応に驚く。
「あの深淵の森の辺りらしいが」
その言葉を言い終わる前に彼女、ユナンは深淵の森の方に走り去って行った