第98話 メイドとの入浴
俺はファラエスと食堂で話した後、部屋に戻った。
その後、しばらくの間部屋で過ごしてから、俺は風呂に向かう。他の皆は、時間的に既に入ったはずなので、何も問題はないはずである。
だが、俺は奇妙な感覚を覚えていた。
なんとなく、洗い場から気配がするのだ。このパターンには、覚えがある。
恐らく、誰かがいるのだろう。
服を脱ぐ前に気づけばよかったのだが、これは仕方ない。
とりあえず、俺は腰にタオルを巻いて、洗い場への戸を開ける。
「スレイドさん、いらっしゃいませ」
「……クレッタか」
そこには、タオルで身を包んだクレッタがいた。
そういえば、ファラエスの後は、クレッタと一緒に入浴するという話だった気がする。
だから、待っていたということなのだろうか。
「あれ? スレイドさん、ばっちりタオルを巻いていますね?」
「ああ、中にいるのがわかったからな……」
「え? そうなんですか?」
「気配のようなものが感じられたんだ」
「気配? それは、すごいですね……」
俺の言葉に、クレッタは目を丸くした。
気配を感じたということに、驚いているようだ。
そういえば、ファラエスの時はそんなものを感じなかった。
もしかして、騎士だから気配を隠していたのだろうか。いや、風呂にいるだけでそんな技術は使わないはずだ。俺の考え過ぎだろう。
「というか、なんでここに……?」
「背中を流したいと思いましてね……」
俺の言葉に、クレッタは笑顔になる。
まさか、未だにそれを気にしていたとは驚きだ。
それにしても、大胆なものである。
タオルが一枚あるとはいえ、ほとんど裸だ。
ファラエスには及ばないものの、クレッタも中々のものを持っている。足や肩も出ているし、それらはかなり刺激が強い。
「メイドとして、他の人に負ける訳にはいかないんです」
「そ、そうなのか……」
俺の心中を気にせず、クレッタはそんなことを言ってくる。
どうやら、メイドとしてのこだわりから、俺の背中を流したいらしい。
そのこだわりの意味はわからないが、メイド的には大切なことなのだろうか。
これは、叶えてあげなければ、ずっと言ってくると思うので、早く済ませるべきだ。別に嫌でもないので、特に問題もない。
「それなら、お願いしようか……」
「はい。任せてください」
「ああ……」
クレッタはとてもやる気だった。
とりあえず、俺はクレッタの方に歩み寄り、椅子に座る。
すると、クレッタが動き出す。
「綺麗にしますからね!」
クレッタは、手際よく俺の背中を洗っていく。
やはり、洗いたかったというだけあって、中々上手いものだ。
「さて……」
「うん?」
そこで、俺の耳に奇妙な音が聞こえてきた。
それは、まるでタオルが床に落ちるような音である。
この状況で、タオルが落ちるなどあり得るのだろうか。
「かっ!?」
そう考えている俺の背中に、何か柔らかいものが当たった。いや、柔らかいだけではない。
わかるのは、それが人肌特有の温もりであることだ。
つまり、これはクレッタの胸ということになる。
「ク、クレッタ、何をしているんだ?」
「サービスです」
「サービス?」
「はい。メイド的には、この洗い方が正しいのです」
俺の質問に、クレッタはそんなことを言ってきた。
この洗い方がメイド的に正しい訳がないだろう。そもそも、自分でサービスと言っているじゃないか。
「気持ちいいですか?」
「気持ちいいのは、気持ちいいが……」
「それなら、問題無いですよね?」
これは、大変に気分がいいことではある。
だが、少し度が過ぎるだろう。
流石に、俺も結構やばい気がする。
「だが……」
「まあ、まあ……」
「うっ……」
俺が言葉を発しようとしていると、クレッタが動き始めた。
それにより、胸の感触がより伝わってきてすごい。
「ク、クレッタ、少し待ってくれ……」
「はい?」
「……これは流石に、やりすぎなのではないだろうか?」
「やりすぎ……」
「色々とまずいから、今すぐにやめてもらえないか?」
俺の言葉に、クレッタは動きを止める。
流石に、これ以上続けられると、大変なことになるだろう。
その前に、クレッタを止めなければならないのだ。最も、少して遅れな気もしないでもないのだが。
「そうですか。スレイドさんがそう言うなら、やめることにしましょう」
俺の説得に応じてくれたらしく、クレッタが離れていく。
少し名残惜しいが、今はそれどころではない。
直後に、水が流れる音が聞こえてきた。恐らく、クレッタが自身についた泡をながしたのだろう。
「さて、それでは泡を流しましょうか」
「え? あ、ああ、よろしく頼む……」
その次にクレッタは、そんなことを言ってきた。
後ろを見ていないのでわからないが、タオルを巻いて戻ってきたのだろう。
背中は流してもらいたいので、とりあえずお願いはする。
「はい、いきますよ」
クレッタが背中にお湯をかけてくれ、泡が落ちていく。
これで、クレッタの望みは叶えられたということだろう。
「クレッタ、ありがとう……え?」
そこで、俺はお礼を言いながら、後ろを振り返った。
そして、思わず声をあげてしまった。
なぜなら、タオルで体を隠していると思ったクレッタが、何も纏っていなかったからだ。
つまり、クレッタは裸なのである。
「くっ!」
「あれ? スレイドさん?」
それを見たいという欲求を押さえて、俺は目を逸らした。
これも、中々に刺激が強すぎるものだ。直視し続けるのは、大変危険である。
「クレッタ、どうして、タオルを巻いていないんだ?」
「ふふ、これもサービスですよ」
「何?」
「スレイドさん、お嬢様の体が見たかったみたいなので、代わりに私の体を提供しました」
「……何を言っているんだ?」
俺の質問に、クレッタはそんなことを返してきた。
確かに、ファラエスの胸を見たかったのは事実だ。だが、それとクレッタの裸など関係ないだろう。
「確かに見たかったが、それでクレッタが裸を見せていいとはならないだろう?」
「いえ、なります。私の役目は、主人の望みを叶えることですから」
「主人……?」
そういえば、クレッタは前にもそんなことを言ってきた気がする。
だが、クレッタの主人はあくまでファラエスのはずだ。
「だから、クレッタの主人はファラエスではないのか?」
「はい。お嬢様も私の主人です」
「ファラエスも?」
「ですが、スレイドさんも私の主人なのです」
しかし、クレッタはそんなことを言ってきた。
俺も主人とは、どういう意味なのだろうか。
「もしかして、この屋敷に暮らしている人全員が主人とでも言いたいのか?」
「そうではありません。私が主人だと思っているのは、お嬢様とスレイドさんです」
「うん? どうして、その二人だけ……?」
少し頭によぎった考えも、クレッタに否定されてしまった。
これでは、ますますわからなくなる。
俺とファラエスだけに、何か特別なものがあるというのだろうか。
いや、ファラエスは元々主人だ。つまり、クレッタの中で俺を主人と決められる何かがあったということだろうか。
「スレイドさんは、まだわかっていないんでしょうね。でも、いずれきっとわかると思いますよ?」
「なんだか、もやもやするな……」
結局、クレッタは答えを教えてくれなかった。
まあ、いずれわかるようなので、その時を楽しみにするしかないのだろう。
「というか、それでも裸を見せるのはどうなんだ?」
「スレイドさんが見たくないというなら、タオルを巻きますが?」
「……見たいが、タオルを巻いて欲しいといっておこう」
「そうですか。それなら、タオルを巻きます」
とりあえず、クレッタにはタオルを巻いてもらうことにした。
流石に、クレッタの裸を見続けるのはまずいのだ。決して、見たくない訳ではない。
俺とクレッタの入浴は続いていく。




