第97話 勘違いしているのは
ファラエスによる俺を含む酔っぱらい達への説教が終わってから、しばらく経った。
だが、俺は未だに食堂でファラエスと向き合っている。今度は、椅子に座らせてもらえているので、先程までよりは楽な体勢だ。
他の皆は、それぞれ既に部屋に戻っている。
今日は、別々のベッドで眠ることになったので、各自風呂に入って、それぞれ眠ることだろう。
ちなみに、何故別々に寝ることになったかというと、酔っぱらいが危険かもしれないからである。何をするか、わからないという判断が下されたのだ。
「それで、話って一体なんなんだ?」
そんな中、俺はファラエスにそう問いかけた。
俺がファラエスと向き合っているのは、話があるからと言われたからだ。その内容がなんなのか、俺は知らない。
酔っぱらい三人で、俺だけ指名されたので、それなり緊張しているのだが、一体何を言われるというのだろうか。
「ああ、君がもしかしたら、勘違いしているかもしれないから、ちゃんと言っておきたくてね……」
「勘違い? 何をだ?」
どうやら、怒られる雰囲気ではなさそうだ。
それにしても、その言葉の意味がわからない。特に、勘違いするようなことはなかったと思うのだが。
「スレイド、少し失礼するよ」
「え?」
そこで、ファラエスは立ち上がり、俺の方に近づいてきた。
そして、ゆっくりと俺の膝へと腰を下ろしていく。その柔らかい尻が、俺の膝の上に乗る。
さらにファラエスは、俺の肩に手を置く。落ちないようにしているようだ。
とりあえず、俺もファラエスの腰に手を回し、固定する。
「重くないかな?」
「それは問題無い。ただ、どういうことなんだ?」
ファラエスの行動が、俺には理解できなかった。
いきなりこんな体勢になるなんて、よくわからない。
もちろん、嫌な体勢という訳ではないが、意図がわからないと、不安になるものだ。
「いや、君の勘違いを晴らすために、近寄らせてもらったんだ」
「うん? 勘違いに関係しているのか?」
「ああ、関係しているんだ」
どうやら、この体勢になったのは、俺の勘違いを晴らすためらしい。
ただ、それがなんなのかわかっていないので、結局はわからないということになる。
「実は、君に胸を揉まれそうになっていた時に、すごい表情をしてしまったと思うんだ」
「ああ、確かにあの顔は効いたな……一気に酔いが醒めた」
「そのことで、君が勘違いしてしまっているような気がして……」
ファラエスが気にしているのは、あの時の表情であるようだ。
あの表情でする勘違いとは、なんだろうか。嫌じゃなかったということは考えにくいし、よくわからない。
「勘違い……?」
「ああ、あの時、私は嫌がった訳だけど、決して君のことが嫌いという訳じゃないんだよ」
「はあ……?」
「もっと言えば、君に触られるのが嫌という訳ではなくてね」
何やら、ファラエスは俺を拒絶する形になったことを気にしているようだ。
だが、そんなのは当然ではないだろうか。あんな状況で、胸を揉まれてもいいなどと思う訳はないだろう。
そのため、決して俺を嫌いになったとは思ってはいない。そもそも、罪悪感でいっぱいでそんなことを考える隙も無かった。
「むしろ、私は君になら揉まれてもいいとすら思っている」
「え?」
「だけど、ああいう乗りでみたいな感じじゃなくて、もっとちゃんとした時に揉んで欲しいというか……」
「うん?」
そこで、ファラエスがそんなことを言い出す。
それは、言葉の通り受け取ってもいいことなのだろうか。
いや、何か裏があるはずだ。そのまま受け取ると、胸を揉めるということになる。揉んでいいのだろうか。
「あ、いや、その……言葉の綾だから、忘れて欲しい」
「そ、そうか……」
しかし、すぐにファラエスからそう言われてしまった。
これでは、揉むことはできない。かなり残念だ。
「スレイド、どうしたんだい?」
「い、いや、なんでもない」
「……そんなに揉みたかったのかい?」
「……」
俺が落ち込んでいるのを察してか、ファラエスがそんなことを言ってきた。
ただ、その質問はとても答えにくいものだ。
揉みたかったのは当然であるが、それを本人に言うのは厳しい。
だからといって、そんなことはないと言うとファラエスが悲しんでしまう気がする。
「……揉みたかったです」
結局、俺はそう言うことにした。
こういう時には、素直が一番だ。ファラエスがこう言っても引かない人間であることは、今までの経験からわかっている。
とても恥ずかしいが、ファラエスを悲しませるよりはいいはずだ。
「そ、そうだったんだね……」
「あ、ああ……」
俺の言葉に、ファラエスは顔を赤くする。
その顔は、どういう意味なのだろうか。
「……確かに、カノンさんが言っていることも、一理あるのかな……」
「え?」
「私はスレイドに、我慢させていたのだろうか……」
「うん?」
ファラエスはそんなことを呟きながら、何かを考え始めてしまった。
なんだか、まずそうな空気なので、話を変えた方がいいのだろうか。
そういえば、この体勢の意味をまだ聞いていない。考えてみたら気になってきたので、聞いてみることにしよう。
「ファ、ファラエス、ところで、この体勢ってどういう意味があるんだ?」
「え? ああ、この体勢か……」
俺の言葉に、ファラエスは驚いたような顔をする。
どうやら、かなり考えていたようだ。
「この体勢は、その、スレイドのことが嫌いじゃないよっていうアピール……かな?」
「アピール……?」
「こうやってくっついていれば、スレイドに触れられるのが嫌じゃないってわかると思ってね」
「お?」
ファラエスはそう言いながら、俺の頭を自身の胸に抱く。
柔らかい感触が、俺の顔を包み込む。相変わらず、とても心地いい場所だ。
本当にこの胸は、俺をいつも動揺させてくれる。
「……というか、こんなことしなくても、ファラエスが俺のことを嫌っていないことくらい、わかっているぞ?」
「……え?」
「あの表情は、状況的に仕方ないだろうし、そんな風には思わない」
俺の言葉に、ファラエスはそれなりに動揺しているらしい。
なぜなら、何故か俺の頭を撫で始めているからだ。これは、かなり動揺している証拠だろう。
「ファラエス、大丈夫か?」
「……いや、すまない。要するに、勘違いしていたのは私の方だったということなんだね」
「まあ、そういうことになるか……」
「なるほど、考えてみれば、それも当然か……君が、あれくらいで勘違いする訳ないか……」
「ああ、そうだ」
どうやら、ファラエスは自身の間違いに気づいたようだ。
それなら、この件は解決ということだろう。
「それなら、下りた方がいいのかな?」
「うん? いや、別にこの体勢は嫌ではないしな……」
ただ、この心地いい感触を手放したいとは思わなかった。
この体勢になってくれこと自体は、嬉しいことだ。最初は驚いたが、非常にいい。
そのため、まだしばらくこうしていたいのだ。
「そうか。それなら、もう少しここに居させてもらおう。私も、もう少しこうしていたいしね」
「そうか。それなら、何も問題無いな」
「ああ」
そう言いながら、ファラエスは俺を抱きしめる力を少しだけ強くする。それにより、胸の感触が伝わってくるので、俺の心は少し昂ってしまう。
こうして、俺とファラエスはしばらくそうすることにした。
誰かに見られたら、色々と言われそうだが、それはいいだろう。
「今日は、これで私の胸を楽しんでくれていいからね?」
「……ああ」
許可を出してくれたので、俺はファラエスの胸を楽しむことにする。
少し恥ずかしいが、心地いい時間であった。




