第93話 二度目の歓迎会
俺はファラエス、カノンさんとともに、家に戻って来ていた。
カノンさんの部屋の片づけはやはり終わらなかったので、また後日ということになった。
「お帰りなさい、お嬢様、スレイドさん。そして、お久し振りですね、カノンさん」
「ようこそです、カノンさん」
「カノンさん、これからよろしくお願いします」
帰ってきた俺達をクレッタ、セリア、ソーナの三人が迎えてくれる。
すると、カノンさんの表情が変わっていく。
「皆、迎えてくれたのね、ありがとう」
カノンさんは、嬉しそうにそう言いながら、クレッタの前に出る。
そして、ゆっくりと口を開く。
「うわあ、クレッタちゃん、大きくなったねえ」
「そうですね。しばらく会わない内に、こんなになってしまいました」
どうやらカノンさんは、クレッタの成長に驚いているようだ。
ファラエスは拠点で時々見かけていても、クレッタはそうではない。よって、かなり久し振りの再会なのだろう。
「大人っぽくなって……」
「あの、カノンさん? 視線がなんだかいやらしいですよ?」
カノンさんは、クレッタの全身を嘗め回すように見ていた。
流石のクレッタも、その視線は恥ずかしいらしい。
「あら、ごめんなさい。失礼だったわね」
指摘されたため、カノンさんもそれはやめた。
そして、ゆっくりと隣にいるセリアの前に移動する。
「セリアちゃんは、昨日振りね」
「はい、カノンさんが良くなって、よかったです」
「ふふ、ありがとう」
カノンさんはセリアの頭を撫でながら、セリアにそう言った。
やはり、セリアを見ていると皆頭を撫でたくなるようだ。
それだけ言って、カノンさんはソーナの前まで移動する。
「ソーナちゃんも、結構久し振りかしら?」
「はい、そうですね」
「これからは、副隊長同士仲良くしてもらえると助かるわ」
「はい、もちろんです」
カノンさんは、ソーナとそんな会話をした。
そういえば、同じ副隊長なので、何かと話が合うのかもしれないのか。
「こんなにかわいい子達と暮らしているなんて、スレイド君もいい思いしているわね」
「え?」
そこで、カノンさんが俺に話を振ってきた。
その質問は、少し答えににくいものだ。
こういう場合、どういうのが正解なのだろうか。
「ふふふ……」
悩んでいたが、カノンさんはそれ以上特に追及してこない。
別に、質問という訳ではなかったのだろうか。
「さて、それでは皆さん、食堂に移動しましょう」
「食堂?」
「あ、ああ、そうだね」
「ああ、そうしよう」
そこで、クレッタがそう言った。
その言葉に、カノンさんは首を傾げたが、俺とファラエスは頷く。
その目的地が、どういうことか理解しているからだ。
クレッタの先導で、俺達は歩き始めた。カノンさんも、少し疑問に思っていたようだが、俺達についてきてくれる。
しばらく歩くと、食堂につく。
「さて、それでは、開けますね」
そして、クレッタがゆっくりと戸を開き、中の様子が見えてくる。
「こ、これは……」
そこには、飾り付けられた食堂があった。
カノンさんはその様子に驚いているようだ。
「これって、なんの騒ぎなのかしら?」
「カノンさんの歓迎会ですよ!」
「私達一同、カノンさんが来てくれたのを祝うんです!」
カノンさんの質問に、セリアとソーナが答えた。
今回、俺とファラエスがカノンさんの引っ越しを手伝っている内に、他の三人に歓迎会の準備を頼んでいたのだ。
「そ、そうだったのね……皆、ありがとう」
カノンさんは少し驚いていたものの、すぐに嬉しそうな顔になった。
どうやら、喜んでくれているようだ。
こうして、俺達とカノンさんの歓迎会が始まるのだった。
◇◇◇
俺達は、カノンさんと食事をしていた。
クレッタの作ってくれた料理は、ソーナの時と同じく豪華なものだ。
「クレッタちゃんの料理を食べるのも久し振りね。本当に、おいしいわ」
「ありがとうございます、カノンさん」
カノンさんは、クレッタの料理をそう言って褒めていた。
昔はこの家に来ていたので、その時にクレッタの料理も食べたのだろう。
やはり、クレッタの料理はおいしいようだ。
「ところでクレッタちゃん」
「え? はい? なんですか?」
「この家に、お酒はないのかな?」
そんな中、カノンさんがそう言い出した。
どうやら、お酒を飲みたくなったらしい。色々と反省したものの、お酒好きなのは変わっていないので、それも当然か。
「あ、はい。一応、用意していますよ」
「そう? それじゃあ、お願いできるかしら?」
「はい、わかりました」
カノンさんの言葉に従い、クレッタは一度席を立った。
そしてすぐに、酒瓶などを持って帰ってくる。
「ああ、これよ、これ。ありがとうね」
「はい、どうぞ」
「ああ、本当にありがとうね」
「いえ、いえ」
カノンさんのグラスに、クレッタが酒を注いでいく。
「あ!」
そこで、カノンさんは思いついたように声をあげた。
その視線は、クレッタに向いている。
「そういえば、クレッタちゃんもお酒が飲める年齢になっているのよね?」
「え、あ、はい。なっていますよ」
「それなら、クレッタちゃんも飲みましょうよ」
カノンさんは、そんな提案をし始めた。
確かに、クレッタは俺よりも年上なので、酒は飲める年齢だ。
ただ、クレッタはお酒に強いのだろうか。
「そうですね。せっかくですから、久し振りに頂きましょうか」
「あら? あまり、飲んでいなかったの?」
「はい。そこまで強い方ではありませんから」
「あ、そうなのね。それなら、無理はしたら駄目よ」
どうやら、クレッタも飲むことにしたようだ。
しかし、あまり強い方ではないらしい。本当に大丈夫なのだろうか。
「スレイド君も飲むわよね?」
「え?」
「ほら、約束したじゃない?」
そこで、カノンさんは俺に話を振ってくる。
確かに、カノンさんの部屋でそんな話はした。
だが、こんなに早くその機会が訪れるとは思っていなかったので、少し怯んでしまう。
できれば、少し飲んでみてから、この場面に臨みたかった。
「そうですね、いただきます」
「そうよね、でも、スレイド君も無理しないようにね」
「はい」
だが、来てしまったのだから、仕方ない。
俺も覚悟を決めて、お酒を飲むとしよう。
「二人とも羨ましいなあ……私も、カノンさんとお酒を飲みたかったなあ……」
「お嬢様……」
そんな俺達に対して、ファラエスはそんなことを言ってきた。
ファラエスは、カノンさんと何かするのに強いこだわりを持っているようだ。
「まあ、ファラエスも後一年だから、我慢するのね。さあ、二人とも、注いであげるわ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
カノンさんが、俺とクレッタのグラスに酒を注いでくれる。
いよいよ、酒を飲むことになりそうだ。
少し心配だが、きっと大丈夫なはずだろう。
「さて、それじゃあ、二人とも、乾杯!」
「乾杯」
「乾杯です」
俺達はグラスを合わせて乾杯した後、酒を飲んでいく。
この何とも言えない味が、これが酒であるということを教えてくれる。
「うっ……」
なんだか、少し飲んだだけだが、変な感じだ。体が熱くなり、頭が少し混乱してくる。
だが、少しいい気分もしてくるので、不思議なものだ。
「うう……久し振りは、やっぱりすごいですね……」
恐らく、クレッタも同じような感覚に陥っているのだろう。
やはり、慣れていないと駄目なのかもしれない。
いや、そんなことはないのか。なんだか、あまり思考が纏まらない。
「あーあ、やっぱりこれね……」
そんな俺達と比べて、カノンさんは平気そうだ。
普段飲んでいる人なので、耐性がついているのだろう。
そんな感じで、カノンさんの歓迎会は進んで行くのだった。




