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最強の剣士は、世界の低すぎるレベルに失望し、異世界へ転生しました。  作者: 木山楽斗


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第89話 新たなる見舞い人

 俺は、回復術師とともに医務室から出てきていた。

 ファラエスとカノンさんと二人きりにするためである。


「いやあ、ファラエス様の貴重な場面が見られて、私、感激です!」

「あ、ああ、そうだな……」


 そう思い出てきたのはよかったのだが、俺は何故か回復術師からそんなことを言われていた。

 この回復術師はファラエスのファンであるらしいのだが、色々と言ってくるのである。

 何故俺が、こんなことを聞かなければならないのだろう。


「カノン副隊長も素敵ですし……あの二人の絆に、私は涙が出そうです……」

「そ、そうか……」

「スレイドさんとの二人も絵になりますが、こっちもありなんでしょうか……?」

「さあ……」


 今までの会話でわかったが、この回復術師は、ファラエスのことが恋愛的な意味で好きという訳ではないらしい。

 そのため、俺に対して攻撃的にならないのは、少し助かっている。

 ただ、延々とこういう話をされるのは、中々に厳しいものだ。


「む?」

「あっ……」

「え……?」


 そこで、俺と回復術師は同時に声をあげた。

 ザギル五番隊隊長が、やってきたからである。


「スレイドに、ポプリか。珍しい組み合わせだな……」

「あ、えっと……」


 ザギル隊長は、俺達に対してそう声をかけてきた。

 俺は、そこでやっとこの回復術師の名前がわかる。ポプリという名前だったようだ。


「実は、中でファラエスとカノンさんが……」

「ふむ。そういうことか。ならば、私もここで待たせてもらうとしよう」


 俺が医務室の方を指さしてそう言うと、ザギル隊長はすぐに理解してくれた。

 流石は隊長だ。理解が早い。


「ザギル隊長は、お見舞いですか?」

「ああ、そうだ。昨日一晩何もなかったから、もう大丈夫だとは思うが、それでも心配でな……」

「そうなんですか」


 ザギル隊長は、カノンさんのお見舞いに来たようだ。

 手に果物が入った袋を抱えていることから、すぐにわかることだった。

 やはり、カノンさんの様子が気になっているのは、皆同じであるようだ。


「そうだ。君には礼を言わねばならんな」

「え?」

「カノンを救ってくれて、ありがとう。やはり、君は私の見込み通り……いや、それ以上の男だった」

「い、いえ……」


 そこで、ザギル隊長が俺にお礼を言ってきた。

 そこまで褒められるのは少し気恥ずかしいが、これも勲章だと思ことにしよう。


「……ファラエスが君を推薦した時、どんな男なのかと疑問に思っていた」

「え?」

「だが、今となってはかなり納得できる。君のような人間を隊に入れたいと思うのは、当然だろう」


 ザギル隊長は、俺をさらに褒めてきた。

 そんなに褒めても、出るものはないのだが、一体どうしたのだろう。

 仮面を被っているため、表情が読めないのも相まって、ザギル隊長が何を考えているのか、まったくわからない。


「ファラエスが羨ましいとさえ思える。私が君と先に会っていれば、迷わず五番隊に入れていただろう。まったく、運命というのは残念なものだな……」

「い、いや……」

「だが、それでいいのだとも思える。ファラエスのように若く優秀な者に、君がつけば、盤石な体制を敷くことができる……」

「ザギル隊長……」


 だが、すぐにわかった。

 ザギル隊長は、仮面の奥に熱いものを秘めているのだ。

 だから、俺にこのような言葉をかけてきた。そのことに、俺の心も反応する。


「……仮に、俺がファラエスと出会う前にあなたと出会っていたら」

「む?」

「五番隊に入るという選択肢をとったと思いますよ」

「……そうか」


 ザギル隊長は、隊長として尊敬できる人だ。

 そのため、この人の下で戦ってみたいとも思える。

 ファラエスもそうだが、隊長まで上り詰めた人特有のカリスマのようなものが感じられるのかもしれない。


「ぷはっ!」

「うん?」

「む?」


 俺とザギル隊長がそんな話をしていると、ポプリが奇妙な声をあげた。

 そちらを見てみると、鼻を押さえているポプリが目に入る。


「ど、どうしたんだ? 大丈夫か?」

「あ、すみません。ちょっと、鼻血が……」

「鼻血? それは大変だ。このハンカチを使うといい……」

「あ、ありがとうございます……」


 どうやら、鼻血が出てしまったらしい。

 突然のことだが、ザギル隊長はすぐにハンカチを渡す。

 こういう所も、流石である。


「ポプリ、回復術師の君が体を壊したら、元も子もない。もし体調が悪いなら、他の者を呼ぶが……」

「いえ、大丈夫です。体調はむしろ、いい方なので……」

「そうは見えないが……」


 ザギル隊長の言葉に、ポプリはそう答えた。

 恐らくは強がりだと思うが、あまり無理はよくない。


「ザギル隊長の言う通りだ。そんな状態は、辛いだろう?」

「いえ、今は幸せな気持ちの方が強いですね……」

「は?」

「あ、いえ、なんでもありません……」


 俺が声をかけてみると、ポプリがそんなことを言ってきた。

 鼻血を出しているのに、幸せな気持ちということはないだろう。

 もしかして、体調が悪くて混乱しているのかもしれない。


「……ポプリは時々よくわからないことを言う。腕は確かなのだがな……」

「そ、そうなんですか……?」


 俺が色々と考えていると、ザギル隊長がそんなことを言ってきた。

 どうやら、この調子はいつも通りであるらしい。


「そ、そうなんです。だから、全然、大丈夫なんです」

「ふむ……まあ、それなら、いいとしようか」

「そうですね……」


 俺とザギル隊長は、とりあえず納得することにした。

 本人が大丈夫だと言っているのだから、それ以上追求する必要もないだろう。


「……あっ!」


 そこで、俺達の耳にある人の言葉が聞こえてきた。

 それは、ファラエスの声である。戸を開けて、俺を見て、そう声を出したのだ。

 その視線は、何故かポプリではなく、俺だけに向けられている。


「ファ、ファラエス、どうした……?」

「スレイド、勝手にいなくなるなんて、ひどいじゃないか……」

「え?」


 どうやら、俺に対して少し怒っているらしい。

 確かに、何も言わずいなくなったことは悪いかもしれないが、二人きりにするためだ。なので、あまり怒らないで欲しい。


「い、いや、二人きりの方がいいだろう……?」

「それはそうかもしれないけど、私はスレイドがいなくなっていることに気づき、少し悲しかったよ……」

「え? いや……」


 ファラエスは、少し悲しそうな表情でそう言ってきた。

 そう言われると、申し訳ない気持ちが湧き出て斬る。


 そこで、俺は助けを求めて、ポプリの方を見た。

 何か、ファローしてくれるかと期待したのだ。


「ファ、ファラエス様……」


 だが、ポプリはいつもと少し雰囲気が違うファラエスに感銘を受けているようで、こちらの視線にまったく気づいていない。

 元々、期待する方が馬鹿だった気がする。


「ファラエス、それくらいにしておいてやれ。彼も、君を気遣っただけだろう」

「ザギル隊長……」


 そんな俺をザギル隊長が、助けてくれた。

 こういう所も、隊長としての器なのだろうか。


 その言葉に、ポプリが再び鼻を押さえ始めたが、それは気にしないことにする。


「もし、まだ言いたいことがあるなら、自身の部屋で言えばいい。こんな所で、そんな話をするのは、駄目だろう」

「……それもそうですね。助言、ありがとうございます」

「え?」


 感動していた俺に対して、ザギル隊長はそんなことを言ってきた。

 どうやら、ザギル隊長は俺を助けてくれる訳ではないようだ。

 隊長の器とは、一体なんだったのだろうか。


「それじゃあスレイド、私の隊長室に行こうか?」

「あ、ああ……」


 こうして、俺はファラエスとともに、隊長室に向かうことになるのだった。

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