第87話 隊長との口づけ
俺は、カノンさんとの戦いが終わった後、家に帰って来ていた。
色々あって、各自自分の部屋で寝ることになったのだが、ファラエスが俺の部屋にやって来て、一緒に寝ることになったのだ。
「それじゃあ、いいかな?」
「ああ……」
ベッドの上に二人で寝転がった後、ファラエスが俺を抱きしめてきた。
柔らかい感触、温かい体温、それにいい匂い。この感覚は、いつでも俺の心を動揺させてくる。
「ふう、なんだか、ベッドが広いね……」
「そうだな……」
二人きりのベッドは、いつもよりもかなり広く感じた。
五人も寝られるベッドなので、それも当然だろう。
しかし、最初にこのベッドで寝た時は、こんなことは感じなかった。それはなんだか、不思議な感覚だ。
「皆も、これを感じているのかな?」
「どうだろうな?」
恐らく、他の三人も同じようなことを思っているだろう。
俺達が感じたのだから、そのはずだ。俺達二人が、極端に寂しがり屋である可能性もなくはないが。
「セリアとソーナは、一緒に寝ているらしいね?」
「ああ、そうみたいだな。ということは、一人なのはクレッタだけか……」
「確かにそうだね。誘ってあげた方がよかったかな?」
「いや、もう寝ているだろう。それに、セリア達が誘わなかったとも考えにくいから、今日は一人で寝るつもりなんだろう」
「そうか。まあ、私達のせいで、色々としていたみたいだから、気を遣ってそうしているんだろうね」
ファラエスが風呂に入った後、クレッタは色々と動いていた。
その時には、セリアとソーナは寝ていたはずである。
そういう時間のずれをきにして、クレッタは一人を選んだのだろう。
「……それにしてもファラエス、少しテンションが高くないか?」
「え? そうかな?」
「ああ、あんまり眠たそうでもない気がするんだが……」
そこで、俺はファラエスの様子に気づく。
今日のファラエスは、少しテンションが高めだ。
「……そうかもしれない。ごめんね、付き合わせてしまって……」
「いや、それは別に構わない。実は、俺もそんなに眠りたいとも思っていない」
「そうなのかい?」
「ああ……」
だが、実はそれは俺も同じだ。
やはり、戦いの熱が冷めていないのだろう。
先程まで、緊張感の中で戦っていたのだ。その高ぶりは、そう簡単に収められない。
今までもあったことなので、それはわかっていた。
ファラエスの場合は、カノンさんを助けられた喜びが勝っているため、そのような感じではないだろう。
「それなら、しばらく話そうか?」
「ああ、そうしよう……」
ただ、どちらにせよこれでは眠ることができないはずだ。
そのため、熱が冷めるまで待たなければならない。それなら、話していても問題ないのだ。
「あ、そうだ。改めて、今日のお礼を言わないとね。ありがとう、スレイド。私の大切な人を救ってくれて……」
「ああ。でも、ファラエスだって戦ったんだ。俺だけの力ではないさ」
「そもそも、最初に君が調べ出さなければ、カノンさんを助けることもできなかった。そういう意味でも、私は君に感謝したいんだ……」
俺に対して、ファラエスは感謝の言葉を告げてきた。
少し歯痒いが、受け取っておくことにしよう。
「……私は、カノンさんに関わることを恐れていた」
「え?」
「必要以上に詮索するのは、あの人に迷惑になると、そう思い込んでいた」
「ファラエス……」
そこで、ファラエスがそんなことを言い出した。
どうやら、ファラエスはカノンさんに事情を聞いたりするのを恐れていたようだ。
ファラエスがカノンさんに何も聞かなかったというのは、それが理由であるらしい。
「本当は、自分で聞くべきだったんだ。カノンさんが、どうなったのかを。それなのに、私は何もしなかった……」
考えてみれば、当たり前なのかもしれない。
自身の尊敬する人に避けられて、それについて尋ねるのには勇気がいる。
そのため、自身の中にそれなりの理由をつけて、納得させるという方法を、ファラエスはとったのだろう。
「だから、君の行動は、私にとって、とてもすごいことなんだ」
「そうだったのか……」
ファラエスが、俺の体をさらに引き寄せてきた。
それにより、ファラエスの顔との距離がかなり近くなる。
近づいたことで、暗い中でも、その顔が少し悲しそうな表情をしているのがわかった。
話している内に、悔しさなどが現れたのだろう。
「ファラエス、大丈夫だ。全部上手くいったんだから、それでいいだろう?」
「……ああ、そうだよね」
俺の言葉で、ファラエスの表情がまた元に戻った。
その笑顔を守るために行動したのだから、悲しまれるのは嫌なのだ。
「……でも、君には、何かお礼をしなければならないね」
「え? お礼?」
「そう、お礼さ……」
そこで、ファラエスがそんなことを言ってきた。
その言葉には、何か覚えがある。
俺が何かした後、いつもファラエス達から去れるお礼。それは、キスである。
「失礼……」
「あっ……」
ファラエスの顔がゆっくりと近づいてきた。
やはり、お礼とはキスのようだ。
「ん!?」
「ん……」
しかも、今回のキスは唇を奪われた。
今までは頬だったが、これは流石にまずいのではないだろうか。
別に嫌という訳ではないし、嬉しいと思うが、俺は激しく動揺してしまう。
ファラエスも、かなり緊張しているらしく、その鼓動が早くなるのを感じる。
くっついているので、それが伝わってくるのだ。
「ふう……」
「うっ……」
そこで、ファラエスが離れていく。
少し離れたことで、ファラエスの顔が赤くなっていることがわかる。
「……どうかな?」
「……あ、ありがとう」
俺は、とりあえずお礼を言っておいた。
ファラエスにとっても、大切なものだったはずなので、そう言っておくべきだと思ったのだ。
「……ところで、スレイドは、キスの経験は、あったの?」
「え?」
「わ、私は初めてだったけど、どうなのかと思ってね……」
「……俺も、初めてだな。そもそも、師匠達くらいしか、接してこなかったし……」
どうやら、お互いに初めてのキスだったようである。
それは、中々すごいことをしたのかもしれない。
それにしても、ファラエスにとっては初めてのキスをあげてもいいと思えるくらい、俺のしたことはすごかったのだろうか。
いや、そうではないのかもしれない。
だが、あまり、このことに言及するべきではないだろう。
今はただ、ファラエスがくれたものを嬉しむということでいいのだ。
「……そうか、初めてが私で、大丈夫だったかな?」
「ああ、もちろん。光栄過ぎるくらいだ」
「そ、そんなにかな……?」
ファラエスという美人で優しい人が初キスの相手というのは、とても光栄なことだろう。
それにファラエスの初キスまでもらうとなったら、大変な事態である。
これを、ファラエスのファンである女子達に聞かれたら、俺の命はないのではないだろうか。
そう思えるほどに、ファラエスとのキスは価値が大きい。
「それにしても、キスというのは案外心地いいものだね」
「あ、ああ……」
俺がそんなことを考えていると、ファラエスがそう言ってきた。
そう言われるのは、少し恥ずかしい気もする。
「ふう、話している内に、だんだんと眠たくなってきたね」
「ああ、そうみたいだな……」
話している内に、俺達に眠気が訪れてきた。
ここで、やっと熱が冷めてきたのだろう。
そうすると、疲れからものすごい眠気が襲ってくるのだ。
「それじゃあ、寝ようか。お休み、スレイド」
「ああ、お休み、ファラエス」
こうして、俺とファラエスは眠りことにするのだった。
今日は、激しい眠気によって、すぐに眠ることができるだろう。




