第86話 病の終わり
俺は、ファラエス、ザギル隊長とともに、病気によって操られたカノンさんと戦っていた。
とりあえず、カノンさんを止めることができたが、色々と問題が残っている。
「カノンさん、少し体勢を変えますよ?」
「ええ……」
「よし……」
俺はカノンさんの体を持ち上げた。
いわゆるお姫様抱っこの体勢だ。
カノンさんは、俺の体に腕を回し、落ちないようにしてくれる。
本当は、担架などがあればいいのだが、今は夜なので、そうは言っていられない。
「このまま、医務室に……」
「スレイド君、その前に、あの蝶の近くに寄ってもらえる?」
「え?」
「あれをよく見たいの……」
俺はそのまま医務室に行こうとしていたが、カノンさんに止められた。
どうやら、カノンさんの体から出てきた蝶が、気になるらしい。
少々心配だったが、俺は従うことにする。
「それじゃあ、行きますよ?」
「ええ?」
ゆっくりと、蝶の元へと向かう。
蝶は、真っ二つに切り裂かれており、力を失っていた。
こんなものが、カノンさんの体に入っていたとは、驚きである。
「これが……私の体に……」
「ええ、そうですね……」
カノンさんも、蝶を見ながら驚いているようだ。
それも当然だろう。
「カノンさん! スレイド!」
「カノン! スレイド!」
蝶を見ている俺達の元に、ファラエスとザギル隊長が駆けてきた。
ザギル隊長を襲っていた蝶も消えていたため、二人ともこちらに来たのだろう。
「ファラエス、ザギル隊長、ご迷惑をおかけしました……」
「カノンさん、そんなの全然問題ありませんよ」
「その通りだ。隊員を守るのが、隊長の仕事だ。それより、この蝶は……」
二人も、地面に落ちた蝶に注目する。
恐らく、この蝶が病気の原因なのだろうが、一体なんなのだろう。
そもそも、カノンさんの体から出てきたというのが驚きだ。
蝶が原因の病気など、聞いたことがない。
「これが何かはわからんが、調べてみる価値はありそうだな……」
ザギル隊長はその蝶を見ながら、そう呟いた。
確かに、これを調べることで、この病気がなんだったのかがわかるかもしれない。
「ふん!」
そこで、ザギル隊長は指を鳴らす。
すると、闘技場の外から、数名の騎士らしき者達が現れた。
「これは……」
「こんなこともあろうかと、数名の隊員を待機させておいたのだ。回復術師も連れてきている。後は、各自、診てもらうように」
「は、はい」
ザギル隊長の言葉に、俺はゆっくりと頷く。
こうして、俺達の戦いは一先ず終わることになった。
◇◇◇
戦いが終わった後、俺とファラエスは家へと戻ることになった。
という訳で、今は帰り道である。
「ふう、今日は色々と大変だったね……」
「ああ、そうだな……」
カノンさんは、念のため、拠点の医務室で待機することになった。病気が再発する可能性などを、危惧しての判断だ。
それに合わせて、数名の回復術師とザギル隊長も残ってくれている。そのため、俺達は帰ることになったのだ。
「でも、カノンさんが治って、本当に良かったよ」
「ああ……」
帰り道のファラエスは、かなりテンションが高かった。
恩人であるカノンさんが助かったのが、かなり嬉しかったためだろう。
「本当は、私も残りたかったんだけどね……」
「俺達は、最初から戦っていたから、疲労が高いって判断だ。その通り、大分疲れているだろう?」
「まあ、そうだけど……」
俺達が帰ることになったのは、ザギル隊長の判断だった。
最初からカノンさんと戦っていた俺達は、自分よりも疲れているだろうから、休むようにということだ。
「それに、ファラエスがいると、回復術師達が落ち着かないだろう?」
「え? いや、それは……」
俺達が帰るのにはもう一つ理由があった。
ファラエスがいると、回復術師達が騒ぎ出してしまうのだ。
皆、女の子であり、ファラエスのファンだったのである。
最も、こちらは大きな理由ではないが。
「まあ、仕方ないか……カノンさんが元気になったというだけで、充分だよね……」
「ああ、そうだろう」
そんな話をしながら、俺達は家へと向かうのだった。
◇◇◇
俺とファラエスは、家に戻って来ていた。
すると、家にいた三人が出迎えてくれる。
「師匠、大丈夫ですか!?」
「ファラエス隊長、ご無事ですか!?」
「お二人とも、大丈夫でしたか!?」
出迎えてくれた三人は、口々に心配してくれた。
遅い時間なのに、三人とも眠らず待ってくれていたのだ。
それは、とても嬉しいことである。
「皆、俺達なら大丈夫だ」
「それに、カノンさんの問題も解決できたよ」
俺とファラエスは、そう言って皆に答える。
三人には、事前に何をするのかは伝えていた。
その上で、危険な戦いになるかもしれなかったので、ソーナやセリアを連れていくのはやめておいたのだ。
少々渋られたが、二人も納得してくれたことである。
「そうですか、それなら、よかったです……」
「ええ、本当に……よかった」
「そうですね、これで一安心というところでしょうか……」
三人とも、俺達の言葉に安心してくれたようだ。
色々と心配をかけてしまって、申し訳ない。
「お二人とも、お風呂の準備はできていますから、入ってくださいね」
「ああ、すまないね、クレッタ」
「それなら、先に入ってくれ。俺は、しばらく部屋で休んでおくからさ」
「一緒に……いや、今日はやめておいた方がいいか……」
「ああ、そうだ」
風呂はファラエスに先に入ってもらい、俺は部屋で休むことにする。
一緒に入るという選択肢は、流石にとれない。今日は、とても疲れているので、そんな風にじゃれ合う余裕もないのだ。
「師匠、ボク達は自分の部屋で寝ますから、今日はゆっくりしてください」
「といっても、私はセリアと一緒だけどね」
「そうなのか、それなら、休ませてもらうよ」
今日は、皆一緒に寝るのはやめておくらしい。
俺達が、疲れていることを考慮してのことだろう。
今から、俺が風呂に入るまで待つのはかなり長いため、そこまで待ってもらうのは申し訳ないと思っていたため、これはいい提案だと思った。
当然、断る理由はない。
こうして、俺達は各自の行動を開始するのだった。
◇◇◇
俺は風呂に入ってから、ベッドの上で寝転がっていた。
久し振りの一人である。ここ最近は、毎日誰かが隣にいたため、なんだか新鮮な気分だ。
ただ、少し人肌が恋しい気もする。
こんなことを考えることになるとは、思っていなかった。
しかし、俺から誰かの部屋に行くことはできない。
それは流石に駄目なことだろう。
「……うん?」
そんなことを考える俺の耳に、戸を叩く音が聞こえてきた。
なんだか、控えめな音だ。
俺はベッドから下りて、歩いて行き、戸を開ける。
「あ、スレイド……」
「ファラエス……」
そこには、ファラエスが立っていた。
ここに来た理由は、なんとなくだが予想できる。
「人肌が、恋しくなってね……もしよかったら、一緒に寝て欲しいんだけど……」
「……ああ、俺も同じようなことを思っていたが……」
やはり、ファラエスも俺と同じことを考えていたようだ。
だが、ここで部屋に入れてもいいのだろうか。
流石に、ファラエスと一対一で寝るのは、色々とまずい気がする。
いや、既に一対一で風呂に入ったから、今更か。なんだか、よくわからない。俺の感覚は、おかしくなってきているようだ。
「まあ、いいか。入ってくれ……」
「し、失礼するよ」
結論として、俺はファラエスを部屋に入れた。
多分、問題はないはずだろう。
こうして、俺はファラエスとともに眠ることになるのだった。




