第82話 今日も調査に
朝、俺はいつも通り、目を覚ます。
昨日は、ファラエスの抱き枕になっていた。という訳で、こちらもいつも通り、顔が柔かいものに包まれている。
ただ、今日は少しいつもと違う感触もあった。それは、手に伝わる丸くて柔らかいものの存在だ。
恐らく、これはファラエスの尻であろう。こちらも、胸と同じくらい素敵な感触である。
いや、そんなことを言っている場合ではない。
「スレイド……」
「あっ……」
すぐに手を離そうと思っていた俺に、ファラエスの声が聞こえてきた。
どうやら、あちらも起きてしまったらしい。
ソーナの時もそうだが、俺の起きるタイミングや行動を起こすタイミングは、少し遅いようだ。
「……今日は、お尻もかい? 君は、寝ている間に、一体何をしているんだろうか?」
「あ、いや……すまん」
「とりあえず、手を離してもらえるかな?」
「あ、ああ……」
ファラエスに言われて、俺は手を離す。
確かに、寝ている間の俺はかなり手癖も寝相も悪いようだ。無意識の内にそんなことをされるのは、起きている時に困ってしまうのでやめて欲しい。
「ふむ、まあ、寝ている間のことだから、怒ったりするつもりはないから、安心してもらっていい?」
「そ、そうか、でも、いつも申し訳ないな……」
「問題無いよ。そもそも、一緒に寝ているのだから、その辺りも仕方ないと思うし……」
そう言いながら、ファラエスは俺の頭を撫で始めた。
少し気恥ずかしいが、なんだか心地いい。
「それに、君に触られるのは、そんなに嫌でもないしね……」
「え?」
「嫌だと思っているなら、この状態で頭を撫でたりはしないよ?」
「ま、まあ、それもそうか……」
俺は尻から手を離したものの、顔はファラエスの胸に埋まったままである。
その状態で、頭を撫で始めるのだから、嫌でないというのは本当なのだろう。それがどういう意味なのかは、わからないが。
「さて、そろそろ起きないとね」
「ああ……」
そこで、ファラエスがそう言ってきた。
今日も、一日が始まるのだ。
◇◇◇
俺は、騎士団の拠点に来ていた。
今日も、とりあえずカノンさんのことを調べてみようと思う。
ちなみに、セリアも一緒だ。
「それで師匠、今日は何をするんですか?」
「ああ、それを悩み中なんだ……」
ただ、現在俺は考えていた。
カノンさんについて、これ以上何を調べれば、いいのだろう。
昨日の時点で、大分手がかりは掴めたはずだ。だが、そのどれもが曖昧なものであり、決定打には繋がっていない。
しかし、それ以外の情報も得られないので、どうすればいいのか、わかないのである。
「スレイド、セリア、ここにいたのか……」
「うん?」
「あ、ディオンさん」
そんなことに悩んでいた俺とセリアの前に、ディオンが現れた。
ディオンは、同じ四番隊の隊員であり、俺とも仲良くしてくれているいい奴だ。口振りからして、俺達を探していたみたいだが、どうしたのだろうか。
「ディオン、何か用か?」
「ああ、君達が、カノン副隊長について調べているというのは、本当か?」
「え? ああ、そうだ」
「そうか、それなら、僕の持っている情報が役に立つかもしれない」
「何?」
どうやら、ディオンは俺達がカノンさんのことを調べているから、探してくれていたらしい。それに、カノンさんについて情報を持っているようだ。
今は、少しでも情報が欲しいので、そういうのはとてもありがたい。
「何か、知っているのか?」
「ああ、手がかりになるかどうかはわからないが、カノン副隊長について、少し気になるものを見たんだ」
「気になるもの?」
「君と最初に任務をした時があるだろう? あの時の話なんだが……」
「俺とソーナが、遭難してしまった時のことか……」
ディオンの話は、俺とディオンが初めて会った任務の時まで遡るようだ。
口振りからして、相当おかしなものを見たのだろう。それは、とても気になることだ。
そして、きっと情報になるはずである。
「ああ、あの時、僕は二人と離れた後、拠点に戻って、救援を求め、君達の捜索にも参加した」
「そうだったな。あの時は、世話になったな……」
「問題ないよ。それで、あの時、二人を見つけて家に帰る時には、もう日付が変わっているくらいだったんだ」
「そうだな。それくらいになるはずだ」
「そう、その時、僕は拠点の前で、カノン副隊長らしき人を見たんだ」
「何?」
俺とソーナが見つかったのは、日が完全に暮れてからのことだ。
そのため、かなり遅い時間にカノンさんは出歩いていたことになる。
「騎士団の副隊長がそんな時間に出歩くなんて、おかしいことだと思って、声をかけようと思ったんだ。ただ、一瞬目を離した時に、カノン副隊長は消えていた」
「消えていた?」
「ああ、だから、僕は疲れておかしなものを見たのだと思うことにしたんだ。隊が違うから、聞くことも憚られたしね……」
「そうか……」
ディオンの話は、それで終わりのようだ。
確かに、そんな遅くに拠点に来るのは、怪しい行動である。
これは、何かの手がかりになるかもしれない。
「ディオン、わざわざありがとうな。この情報、何か役に立つかもしれないぜ」
「ああ、何を調べているかはしらないが、頑張ってくれ」
それだけ言って、ディオンは去っていった。
俺は、セリアの方に目を向ける。
「セリア、今の話どう思う?」
「そうですね……なんだか、少し奇妙に思えます」
「そうだよな……」
セリアから見ても、カノンさんの行動はおかしく思えるようだ。
やはり、カノンさんには何かがある。それは、大分確信できるようになってきた。
ただ、夜中に拠点に来て何をするのだろうか。
ここに来る意味が、まったく思いつかない。
「それにしても、話だけなら、カノンさんは夢遊病みたいですね……」
「夢遊病? あの、眠ったまま動くというあれか?」
「はい。眠ったまま、仕事場に来たと思えば、病気というのも繋がると思います」
「確かにな……」
カノンさんが病気であるという前提からすれば、夢遊病というのも納得できた。
しかし、前線に出なくなったり、人を避けるようになったりしたのは、何故だろうか。
そんなに重症の病気なら、そもそも仕事もできないだろうし、まだまだ不思議である。
「……何はともあれ、情報は出揃ったということか……」
「そうですね……これ以上、何かあるんでしょうか?」
カノンさんについて、色々な情報を得たが、確信まで辿り着くのは、中々難しそうだ。
カノンさんが、何かおかしなことになっているのは、まず間違いないだろう。それは、病気なのかもしれないし、別の何かかもしれない。
「仕方ない、もういっそのこと、本人に当たってみるか」
「え?」
俺の提案に、セリアは目を丸くした。
それも当然だろう。この提案があまりよくないものだというのは、俺も自覚している。
「本人に当たるって……」
「俺達が持っている情報を、カノンさんにぶつけてみようと言っているんだ」
「そ、それは、なんだか、危ないような気がするんですけど……」
「そうかもしれない。だけど、それで何かが掴めるかもしれない……」
このまま待っていても、これ以上情報は集まらない。
それなら、本人を揺さぶってみるのが、最も手っ取り早いはずである。
俺達の疑念に対して、カノンさんがなんと答えるか。それは、カノンさんの抱える事情を知るヒントになるはずなのだ。
「……そうですね。そうしてみましょう」
「ああ、セリア、行こう」
少し悩んだもののセリアも納得してくれた。
という訳で、俺達はカノンさんの元へ向かう。
それによって、何かがわかると信じて。




