第80話 隊長の昔話
俺は色々あって、ファラエスと一緒に風呂に入っていた。
今は、ファラエスの話を聞く流れになっている。
「それで、話っていうのは、なんなんだ?」
「ああ、実は、カノンさんとのことをもう少し話したかったんだ」
「カノンさんのことか……」
ファラエスから、このタイミングで話したいことがあると言われて、ある程度予測はしていたが、やはり、カノンさんの話だったようだ。
「一体、なんの話なんだ?」
「ああ、ただの昔話さ。私とカノンさんがどのような関係だったか、という話かな?」
カノンさんの話とは、ファラエスとの関係性に関わる話らしい。
拠点でも聞いたが、さらに掘り下げてということだろうか。それは、少し興味がある。
そもそも、ファラエスが昔どんな子だったのか、俺は良よく知らない。そういう面でも、その話は聞いてみたかった。
ただ、どういう意図で、俺に話すのかは少し気になる。だが、まあいいだろう。
「私は、十歳の頃に騎士団に入ったんだ」
「ああ、その話はセリアから聞いたことがある」
「そうなのかい? その時の私は、色々と荒れていたんだ。私の両親が、亡くなったのは言ったよね」
「ああ……」
ファラエスは、早くに両親を亡くし、クレッタと二人で暮らしてきたと聞いている。
その話は、今まで触れないようにしてきた。ファラエスの前で、そういう話をするのは申し訳ないからな。
「そのことで悲しんで、他人に中々心を開けないような、そんな子だった。生活自体は、両親の遺産でなんとかなっていたけど、少しでも両親に近づきたくて、騎士団に入った。二人とも、騎士だったからね……」
「そうか……」
ファラエスの両親は、騎士だったようだ。
若くして亡くなったのは、恐らく任務によるものなのだろう。
それは、とても悲しいことだ。大切な人を失う悲しみは、俺もよくわかっている。
「そんな私が出会ったのが、カノンさんだった。当時の隊長が、年の近い隊員と組ませる方がいいと判断したみたいでね。カノンさんは、かなり優秀な騎士だったから、適任だと判断されたんだ」
「ああ……」
「カノンさんは、気難しい性格だった私に、優しく接してくれた。そんなカノンさんの優しさに、私もだんだんと心を許すようになっていった」
カノンさんは、優しい女性だったらしい。
それは、俺もなんとなくわかっていた。なぜなら、少し接しただけでもわかるくらい、優しい雰囲気の女性だったからだ。
本人は気づいていないと思うが、ファラエスの雰囲気は、そのカノンさんと似ている。
それは恐らく、ファラエスが憧れた人を無意識の内に真似ているからなのだろう。
「当時の私にとって、クレッタとカノンさんの存在は、とてもありがたいものだったよ。二人には、感謝しても仕切れないくらいだ……」
「そうだったのか……」
「ああ、だから、私にとって騎士団ではカノンさんが支えだった。それから、しばらくはカノンさんとコンビで任務をすることが多くなってね。二人で、色々な任務をこなして、いつの間にか、私達の騎士団での評価はとても高くなっていった」
ファラエスにとって、カノンさんは一緒に暮らしてきたクレッタと同じくらい、大切な存在になっていったようだ。やはり、かなり大きな存在だったのだろう。
「そんなカノンさんが、副隊長になるって聞いた時は、かなり嬉しかったな……それで、私が一人になることよりも、カノンさんが出世することが嬉しかった」
「そうか……」
「だから、カノンさんに相談を受けた時も、受けるべきだって言った。そのことに後悔なんてないはずだったんだけど……」
どうやら、カノンさんが副隊長に推薦された時、ファラエスにも相談はあったようだ。
ファラエスはそれに賛成したようだが、今となっては後悔しているのかもしれない。
「副隊長になってからは、業務が忙しくなったのと、隊が違うのもあって、中々会う機会は限られてしまった。でも、会った時には、前までと変わらない優しさで接してくれて、少し寂しかったけど、それ程問題ではなかったかな……」
「ああ……」
「でも、私が隊長になってからは、変わっていったね……隊長になるって決まった時は、カノンさんもとても喜んでくれたのに、それからは何故か、私を避けるようになった。忙しかったのもあるけど、たまに会ってもあんまり親しそうにはしてくれなかった……それは、とても悲しかったよ」
「そうか……」
やはり、最終的にはそういう流れになってしまうようだ。
隊長になって、カノンさんの態度が変わったというのは、恐らく間違いである。たまたま時期が重なっただけで、カノンさんには別の理由があるはずだ。
ただ、当時のファラエスにとっては、それくらいしか理由が思いつかなかったはずだろう。その時の悲しみが、どれ程のものだったか。
「それからは、とりあえず隊長として頑張ってみたよ。その時は、ベテランの副隊長がいてくれて、その人がサポートしてくれてね」
「へえ、そんな人がいたんだな……」
「ああ、そんな時に騎士団に入ってきたのは、ソーナだった」
「ソーナ?」
そこで、話の流れが変わった。
今までは、ファラエスとカノンさんの話だったが、急にソーナがでてきたのだ。
「ソーナは、昔の私に、少し似ていた。気難しい所があるという意味だよ」
「ああ、確かにそうかもな……」
「ふふ、そうだね。だから、気に掛けていたんだ」
「そうだったのか……」
どうやら、ファラエスはソーナのことをかなり気に掛けていたらしい。
これを、ソーナに聞かせてやれば、とても喜ぶだろう。
というか、そこまで気に掛けてもらっているのに、認めてもらっていないと思っているソーナは、ある意味すごいのかもしれない。
「それから、セリアが入ってきてね……そこで、私も前の隊長に倣って、ソーナとセリアを組ませてみることにしたんだ」
「なるほどな……」
「それから、しばらく経って、全副隊長が引退することが決まってね。その人の勧めもあって、ソーナに副隊長を頼むことにしたんだ」
「そういう流れだったんだな……」
「ソーナは、その後もセリアと交流していたみたいだから、安心したよ。私達のように、なることがなかったってね……」
ここまで聞いて、ファラエスがどうしてあの二人を気に掛けていたのか、わかってきた。
要は、自身と似ている立場だったから、そうしていたのだろう。もちろん、接していく内に、本人の人柄に惹かれたというのもあるだろうが。
「それからまた少し経って……君に出会った」
「え?」
「君と出会ったからは、知っての通りだ。二人も家に招いて、皆で暮らして、私は今、とても幸せなんだ」
「ファラエス……」
「多分、君のおかげだ……私が幸せになれたのは」
そこで、ファラエスがそんなことを言ってきた。
今が幸せなのは、良いことだろう。ただ、別に俺は何もしていない。
むしろ、世話になってばかりで、感謝しているくらいだ。
「俺は何もしていないさ。むしろ、帰る家をもらえて、感謝しているくらいだ」
「そんなことはないさ。君は、私の大切な人達を助けてくれた。皆、君のおかげだ」
「ファラエス……」
「私は、ずっと寂しかった。だから、身近な人間がいなくなるのは、とても辛い。スレイド、君はいなくならないでくれよ」
「……ああ、もちろんだ」
そう言いながら、ファラエスは俺に笑顔を向けてきた。
その笑顔は、とても素晴らしいものだ。ファラエスが、ずっとこの笑顔でいられるように、俺も努力しなければならないだろう。




