第79話 隊長との入浴
俺達は、家に帰って来ていた。
少しくつろいで、夕食を食べた後は、風呂の時間だ。
皆が先に入ったので、今は俺だけの入浴時間である。
脱衣所で服を脱いで、洗い場に入っていく。
「あっ! スレイド、来たようだね」
「……は?」
洗い場に入ってすぐ、俺は声をあげた。
そこに、ファラエスがいたからである。
「くっ……!」
俺は、咄嗟に大事な所を隠す。
だが、よく見ると、ファラエスは目を瞑っていた。既に、対策済みであったようだ。
とりあえず、タオルを腰に巻いてから、状況を確認する。
「なっ……!」
ファラエスは、体にタオルを巻いているため、全ては見えていない。
ただ、体のラインは大体わかるし、手や足は隠れていないしで、色々刺激が強い格好である。
何より、恐ろしいのはその胸元だろう。その大きさから、全て隠すことができておらず、結構見えている。しかも、谷間ができているため、威力は絶大だ。それは、俺の動揺を加速させていく。
「スレイド、流石にここばかり見ていると、わかるよ?」
「あ、いや……」
俺の視線に気づいたようで、ファラエスは胸元を手で隠した。俺がタオルを巻いたことを察知して、目を開けていたようだ。
だが、これは流石に許して欲しい。こんなの見ない方がおかしいだろう。
そもそも、そんな恰好で風呂場で待っているのに、今更そう言われてもという感じだ。
「ソーナといい、君達は本当に胸に興味があるんだね……」
「うっ……」
どうやら、ソーナは大体俺と同じくらいの思考回路であるようだ。
ソーナは、ファラエスの胸にかなり興味を抱いていたが、やはり見ていたのか。
「いや、そうじゃない! そもそも、どうして、ここに!?」
「あ、いや、スレイドと話したいことがあったから、待っていたんだ。スレイドと、お風呂にも入りたかったからね」
「待っていたって……」
ファラエスは、何やら俺に話したいことがあったようだ。
そうだとしても、風呂で待つ必要はないと思うのだが。
ここで、冷静に話をするなんて、できるのだろうか。
「皆と入った後、ここで待っていたんだ。もちろん、のぼせないように、君が来るまでは脱衣所で涼んでいたよ?」
「そ、そうか……」
ファラエスは、ずっとここにいた訳ではないらしい。
それは、少し安心だ。ずっとここにいたら、のぼせてしまうので、その判断はいいと思う。
「……皆には、言ってあるのか?」
「え? ああ、もちろん、言ってあるよ。ソーナ以外はいいと言ってくれたし、最終的にはソーナの許可も得た」
「そ、そうなのか……」
「クレッタも、後日背中を流したいと言っていたから、それなら順番ということにしようという話になってね。だから、昨日はセリア、今日は私、明日はクレッタということになったんだ」
「ええ……」
どうやら、ファラエス達の間で、色々と話し合った結果がこれらしい。
俺にも関わる話なのに、勝手に進んでいるのは、どういうことだろう。
まあ、それを気にしても仕方ない気はする。
明日のことはともかく、今日は目の前にいるファラエスのことをなんとかしよう。
「それで、話したいことって……」
「スレイド、それは、湯船に入ってからにしよう。とりあえず、背中でも流してあげるから、座ってくれるかい?」
「あ、ああ……」
話を聞こうとした俺に、ファラエスはそう言ってきた。
とりあえず、言われた通り、ファラエスに背中を向けて座る。
「さて、それじゃあ、背中を触るよ?」
「ああ……」
すると、ファラエスが背中に触ってきた。
泡に包まれた手で、背中をなぞられていく。
ファラエスの温かさと柔らかさに、俺はかなり緊張してしまう。
「よし……それじゃあ、流すけど、いいかな?」
「ああ、よろしく頼む」
ファラエスは手際良く、俺の背中を洗ってくれた。
なんだか、変な気分だ。
「さて、流石に前は洗えないから、自分で洗ってくれるかな?」
「ああ、それはもちろんだ。とりあえず、こっちは見ないでくれるか?」
「もちろんさ、少し離れておくよ」
前や髪などを洗わなければならないため、俺はファラエスにそう頼んでいた。
ファラエスもすぐに理解してくれて、俺から離れていく。
こういう時に、風呂が広いというのは、ありがたい。
こうして、俺はその他色々な場所を洗うのだった。
◇◇◇
体を洗い終わった俺は、ファラエスと湯船の前で立っていた。
問題は、ここからである。湯船に入る時は、タオルをとらなければならない。それが、前回俺がセリアから学んだことである。
「それじゃあ、湯船に入ろうか?」
俺がそんなことを考えていると、ファラエスが湯船の中に入っていく。
普通に、タオルをつけたままでだ。
どうやら、あの理屈はセリアだけのものだったらしい。
「スレイド? どうしたんだい?」
少し驚いていた俺に、ファラエスがそう言ってきた。
ここで、俺はやっと理解する。ファラエスが一緒に風呂に入ってもいいと言っていたのは、タオルの着用を前提としての話だったのだ。
思えば、セリアとの話で、タオルの着用については、触れていなかった気がする。だから、許してもらえたのだろうか。
そう考えると、少し今後が危険な気がする。だが、それは未来の俺に任せるとしよう。今は、考えたくない。
「いや、今入る……」
それにしても、タオル着用は嬉しいような気がしたが、落ち着いて考え直すととても残念だな。
そんなことを考えながら、俺も湯船の中に入っていく。とりあえず、ファラエスとは距離をとっておくことにする。
「スレイド、そんなに離れていると、話しにくいじゃないか」
「あ、いや……」
すると、ファラエスが距離を詰めて来た。
やはり、近くに入ってもよかったのだろう。ただ、俺からそうするのはまずい気がしたのだ。
「スレイド……? また、かい?」
「いや、その……」
ファラエスが近づいて来たことで、俺の視線はその胸元に向く。
お湯に浮いているそれの存在感は、すごいものだった。気づかれるとわかっていても、見るしかなかったのだ。
「まあ、一緒にお風呂に入る都合上、それも仕方ないか。特別に、見ることを許してあげることにしよう」
「……ありがとうございます」
だが、今度はファラエスもそれを隠すことはなかった。
それどころか、見ることを許してくれたのだ。なんだか、とても気前がいい。
「スレイド、それでも少しは遠慮してくれないかな? 私だって、恥ずかしいんだよ?」
「あ、すまん……」
しかし、流石に見過ぎてしまったようだ。
確かに、そこに意識が集中してしまった。
ここからは、見ないことにしよう。
「あ、やっと顔を見てくれたね」
「あ、ああ……」
そこで、俺はファラエスの顔に意識を向けた。
そこなら、ファラエスに失礼ではないと思ったからだ。
だが、顔も顔で緊張してしまう。
湯船に浸かっているのと、緊張とで赤くなったファラエスの顔は、とても色っぽい。
「なんだか、顔を見られるのも、それはそれで恥ずかしいね……」
「そうだな……」
俺と同じく、ファラエスも恥ずかしいようだ。
しかし、他を見る訳にもいかないので、顔を見るしかない。それは、恐らく、ファラエスも一緒なのだろう。
別に、俺は胸を見られても構わないが、それはファラエスの方が恥ずかしいはずだ。
「……さて、スレイド、そろそろ話したかったことを話したいんだけど、構わないかな?」
「え? あ、ああ、そういえばそうだったな」
「忘れていたのかい? ふふ、君はひどいな」
「いや、すまん。色々あって、頭から抜けてしまってな……」
「ふふ、仕方ないな、君は」
そこで、ファラエスがそう言ってきた。
よく考えると、話したいことがあったのだ。それを聞かなければならない。
こうして、俺はファラエスの話を聞くことになったのだった。




