第78話 調査結果のまとめ
俺とセリアは、ファラエスのいる隊長室に来ていた。
ソーナも来ていたので、全員集合である。
「ファラエス、それで、カノンさんのことなんだが……」
そこで、俺は本題を切り出す。
すると、ソーナが首を傾げる。
「カノンさんって、五番隊副隊長の?」
「ああ、そうだ。色々あって、調べているんだ」
「そうなのね、まあ、いいわ。私が聞いたら駄目な話なら、少し席を外すけど?」
「あんまり広めたくないことだから、口外しないでくれるか?」
「もちろんよ。口は堅い方だもの」
色々と言ってくれたが、俺はソーナにも話すことにした。
あまりカノンさんのことを広めるのは良くないかもしれないが、ソーナを追い出すのも忍びない。
カノンさんには申し訳ないが、話させてもらうことにしよう。もしもの時は、謝るしかないな。
「結論から言うと、何故カノンさんがファラエスを避けるようになったかは完全にはわからなかった……すまなかったな」
「……そうか。まあ、それも仕方ないだろう」
「ただ、情報は色々と手に入った。そのことから、ある程度の推測は可能だ。最初に、実は、カノンさんは病気らしいんだ」
「病気?」
俺の言葉に、ファラエスは目を丸くする。
やはり、ファラエスにも伝えられていないことだったようだ。
まあ、ザギル隊長にしか言われていないことだったらしいので、それも当然だろう。
「ああ、なんの病気かはわからないんだが、前線に出ることができなくなるような病気らしい」
「そ、そうだったのか……まったく、知らなかったよ……」
「それで、カノンさんは書類仕事ばかりを担当するようになったようだ」
「なるほど……それなら、私を避けるようになったのは、それが理由なのかな?」
そこで、ファラエスが俺にそう聞いてきた。
確かに、病気のことだけ聞いたら、そう思うのは無理もないだろう。
ただ、それが理由の一端であることは確かだろうが、それだけではないはずなのだ。
「だが、それが真実なのかどうかもわからない。そんな病気なのに、書類仕事は普通以上にできているようだからな……」
「なるほど、だけど、体を動かせなくなる類の病気なのかもしれないから、そこはおかしくないんじゃないかな?」
「まあ、そうも考えられるな……」
俺が事情を伝えると、ファラエスはそう言ってきた。
確かに、体が動かせなくなるような病気なら、書類仕事だけなのも納得できるかもしれない。わからなくもないが、それでもカノンさんの行動には和感が多いだろう。
「でも、カノンさんは病気であることを隠しているんだ。この情報は、ザギル隊長しかしらないことだった。それは、どうしてだろうな?」
「それは……知られたくなかったから?」
「そうだな。でも、その病気を隠しておくことになんの意味があるんだろうな」
「確かに、そうだね……」
カノンさんは、病気であることをザギル隊長にだけ伝え、それを他の人に言わないように頼んだのだ。
どうして、病気であることを隠したのか、それはわからない。だが、そこからファラエスを避ける理由はある程度推測できる。
「なるほど、考えてみると、カノンさんの行動には違和感があるね……」
「ああ、そうだろう。それに、まだ話があるんだが……」
そこで、俺は一瞬迷ってしまう。
死病蝶の話をしてもいいのかどうか、考えてしまったのだ。
だが、ここまで言って隠すのも違うだろう。そう思い、俺は全てを話すことにした。
「図書室で、カノンさんと会ったんだ」
「図書室?」
「ああ、そこで、カノンさんは昆虫図鑑の死病蝶を見ていたんだ」
「死病蝶……!」
俺の言葉に、ファラエスは目を丸くする。
どうやら、ファラエスは死病蝶のことを知っているようだ。
「そうなのか……それは、あまりいい印象がないな……」
「ああ、とにかく、カノンさんに何かあったのは確かみたいだ……」
「……そうか」
これで、俺達が得た情報は全てだった。
全てを話し終えて、ファラエスの顔は少し落ち込んでいるような感じだ。
カノンさんについて色々とあるようなので、それも仕方ないだろう。
ただ、一つだけわかっていることがある。
「ファラエス、カノンさんは、お前のことが嫌いになったとか、立場が理由だとか、そう言った理由で避けるようになったわけじゃないんだ。きっと、何か他の事情がある。それなら、それを解決すればいい」
「スレイド……」
「カノンさんの事情をなんとかしよう。そうして、仲のいい二人に戻るんだ」
「ああ、ありがとう……」
俺の言葉に、ファラエスが笑ってくれた。
きっと、ファラエスとカノンさんを元通りにしてみせる。
俺はそう決意するのだった。
◇◇◇
俺達は、騎士団の拠点を後にして、家に戻って来ていた。
色々と決意したが、相談の結果、動き出すのは明日からということになったのだ。
今は、普通に家に帰って来て、くつろいでいる。
俺とセリアは任務帰りだった訳なので、とても疲れているため、休みたかったのだ。
後から考えてみれば、朝から任務で魔物を倒し、その後はカノンさんと出会って、そこからはカノンさんのことを調べてと、今日一日はかなりのハードスケジュールだった。
そうしている間は、疲れなど感じなかったものの、終わってみると、すごい疲労感が襲ってくるのだ。
「スレイド? 眠たいなら、寝てもいいからね」
「ああ……」
「セリアもよ」
「あ、はい……」
そして、俺はファラエスに、セリアはソーナに、それぞれ膝枕をしてもらっている。
疲れているだろうかとファラエスが俺とセリアに言ってくれて、それにソーナが乗った形になったのだ。
ちなみに、クレッタは夕食を作ってくれている。
色々あったが、ファラエスの柔らかい膝は最高だ。このまま眠ってしまいそうである。
ただ、もうすぐ夕食であるため、眠るのは避けたかった。そのため、意志を強く持つのだ。
「ふふ、スレイド……」
そこで、何故か、ファラエスが俺の頭を撫でて始めた。
急で驚いたが、これは中々いいものだ。ただ、それは俺の眠気を加速させていく。
ファラエスは、本当に俺を眠らせてくれようとしているらしい。
「すー」
「セリア? あら? 眠ったみたいね……」
隣のセリアは、既に夢の世界に行ってしまったようだ。
最も、セリアも疲れていたことから、眠気に抗うのは難しかっただろう。
俺も、そろそろ負けそうだ。
ところで、ソーナの膝も、相当寝心地がいいのだろうか。
いや、そんなことは気にしている場合ではない。
「……」
「スレイド……」
ファラエスは、仕切りに俺の名前を呟く。そのゆっくりとした優しい声色は、とても心地いい。
そして、そのことが、俺の心に安心感をもたらしてくれる。
さらに、その安心感が、俺の眠気をさらに加速させていく。
本当に、このまま眠ることになりそうだ。
「……」
「スレイド……?」
そこで、俺はファラエスの様子を伺ってみる。
体勢故、あまり顔は見えないが、今はそこまで落ち込んではいないようだ。
今日は、カノンさんのことで色々あったので、少し心配なのである。
この感じなら、大丈夫なのかもしれないが、今日はなるべく側にいてあげたいものだ。
そうすれば、ファラエスの心を少しくらいは落ち着かせられるはずである。
「いや、少しだけ、眠らしてもらう……この膝は、気持ちよさすぎるみたいだ……」
「……そうか、それなら、ゆっくりと眠るといい。お休み、スレイド」
「ああ、お休み……」
ファラエスにそう言われ、俺は目を瞑った。
少しだけ、寝させてもらうことにしよう。
こうして、俺は夢の世界へと旅立つのだった。




