第76話 五番隊への聞き込み
俺とセリアは、五番隊副隊長のカノンさんについて聞くため、セリクとノワールの元に来ていた。
一しきり挨拶は終わったので、俺はいよいよ本題に入る。
「五番隊の副隊長、カノンさんについて聞きたいんだ」
「カノン副隊長について?」
「おやおや、それは、またどうして?」
「ああ、色々と気になることがあってな……」
「そうか……しかし……」
「ええ、そうですねえ……」
俺の言葉に、セリクとノワールが微妙な顔になった。
なんだか、あまりいい反応ではない気がする。
「どうしたんだ? そんな微妙な顔で……」
「いや、実は、カノン副隊長については、俺達もよくわかっていないんだ」
「よくわかっていない?」
「ええ、謎の多い人物でしてね。あまり、私達も知らないんですよ」
「何……?」
どうやら、セリクとノワールも、カノンさんことをよく知らないようだ。
自身の所属する隊の副隊長だというのに、そんなに知らないものなのだろうか。
「副隊長なのに、そんなに知らないものなのか?」
「ああ、そもそも、カノン副隊長と接する機会がないからな……」
「そうなのか?」
「カノン副隊長は、基本的に書類仕事を担当されていますからねえ。私達が接する機会など、ありませんよ」
セリクとノワールからは、そんなことを告げられた。
カノンさんは、あまり部下と接する機会がない人であるようだ。四番隊の副隊長であるソーナとは、結構違う気がする。
「副隊長にも、色々あるんだな……」
「ああ、ソーナさんとは確かに違うと思いますよ。あの方は、任務もこなしていますからね」
「まあ、恐らくそちらが普通なのだろう。五番隊は、副隊長と隊長の役割が逆になっているところがあるからな」
「逆に?」
「ああ、ザギル隊長は前線に出て、カノン副隊長が書類仕事を担当する。それが、五番隊のやり方だな……」
「なるほどな……」
今までの話で、五番隊の隊員はカノンさんと接する機会がないとわかった。
ただ、それでも少しくらいは何か知っていたりしないのだろうか。
同じ隊にいるのだから、何か噂くらい聞いていてもおかしくないはずだ。
「それでも、何か知らないか? 同じ隊だから、少しくらいは噂とか聞いていないのか?」
「噂か……いや、それも聞いたことがないな」
「ええ、本当に謎の多い方ですからね。恐らく、知っている人はあまりいないんじゃないでしょうか」
そう思い聞いてみても、二人の反応はよくなかった。
カノンさんは、自身の隊員に何も知られていないようだ。
そんなに謎の多い人物なのだろうか。これでは、調査してもほとんど何も得られないかもしれない。
「……スレイド、カノン副隊長のことが知りたいなら、ザギル隊長に聞いてみろ」
「え?」
「ああ、確かに、ザギル隊長なら知っているかもしれませんねえ……」
「ザギル隊長が……?」
「五番隊の中でも、カノン副隊長と一番関わっているのはあの人だ」
「なるほど……」
そこで、セリクがそんな提案をしてきた。
確かに、ザギル五番隊隊長なら、カノンさんのことを知っているかもしれない。
しかし、俺が言って話しを聞いてくれるだろうか。違う隊だし、そもそも忙しいだろうからな。
「ザギル隊長は、五番隊の隊長室にいるはずだ。恐らく、話を聞いてくれるはずだ」
「え? そんなに簡単なのか?」
「ええ、ザギル隊長ですからね……」
そんな心配を察してか、セリクがそう言ってくれる。
どうやら、ザギル隊長は案外話を聞いてくれるようだ。
「わかった。二人とも、ありがとう。ザギル隊長に、聞いてみるよ」
「ああ、力になれず、すまなかったな」
「そんなことないさ」
「まあ、頑張ってください」
「ああ、もちろんだ」
「セリアも、頑張れよ」
「はい、お兄さん!」
セリクとノワールは、俺達にそんな言葉をかけてくれた。
その言葉に応えた後、俺とセリアは駆け出していく。次の目的地は、ザギル隊長の元だ。
◇◇◇
俺とセリアは、ザギル五番隊隊長のいる隊長室の前に来ていた。
「よし……」
一度、深呼吸をしてから、戸を叩く。
ファラエスと違い、普通に目上の人間であるため、少し緊張しているのだ。
「む? 少し、待ってくれ」
すぐに、中から声が聞こえてきた。
何度か聞いたので覚えているが、これはザギル隊長の声だ。
数秒後、戸が開かれ、鉄仮面の騎士が現れる。
「待たせたな……む? 君達は……」
「あ、四番隊のスレイドです」
「同じく、セリアです」
俺とセリアを見て、ザギル隊長は不思議操に声をあげた。
四番隊の俺達が、五番隊隊長の元に来るのも変な話なので、当然の反応だろう。
とりあえず、俺は短く用件を伝えることにする。
「今日は、ザギル五番隊隊長に聞きたいことがあって、参りました」
「聞きたいこと? まあ、中に入ってくれ」
俺が端的にそう言うと、ザギル隊長は中に招いてくれた。
俺とセリアは、ゆっくりと隊長室の中に入っていく。
中は、ファラエスの隊長室と変わらないような感じだ。
「そこに座っていい。それで、私になんの用だね?」
「あ、実は、カノンさ……副隊長について、聞きたいんです」
促されたので座りながら、俺はカノンさんのことを訪ねた。
すると、ザギル隊長は顎に手を当て、考えるような素振りを見せる。
「ほう? 彼女のことか。一体、何が知りたいのかね?」
「……カノン副隊長が、ファラエス隊長を避けるようになった理由が知りたいんです」
「……ふむ」
俺の言葉に、ザギル隊長はゆっくりと頷く。
それが、何を示しているかはわからない。
ただ、何か心当たりでもなければ、この質問に対して、こんな反応はしないはずだ。
「……何か、知っているんですね?」
「知っている……という訳ではない。ただ、心当たりがない訳ではない」
「え? それは、どういうことですか?」
「恐らくだが、彼女に変化があったことは間違いないだろう。それは、私も認識している」
どうやら、ザギル隊長はカノンさんが変化したことについてはわかっているようだ。
ただ、その原因は知らない。つまり、今の俺達とあまり変わらない状況ということだろうか。
「彼女は、副隊長になった時には、前線でも活躍し、尚且つ雑務などもこなしていた。隊の者達からの信頼も厚かっただろう」
「そうなんですか……」
「ただ、ある時、丁度ファラエスが隊長になった時くらいから、それをやめざるを得なかったのだ」
「やめざる……を得ない?」
「ああ、どうやら、病魔に侵されているらしく、前線では戦いにくくなったようだ」
「え?」
ザギル隊長の口から放たれたのは、そんな言葉だった。
カノンさんが病気だったとは、まったく誰も知らなかったことだ。
これは、新しい情報である。
「それからの彼女は、事務仕事を担当するようになった。つまり、彼女がファラエスを避けるようになったのは、その病気が原因かもしれん」
「病気ですか……それなら、確かに……」
「いや、しかし、それでも違和感があるのだ。それで避けるような病気なら、そもそも騎士団に来ることもできないだろう?」
「ああ、確かにそうですね……」
それが原因かと思ったが、ザギル隊長の言う通り、重い病気ならそもそも騎士団に来られない。
それなら、それは関係ないのだろうか。
「一体、どういうことなのか? 私もよくわかっていないのだ。彼女の行動には、違和感がある。ただ、問い掛けても答えてはくれないのでな……」
「そうですか……」
やはり、ザギル隊長でもわからないことであるようだ。
ただ、新しい手がかりは得られた。カノンさんの病気、それはファラエスを避けるようになったことに関係があるはずだ。
こうして、俺とセリアは新たなる手がかりを得ることができたのだった。




