第75話 気になる点は
俺とセリアは、五番隊の副隊長であるカノンさんと出会っていた。
カノンさんは、元四番隊であり、ファラエスと旧知の仲であったようである。
そんなカノンさんと話している内に、ファラエスがやってきた。すると、二人の間に微妙な空気が流れてしまったのだ。
カノンさんと別れた後、俺達はファラエスから事情を聞いた。
どうやら、二人は役職についたことで、あまり交流がなくなり、さらにカノンさんがファラエスを避けるようになったようだ。
その話を聞いた後、俺は少し考えていた。
ファラエスの話について、少しだけ違和感を覚えたからだ。
「……ファラエス、少し、いいか?」
「え? 何……かな?」
そのため、俺はファラエスに声をかけていた。
この疑念は、ファラエスに伝えるべきことだと思ったからだ。
「……カノンさんは、俺とセリアのことを知っていたんだ」
「え? ああ、まあ、二人とも四番隊の中でも有名だから、知っていてもおかくしくはないだろうね」
「いや、カノンさんは、四番隊に興味があって、俺達のことを知ったと言っていた」
「興味?」
俺の言葉に、ファラエスの表情が変わる。
やはり、ファラエスはカノンさんから詳しい話を聞いていなかったようだ。
そこは、確認しておかなければならないことだった。なぜなら、俺の感じた違和感は、その部分にあるのだ。
「カノンさんは、ファラエスのことが気になって、四番隊のことを調べているようなんだ」
「え? それは……本当かい?」
「ああ、間違いないよな、セリア」
「はい、ボクもしっかりと聞いていました」
「だから、カノンさんの態度が、どうもおかしく感じるんだ。ファラエスのことを話しているカノンさんは、とても穏やかで、嬉しそうだった」
俺は、カノンさんと話していた時のことを思い出しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
一つずつ、自身の疑問を解き明かしながら、それをファラエスに伝えていきたい。きっと、それは大切なことだと思うのだ。
「カノンさんが……私のことを……」
「ああ、そんな人がファラエスを立場だけで避けるようになるとは、どうも考えにくい……だから、あの態度には、何か違う理由があると思うんだ」
「違う理由か……考えたこともなかったな……」
俺の言葉に、ファラエスも考え始めてくれる。
恐らく、カノンさんには何かがあるはずなのだ。ファラエスから離れなければならなかった何かが。
「あ、そういえば、ボクもおかしいと思うことがあったんです」
そこで、セリアがそう言ってきた。
どうやら、セリアも何かを感じていたようだ。
それなら、それを話してもらおう。情報は、一つでも多い方がいい。
「セリア、話してくれるか?」
「はい。実は、師匠に言われて、ボク、カノンさんの背中をさすろうとしたんです」
「え?」
「ああ、そうだったな……」
「それで、ボクが背中に触った時、カノンさんは少し怯えていたんです」
「怯えて……?」
セリアの言ったことは、奇妙なことだった。
背中を触られて、怯えるとは、一体どういうことだろうか。何か、背中を触られることにトラウマでもあるというのなら、それはあるかもしれない。
「少し、待って欲しい」
「ファラエス?」
「カノンさんに、何かあったのかな?」
俺が疑問を覚えていると、ファラエスがそれを聞いてきた。
そういえば、ファラエスにはカノンさんが二日酔いでうずくまっていたことを話していなかったのだ。そのため、ファラエスがその疑問を覚えるのは当然である。
とりあえず、事情を話すとしよう。
「カノンさんは、二日酔いで、ここにうずくまっていたんだ」
「二日酔い?」
「ああ、それを俺とセリアが助けて、話をしていたというのが、ここまでの経緯だな」
「ふむ……」
俺の言葉に、ファラエスは顎に手を当てた。
何かを考えているようだ。それなら、話してもらいたい。
「ファラエス、どうしたんだ?」
「いや、私の知っているカノンさんは、確かにお酒は好きだけど、ただ二日酔いになるような人ではなかったと思うんだ」
「そうなのか?」
「ああ、そもそも、拠点に来る前の日にお酒を飲んだりはしないと思うよ。その辺りは、きちんとしている人だからね」
「なるほど……」
ファラエスの言葉が確かなら、カノンさんは二日酔いではなかったようだ。
それなら、一体なんだったのだろうか。
「なんだか、カノンさんに何かあったように思えてきたな」
とにかく、カノンさんには何かあったと考えられる。
それなら、調べてみる価値はあるだろう。
「……ああ、いや、私達の考えすぎという可能性もあるけど……」
「それでも、調べてみる価値はあるだろう?」
「……そうだね、そうかもしれない。カノンさんに何かあったなら、私はそれをなんとかしたいと思う」
ファラエスも、俺の案に賛成してくれたようだ。
ただ、そこには一つ問題があった。
それは、確認しておかなければならないことだ。
「ファラエス、まだ仕事があるのか?」
「ああ、残念ながらね……」
「そうか……それなら、俺とセリアで、少し調べてみることにする。だから、ファラエスは仕事に集中していてくれ。セリアもいいか?」
「はい、もちろんです」
「……わかった、二人とも、よろしく頼むよ」
俺の言葉に、ファラエスはゆっくりと頷く。
俺は、ベンチからゆっくりと立ち上がる。
早速、調査を開始するとしよう。
「セリア、行くぞ」
「はい、行きましょう、師匠!」
「二人とも……ありがとう」
ファラエスの言葉に手を挙げて応え、俺とセリアは中庭を後にする。
「ところで師匠、当てはあるんですか?」
歩きながら、セリアがそんなことを聞いてきた。
それは、当然の疑問だろう。だが、それについては考えがあった。
とても単純なことだが、それが一番早いはずだ。
「ああ、五番隊のことは、五番隊に聞けばいいのさ。幸い、俺達には五番隊の知り合いがいるからな」
「五番隊隊員? まさか……」
俺の言葉に、セリアはそんな反応をする。
どうやら、俺の言葉を理解してくれたようだ。
俺とセリアは、その人物を探しに行くのだった。
◇◇◇
俺とセリアは拠点内を歩き回り、目的の人物を探していた。
広い拠点の中なので、それなりに時間はかかるだろう。そんなことを考えていた俺だったが、予想に反し、目的の人物はかなり早く見つかっていた。
「おっ……」
「あっ……」
「む?」
「おや?」
それも、探そうと思っていた人物が二人同時に見つかったのだ。
これは、かなり幸運なことだろう。
「セリク、ノワール、久し振りだな」
「お兄さん、ノワールさん、お久し振りです」
その人物達とは、セリクとノワールである。
二人とも、俺と戦った五番隊隊員だ。
「セリアにスレイドか、久し振りだな……」
「おやおや、これは……」
セリクとノワールは、俺達に対して普通に接してくれる。
色々とあったが、試合の後は特に因縁は残っていないのだ。
そのため、この二人に聞くことが、一番いいと思ったのである。
「セリア、元気にしていたか?」
「あ、はい、元気いっぱいです!」
セリクは、妹であるセリアに対して、そう話しかけていた。
やはり、妹のことなので、色々と気になるのだろう。
戦いの後、この兄妹がいい関係になれて、本当によかったと思う。
「スレイドさん、ソーナさんはどうでしょうか?」
「え? ああ、元気だぞ」
「そうですか、それならよかった。私も色々と気になっていましたからね……」
続いて、ノワールがソーナのことを聞いてきた。
やはり、許嫁だったことから、色々と気になるのだろうか。
「ところで、お前達に聞きたいことがあるんだが、構わないか?」
「聞きたいこと? なんだ?」
「私達に、答えられることなのでしょうか?」
そこで、俺は二人に対して、そう切り出した。
二人とも、答えてくれそうな雰囲気だ。




