第69話 浴槽から出るには
俺は色々とあったが、セリアと風呂に入っていた。
今は、二人で湯船に浸かっている。
色々あって、これからもセリアと一緒に風呂に入ることになったが、それはもう気にしないことにした。
「……セリア、そろそろ上がるか?」
そんな中、俺はセリアにそんな提案をする。
話している内に、それなりの時間が経ったので、そろそろ湯船から上がりたいのだ。
「あ、そうですね。大分温もりましたし、そうしましょう」
セリアも俺の提案に乗ってくれたので、これで入浴は終わりである。
ただ、これには一つ重大な問題があった。
それは、俺とセリアの状態に関わることだ。
「それじゃあ……」
「いや、セリア、待ってくれ」
「え?」
湯船から上がろうとセリアが立ち上がろうとするのを、俺は制止した。
なぜなら、今セリアが立ち上がってしまうと、全部見えてしまうからだ。
今まで見ないようにしていたのに、それでは全て水の泡である。
これが、俺とセリアが今抱えている問題だった。
「セリア、少しあっちを向いてくれるか?」
ただ、解決策はある。
それは、入ってきた時と同じ方法をとることだ。
セリアが違う方向を向いている内に、俺が出る。
そうすれば、俺はセリアに見られることはないし、セリアも俺に見られることがない。
これで、解決するはずだ。
「……」
「セリア……?」
しかし、何故かセリアは俺の言葉に従ってくれない。
俺の方を見つめて動かないのだ。
一体、どうしたのだろうか。
「セリア、どうした?」
「い、いえ、その……」
「うん?」
「師匠は、ボクの体に興味がないんだって思うと、なんだか悲しくて……」
「え?」
セリアの口から放たれたのは、そんな言葉だった。
それは、とても答えにくい質問だ。
興味があると言えばまずいし、興味がないと言えばセリアが悲しむ。
どちらを選んでも、俺にとっていい結果ではなさそうだ。
「でも、わかっているんです。だって、師匠、おっぱいが大きい方が好きなんですよね」
「……は?」
「だって、いつもファラエス隊長のおっぱいに埋まっているじゃないですか……」
俺が色々と考えていると、セリアがそんなことを言ってきた。
この弟子は、いきなり何を言い出してくるのだろう。
確かに、好きといえるかもしれないが、今はそういう問題ではないはずだ。
そもそも、ファラエスの胸に埋まるのは無意識のことなので、ここでそう言われても困る。
いや、無意識だからこそ根拠としてあげられているのだろうか。
「あ、でも、今日はソーナさんのお尻でしたね。師匠は、お尻も好きなんですか?」」
「え、いや……」
さらに、セリアは質問を重ねてきた。
それも無意識にやったことだ。別に好きといえるかもしれないが、それも今は問題ではないだろう。
というか、そういう質問は答えにくいので、質問しないで欲しい。
「ボクも、もう少し成長したら師匠にも興味を持ってもらえるんでしょうか……」
「ま、待て、セリア」
「あ、はい。なんでしょう……?」
なんだか、話が脱線してきたので、俺はセリアに呼びかけた。
ただ、元の話になるのも、少し避けたい。
よって、なんとかして誤魔化すことにする。
「いいか、セリア。俺がセリアの体を見ないのは、興味があるとかないとか、そういう問題ではないんだ」
「え? そうなんですか?」
「ああ、ただ単純に、俺が裸を見られるのが恥ずかしからなんだ」
とりあえず、俺はそんな理由をつけることにした。
これなら、セリアを納得させられると思うのだ。
「え? それだと、ボクの裸を見ない理由にはならないんじゃないですか?」
「……例えば、セリアはされて嫌なことを人にしたいと思うか?」
「そ、そんなことは……あっ!」
「そう、俺は自分がされて嫌なことを、セリアにしたくなかっただけなんだ。だから、勘違いさせてしまって済まない……」
「師匠……そうだったんですね。ボク、色々と勘違いを……」
俺の言葉に、セリアは納得してくれた。
我ながら、中々いい言い訳ができたのではないだろうか。
どうやら、これで一件落着だ。
「師匠!」
「え!?」
しかし、俺の予想に反して、これで一件落着にはならなかった。
なぜなら、セリアが俺に抱き着いてきたからだ。
当然、お互いに何も来ていないため、セリアの色々な所が当たってくる。
これは、裸を見るよりもまずいかもしれない。
「師匠、ごめんなさい! 師匠は裸を見られるのが嫌なのに、押しかけて来てしまって……」
その状態でセリアから放たれたのは、そんな言葉だった。
どうやら、先程の言い訳により、自分のしたことに責任を感じてしまったようだ。
これは、俺の失態である。そこまで、考えられていなかった。
「い、いや、セリア。そこまで嫌という訳ではない。ただ、少しだけ恥ずかしいだけだ」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ、だから、そんなに責任を感じなくてもいい」
「で、でも、師匠、本当はこれからも入るのも嫌なんですよね」
「そ、そうじゃない。むしろ、これは俺の弱点みたいなもので、克服したいと思っているくらいのものだ。だから、これからもセリアが一緒に入ってくれるのは、むしろ歓迎したいくらいだ」
悲しそうなセリアに、俺は更なる言い訳を重ねる。
咄嗟に放ったため、訳がわからなくなってしまった。
これで、大丈夫なのだろうか。
「そ、そうなんですか……」
俺の言葉に、セリアは納得しかけている。
だが、俺はなんだか無理な気がしてきた。
記憶喪失の設定もそうだが、俺は自身で作った設定をこれからも守れる気がしない。
「セリア、すまん。さっきまでの理由は、忘れてくれないか?」
「え?」
「あれはほとんど嘘だ」
「ええ!?」
そのため、俺はセリアに謝罪し、嘘をついたのを自白していた。
これ以上嘘をつくのも申し訳なかったので、これでいいはずだ。
「し、師匠? どうして、そんな嘘を?」
「本当の理由が、言いにくかったからだ」
「え? それは……」
俺の自白に、セリアは驚いていた。
本当に、純粋な子だ。こんな子に嘘をつくなんて、やめておけばよかった。
さて、セリアの追及には、なんと答えよう。
といっても、これ以上嘘はつけないので、本当のことを話すしかないか。
「あっ! 師匠、やっぱり理由はいいです」
「え?」
「だって、師匠は理由を言いたくなかったんですよね。それなら、無理に聞くようなことはしません」
「セリア……」
俺の弟子は、本当によくできた弟子のようだ。
それ以上、追及しないでくれるらしい。
これは、とてもありがたいことだ。
「セリア、ありがとう」
「いえ、あっ! それと、怒ってはいませんよ。ボクも、師匠を騙すようなことをしましたから……」
「ああ……」
「それより、早くあがらないとのぼせちゃいますよね」
「え?」
そこで、セリアが驚くべき行動に出た。
湯船から、立ち上がったのだ。
恐らく、早く上がらなければならないという気持ちの表れだろう。
ただ、俺は今セリアの方を向いている。
つまり、セリアの裸を完全に見てしまうことになったのだ。
「あっ! 師匠、ごめんなさい!」
セリアも、自身のしたことに気づいたらしく、その身を隠す。
しかし、その方法は、俺に対して背を向けるというものだった。
そのため、今度はセリアの背中や尻を見てしまう。
「くっ!」
一瞬遅れて、俺は気づいた。
俺が目を逸らせばいいだけなのだ。あまりの出来事に、その思考がすぐにできなかった。
「し、師匠……全部、見ましたか?」
「あ、ああ、すまない……」
「い、いえ、ボクのミスですし、一応、見られる覚悟はしてきたつもりですから……ただ……」
「ただ?」
「結構、恥ずかしいですね」
「そ、そうか……」
言葉の後、セリアが湯船から出る音が聞こえる。
どうやら、先にあがったようだ。
脱衣所の戸が開けられたので、少し待ってから俺も出ることにしよう。




