第68話 弟子との入浴
俺は色々とあって、セリアに背中を流してもらうことになっていた。
「それじゃあ、師匠、失礼します」
「ああ、よろしく頼むよ」
セリアはそう言って、俺の背中に触れてくる。
泡越しにセリアの手が伝わってきて、少しむず痒い。
「師匠、どうですか?」
「ああ、気持ちいいぞ」
「そうですか? それなら、よかったです」
だた、いつも自分の手が届かない部分に触られているので、気持ちいいのも事実である。
それに、弟子に背中を洗ってもらえるというのは、嬉しいものだ。
俺も師匠の背中を流したことはあるが、あの時師匠はとても喜んでくれていた気がする。
その気持ちがわかることになるとは、思っていなかったが、これはいいものだ。
「……師匠の背中は、頼もしいですね」
「え?」
俺がそんなことを考えていると、セリアがそう呟いてきた。
背中が頼もしいとは、一体どういうことなのだろうか。
「セコンドにいた時、わかったんです。どんな状況でも、この背中を見ていると大丈夫だと思えるって……」
「そ、そうなのか?」
「はい、だから、師匠の背中は頼もしい背中なんです」
試合中、そんな風に思っていてくれたなんて驚きだ。
だが、そう見えていたならよかった。
いざという時、弟子に頼りにならないなんて思われるのは情けないからな。
「師匠、流しますね」
「ああ……」
そこで、セリアがお湯をかけてくる。
これで、俺の背中は洗われたということだ。
「……ありがとうな、セリア」
「いえ、こちらこそありがとうございます。わがままを聞いてもらって……」
俺のお礼に、セリアは笑顔を向けてくれる。
わがままを聞いたというか、聞かざるを得ない状況にされた気もするが、それは言わないでおこう。
何はともあれ、これで俺の背中は洗えた訳だ。
◇◇◇
俺は、セリアに背中を洗ってもらい、その後、少し色々と洗った。
とりあえず、これで準備は完了だ。
次は、湯船に浸かるとしよう。
「さて、それじゃあ、湯船に浸かるとするか……」
「はい!」
「……うん?」
言ってから、俺は気づいた。
よく考えたら、湯船にも一緒に浸かることになるのか。
それは、やはり色々とまずい気もする。
だが、一度覚悟を決めたことだし、今更引っ込める訳にもいかない。
まあ、タオルをつけているから、大丈夫だろう。
「あ、師匠、待って下さい」
「え?」
そう思い、俺が湯船に入ろうとすると、セリアが止めてきた。
一体、どうしたのだろうか。
「タオルをつけたまま湯船に入るのは、駄目ですよ?」
「え?」
どうやら、そのことを注意したいらしい。
だが、それは色々とまずいだろう。
タオルをとれば、俺もセリアも一糸纏わぬ姿になる訳だ。
俺がセリアの裸を見るのも、セリアが俺の裸を見るのも、問題なはずである。
なので、タオルの着用は守ってもらいたい。
「待て、セリア。別に、家なんだから、タオルくらい問題ないだろう」
「駄目ですよ。他の人も入るんですから」
「いや、でも……」
「だから、タオルはとらないと」
「ま、待て!?」
俺が色々と言い訳を言おうとしていると、セリアがタオルの巻き付きを緩め始めた。
まだタオルで体を隠しているが、手を離せば全て見えてしまうだろう。
「師匠、ボクも恥ずかしいですから、大丈夫ですよ」
セリアは、少し顔を赤くしながら、俺にそう言ってきた。
セリアにも一応恥ずかしさはあるようだ。
それなら、やめてくれないだろうか。
「セリア、恥ずかしいならタオルをつけたままでもいいんじゃないか?」
「大丈夫です。師匠になら、恥ずかしいけど見られても構いませんから」
「そ、そうか……」
俺の提案を、セリアは却下してくる。
その言葉は、俺のことを信頼してくれているからなのだろうか。
とにかく、セリアを説得するのは無理な気がしてきた。
それなら、覚悟を決めてしまおうか。
とりあえず、俺の方はセリアの体を見なければいい。
問題は、セリアに俺の体を見られることだ。
「……わかった。セリア、少し、向こうを向いてくれないか?」
「え? こうですか?」
「ああ、それでいい……」
そこで、俺はセリアに違う方向を向いてもらった。
俺はその隙にタオルをとり、湯船の中に入る。
入りさえすれば、俺のあれは見えなくなるはずだ。
「あれ? 師匠? 湯船に……」
「安心しろ。タオルはとってある」
俺は証拠として、セリアにタオルを見せる。
「あ、そうなんですね。それじゃあ、ボクも……」
「ああ……」
それを確認し、セリアがタオルをとろうとした。
そのため、俺は違う方向を向く。
次の瞬間、セリアが俺の隣に入ってくる。
つまり、俺の隣に一糸纏わぬセリアがいるということだ。
「師匠、お邪魔しますね」
「あ、ああ……」
さらに、セリアは俺に体を寄せてきた。
セリアの柔らかい肌が、俺の肌と接触する。
これは、流石にまずいかもしれない。
「セリア? どうして、そんなに近づいてくるんだ?」
「え? 師匠とくっつきたいからです」
「そ、そうなのか……」
「師匠も、甘えさせてくれると言ってくれたじゃないですか」
「え、ああ……」
確かに、甘えさせてあげると言った。
そのため、セリアが近づいてくるのは受け入れるしかない。
別に、それが嫌という訳ではないが、その場合、色々と見えてしまうそうで怖いのだ。
とりあえず、俺はセリアの方をなるべく見ないようにする。
「師匠? どうして、こっちを向いてくれないんですか?」
「い、いや……色々と、見えてしまうだろう?」
「大丈夫です。お湯の中なので、そんなに見えませんよ」
「そ、そうなのか?」
セリアに言われ、俺は恐る恐るそちらを向いてみた。
確かに、お湯と湯気であまりセリアの体は見えない気がする。
何故曖昧な表現かというと、セリアの顔だけに意識を集中させているからだ。
「あ、やっとこっちを向いてくれましたね。やっぱり、師匠の顔が見えると安心できます」
「そ、そうか。ありがとう、セリア」
俺が向いてみると、セリアが笑顔になってくれた。
その笑顔を見ていると、なんだかどうでもよくなってくる。
セリアが笑顔になってくれるなら、一緒に風呂に入ることなど、何も問題無いのではないだろうか。
「……師匠とお風呂なんて、とても嬉しいです」
「え?」
「いつもは、皆さんと一緒ですが、師匠とだけは別ですから……」
「ああ、まあ、それは仕方ないことだ。俺は男なんだからな」
そこで、セリアがそんなことを言ってきた。
確かに、俺は皆とは別だが、それは仕方ないことである。
「あ、そうだ。これからは、時々ボクも一緒に入っていいですか?」
「え? いや、それは……」
さらにセリアは、驚くべき提案をしてきた。
だが、それは流石にまずいだろう。
セリアが俺と一緒に入るとなったら、皆にもその事実が行き渡るということだ。
そうすると、何を言われるかわからない。
それはなるべく避けたいのだ。
そういえば、今回のことも、セリアに口止めしておかないとな。
「だ、駄目ですか……?」
「うっ……」
しかし、そう思っていた俺の思考はすぐに遮られた。
セリアが悲しそうな顔になったからだ。
その表情を見ていると、時々一緒に入ってあげたくなってしまう。
いつの間にか、俺はセリアにかなり弱くなっていたようだ。
「も、もちろん、いい。俺も寂しかったから、セリアがそう言ってくれて、嬉しくなっていたんだ」
「そ、そうだったんですね。ボク、早とちりしちゃいました……」
「いや、構わないさ……」
結局、俺はセリアの提案を受け入れていた。
皆に何を言われようとも、セリアの笑顔が見られるなら、それでいい気がしてきたのだ。
そもそも、セリアに口止めをすることも難しそうなので、これでいいのだろう。
そんな会話をしながら、俺とセリアの風呂は続いていくのだった。




