第66話 久し振りの指導
俺は、ファラエスとともに騎士団の拠点に来ていた。
俺は、セリアの修行をつけるためだ。
一緒に来たファラエスは仕事のために、隊長室へと向かったので、俺はセリアを探している。
よく考えれば、どこに集合するか、決めていなかったのだ。だが、恐らくは、訓練場にいるはずだろう。
そのため、俺は訓練場に向かうことにする。
しばらく、歩くと訓練場に着く。
「おっ……」
すると、セリアの姿が確認できた。
訓練場の一角で、剣を振るっているようだ。
俺が近づいていくと、セリアもこちらに気づいてくれる。
「師匠!」
「セリア、待たせたな」
「いえ、そもそも、待ち合わせ場所も時間も決めていませんでしたから……」
「……ああ、それも悪かったな」
やはり、待ち合わせの具体的な内容を決めていなかったことは失敗だったようだ。
「いえ、師匠は悪くないですよ。こうして、訓練場に集まれたんですし……」
「まあ、それもそうだな……」
ただ、セリアも俺も、訓練場に集まったので、ここはいいとしよう。
「それじゃあ、修行を始めるとしようか」
「はい、よろしくお願いします、師匠!」
俺の言葉に、セリアは元気良く答えてくれる。
こうして、俺とセリアの修行は始まるのだった。
◇◇◇
俺は、セリアの修行を見ていた。
今は、修行を中断し、ベンチで休憩している。
「うーん……」
そんな中、セリアは何故かそわそわしていた。
修行中は、特にそんな感じではなかったのだが、一体どうしたのだろうか。
「師匠!」
「え? あ、なんだ?」
俺がそんなことを考えていると、セリアが声をあげた。
その表情は、先程とは少し違う。
迷いの感情が、なくなっているのだ。
「少し、近くに寄ってもいいですか?」
「うん? ああ、構わないが……」
「それでは、失礼します」
セリアから放たれたのは、近くに寄ってもいいかという質問だった。
そんなこと聞かなくても、寄ってくればいいのに、どうしたのだろうか。
「師匠……」
「セリア……?」
セリアは、俺に寄りかかってきた。
その行動に、俺は少し驚いてしまう。
なんだか、いつもと様子が違うような気がする。
セリアはよく甘えてはくるが、それはこのように迷ったり、テンションが低かったりすることはなかったはずだ。
その辺りに、少し違和感を覚えてしまうのである。
「どうかしたのか……?」
「え?」
「なんだか、様子がおかしい気がするんだが……」
「……そうかもしれません」
俺の疑問に、セリアはそう答えてくれた。
どうやら、自覚もあったらしい。
「一体、どうしたんだ?」
「その……最近、師匠に構えてもらえていなかったので、少しおかしいのかもしれません」
「何……?」
セリアの言葉に、俺は驚く。
まさか、セリアがこうなった原因が俺にあったとは。
しかし、考えてみればそれも理解できる気がする。
俺は、最近色々とあったせいで、セリアにあまり構ってあげられていなかった。
そのことで、セリアが落ち込むのも無理はないかもしれない。
「それは、すまなかった。確かに、最近セリアとはあまり話せていなかったな……」
「あ、いや、師匠は悪くないんです。ボクよりも、優先するべきことがあったんですから、当然です」
「それは……そうかもしれないが……」
「だから、これは単に寂しかっただけです」
「セリア……」
やはり、セリアはできた弟子である。
俺の状況を理解して、そう言ってくれたのだ。これ程、ありがたいことはない。
だが、どんな理由があっても、構ってあげられなかったことは事実だ。
そのため、今日残った時間は、セリアのために使うとしよう。
「それなら、今日は存分に甘えてくれていいぞ」
「そ、そうですか? それなら、よろしくお願いします」
俺の言葉に、セリアは笑顔を見せてくれる。
この笑顔を守るためにも、なるべく寂しい思いはさせたくないものだ。
「なんなら、もう少し体を預けてくれてもいいぞ。少し遠慮しているだろう?」
「あ、いえ、それは……」
「うん? どうした?」
セリアに甘えてもらおうと思い放った言葉だったが、あまりいい反応は得られなかった。
何か、選択肢を間違えてしまったのだろうか。
「その、師匠に一つ質問なんですけど……ボク、匂いませんか……?」
俺が疑問に思っていると、セリアがそんなことを言い出した。
それで、俺はセリアが何を気にしていたかを理解する。
先程の修行で、セリアはかなり汗をかいていた。
そのため、自身の匂いを気にしているのだ。
前も、セリアはそんなことを気にしていたはずである。
「別に、大丈夫だ。俺は、そんなことは気にしない」
だが、俺はそんなことを気にしてはいなかった。
汗なら、俺もかいていたし、そんなに問題があるようには思えない。
「いえ、やっぱり少し離れます。恥ずかしいです」
「そ、そうか……」
しかし、セリアは少し離れてしまった。
俺が気にしているというよりは、セリア自身が気にしているようだ。
ただ、腕一本分くらい間を開けただけなので、そこまでの変化はないような気がする。
「あ、そうだ!」
そこでセリアが声をあげた。
何か、思いついたようだ。
「どうしたんだ?」
「その……今日は師匠の隣で寝てもいいですか?」
「え?」
セリアが思いついたのは、寝る順番の話であるらしい。
あまり、ここで話すようなことではないが、周りに人がいないので、それは気にしないことにした。
「別にいいが、何故それを?」
「久し振りに、師匠に抱きしめられて眠りたいんです」
「ああ、そうなのか……」
「はい。ファラエス隊長の抱き枕もいいんですけど、今日は師匠に甘えたいんです」
どうやら、俺に抱きしめられて眠りたいようだ。
確かに、俺もセリアもファラエスの抱き枕にされてばかりだったので、そのような状況にはなっていなかった。
そもそも、俺がセリアを抱きしめて眠ったのは、セリクと戦う前日だけで、それ以降はそんなことはしていない気がする。
「わかった。それなら、そうしよう」
「はい! お願いします、師匠!」
何はともあれ、今日は、恐らくソーナが抱き枕になるはずなので、問題はないだろう。
何より、今日はセリアのお願いは聞いてあげたいのだ。
「さて、そろそろ、修行に戻るか?」
「あ、はい。わかりました」
そんな話をしている内に、それなりの時間が経っていた。
そのため、俺とセリアは修行を再開するのだ。
その後しばらく、修行は続くのだった。
◇◇◇
セリアの修行が進み、それなりの時間が経った。
俺もセリアも、大分疲労してきている。久し振りということもあり、少しペースを上げ過ぎていたようだ。
「セリア、今日はそろそろ切り上げよう」
「え? でも、まだ時間はありますよ?」
「いや、これ以上はやめておいた方がいい。あまり根を詰めるのもよくないからな」
そのため、俺は修行を切り上げることにした。
セリアの言う通り、いつも帰る時間よりも早いが、これ以上修行するのは、むしろ良くない。
「そういうものなんですね……それなら、わかりました」
セリアも、俺の言ったことを理解してくれ、俺達は修行を切り上げることにする。
「それで、これからどうしましょう?」
「……少し、汗をかき過ぎたし、家に帰るか」
セリアに聞かれ、俺はそう答えた。
このままだと風邪でも引きそうなので、汗を流すべきだと思ったのだ。
「一応、ファラエスにも伝えておこう。勝手に帰ったら、わからないからな」
「あ、そうですね」
俺の提案に、セリアが頷く。
何も言わず帰ると色々な問題があるため、ファラエスには帰ることを伝えておきたいのだ。
こうして、俺とセリアは隊長室へと向かうのだった。




