第64話 隊長とのデート?
俺はファラエスとともに、出かけることになっていた。
既に、セリアとソーナは拠点へと出かけており、俺は玄関でファラエスを待っている。
何やら、出かける準備に時間がかかっているようだ。
「うん?」
そうしてしばらく待っていると、ファラエスが歩いてきた。
しかし、様子がいつもと少し違う。
ファラエスは眼鏡をかけて、髪を後ろに纏めて、ポニーテールのようにしている。
こうするだけで、随分と印象が変わるもので、驚きだ。
「やあ、スレイド」
「……どうしたんだ?」
その意図がわからず、俺は思わず質問していた。
いつもと様子が違うと、少し心配になるものだ。
「ああ、これは変装だよ」
「変装?」
「私は騎士団長の立場上、顔を知られているからね」
「なるほど……」
どうやら、その意図は変装だったようだ。
そういえば、前にファラエスと出かけた時は、困ったことになった覚えがある。
女子に人気のあるファラエスと、俺が歩いていたことで、そのファンから冷たい目を向けられてしまったのだ。
そう考えると、変装してもらえるのは、こちらにとってもありがたいことかもしれない。
周りの視線を気にせず歩けるのだから、気が楽になるからだ。
「有名人は、大変なんだな」
「まあね……」
しかし、一つ疑問がある。
変装して出かけるのが普通なら、前の時は何故してくれなかったのだろうか。
だが、そこまで気になることでもないので、質問するのはやめておく。きっと、何か理由があったのだろう。
「それにしても、結構印象が変わるものなんだな……」
「変装だからね。変わってもらわなければ困るよ」
「ただ、俺から見れば、ファラエスであることは変わらないぞ」
「それは、毎日顔を見ているからだろう。他人は、これだけでも気づかないものなのさ」
ファラエスの変装は、俺にとっては効果がない。
しかし、他人が見れば、ファラエスと気づかなくなる程のものであるようだ。
それは、中々に不思議である。
「……似合っているぞ」
「え?」
「いや、急な変化で驚いたが、似合っているとは思うぞ……」
そこで、俺はそんなことを口にしていた。
先程の反応で、勘違いされるのも嫌なので、そう言っておかなければならないと思ったのだ。
「……そ、それは、ありがとう」
俺の言葉に、ファラエスは少し照れながら、お礼を言ってきてくれる。
嬉しそうなので、言ってよかったとは思う。
ただ、少し変な空気になってしまった。
言った俺も恥ずかしいし、恐らく、言われたファラエスも恥ずかしいのだ。
「そ、そろそろ、行こうか」
「あ、ああ……」
そこで、ファラエスがそう言ってくれた。
言い出しづらい空気だったので、これは助かる。
こうして、俺達は出かけることにするのだった。
◇◇◇
俺とファラエスは、町の中を歩いていた。
そんな中、ファラエスが話しかけてくる。
「スレイド、少しいいかい?」
「なんだ?」
「いや、これから向かう場所の説明をしておこうと思ってね」
どうやら、これから向かう場所の説明をしてくれるようだ。
今まで教えてくれなかったのだが、ここでなのか。
「今日、私達が向かうのは、ぬいぐるみを売っている店なんだ……」
「ぬいぐるみ? ああ、なるほど……」
これから俺達が向かうのは、ぬいぐるみを売っている店らしい。
ファラエスは、可愛いものが好きであり、ぬいぐるみを集めていると聞いていた。
そのため、目的地としてはおかしくはないだろう。
ただ、問題なのは、俺がそこに同行する理由である。
「どうして、俺がそこに?」
「実は、そこで男女で来た人限定でもらえるぬいぐるみがあるんだ。それが欲しくて、君に来てもらったんだ」
「へえ、そうなのか……」
ここで、ファラエスが何故俺を誘ったかがわかった。
男女限定のぬいぐるみが欲しいから、俺を連れて来たのだ。
「……それで、その男女限定とは、カ、カップル限定でね」
「何?」
「だから、その……私とカップルのふりをして欲しいんだ……」
「な、なるほど……」
そこで、ファラエスが男女の内容を掘り下げてきた。
それは、カップル限定であるようだ。
なんだか、一気に恥ずかしくなってきた。
ファラエスも顔を赤くしており、朝のような空気が流れてしまう。
「それで、昨日クレッタにデートなのかと言われた時、言い返せなかったんだ」
「そ、そうだったのか……」
ファラエスは、空気を変えるためか、そんなことを言ってくる。
ファラエスが昨日、クレッタにデートかと言われて流せなかったのは、これが理由だったようだ。流した訳では、なかったようである。
「……その、恥ずかしくて言い出せなかったんだ。すまなかったね……」
「あ、いや、それは別にいいさ。内容を聞かずに引き受けたのは俺だからな」
それを言えなかったのは、恥ずかしかっただけらしい。
そのことについては、まったく構わない。
内容が決まってなくても、ファラエスの言うことなら、大丈夫だと思っていた。だから、何も聞かずに引き受けたのだ。
「あっ!」
「うん?」
そんなことを考えていると、ファラエスが声をあげた。
その視線は、目の前にある店に向いている。
ここが、目的の場所であるようだ。
「スレイド、それじゃあ、カップルのふりをしよう」
「ああ、それはいいが、どうするんだ?」
「……腕でも組んでみようか?」
「腕か……わかった」
俺達は、カップルのふりをするため、腕を組むことにした。
ファラエスが、俺の腕に体を預けてくる。
「うっ!」
「あっ!」
そこで、俺達は同時に声をあげた。
俺の肘が、ファラエスの胸に当たったのだ。
なんとも、心地よい感触。いや、そうではない。
「ファラエス……」
「いや、大丈夫さ。今日のお礼とでも思ってくれていい」
「そうなのか……」
「と、とにかく、行こう……」
ファラエスがそう言うので、このままの体勢で店に入ることにするのだった。
店の中は、雑貨屋のような感じだ。
恐らくは、女の子が来るような店だろう。
「いらっしゃいませ」
俺達が入ってきたのを確認すると、店員らしき女性が声を出した。
「スレイド……」
すると、ファラエスが俺の体を引いてくる。
どうやら、定員の元に向かいたいようだ。
そのため、俺はファラエスとともに、店員の元へと向かう。
「あ、あの、カ、カップル限定のぬいぐるみを……」
「あ、はい。少々お待ちください……」
店員の元まで行くと、ファラエスが緊張しながらそう言った。
すると、店員は奥の方に足を進める。恐らく、そこに限定品があるのだろう。
「……」
「……」
残された俺とファラエスは、特に話すこともなく、硬直していた。
実際に人に見られていると思うと、恥ずかしさが増してしまうのだ。恐らくは、ファラエスも同じような理由だろう。
店員には、早く商品を持ってきてもらいたい。
「はい、こちらになります」
そんな時間をしばらく過ごしていると、店員が戻ってきた。
これで、後は料金を払うだけなのだが、そこで俺は気づく。
俺とファラエスはカップルとして、ここに来ている。
それなのに、ファラエスに払わせるのは、なんだか格好悪い。
「これでいいですか?」
「あ、はい。丁度ですね。ありがとうございます」
「スレイド……?」
そのため、俺はファラエスがお金を出す前に、お金を出していた。
最も、これはクレッタから渡してもらっている給料の前借分だ。そう考えると、やはり格好悪い気がした。
だが、ファラエスに払わせるよりは、いいだろう。
「ありがとうございました。またのご来店を、お待ちしております」
「よし、行くか」
「あっ……」
商品のぬいぐるみを俺が受け取り、驚いているファラエスを連れて、店を出ていく。
店を出ていってから、ファラエスがゆっくりと話しかけてくる。
「スレイド? どういうつもりだい?」
「……まあ、プレゼントみたいなものさ。カップルだったら、こうするだろう?」
「だけど……」
「一応、俺にも見栄を張らせてくれ」
「……そうか。ありがとう……」
ファラエスは少し困惑しながらも、嬉しそうにしてくれた。
その表情を見ていると、自身の行動が正しかったと思えてくる。
「大切にするよ。スレイド……」
「え?」
「ん……」
俺がそんなことを思っていると、頬に柔らかいものが当たる。
それは、ファラエスの唇だ。
つまり、俺はファラエスにキスされたのである。
「何を……?」
「お礼さ。それに、カップルだったら、こうするだろう?」
「い、いや……こんな人目が……」
「安心してくれ。周りに人がいないのは、確認済みさ」
確かに、ファラエスの言う通り、周りに人はいない。
だが、問題はそこではない気がする。
「……まあ、いいか」
しかし、嬉しかったし、そこまで引き延ばす問題ではないので、俺はこれ以上何も言わないことにした。
「それじゃあ、帰ろうか」
「ああ」
こうして、俺は上機嫌になったファラエスとともに家に帰ることにする。
その間も、ずっと腕を組んでいたままだったのは、帰るまで気づかなかった。




