第61話 弟子とメイドにも話すべきこと
俺は、セリアとクレッタを食堂に集めていた。
ソーナに続いて、俺の記憶喪失を打ち明けるためだ。
「スレイドさん、それで話とは……?」
「ボクとクレッタさんに話したいことなんですよね。一体、なんでしょうか?」
「あ、ああ……」
二人に話しても問題ないとは思っているが、いざ話すとなると、それなりに緊張するものである。
だが、いつまでも躊躇っていても仕方ない。
俺は意を決し、口を開く。
「実は、俺の記憶喪失のことなんだが……」
「師匠の記憶喪失……もしかして、何か思い出したんですか!?」
「そうなんですか? それだと、おめでたいことですね」
俺の言葉に、二人がそう言って喜んでくれる。
その態度は、とても嬉しいものだが、これから言うことへの罪悪感が、増幅してしまう言葉でもあった。
だが、ここまできて言わない訳にもいかない。
「いや、違うんだ」
「そ、そうなんですか……それは、残念です……」
「それなら、一体何があったんですか?」
「すまなかった! 記憶喪失というのは、嘘だったんだ!」
俺の言葉に、セリアとクレッタは目を丸くする。
少しの沈黙を挟み、二人はゆっくりと口を開く。
「……ええ!? 師匠、記憶喪失じゃなかったんですか!?」
「あらら!? それは驚きですね……」
やはり、二人とも驚いているようだ。
今まで、本当に心から信じてくれていたことが伝わり、申し訳ない気持ちでいっぱいである。
だが、そんな二人に、俺はさらなる言葉をかけなければならない。
「実は……俺は、こことは別の世界から来たんだ」
「別の世界? 師匠、どういうことですか?」
「はい、よくわかりませんね……」
俺の言葉に、二人は首を傾げてしまう。
こんなことを急に言われて理解できるはずもないので、それも仕方ないことである。
俺にとってその反応は、今まで二回経験したものだ。
そのため、上手く説明したいところだが、未だにこれを完全に理解してもらうにはどうすればいいか、わからない。
なので、俺は出来る限りの説明をする。
「とにかく、世界よりももっと大きなくくりがあって、俺はこことは別の……次元といえる場所から、やって来たんだ」
「次元ですか? なんだか、難しそうです……」
「はい……ですが、わからない訳でもありませんね」
俺の説明は、いつも通り曖昧なものだったが、セリアもクレッタもある程度理解してくれたようだ。
これ以上は、俺も説明できないので、なんとかこれで納得してもらうしかない。
「こんな説明で、大丈夫か……?」
「あ、はい。なんとか……」
「なんとなくですけど、それでいいでしょうか?」
「ああ、それで大丈夫だ」
一応、二人とも理解してくれたようである。
とりあえず、これで一安心だ。
「何はともあれ、師匠が記憶喪失じゃなくて、よかったです」
「ええ、そうですね。なんだか、安心です」
そこで、二人が笑顔でそう言ってくれる。
俺のことをそこまで思ってくれるとは、とても嬉しい。
やはり、二人に話してよかった。
「二人とも、ありがとう。あ、ちなみに、ファラエスとソーナには伝えてあるから……」
「そうなんですね。それなら、家で師匠のお話が聞けますね」
「スレイドさんの昔話ですか……確かに、興味深いですね」
一応、他の二人に話してあることを伝えると、そんなことを言われる。
確かに、これで俺の昔話をしても問題なくなった。それは問題ないが、こちらの世界に来た経緯だけは話したくない。
二人には聞かれなかったが、そこは言っておくとしよう。
「大抵のことなら、話せると思うが……ここに来ることになった経緯だけは、聞かないでくれるとありがたい」
「え? そうなんですか?」
「まあ、誰にでも話したくないことの一つや二つくらいありますからね」
「そう……ですよね。わかりました、その話は聞かないことにします」
「ああ、ありがとう……」
俺の言葉に、セリアは少し違和感を覚えたようだが、クレッタの言葉でそれも気にしないでくれる。
俺にとっては、とてもありがたいことだ。クレッタにも、感謝である。
これで、二人にも大体のことは話せただろう。いつまでも拘束しているのは悪いので、話を終わらせることにする。
「それじゃあ、俺から話したいことは、これで終わりだ。これからも、よろしく頼む」
「はい!」
「ええ、よろしくお願いします」
こうして、俺の秘密は、この家の住人全員に伝わるのだった。
◇◇◇
セリアとクレッタに真実を話し、二人が食堂を去った後、俺は食堂を出ようと思っていた。
だが、そんな俺に声がかけられる。
「スレイド」
「うん? ファラエス? どうしたんだ?」
声をかけてきたのは、ファラエスだった。
俺に何か用があるのだろうか。
「……少し話がしたくてね」
「別に構わないが、なんの話だ?」
「とりあえず、座ろうか」
「ああ」
ファラエスに言われ、俺は椅子に座る。
すると、ファラエスもその隣の椅子に座ってきた。
そして、ファラエスはゆっくりと口を開く。
「皆に……君の事情を話したようだね」
「ああ、知っていたのか」
「ソーナから聞いてね」
ファラエスが最初に話したのは、そんなことだった。
俺も、皆に話したことを伝えなければならないと思っていたが、既にソーナから聞いていたようだ。
「ソーナが色々と気にしていたから、話すことにしたんだ。それで、ソーナに言われて二人にも話すことになったんだ」
「なるほど……確かに、三人になら話しても問題なかっただろうね。いい判断だと思うよ」
俺の言葉に、ファラエスは笑顔で頷く。
ファラエスから見ても、俺の判断は間違っていなかったようだ。
もちろん、最初から話しても大丈夫だと判断していたが、ファラエスからそう言われると、とても安心できる。
「そもそも、そういうことは私も考えておくべきだったね。すまなかった」
「いや、そんなことはないさ」
「だけど、私しか知らなかったのだから、もっと気に掛けておくべきだったよ」
そこで、ファラエスが謝ってきたので、俺は困惑してしまう。
確かに、ファラエスしか俺の真実を知らなかったが、それについて責任などあるはずもない。
「いや、俺のことなんだから、俺が判断するのは当然だ。そんなに悔やまれると、俺の方が申し訳なくなる」
「……そうか、それはすまなかった。考えを改めよう」
俺の言葉でファラエスも理解してくれたらしく、そう言ってくれる。
その方が、俺にとってはいいのだ。
「それで、話したいことはそれだったのか?」
「あ、いや、実は頼みたいことがあってね……」
「頼みたいこと? 一体なんだ?」
ファラエスの話はそれだけかと思ったが、違うようだ。
頼みたいこととは、一体なんだろうか。
もしかして、また騎士団長の仕事を手伝って欲しいとかかもしれない。
「明日、私と一緒に、ある場所に行って欲しいんだ」
「ある場所? なんだ? 騎士団の任務か何かか?」
「いや、これはプライベートなことだよ」
「プライベートなこと?」
「ああ、個人的なことなんだ」
俺の予想に反し、ファラエスの頼みごととは、騎士団に関係がないものだった。
しかも、内容をあまり教えてくれないので、まったく予想できない。
だが、ファラエスのことなので、変な場所に行く訳ではないだろう。そのため、俺は提案を受け入れることにする。
「よくわからないが、いいぜ」
「ありがとう……」
俺の言葉に、ファラエスは笑顔を見せた。
一体、明日はどこに行くというのだろうか。
「さて、それでは、私はそろそろ部屋に戻るよ」
「ああ、俺も部屋に戻るから、途中まで一緒に行こうぜ」
「ああ、構わないよ」
こうして、俺はファラエスとともに部屋に戻るのだった。




