第60話 副隊長に話すべきこと
俺はクレッタと分担して、歓迎会の片づけをしていた。
クレッタが洗い物、俺が飾りつけの片付けという分担である。
そんな中、部屋で休んでいたはずのソーナが食堂に来た。
何やら、落ち着かないらしい。
そこで、俺はソーナの話し相手となることにしたのだ。
「でも、歓迎会まで開いてくれるなんて、本当に嬉しかったわ」
話の中で、ソーナがそんなことを言ってきた。
そう思ってもらえたなら、準備した甲斐があったというものだ。
「あんな風にケーキまであって、まるで誕生日のようだったわ」
「誕生日か……」
ソーナの言葉は、俺にも理解できるものだった。
山に籠っていた俺だが、誕生日の日には、師匠がケーキを買ってきてくれたものだ。
思えば、師匠達は俺にそういう一般的な価値観を教えてくれていた気がする。おかげで、ある程度の常識は身につけられているのだ。師匠達に感謝しなければならない。
「あ、ごめんなさい。あなたはそういうことを、覚えていないのよね……」
「うん? ああ……」
そこで、ソーナが申し訳なさそうにそう言ってくる。
そういえば、俺は記憶喪失という設定だったのだ。あまりに、誰からも触れられないため、忘れていた。
これ以上、心配してもらうのは申し訳ないので、ソーナには真実を話すことにしよう。元々話すつもりだったので、丁度いい。
「ソーナ、実はそのことで、話したいことがあったんだ」
「え? 何か思い出したの?」
「いや、そもそも、俺が記憶喪失というのは、嘘なんだ」
「……え?」
俺の言葉に、ソーナは目を丸くする。
だが、俺はこれからもっと衝撃的なことを、ソーナに告げなければならない。そもそも、信じてもらえるかわからないが、言ってみることにしよう。
「俺は、こことは別の世界から来たんだ」
「……別の世界? どういうこと?」
「こことは、全く別の……次元とでもいえるかな? まあ、俺もよくわかっていないんだが……とにかく、記憶がないという訳ではないんだ」
「……少し考えさせてもらえるかしら?」
俺の言葉に、ソーナは困惑していた。
いきなりこんなことを言われて、納得しろという方が無理なので、この反応は当然だ。
当事者の俺でさえ、よくわかっていなのだから、他の人はなおさらわからないだろう。
「……なんとなくだけど、わかったわ」
俺がそんなことを考えていると、ソーナがそう言ってきた。
どうやら、自身の中で理解してくれたようだ。俺は説明が下手なので、こういう風に理解してくれるのは、ありがたい。
「とにかく、あなたは記憶喪失ではなかったのね……」
「ああ、すまなかった。今まで、騙してしまって……」
「別に構わないわ。これを言われても、前の私は信じなかったでしょうし……」
俺が謝罪すると、ソーナは笑顔で許してくれる。
信じてくれたし、許してくれたし、一安心だ。
「というか、あなたはなんでこっちの世界に来たの? 何か、理由でもあるのかしら?」
「あ、いや……」
そこで、ソーナからそんな質問が投げかけられる。
それは、あまり聞かれたくないことだった。
俺がこちらに来ることになった経緯は、あまりいいものではない。そのため、話したくなかったのだ。
「色々あったんだ……」
「……そうなのね。それなら、いいわ。あまり、話したくなさそうだし……」
「ああ……」
ソーナは、俺の態度で察してくれたのか、それ以上追求しなかった。
なんとか誤魔化そうと思っていた俺にとって、これはありがたい。
「……なんだか、色々と衝撃だったけど、納得できる部分もあるわね……あなた、記憶喪失にしては、色々とおかしかったもの……」
「まあな……」
俺が記憶喪失ではないことを理解して、ソーナはそんなことを言ってきた。
確かに、俺は記憶喪失では覚えていないはずのことを言ったりしていた気がする。だが、それも仕方ないことなのだ。なぜなら、俺は記憶喪失ではないのだから。
「ところで、それって皆には教えているの?」
そこで、ソーナがそんなことを聞いてきた。
確かに、それは気になるかもしれない。
「ああ、ファラエスには言ってあるぞ。他には、誰にも言っていないな。気にされたこともないし……」
「そうなのね……」
そういえば、このことはソーナ以外には、ファラエスにしか教えていなかった。そもそも、ソーナくらいしか気にしていなかったことだ。
「それなら、安心だけど、一応、セリアやクレッタさんには話しておいた方がいいんじゃないかしら? 一緒に暮らしているし、知ってもらっていた方が、都合もいいと思うわ」
俺の言葉を聞いて、ソーナはそう言ってくる。
セリアやクレッタに話すのも、考えていなかった訳ではない。ただ、二人は俺の記憶喪失について、そこまで言及してこないので、いいかと思っていたのだ。
だが、ソーナにも話したことだし、二人にも話すべきなのかもしれないな。
「ああ、確かに、その二人には話してもいいかもな……」
「二人とも、あなたの言うことは信じてくれるだろうから、思い切って話すのね」
「そうだな」
ソーナの言う通り、セリアやクレッタが信じてくれないということはないと思う。
やはり、二人にも話すとしよう。きっと、悪いことにはならないはずだ。
「さて、私はそろそろ、部屋に戻るわ」
俺が決意していると、ソーナがそう言ってきた。
どうやら、部屋に戻るようだ。
「もう、落ち着けたのか?」
「ええ、あなたのおかげよ、ありがとう」
「いや、それならよかった」
俺との会話で、きちんと落ち着くことができたらしい。
それなら、ゆっくり休むことができるだろう。
「それじゃあ、頑張って」
「ああ」
こうして、ソーナは部屋に戻り、俺は片づけを続けるのだった。
◇◇◇
ソーナが部屋に戻ってからしばらくして、食堂の片づけが終わった。
「あ、スレイドさん、丁度終わっていたんですね」
その終わった直後くらいに、クレッタが部屋に入ってくる。
「ああ、終わったぜ。そっちはどうだ? 終わってないなら、手伝うけど……」
「こちらも終わりましたので、ご安心を。これで、歓迎会の片付けは終了です。お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様……」
どうやら、クレッタの方も片付け終わったらしい。
これで、歓迎会の片付けは完了だ。なんだか、それなりに疲れた気がする。
「スレイドさんのおかげで、色々と助かりました。今日は、本当にありがとうございました」
そこで、クレッタがそう言って、俺に感謝してきた。
クレッタに頼り切りだったため、そんなに助けられたかは怪しいが、そう言ってもらえるなら、大丈夫だったということだろうか。
「そう言ってもらえるなら、よかった。あまり戦力になれていないと、心配していたくらいだからな……」
「いえ、充分戦力になっていたので、大丈夫ですよ」
不安を感じていた俺に、クレッタはそうはっきりと言ってくれる。
それなら、きっと大丈夫なのだろう。
「さて、後はお風呂に入って、眠るだけですね」
「ああ、そうだな」
こうして、歓迎会の片付けまでも終わるのだった。
「あ、そうだ」
「はい? どうしたんですか?」
そこで、俺はソーナに言われたことを思い出す。
自身の記憶喪失を、クレッタに話さなければならないのだ。セリアにも話さなければならないので、ここは一緒に聞いてもらおう。
「クレッタ、実は話さないといけないことがあるんだ。セリアと一緒に聞いて欲しいんだが、時間をもらえるか?」
「はい? 構いませんけど……」
「それじゃあ、セリアを呼んでくるから、少し待っていてくれ」
「はい……」
俺の言葉を、クレッタは了承してくれる。
これで、後はセリアを呼ぶだけだ。
そのため、俺はセリアを呼びに向かうのだった。




