第53話 試合後の疑問
「スレイド! 大丈夫か!?」
「師匠、大丈夫ですか!?」
ノワールとの戦いが終わった後、セコンドのディオンとセリアがそう声をかけてくれる。
戦いの中で、ほとんどかき消されてしまっていたが、二人が応援してくれていたことだけはわかっていた。このように、迎えてくれることも含めて、二人には感謝の気持ちしかしかない。
「ありがとよ、でも大丈夫だ。今回は、大した傷は負っていないしな」
「そうか、それならよかった」
「師匠が無事で、何よりです!」
ディオンもセリアも、俺の言葉に安心したような表情をする。
やはり、二人とも優しいのだ。
「とりあえず、中に入ろうぜ。話はそれからでもできる」
「そうだね、そうしようか」
「はい!」
俺はそう言って、入り口から戻っていく。
すると、前方に見知った二人の人物が見えた。ファラエスとソーナである。
二人とも、試合が終わった後、すぐにこちらに来てくれたようだ。
「スレイド!」
俺がそんなことを考えていると、ソーナが駆けて来ていた。
本日の当事者なので、色々と心配だったのだろう。
「ソーナ、約束通り、勝って来たぜ?」
「ええ、スレイド、本当にありがとう……」
ソーナは目に涙を浮かべながら、そう言ってきた。
喜んでいるようで、何よりだ。
「スレイド、無事で何よりだよ」
ソーナから少し遅れて、ファラエスもそう言ってくれる。
前回の試合は、色々迷惑をかけてしまったため、今回はあまり傷つかずによかった。
「ああ、ありがとう、ファラエス」
「だけど、ちゃんと医務室に行くんだよ」
「ああ、わかっている」
もちろん、医務室にはちゃんと行くつもりだ。
外傷はないが、どこにダメージがあるかなどはわからないものである。念のため、医療のプロに任せるべきだろう。
何より、とても疲れているので、休みたい気分である。
「それじゃあ、早速、医務室に向かわせてもらおうか……」
「一人で大丈夫かい?」
「ああ、問題ない」
こうして、俺は控室に向かうのだった。
◇◇◇
俺は医務室から出た後、廊下を歩いていた。
ある人物を探すためである。しばらく歩いていると、その人物が発見できた。とりあえず、声をかけてみることにしよう。
「オルフィーナさん」
「……スレイドさん、お久し振りですね」
その人物とは、ソーナの姉であるオルフィーナさんである。
彼女には、聞いておきたいことがあったのだ。
「見事な戦いでした、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
オルフィーナさんは、俺に笑顔でそう言ってきた。
だが、少しだけ元気がなさそうである。
オルフィーナさんは、ソーナとノワールの結婚話を進めていた側の人間だ。そのため、俺の勝利が嬉しくなくても当然かもしれない。
しかし、そこは俺の気になっている点の一つでもある。
「私に、何かご用でしょうか?」
「ええ、実は聞きたいことがあるんです」
「はい、なんでしょうか?」
俺は、オルフィーナさんに聞きたいことがあった。
「あなたは、一体何を考えていたんです?」
「何を? それは、どういうことですか?」
オルフィーナさんの態度には、前々からいくつか疑問があったのだ。
最初に会った時は、ソーナのことが好きでたまらないという感じだったが、次に会った時は、結婚の話を淡々と進めていた。
それが、どうにも引っかかってしまっていたのだ。
「俺にはあなたが、ソーナの結婚話を淡々と進めるような人には、どうも思えないんです」
「……」
「こちらに来たのが、それが目的だなんて、ソーナ思いのあなたが考えるような人ではないはずでしょう? だから、一体何を考えていたのか、気になってしまったんです」
「ふふ……」
俺の問い掛けに、オルフィーナさんは笑う。
「あなたになら、打ち明けてもいいのかもしれませんね。恐らく、全てわかっているのでしょうし……」
それは、諦めの合図だったのかもしれない。
どうやら、オルフィーナさんは、全て話してくれるようである。
「確かに、私がこちらに来たのは、ソーナの結婚話を進めるためではありません。むしろ、その逆です」
「つまり、ソーナの結婚話を止めるため、ということですか?」
「はい、やはり、わかっていたんですね」
やはり、俺の予想通り、オルフィーナさんの目的はそちらだったようだ。
ソーナが大好きなこの人が、嫌がっている婚約を進める訳がないのである。
「つまり、最初から俺とノワールを戦わせて、婚約を破棄しようとしていたってことでいいんでしょうか?」
「ええ、そうです。婚約を取り下げるには、ノワールさんから提案してもらわなければならないので、少々誘導させてもらいましたが……」
オルフィーナさんは、自身の作戦を成功させるために、色々としていたようだ。しかし、そこにはある問題があったはずである。
「もし俺が負けたら、どうするつもりだったんです?」
「その時は、別の手を考えるまでです。色々と手は回してありますから」
「なるほど……」
オルフィーナさんは、色々と入念に計画しているようだった。
この人のソーナに対する愛情は、そこを知らないようである。
「あなたを利用したことについては、謝ります。すみませんでした」
「いや、それは別に構いません」
「そうですか、聞いていた通り、寛大な方ですね」
俺がオルフィーナさんにこのことを聞いたのは、謝罪して欲しかったからではない。
なぜなら、仮に俺が全てを知っていたとしても、同じことをしたからだ。つまり、何も変わらなかったということである。
「しかし、一つだけ気になることはあります」
「なんでしょう?」
「どうして、ソーナには何も言わなかったんですか?」
「そのことですか……」
オルフィーナさんの計画は、ソーナに何も伝えられていなかった。ソーナの様子は、計画を知っている風ではなく、普通に心配し落ち込んでいたのだ。
オルフィーナさんが、何故ソーナに知らせなかったのか。それは、気になっているところである。
「私のしていることは、褒められたことでありません。だから、ソーナに知られる訳にはいかなかったのです」
「……それで、ソーナに全てを秘密にして……」
確かに、オルフィーナさんのやっていることは、あまり褒められたことではない。
それを、ソーナに教えたくなかったというのも、理解できる。
だが、俺には、どうしても納得できない問題があるのだ。
「それで、自身が嫌われても、いいということですか?」
「……はい、そうです」
俺が問題に思ったのは、その部分である。
結婚の話をしている時、姉妹の雰囲気はとても悪かった。その後も、ソーナは家に帰らず、俺達の家にいたのだ。姉妹の仲が拗れているといっても、過言ではないはずである。
それが、俺にはまったく理解できなかった。
ソーナのために、これだけしているオルフィーナさんが、本人から嫌われてしまうなど、いい訳がない。
「私は構わないのです。ソーナが幸せになるなら、私が嫌われてもいいのです」
「……そんなことで、いいはずがないでしょう」
「スレイドさんにも、納得して頂かないと困ります。このことをあなたの口からソーナに伝えられてしまったら、意味がなくなります」
「それは、無理ですね……」
俺は、オルフィーナさんの言ったことをすぐに否定する。
なぜなら、もう遅いからだ。
「そうだろう? ソーナ!」
「……ええ」
俺が呼びかけると、物陰からソーナが飛び出してくる。
「お姉様……」
「ソ、ソーナ!? どうしてここに?」
ソーナが現れたことで、姉妹の対話が始まろうとしていた。




