第21話 四人での昼食
俺はソーナとの話を終えて、玄関に向かっていた。
隣には、ソーナもいる。というか、彼女を送るために、玄関に向かっているのだ。
ソーナを送ったら、当初の目的通り、庭で素振りでもするとしよう。
俺がそう思っていると、廊下にとある人物が立っていた。
その人物は、こちらを認識すると、笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「ソーナ、来ていたのか」
「ファ、ファラエス隊長! お邪魔しています!」
それは、我らが四番隊隊長のファラエス。この家の主である。
ソーナが来ていることは、伝えていなかったため、少し驚いているようだ。
「来ているなら、言ってくれればよかったのに……」
「あ、すみません」
「あ、責めている訳じゃないんだ。ソーナのことも心配だったからね。顔を見ておきたかった」
「え!? それは、ありがとうございます……」
ファラエスは、そんな風にソーナに笑いかけていた。
この様子を見て、俺は益々ソーナの心配など必要ないと思ってしまう。こんな楽しそうな態度で接しているのに、嫌いというのは考えにくい。
むしろ、ファラエスはソーナのことを気に入っているのではないだろうか。少なくとも、俺からはそう見える。
「そうだ。せっかくだから、一緒にお昼にしないかな?」
「え、いいんですか?」
「もちろん、クレッタに話を通してくるから、少し待ってくれるかい?」
「あ、はい! お願いします!」
そう言って、ファラエスはクレッタの元に向かっていく。
ソーナは目を輝かせながら、それを見つめていた。
「どうやら、帰るのはもう少し先になりそうだな」
「あ、ええ、そうみたいね……」
俺が話しかけると、ソーナは照れながらそれに答える。
その様子を見て、俺の心には一つの疑念が生まれた。
「なあ、もしかしてお前……」
「うん?」
「ファラエス隊長のことが……好きなのか?」
「はあっ!?」
俺の言葉に、ソーナは顔を赤くする。
ファラエスは、女の子から慕われるタイプだ。そのため、ソーナもそうなのかと思ったのだが、この反応はどうなのだろうか。
「ち、違うわよ! ファラエス隊長のことは尊敬しているけど、そういう対象として見たことはないわ!」
「そ、そうか……」
どうやら、違ったようだ。
「まったく……びっくりするようなこと言わないでよ」
「……すまん」
そんなことを話している内に、ファラエスが返ってきた。
「……どうかしたのかい? 二人とも?」
少し怒ったようなソーナと、落ち込んでいる俺を見て、ファラエスはそんなことを呟く。
「なんでもないです」
「なんでもない……」
「……うん? まあ、いい。クレッタに話を通したから、皆でお昼だ。少し時間があるから、それまで話でもしておこう」
そういう訳で、俺の特訓は延期となった。
◇◇◇
俺とファラエス、ソーナ、セリアの四人はテーブルを囲んでいた。
しばらく待っていると、クレッタが料理を運んでくる。
「いやー、お待たせしました、皆さん。今日も、腕によりをかけて作りましたよ。どうぞお召し上がりください」
クレッタは、満面の笑みを浮かべながらそう言った。何故かわからないが、心なしか嬉しそうだ。
「クレッタ、嬉しそうだね」
ファラエスも同じことを思っていたようで、そんなことを聞いていた。
クレッタは、少し照れながら、それに答える。
「はい、人が多いと嬉しいんです。料理はたくさんの人に食べてもらえますし、それに……」
「それに……」
「お嬢様も楽しそうですから……」
「あっ……」
どうやら、クレッタが楽しそうなのは、ファラエスが楽しそうだからという面もあるようだ。
それを受けて、ファラエスは顔を赤くする。
「そうか……ありがとう。私も、クレッタが楽しそうだと、嬉しくなるよ」
「そうですか? えへへ、ありがとうございます」
ファラエスとクレッタは、照れながら笑い合った。
ずっと二人で暮らしてきたからこそ、通じ合う何かがあるのだろう。
「あ! 皆さん、すみません。今、料理を並べますね」
クレッタはそう言って、料理を並べていく。
「それじゃあ、皆食べようか。頂きます」
「ああ、頂きます」
「い、頂きます……」
「頂きます!」
各々ファラエスの合図に続いて手を合わせ、俺達の食事は始まった。
◇◇◇
食事の席は、ファラエスと俺が隣でその正面に、ソーナとセリアがいる形となっている。
そんな中、ソーナがセリアに話しかけていた。
「セリア、頬にソースがついているわ」
「え!? 本当ですか!?」
「とってあげるわ。じっとしていて……」
そんな感じで、ソーナがセリアに世話を焼いているのだ。
「ふふ、ソーナもセリアのことは気に入っているんだ……」
「へえ……」
俺の心を読んだかのように、隣のファラエスがそう言ってきた。
どうやら、俺の弟子は人気者のようだ。
まあ、素直で可愛らしいし、当然のことだろう。
「はい、とれたわよ」
「ありがとうございます、ソーナさん」
「うん?」
そこで俺は、違和感を覚えた。
セリアは、ファラエスのことは隊長呼びだったはずだ。それなら、ソーナも副隊長呼びするのではないだろうか。
俺がそう疑問に思っていると、隣のファラエスがまたも心を読んだかのように言葉をかけてくれる。
「ソーナが副隊長になったのは最近なんだ。セリアとは、それ以前から親交があったから、あの呼び方なのさ……」
「なるほど……」
ソーナは、最近副隊長になったのか。
つまり、結構不安定な時期だったわけだ。あんな風になったのには、それも関係あったのかもしれない。
「あ、ごめんなさい。ソーナ副隊長でしたね」
「いいのよ、そんなこと」
セリアも、自分の呼び方に気づいたようで、そう訂正しようとする。
しかし、ソーナは笑顔でそれを制した。そして、何故か俺の方に視線を向けてくる。
「あなたの師匠なんて、私のことを呼び捨てにしているくらいだもの。さん付けで、気を悪くしたりしないわ」
「あっ、その……」
ソーナの言葉で、セリアは少し困惑していた。
ソーナに賛同すると俺に失礼になり、反対するとソーナに失礼になるとでも思ったのかもしれない。とにかく、返答に困ったのだろう。
「あ、違うのよ……」
その様子に、今度はソーナが困惑し始めた。
恐らく、冗談くらいのつもりで言ったのだろう。それで困惑されたので、困ったといったところか。
「別にあなたの師匠を悪く言ったつもりはないわ。確かに、最初は不快だったけど、今はむしろ心地よいくらいというか……」
「え? 心地よいですか……?」
「……いえ、なんでもないわ。気にしないで……」
「あ、はい……」
ソーナは、そんなよくわからないことを言い、セリアをフォローした。
俺の呼び捨てが、心地よかったのか。
「……あ!」
そこでソーナは、俺の方を見てきた。
先程の心地よいという言葉を、訂正でもするのだろうか。
「……ええと」
だがソーナは、何も言わなかった。特に、言い訳が見つからなかったようだ。
それはそれで、気まずいのでやめて欲しい。
「あはは……まあ、スレイドに気軽に呼ばれたいという気持ちは、私にもわかるよ」
その時、ファラエスが言葉を放った。
ソーナに共感することで、彼女の恥ずかしさを緩和しようとしたのだろう。しかし、それは駄目だった。
「え? スレイドって、ファラエス隊長も呼び捨てなんですか?」
なぜなら、俺はソーナの前では一応隊長をつけて呼んでいたからだ。
「あ、うん、そうだよ」
「スレイド、いくらなんでも失礼じゃないかしら?」
「ソーナ、いいんだ。それは、私から頼んだことだから……」
だが、とりあえず、ソーナの恥ずかしさの緩和には成功したので、これで良かったのかもしれない。
そんな感じで、四人での昼食は続いていった。




