第2話:文化祭実行委員
次の日、僕は学校の文化祭の準備に追われていた。
まだ風邪も治り切らず、マスクを着けて咳を常にしていた。
頭もボーとするし、このまま帰ろうかとも思ったが、そうはいかない…。
何故なら僕は文化祭実行委員だ。
一年に一回の見せ場、くすぶっていた僕のイマジネーションが大活躍出来る時なのだ。
僕のクラスは舞台をやる事になっている。
そう僕が提案したのだが、思いの他みんな乗り気ですんなり決まった。
舞台でやる脚本もすでに決まっていて、実は僕が考えたオリジナルだ。
笑う事も泣く事も出来ない心を失った女の子が、人々の触れ合いの中で徐々に自分を取り戻してゆくという、そんな話しなのだが…
始めの内この話しは賛否両論分かれて何度も没をくらった。
だけど没をくらう度書き直してようやくみんなに認められるぐらいに仕上がったのだ。
今にして思えば最初の頃の脚本は最悪だった。
みんなが意見を出し合ってより高められた今のストーリーの方が、僕だけじゃ決して作れなかった想像性や夢に満ちていた。
きっと良い文化祭になる、そう僕は確信していた。
「おいシズ!
しっかり持てっ!」
突然親友が叫んだ。
ちなみに【シズ】と言うのはこの僕、静谷信人の愛称だ。
ガタンッという音がなって気が付いた時には教室に運ぼうとしていた大道具の材料が親友の弁慶の泣き所にメリ込んでいた。
ちょうど階段を下りる所で僕が上で親友が下になって二人で角材を持っていた。
僕が落としてしまった事でその重みに耐え切れず親友も手を離してしまい、角材が階段を滑るようにして親友に牙をむいたのだ。
その事を状況を見て、たやすく想像する事が出来た。
「だ、大丈夫かカガリ…?」
ちなみに【カガリ】と言うのは僕の幼なじみで親友の加賀陸男の愛称だ。
カガリは怒ってる。
「痛っ…!
大丈夫かぁ!?
そりゃこっちの台詞だ!
風邪引いてフラフラなんだから無理すんなよ!
他の奴呼ぶからおまえは先に教室で待ってろ!」
カガリは怒りながらも僕を気遣ってくれた。
そんな奴だからこそ今でも親友でいられるんだと改めて思った。
「僕は大丈夫だから
脚本の仕事だけじゃなく、僕もみんなの役に立ちたいんだよ」
そう言って僕は笑った。
カガリがやれやれといった感じで一つため息をついた後、僕たちは再び角材を持ち上げた。
すると僕はまたしても頭がクラクラとしだして前乗りにつまずいてしまった。
「ぐはっ…っ!!」
カガリの悲痛な叫び声が聞こえた。
気が付いた時には今度はカガリの溝落ちに角材が減り込んでいた。
「…僕は大丈夫だから」
そう言う僕にカガリは冷たい目をして、首を右にクイッと振って『教室に帰れ』の合図を送った。
もうこの言葉は通用しないようだった…。
―つづく―