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<どんなコースを走っているの?>
本文最後に『コース図』というジムカーナ会場で配れれるものと同様の画像を添付しました。
走行場面と照らし合わせながら読んで頂けると幸いです。
愛心学院自動車部員は一同、パドックを離れコース全体を見渡せる観戦エリアに移動していた。正確には愛心だけではない、出走を控えた車両と一部のサポートメンバーを除いて殆どの関係者が観戦エリアに集まっている。
理由は他でもない、優勝候補筆頭である聖城女学院のエースドライバー、龍泉寺華蓮の走行順が迫っていたからだ。
「ふふ、皆様大勢観戦エリアにお集まりですわ。これはみっともない走りをする訳には参りませんね」
スタートラインで出走合図を待っている間、華蓮は特に気負うでもなく一つ大きく息をついて心を落ち着ける。
「3!2!1!GO!」
スタートフラッグが切られる。華蓮はアクセル開度を一定に保ちながらクラッチを徐々に繋ぎサイドブレーキを下ろす。エキシージのリアがグッと沈み、タイヤを空転させることなく滑らかに動き出した後、力強く加速を開始した。
1速から2速へ、続いて右のカットインコーナーは軽くアクセルを戻しパイロンの設置された左コーナーへ2速のまま進入する。軽いテールスライドを伴いながらも全くカウンターステアを当てることなく美しいコーナリングを描きながら直進体勢へ移行する。
「速いな」睦美が呟く。
「でもまだ全然余裕有りそうよね」響子の問いかけに睦美は無言で頷く。
しかしここまではまだほんの序の口、一同を驚嘆させたのは外周を抜けたあと、3速全開から一気に減速し進入するスラロームエリアだった。見た目は地味だが減速と進入を同時に行わなければならず、車体が不安定になりやすい非常に厄介なエリアだ。
華蓮のエキシージは3速、2速、1速とストレスの無いヒールアンドトゥ(※つま先でブレーキを踏んだままかかとでアクセルをあおり、シフトダウンの際に生じるエンジンとミッションの回転差を無くし、クラッチミート時のエンジンの回転上昇やタイヤの空転、それに伴う振動を抑えるテクニック)を駆使し何事もなく減速を終え、パイロンの隙間を縫うようにクリアしていく。
「うわ、反則だぜ・・・あのスピードで抜けれるか?」
思わずひとみが声を漏らしたが他の誰もが同じ心境だろう。
CR-Xのような前輪駆動車では、減速時にかかる横Gでリアタイヤのグリップに気を付けなければならない箇所だ。
しかしミドシップ車であるエキシージはリアに荷重が残るため安定しやすい。さらにCR-Xと比べてもさらに低い重心を活かし、明らかに少ないロール(※ステアリングを切った際に生じる車の左右の傾き)量で他の車では考えられない速度で駆け抜けて行ったのだ。
とは言えエキシージにも弱点が無いわけでは無い。ジムカーナにおける最重要テクニックに『サイドターン』というものがある。
これはサイドブレーキを使い後輪をロックさせる事により、その車の最小回転半径より遥かに小さい半径で180°や360°、場合によってはその場で2回転など車を素早く回転させるテクニックである。
実はエキシージ、このサイドブレーキの効きが悪いのだ。コースの設定によっては非常にターンが難しいケースも有る。
そしてもう一つ、エキシージにはパワーステアリングが装備されていない。フロントが軽いミドシップ車であるため、通常走行時はさほどデメリットを感じないが、低速度域やブレーキング時などはフロントに荷重がかかりステアリングの重さが増す。サイドターンの時はステアリングを素早く回すことが多く、女性ともなれば腕にかかる負担は決して軽いものではないのだ。
しかしそこは聖城女学院のエース龍泉寺華蓮である。今回のテクニカルエリアがそれほど難しい設定では無かったこともあり、無難にまとめてゴールした。
「ただいまのタイム、1分1秒593です」
計測タイムを知らせる場内アナウンスが響き渡る。本日の最速タイムであり、ひとみのレコードタイムが約1秒更新された。
観客、いや主に他の参加選手達から驚きとため息の混じり合ったような微妙な声がもれる。それほど圧巻の走りとタイムだったのだ。
「しっかりビデオ撮ったからあとで比較解析しよっか?」
重苦しい空気を振り払うかのようにまどかが切り出した。
「ま、比較ったって向こうがまんべんなく速いって事しか分からないだろうけどな!あ、でも最後のテクニカルは絶対私の方が速いけどね!」
ひとみの負けん気に一同に思わず笑みがこぼれる。
「さて、私たちも戻って準備しますか!」
「待って、あれを見てからにしましょう」
響子の視線の先を確認すると全員が頷いて再び席についた。
ジムカーナはサーキットだけでなく大きな駐車場のようなフリースペースといった安全で広いスペースで行われます。現在メンバーが走っている『キョウエイドライバーランド』は自動車教習所のようなレイアウトを持った全国でも珍しいコースです。
今回は『コース図』と呼ばれる実際にジムカーナを行う時に配られるものを添付しました(雑ですみません!)。
これだけでどのように走っているか想像するのは経験者でなければ難しいと思いますが少しでも想像の手助けになればと思います。