表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

師匠の鬼術師

勇人たちが駐在所に着く前に読夜は神社に着いた。


風が吹くたびに葉のこすれる音があたりを響かせる。


読夜はこの音が大好きで、聞くたびに目を瞑り耳を澄ませている。この世界には自分1人しかいないと思わせるほどである。


四角いカードのような手鏡を出すと二股の持ち手についているくぼみに勾玉をはめ込む。神社に向けて手鏡を持っていると自分の姿が映っていた鏡は波紋が広がるとガラスのように透けて神社が映し出された。



「いるいる。大蛇がこちらを見ている」



鏡には神社が映っているが黒い靄が覆っており、黒く長いモノのシルエットが映っている。


手鏡をポケットに入れると本殿に向かって歩き出す。



「1年前はおとなしく封印されていたのによっと」



本殿の扉を開ける。埃っぽくてカビ臭いせき込みながら中に入ると部屋の中心に古びた壺が置いてあった。


壺は色がはがれひびが入っていて年代物とわかるがなぜかそれが異質で寒々しい雰囲気が感じられる。


近くに蓋が無造作に落ちている。



「札が剥がれている。誰が外したんだ」



壺をのぞき込むと底には何もなく苔が張り付いている程度であるが、何かの視線が感じる。


読夜は落ちている蓋を取りそのまま壺にかぶせる。ポケットから1枚の札を取り出し、蓋に張り付けようとするが静電気のような火花が飛び散り、札が燃えてしまう。



「抵抗力は人一倍に戻っているな。面倒なことだ」



蛇だから匹一倍かなどとおかしなことを考えたのち、今度は複数の札を出して蓋ではなく壺に貼っていく。


壺は抵抗するように火花を散らしながら震えていたがだんだんと動きが止まる。



「数十枚使って大人しくなるのか…ん」



壺がまた震えだす、札を燃やすどころか壺が壊れるぐらいの激しい震えで、壺が本殿の奥の方に転がりだす。


転がった先には四角い鏡が立てかけられていた。



「逃げる気か」



鏡のところには木の壁に囲まれていて本殿から出られそうなのは読夜が通った出入口しかない。


壺は勢いが緩むことなく鏡に激突した、いや激突という表現より吸い込まれていった。


壺を吸い込んだ鏡は破片が飛び散ることなく、水たまりに小石を投げ込んだようにゆったりとした波紋が広がっている。



「異界に行きやがったか。面倒なことになった」



鏡の読夜の足元には壺が映っているが、実際には読夜の足元には何も映っていない。


異界は魑魅魍魎が存在している世界で、妖が現世にやってきては人間に危害を加えている。


ズボンのポケットから手鏡を取り出した。



「今回の事件も骨が折れそうだ」



手鏡を鏡にかざすと読夜の体は鏡に吸い込まれ、本殿には誰もいなくなった。


生ぬるい風が頬をなでる。日が入りにくい空間だとしても木の劣化による亀裂で一滴の隙間から入る光で少しは明るさを感じることができたが、この異界では光どころか生命の息吹も感じることができない。


暗い本殿から出ると空は赤暗く、浮かんでいる月は金色に輝いている。



「観念した。というわけではなさそうだな」



石畳には追いかけている壺が不自然に置かれている。読夜は手鏡の感触を確かめるように握ると壺に近づいていと、石畳の隙間から泥のようなものが噴出してきた。


徐々に人型に形成していき、何人も出てきて、鳴き声かわからない不気味な音を出している。


それは読夜を見つけると襲い掛かってきた。



「生贄になった亡者か。死してもなお、奴隷にされるなんてな」



不気味な声は理解しようとするとその音は泣き声に聞こえるかもしれない。


読夜は襲い掛かってくる人型に形成している亡者の猛攻をよけて、手鏡に勾玉をセットする。



「これで成仏してくれ」



読夜の周りには数10個の火の玉が踊るように浮かんでいる。


亡者の群れに指を指すと火の玉すべてそこに飛んでいき、亡者は火の海に飲まれていく。



「あまり、いい気分じゃないな」



火が沈下すると残っていたのは古びた壺だけだった。壺はどんどん震えだし、巨大な大蛇が顔を出した。



「ようやく、顔を出したか」



大蛇は弾丸のように突撃してくる。読夜は突っ込んでくる大蛇によけるそぶりを見せることなく、手鏡を大蛇にかざす。



「鬼鏡開門」



手鏡から火柱が出てくる。おもむろに手を突っ込むと腕を振り上げ、顔の前まで迫っていた大蛇に腕を勢いよく振り下ろす。


大蛇は地面にめり込み、ピクリとも動かない。読夜の手には鍔のない刀が握られており、火柱から出現したとうかがえる。


封印しようと新たな札を出すが、大蛇は目を覚ましたようで顔をあげて読夜を威嚇する。



「まだ戦うか、降臨」



プレートのような手鏡は持ち手が二股に分かれており、刀身の付け根に差し込むと刀の鍔となる。それと同時に読夜のシャツ姿から陰陽師が着るような黒い浄衣に変わる。



「開始の狼煙が上がったぜ」



大蛇は警戒しているのか読夜の周りをぐるぐると回り始めた。読夜もその場に立っているだけでなく構えながら出かたをうかがっている。


大蛇は徐々に速度を上げていく。



「大きくなっている?いや、近づいている」



同じ光景と速度が上がっていることで巨大化しているように錯覚していたが螺旋を描くように近づいてくる。


読夜は上空に飛びあがり、大蛇の接近からよけるが、大蛇は大口を開けながら垂直に読夜を追いかける。



「ちぃ」



体を無理やりひねるように回転し回避する。回転の勢いで大蛇の背に刀で切りかかるが硬い皮膚により浅い傷がついただけだった。


読夜は大蛇の背中を思いっきり蹴るとその反動で大蛇との距離をとり、危なげなく着地する。



「まともに傷つけれそうなのは」



勾玉を取り出し、柄にセットする。刀身は勾玉に反応するように火が噴出し、赤く輝きだす。


読夜は大蛇に向かって走り出す。待ち構えるように大口を開いている読夜は大蛇の噛みつきを身をかがめて躱すと腹部に向かって刀を突きだし、大蛇を串刺しにする。



「終いだ」



身を切り裂くように思いっきり振ると切られた場所から炎が噴き出し、大蛇を燃やしていく。


大蛇はうなり声をあげ、暴れていたがだんだんと大人しくなってくる。


力尽きたかと思っていると大蛇の額に罅が入ってく、読夜はとっさに刀を構えると大蛇は殻を破り姿を見せる。



「脱皮しやがった」



今までのダメージが無くなったように艶やかな肌を見せ、チロチロとピンクの舌を出す。読夜は勾玉に手を伸ばすその光景を見ていた大蛇は地面に潜り始めた。土砂物があたりに降り注ぎ、読夜は距離をとる。



「逃げたか」



元気になったようだが逃げたことは勝てないと悟ったのか、力が抜けたように息を吐くと刀から手鏡を引き抜く。


黒い浄衣からよれたシャツの姿に変わる。本殿の奥にある鏡に行き、この異界に来た方法と同じように元の世界に戻る。



「少しの間はおとなしくなるかな」



ポケットから新しい札を出し、鏡に貼る。本殿から出ると輝く太陽がまぶしい、あの異界とは空や空気が反対に感じる。


札を補充しないとな、と思っていると読夜の耳に着信のメロディーが聞こえた。携帯を取り出すと着信が勇人と表示されている。



「どうした。何かわかったか」


「篠原は憑りつかれている感じじゃないけど、何らかの形でかかわっていると考えていい」


「そうか。こっちも簡易的だが再封印しておいた。後日、本格的に封印しておかないといけない」


「この後はどうします?」


「このあたりの調査をしようと思う」


「それでは1度家に戻っていいですか」



勇人はさぼるような子ではなく黙々と作業をする子なので、さぼるとは考えられない。まだ仕事が終わっていないのに家に戻るほどの何かがあったのではないかと思った。



「何かあったのか怪我でもしたのか」


「怪我とかではなく溝にはまって服が濡れたので着替えたいんですよ」



ほっと溜息が出る。篠原に見つかって何かなったではなく濡れただけかと思い。



「わかった。まだこのあたりを見て回っているから、勇人は服を着替えたらそのまま待機していてくれ」


「わかりました」



読夜は通話を切り、他に見忘れがないか探索を始めたが本殿以外怪しいところがなかった。


石階段から降りると鳥居の向こう側に成人男性と勇人と同じぐらいの年だろうか女の子が手をつないで歩いている。


鳥居の陰に隠れながら眺めていると女の子が突然振り返った。


読夜はとっさに隠れたが隠れる必要ないんじゃないと思うとさりげなく、さりげなーく出ると2人組はいなくなっていた。溜息を吐くと辺りの探索を開始した。


7月4日8時に投稿します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ