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2人の鬼術師

遠くからセミの合唱が泣き響き、青い空からさんさんと輝く太陽がコンクリートの地面を焼く。


辺りを見回しても山と畑、そして古い木製の建物といったいかにも田舎町の道を黒いワゴンが走っている。


助手席から窓を全開にして、向かってくる風を顔面で受け止めている少年は田舎町でも立派な佇まいの家に着くと運転手である男に話しかける。



「ここ?」


「ああ、ここに協力者がいる」



ワゴンから降りたのはTシャツ姿で無表情の少年とよれたシャツ姿で眠たい目をこすっている男である。



「すみません。読夜ですけど」



読夜が玄関から声をかけると奥からおばあさんが出てくる。



「いらっしゃい、遠くから大変だったでしょう」


「こんにちは、お元気そうでよかったです。お爺さんは?」


「お爺さんは今、畑の方ですよ。さぁ上がって、冷たいお茶出しますよ」


「あ、ありがとうございます。勇人行くよ」



読夜に呼ばれて勇人が顔を出す。勇人はおばあさんに頭を下げて、



「篝勇人です。よろしくお願いします」


「ははは、挨拶ができるいい子だね」



広間に案内され、少しするとおじいさんが畑から帰ってくる。



「今日、呼び出したのは祟り神ことじゃ」


「祟り神って神社で封印されている大蛇ですよね」



おじいさんは真剣な表情で話し、麦茶を飲んでため息をついている。


おばあさんは今は台所に行き、料理を作っている今日は孫が来るそうだ。



「ああ、一週間前からかの被害にあっているのは野菜が齧られている程度だった。山から下りた猪かもしれないと思っておったのだが、どうも夜、見張っていた男が大きな蛇を見たと言っておった」


「蛇ですか」


「気になって神社に行ったら、封印されていた壺の蓋が開けられておったのじゃ。今は畑が荒らされる程度だが、このままほおっておくと人間を食うようになるやもしれぬ」



2人の間に最悪の事態が脳裏をかすめる。ちなみに全然話に入らない勇人は呑気に麦茶をちびちび飲んでいる。



「誰が封印を解いたんですか?」


「まだわからないが…見当はついている。駐在所の篠原だ。あの者はここに来る前からこの村のことを嗅ぎまわっていたし、よくないものが憑いていると感じるのだ」



読夜の脳裏にここに来る前の駐在所があったことを思い出す。



「君たちにしてほしいのは再封印とその犯人を捕まえてほしんだ」


「わかりました」



わかりきったことをそんな感じでお爺さんの頼みを読夜は頷いた。



「勇人、それじゃ行くか?」


「はい」



勇人は目を合わせることなく肯定する。お爺さんはそんな彼を見る。



「その子もなのか?」


「はい、私の自慢の弟子ですよ」



笑いながら勇人の頭をなでる。



「すまない、大蛇の事は私の代で退治しようと考えておったのだが」


「気にしないでください。あなたは退職した身、本来なら隠居するのに、この地で封印を見守ってもらうことだけでもありがたいと思います」



読夜はお辞儀をして勇人を連れ、広間を出ると切ったスイカを持ったおばあさんが立っていた。



「あら、どこか行かれるのですか」


「ええ、神社の方に」


「そっか、スイカ切ったのじゃが…冷蔵庫に入れておきますね」


「ありがとうございます」



Uターンして、台所に向かおうとしていたところ、おばあさんが引き止める。



「今日はどこかに泊まりますか?」


「テントを持ってきていますで、山で泊まろうかと」


「テントですか、こう言う場合ワイルドと言うのかな?」


「どうだろ、けどかっこいいですね」



2人の会話が弾んでいる。奥からお爺さんが提案してくる。



「今日はここに泊まりなさい。息子が娘を連れて帰って来るんじゃ。会っていきなさい」


「あいつが帰ってくのか」


「いい考えじゃ。近所の人たちも来る予定じゃから飲みに来なさい。そして泊まっていき」


「いいですね。お世話になっちゃおうか。勇人」



読夜はこちらに聞いてくるが、勇人は返事を返す間もなくワゴンから着替えのバックなどが部屋に運ばれて行く。



「じゃ、行ってきますね」



ワゴンで神社に向かった。


鳥居の近くに着いたらワゴンを脇に止める。



「こりゃ、厄介そうなもんがいる場所じゃな」



渋い男の声があたりに響く、2人はワゴンから降りると声が聞こえたワゴンの上を向くと1匹の黒猫が欠伸をしている。



「生贄を食い力をつけていった祟り神だからな」


「衰弱する印も組んでおったことにより弱くなっているが、今は徐々に力をつけている。一筋縄ではいかぬな」



渋い声の出どころは黒猫のようで当たり前のように読夜と会話をする。前足で顔を洗う動作は普通の猫だが、根本から生える2本の尻尾は普通から外れている。



「おい、いつまでそうしているつもりじゃ」



読夜は黒猫の首をつまんで目線を合わせている。黒猫はその行為が気に入らなかったらしく、自慢の前足の爪で読夜の頬をひっかいた。



「いってー、何すんの。ここまでしなくても」



読夜から離れた黒猫はそろそろ空気と同化しそうになるほど存在感が薄い勇人の腕の中に入った。2本の尻尾が頬に当たり鬱陶しくなりながら勇人は、



「カシヤ、駄目」


「そうだよな、人の頬をいきなりひっかくのはいけないことだよな」


「師匠は不潔だから、カシヤの爪の中にバイ菌が入って病気になる」


「おい」



だって、師匠は何日も顔洗っていませんしと呟く。バックからガーゼを取り出し、読夜に渡す。



「カシヤは妖猫だから病気にならないよ。勇人どうだあたりに気配を感じるか?」



読夜は頬にガーゼを張りながら、勇人に聞く。



「神社の方から負の力を感じる。弱弱しいから言われるまで感じ取れなかった」



勇人は手に手鏡を持っており、神社をにらみつけている。


おふざけな雰囲気はなくなり、真剣な表情をしている2人がいた。



「じゃ、俺は神社の方に行き、再封印の準備をする。その間、勇人は駐在所に行き職員が憑りつかれていないか、もしくはこの事件に関係があるか調べてくれ。カシヤ、勇人を頼む」


「わかりました」


「わかった。まかしておけ」



カシヤは勇人の腕の中から降りて、先に歩き出す。ここにはいたくない様子だった、勇人はその後を追っていく。


読夜は1人と1匹を見届けて石段をあがっていった。




勇人とカシヤは駐在所の近くから篠原を見ていた。篠原は椅子に座って何かを書いているようだ。


その姿は一生懸命働く好青年のように見える。



「どうカシヤ、何か感じる?」


「大蛇の気配は感じないが、篠原は別の場所で悪さしていたようだな死の臭いが染みついている」



悪さ、死の臭い、その言葉で勇人のやる気のない雰囲気が変わる。


経験上から死の臭いが染みついている人間は誰かから怨みをかっている、自殺を考えている、そして、誰かを殺しているのどれかである。



「死の臭いが付いていても大蛇に関係ないなら、ここに居る意味はないな」


「だが、調べてみる意味はあると思うぞ」



帰ろうとする勇人を引き止める。丁度篠原は駐在所に出かけていると入り口に札をかけ、自転車で出かけて行った。


駐在所に近づき札を見ると見回り中ですと書かれている。巡回しているのではと考え、扉に手をかけると鍵がかかっているため開くことがない。



「どこか開くところがないかな」



駐在所の窓を触りながら回ると裏口の扉は抵抗なく開けることができた。


勇人はお邪魔しますと小さく言い、周りを見渡す。宿直室だろうか古く年季が入っているテレビ、雑誌や漫画が入っている棚、部屋の隅には布団が畳んであり、ゆっくりできる空間である。


台所には奇麗に片づけられており、脇には生ごみや弁当の空など分別された袋が置いてあった。



「普通の部屋だね。奇麗に掃除されている」



あまりの周りの物に触らないように何かないか探っていく。何もないと早々と見切りをつけ、入り口の仕事場に移動する。


いくつもの事件や事故、はたまた落とし物の書いてあるファイルが入っている棚を探っても大蛇の事は出てこなかった。


机の中を探ってもペンやカギ、資料が入っているばかりで、篠原に関することさえも見つけ出すことはできず、ただ時間が過ぎていった。



「何書いていたんだ?」



篠原がいた机の上には、勤務日誌が置いてあり、開いてみると勇人は?マークを浮かべている表情をする。



「どうした?」


「読めない」



勇人は漢字が読めなくて唸っているだけで、そんな彼を見たカシヤは代わりに読んでいく。



「彼は几帳面だな。何時に誰が来て、何をしたのか。分刻みに事細かに書いている」


「そうなの?」


「ああ、2日前からの奴は適当に書いてある。何時ごろに誰かが来た程度だ」



ぺらぺらと捲っていくと西田という人の日誌では空白がよく目立つが篠原という人は小さい文字がびっしりと埋まっている。



「それにしても妙だな。この1年間は西田が1人で日誌をつけているし、篠原が勤務し始めたということが書かれていない」


「それって、2日前から篠原が入ったてことだろ」


「入ったのは2日前で、仕事の教育のことが書かれて、…ん」



ページをめくる前足が止まる。前足がある文章をなぞる。



「ここを見ろ。日付は1週間前、神社に男が来ていることが書かれている。毎日のように来て、神社の周りをうろうろしていたようだな」


「じゃあ、篠原が封印を?」


「どうじゃろうな。情報が…」



カシヤが外を見ると勇人もつられて見ると篠原が戻ってきた。


勇人はカシヤを掴むと急いで宿直室に戻る。


扉を少し開け、隙間から覗き込むように篠原の様子をうかがっている。



「戻ってきたな」


「カシヤ、情報収集はここまでにして戻ろうか」



扉から離れようとすると篠原は机を見た後、すぐ宿直室に向かってくる。



「やばっ」



勇人はとっさに扉から離れて、手鏡を出し、勾玉を蓋にははめ込む。


扉が開かれると篠原が宿直室を見渡し、



「誰もいない」



宿直室に入り、タンスを開け何か探している。


宿直室には2人が存在しているが、篠原には勇人を認識することができていない。


勇人は鬼術を使い自分の存在を希薄化させ篠原には見つからないようにした。


篠原は気づくことなく裏の扉を開くと外の周りを見渡す。



「カシヤ、このまま逃げるぞ」



見えないといっても長時間術を発動できるわけではないのでどうやって逃げようか考えていると



「すみません。誰かいませんか」



篠原は裏口を開けたまま仕事場を見に行く。その隙を見逃さず、裏口から外に逃げ出す。



「うまく逃げだしたな」


「うん、けど、どうして、こっちに向かってきたのかな」



勇人は後ろ向きに歩きながら駐在所を見ている。親子が来て篠原は対応に追われているようだ。



「日誌だ。日誌を閉じるの忘れていた」



勇人の頭の上に乗っているカシヤは日誌をどうしたのか思い出す。確かにあの時はカシヤを掴んで逃げただけだった。



「別にこちらの気配を感じ取ったわけではっ」



勇人の視界からすべてが消え、次は青空が移った。



「ごふ」



背中の鈍痛により、肺の中にある酸素をすべて吐き出した感じを受け、せき込んでしまう。


水嵩が低い溝に落ちてしまい、体全体が濡れてしまう。


勇人は空が高い、そんな的外れなことを考えてしまう。



「おい、大丈夫か」



勇人の頭上からカシヤが見下ろしている。心配よりも面白がっているように見られる。


勇人は溝から這い上がると水分を吸って重たくなった服を絞る。涼しくなるどころか張り付くTシャツで不快感が勝る。さっさと着替えたいそう思いワゴンに向かう。


7月3日7時に投稿します。

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