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大蛇との激闘

読夜は再び異界の地に踏み入れる。


現実の世界と物の配置が換わっていないが赤色の空と金色の月が異界だと知らせてくれる。



「ふぅ、この世界はいつ来てもなれないな」


「そうか?この死が満ちている空気、鬱陶しい肉体から離れた解放感は最高だと思うんだがな」



ため息をこぼした読夜に、からかうように姿を現したのは黒猫のカシヤである。



「カシヤは普通の黒猫じゃないからだ。普通の生き物ならこの世界に適応できず、力が抜けて動けなくなるからな」



読夜の話を聞き流しながらカシヤは前足で顔を洗っている。その姿は普通の猫と何ら変わりはないかゆらゆらと揺れている2本の尻尾は猫は猫でも化け猫の姿である。



「カシヤ、お前の自慢の鼻で大蛇を探せないか」


「無理だ。この自慢の鼻は化け物を探すのではなく、死体を探すためのものだ」



カシヤは読夜の提案を一掃する。



「大蛇はわからないが勇人の臭いはわかる」


「勇人の?」


「ああ、勇人はある意味死んでいるようなものだからな」



カシヤの言葉に心当たりがあるのか押し黙ってしまう。



「送ってやる。乗れ」



カシヤはどこから取り出したのかフルフェイスを読夜に渡し、駐在所から出ると全身から赤い炎が吹き荒れる。


全身を覆う炎はカシヤの黒猫の姿から黒バイクへと変わった。読夜はフルフェイスを被り、慣れた様子で黒バイクに変わったカシヤに乗る。



「このまま、勇人を追うと大蛇に行きつくだろう」


「ああ、メールでも大蛇を追うと書いてあったからな」


「それと」



シートから何か黒い触手のようなものが生えてくる。どうやら黒猫の姿の尻尾に似ている。


その先には勇人の玩具のような銃がかけられていた。



「充電が完了していたから持ってきた」


「すまない。助かる」


「出発するぞ…の前に厄介なのが現れたな」



前方には4本足歩行の馬のような黒い霧の集合体とその上には細い棒のようなものを持った人型の集合体であった。その姿はまるで騎馬のように連想させる。



「よほど。子供2人、食べたいようだな」



カシヤの言葉に答えるように何体もの騎馬が地面から生えるように姿を現した。



「急ぐ必要があるようだな」



読夜は鏡付きのカードを構えると、



「鬼鏡開門」



鏡から炎の柱が噴き出す。その光景を見て興奮したのか騎馬の1体が読夜に向かって棒を振り上げ襲ってきた。


読夜は炎の柱に手を入れるとこちらに突撃してくる騎馬の振り下ろす棒と同時に水平に腕を薙ぎる。一瞬の交差、読夜の手には鍔のない刀を持っている。


その刃は騎馬の馬の首ごと腹部を切り捨て、騎馬は消滅する。



「降臨」



刀身の付け根に二股のカードを差し込むことでその姿は鍔のある刀と変えた。


読夜も全身を炎に包まれ、服装がラフな格好から陰陽師が着るような黒い浄衣に変わる。



「開始の狼煙を上げるぜ」



バイクに変わったカシヤにエンジン音が鳴り、素早い動きで発進する。読夜は鍔に勾玉をはめ込むと刀の刀身は炎に包まれる。



「開幕バースト」



カシヤの言葉でバイクは炎に包まれ、進む先には数十体の騎馬隊でスピードを緩めることなく突撃する。


騎馬隊の群れに飛び込むと蹂躙するように円を描き、たちまち火の海と化していく。



「終いだ」



さらに激しく燃え広がるとすぐに沈下し始め、騎馬隊は姿、形もなくなっていた。



「それじゃ、行くとするか」



カシヤは声をかけて、勇人、奈津美のところに発進する。


お爺さんとおばあさんの建物は巨大化した大蛇によって半壊していた。


その大蛇と戦っていた勇人は白いポンチョを着て、鬼術師として戦ってた。


勇人は奈津美の手を引いて化粧台が置けれている部屋に入り込む。



「この鏡の向こう側にお前の帰る場所がある」


「帰る場所?」


「ああ、この悪夢から覚めて、忘れることができる」



勇人は奈津美を鏡に押し込めるように化粧品台に近づける。


奈津美は不安の表情を浮かべており、勇人を見つめる瞳には泣きはらしたのか目が充血している。


そんな奈津美に勇人は安心させるように人差し指を奈津美に突きつける。



「もう、君は生贄になることはない」



人差し指から赤い火がともる。それはすべてを燃やす火ではなく心が溶かされそうな優しい火が灯っていた。


天井から轟音、あれは諦めてはおらず、空いた穴から大蛇がこちらを見ていた。


ピンク色の舌が向かってくる、急いで、勇人は奈津美を鏡に押し付ける。


溶け込むように奈津美の体が鏡に吸い込まれていく。



「勇人!」



勇人は大蛇の長い舌に掴まっていた。



「大丈夫だ」


「大丈夫って、あなたはどうなるのよ」



奈津美の声はかすれるほど叫び、勇人を掴もうと伸ばされる手は空を切る。



「俺は鬼術師だ。あいつには負けない」



奈津美の胸の首飾りの鏡が輝く、その眩しさに目がくらみそのまま意識が沈んでいった。



「これで無事にぃ」



勇人が言い終わる前に大蛇の舌が巻き付いた勇人を飲み込むため舌を引っ張る。


大蛇の大口に吸い込まれている勇人はこの後、丸呑みにされ、腹の中で胃液によって徐々に溶かされていくことが簡単に想像される。


迫ってくる大蛇に対して勇人の瞳には死に対する恐れはない、だが生に対する執着心も持ち合わせていない。



「…」



ただ、今迫っている運命に何の考えもなく受け入れるのだ。



「ゆーうーと」



たとえそれが死による安息ではなく、生による過酷な現実でもだ。


だれかの声と同時に赤い閃光が大蛇の舌を切り裂き、大蛇は痛みによる聞き取れないぐらいの咆哮、それにより勇人は空中に放り投げられてしまう。


しかし、勇人におびえはなくむしろ慣れた様子で大蛇の舌を振りほどき、飛んでくる黒いバイクに乗っている読夜の手に掴まる。



「勇人、無事か?」



読夜と勇人は無事に地上に降り立つ、読夜の心配している言葉に勇人は頷く。


読夜と勇人はバイクから降りると黒いバイクは黒い猫カシヤと姿を変える。



「ほら、充電完了だ」


「ありがとう」



勇人はカシヤからどこからともなく玩具のような拳銃を受け取る。



「しかし、お前らは確かに戦って、ダメージを与えたんだよな」


「した。必殺技も叩き込んだ。手ごたえも感じた」



カシヤの予想では弱り切っている想像をしていたのだが一軒家丸ごと包めるぐらいの大きさと長さに変化しているので疑問を感じてしまう。



「封印を破るために溜めていた力をすべて出しているのだろう。くるぞ」



カシヤの疑問に読夜が答えた瞬間、大蛇が大口を開けて突撃してくる。


2人と1匹は後ろに飛んで突撃を避け、距離を開ける。



「非常に厄介なことだけど、逆を言えばこの戦いを凌げば、奴の力は激減する」



読夜は冷静に分析をし、持っている刀でポンポンと手を叩く。勇人はトリガーの感触を確かめるように指で撫でる。



「勇人は銃でかく乱、俺がでかいの一撃…隙を見ていれる」


「わかった」



2人の口角が上がる。別の人たちが見るとこれから楽しいことが起こるように見えるだろう。それほど2人は笑っている。


最初に火ぶたを切ったのは大蛇である。巨大な体をしならせ鞭のように己の体を2人がいるところに叩きつけた。


2人を覆い隠すほどの土煙は大蛇が見失うほどの濃さだった。



「行くぞ」



大蛇の顔面に赤い光弾が当たる。鱗を焦がすほどの熱気に大蛇は怯むがすぐさま撃たれた方向に大口を開けてとびかかる。



「こっちだ…遅いよ」



勇人は大声と拳銃による光弾で注意を引いている。大蛇の攻撃は苛烈を極めるが勇人の小柄な体格で物陰に隠れたり、大胆に大蛇の近くを通り過ぎたりとかく乱している。


大蛇はますます苛立ち大口を開けた。また、突っ込んでくるのかと勇人は身構えると身を焦がすほどの閃光が放たれ、勇人がいた場所には大きなクレーターができていた。



「ビーム…かっこいい」



カシヤに首根っこを銜えられた勇人は安全圏まで避難していた。


自分に向けて放たれた攻撃だというのに勇人は目を輝かせながら呟いている。



「結構、余裕があるな」



カシヤの呟きと



「いつもは何にも関心を持たないのに、こういうところは子供っぽいところを見せるな」



同意するようにどこからか読夜は呆れたような言葉が大蛇の頭上から響く。


勇人は言葉が聞こえたほうに顔を向けると轟々と刀身が燃えている刀を振り上げて、力の限り、大蛇の頭上に振り下ろした。


恐ろしい咆哮とともに大蛇の身体は地に付した。



「…倒した?」



勇人の疑問に答えるように大蛇は瞳を見開き、弱弱しく鳴いている。その鳴き声は威嚇にも助けをこうようにも聞こえる。


しかし、2人はかわいそうだともためらいの感情も感じることはできない。


ただ、目の前の障害物を排除するように新たな勾玉を取り出す。



「お前は人間を食べすぎ、祟り神となった」



読夜は大蛇に語り掛けるように呟き、勾玉を刀の鍔にはめ込む。


勇人も真似をするように刀身が出ている銃のハンマーに勾玉をはめ込む。



「その魂、地獄に持っていく」



読夜の言葉に反応するように2人の刀身は赤々と燃える。空の血のような赤とは違う、暖かく明るくする輝く赤の炎を掲げると勇人はぽつりと呟く。



「双撃だ…」



2人の振り下ろされた炎の刀身は巨大な刃となり、大蛇を縦真っ二つと切り裂く。


その傷口から炎が吹き荒れ大蛇を飲み込むと、灰となり消えた。


2人と1匹はその光景を見終わると静かに赤い空に浮かぶ、金色の月をしばらく眺めた。


7月9日13時に投稿します

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