起きる災害・下
「そうかやはり、篠原じゃったか」
広間に集められた勇人と読夜、そしてこの家の主、お爺さん。お爺さんは疲れたようにため息をつくとおばあさんの入れたお茶を1口飲んだ。
「勇人ちゃん、改めて奈津美ちゃんを助けてくれてありがとう」
「いえ、仕事ですので」
何にも思っていないように勇人は返答するが少し頬が赤く染まっている。お爺さんに褒められてうれしそうだ。
読夜もそんな弟子を見てほほえましく笑っている。読夜は真剣な表情に戻し、お爺さんのほうに向く。
「それでこれからどうしますか?勇人の話では大蛇は篠原を丸呑みにしたのち逃亡、どこに行ったか分からなくなった」
「事情を知っている者を駐在所に向かわせる。読夜も行ってくれるか」
「はい、それじゃ行ってきます」
一通り会話が終わると読夜と勇人は立ち上がる。お爺さんは制するように手を挙げ勇人に、
「勇人ちゃん、君は残っていてくれないか?」
「…はい」
お爺さんの頼みの意図がわからないように勇人は首をかしげ、理由を聞くことなく返答した。
そんな勇人に代わりに読夜が聞いた。
「何故、勇人を?勇人は鬼術師で実戦経験もあります」
「いや、読夜の言葉や勇人ちゃんの実力を疑っているわけではない。逆だ、勇人ちゃんには奈津美ちゃんを守ってほしいんだ」
「…守るですか」
勇人のつぶやきにお爺さんは答えるように話す。
「ああ、大蛇は奈津美ちゃんを襲ってくる。…情けないことだがわしにはもう戦う力がない。だから頼む奈津美ちゃんを守ってくれ」
「わかりました」
お爺さんの必死の頼み、土下座をしそうな勢いだったが、勇人はノータイムで引き受ける。
「決断早いな。まあ、俺たちが駐在所に行っている間、狙われる可能性もあるからな。しっかりやれよ」
少しあきれた声を漏らしたが、笑いながら勇人の頭をなでた。そして、背中に隠していた短刀を勇人に差し出した。
「これは?」
「俺の使っている短刀、お前の武器はまだ充電中だろ」
ちらりと部屋の隅に充電器に繋がれている玩具のような銃を見る。
朝から充電しているが充電完了のランプが灯っていない。どれだけ使い勝手悪いんだと3人は思った。
あの後、駐在所に読夜たちは向かったが誰もいない。今は村中を探している。
「勇人ちゃんがいてくれてほんと、よかったわ」
「いえ」
大人たちは篠原を探している中、勇人は奈津美が休んでいる部屋の隣でおばあさんと洗濯物を畳んでいる。
そんな勇人を見ておばあさんは少し言いにくそうに質問をしてきた。
「勇人ちゃんは鬼術師なんでしょ。奈津美ちゃんを守ってくれるのはうれしいけど、なんでそんな危険なことをしているの?」
「それが仕事で命令ですから」
「あ、ごめんね。何故鬼術師をやっているのかなって思って。勇人ちゃんは小学6年生でしょ、普通は師匠について見学するのに、勇人ちゃんはもう戦っているって聞いたから」
おばあさんが疑問に思うのは無理もない。
いくら異形の者を相手にするほどの力を持っていても勇人は小学6年生と幼い。そんな幼い子供が大人に混じって危険な仕事するのはいくら何でもおかしいと思われてしまう。
「鬼術師をやっているのは…周りにそう言われたからです」
「え、無理やり入れられたの?」
おばあさんの驚いた声に勇人はこくりと頷く。勇人は何かを思い出すように懐かしむように言葉を紡ぐ。
「でも、それは仕方のないことです。それだけ自分は危険な状態なんですから」
「よくわからないけど、やめたいと思ったことはないのか?」
心配そうな声に勇人は無表情ながらも気を遣うように、
「そうですね。思ったこともあるかもしれないけど、この仕事も案外悪くないと思っています」
おばあさんは話している勇人の顔を覗くといつも虚空を見つめているような瞳には少し光が灯っているように見え、表情も少し明るくなっているように見えた。
何を思っての言葉なのかおばあさんにはわからなかったがそれが勇人にとっては優しい出来事があったのかそう思えた。
そんな勇人におばあさんはしわくちゃな手を勇人に頭に置いて優しく撫でる。
「えらい、えらい、頑張っているんじゃな」
勇人はされるがままに撫でられているが心地よくなっているのか安らいだ表情になる。
しばらく撫でられていると、勇人はいきなり撫でられている手から離れ、隣の奈津美のいる部屋に入り込む。
おばあさんもびっくりしたが勇人についていくと
「入ってこないで」
普段の勇人から聞くことのない怒鳴る声でおばあさんはためらうように声をかけてきた。
「どうしたの、奈津美ちゃんに何かあったの?」
「大蛇に呪われています。早く呪いをとかないと」
奈津美の顔、首には蛇の鱗のようなものが浮かび上がり、それが締め付けているような印象を与える。
勇人は鏡を取り出し、奈津美に握らせる。
蓋についている勾玉は淡い光を放ち、それに連動するように奈津美を締め上げている蛇の鱗の模様が消えていく。
「奈津美ちゃんは大丈夫なの?」
「はい、呪い自体が強力なものではなので少し眠れば大丈夫です。ですが」
部屋の中にある化粧台を見る。
勇人はそこに近寄り、奈津美に持たせていた手鏡を化粧台にかざす。
「このままではまた呪いをかけられてしまいます。今から大蛇を追います」
勇人は携帯電話のメールで大蛇を追うことを短く送信すると化粧台の鏡に吸い込まれるようにいなくなった。
そして、再び異界の地に降り立った。
一方、読夜は村の人たちとあらかた探し回ったがまだ篠原を見つけることはできていなかった。
神社の本殿だけでなく小屋や周辺を探しては見たが人影どころかいつの間にか封印していた壺までなくなっていた。
読夜と村の人たちは駐在所に集まり、まだ探していないところやおかしなところがないか話し合っている。
「どこに行ったんですかね」
村の住民である高杉が読夜に話しかけてくる。
その顔には村に危険人物がいるせいか不安を滲ませていた。
「これだけ探していないとなると」
「もしかして、山を下りて別の所に行ったんですかね」
読夜の言葉をさえぎって話す高杉、読夜は横に首を振る。
「それはないな。大蛇はこの山の祟り神、そう簡単に自分のテリトリーから離れない。もし、いなくなるとしたら」
篠原が使っていた机の上にあるスタンド付きの鏡を見る。
読夜の目は鏡を見ているが本当に見ているのは鏡の先にある世界である。
「とりあえず、もう1度見回りをしてみてくれ、私は心当たりがあるところを調べてみる」
「心当たりがある場所?」
「ああ…鬼術師しか行けない場所だ」
読夜は村の人たちに指示を出した後、携帯電話を取り出しメールしようとすると、
「同じようなことを考えているのだな」
大蛇を追いに異界に行きますと短い文章、勇人が単独で大蛇を追いに行くほどの何かがあったのだろうそう考える。
送信された時間帯を見ると20分以上たっていたので急いであたりを見渡すと誰もいなくなった駐在所で小さな鏡はついたカードを取り出した。
それを机の上にあるスタンド付きの鏡に照らし合わせると、
「さて、物語も大詰めだな」
照らし合わせた鏡は輝きだし読夜は再び異界へと行き、駐在所には誰もいなくなった。
7月8日12時に投稿します




