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カミナギ~忍び寄る蛇~

遠くからセミの合唱が泣き響き、青い空からさんさんと輝く太陽がコンクリートの地面を焼く。


汗でシャツが肌に張り付き、スカートをパタパタはためかせながら風を送り込んでも熱い風しか入り込んでは来ない。


「あっつい…」


「奈津美もう少し待ってくれ」



駐在所からくたびれた様子のお父さんの声が聞こえてくる。暇だなと思いながら小石をける。

小6の夏、夏休みを利用してお父さんの故郷である木戸村に行くことになった。


が、何年も実家には帰っていなかったからと言い訳しながら見事道に迷ってしまい、駐在所の人にお世話になっている。


駐在所入り口前でお父さんが出てくるのを待つ、ぐるりと見渡すと山と田んぼ、畑しかない田舎町で車や家が少ない。



「お待たせ、奈津美」


「ごめんね」



お父さんと駐在員の篠原さんが出てきた。篠原さんは机に置いてあった飴袋から飴玉を1個取り出し渡される。


イチゴ味だ…レモン味が好きだが美味しい。



「遅いよ、何してたの」



背負っているリュックサックを背負いなおしてぼやいていると篠原さんは申し訳なさそうな顔をしながら。



「ごめんね。最近、異動で来たばかりなので、このあたりのことはまだわからないんだよ」


「そうなんですか。前にいた西田さんとはお話ししたかったんだけどな、外から来られたんですね」


「はい、都会から来たので田舎の空気は美味しいですよ」



お父さんは頑張ってくださいと言うとお辞儀をして、私の手を引きながら家に向かって進む。


10分、15分、見慣れない田んぼや畑を見ながら進んでいると古ぼけた鳥居と脇には黒いワゴンが見えた。



「おっきい鳥居」


「鳥居の先には木戸神社が在って、悪い妖怪を閉じ込めているんだって、そして夜な夜な寝ている子をパクっと1口で食べるんだ」



お父さんは驚かすように言っているが言っているが汗がびっしょりでお父さんのほうが不潔で気味が悪いように感じる。


鳥居の先の道を見ると森が覆い茂り、日が入ってこないので昼間でも闇が覆っている。


先の見えない闇に連れていかれそうな感じがしたのでお父さんの手を強く握る。



「どうした?」



お父さんの気の抜けた声に腹が立ちつつも、鳥居を通り過ぎると背中に氷を入れられたような冷たさが襲う。


とっさに振り向くと鳥居の陰から長身の冷たい瞳で頬に大きなガーゼが目立つ男がこちらを見ていた。



「お父さん、お父さん、あれ」



繋いでいる手を引っ張り、指を指す。



「んー何があるんだ?」



気の抜けた声、私の指した方角に男の人の人影はいなかった。



「男、男の人がこっちを見ていたの」


「男の人はいないが…いたとしてもそんな不審者を見つけたように言ってはいけないぞ。ただこっちを向いていただけかもしれないぞ」


はっはっはと笑いながら歩いて行く。気のせいかもしれないそう思いながらも体にまとわりつく不気味さはなかなか無くならなかった。


都会では見られない程の大きな庭と大きな日本家屋に着く。



「いらっしゃい。奈津美ちゃん」


「ゆっくり、していきなさい」



おじいちゃんとおばあちゃんが迎えてくれる。


家の中に入るとコンクリートの建物ではなく木材の建物の感じがして、土や木材の古い匂いがしてくる。


玄関から廊下を通るとガラス戸の向こうに庭が見える。さらに奥の一室の畳張りの部屋に入る。



「この部屋を使ってちょうだい」



おばあちゃんが案内してくれた部屋は日があまり入ってこず、薄暗くひんやりとしていた。


四角いちゃぶ台と化粧台だろうか大きな鏡が置いているだけだった。


背負っていたリュックサックを置いて、障子を開ける。


縁側の戸を開けて、外からの風を送り込む。風が気持ちいい、今までの疲れがとれてくる。



仰向けで寝っ転がっているとおばあちゃんは「飲んでちょうだい」と言うと麦茶を置いて部屋から出て行った。


熱い風は涼しい風に代わり、気持ち悪く張り付いた汗も冷たく感じてくる。


このまま眠ってしまい…そ…う……ん。



「っわ」



瞼を開くと目の前に同じぐらいの背格好した男の子がこちらを見ていた。慌てて飛び起き、距離をとった。



「え、誰」


「…」



いつの間にか部屋に入り込んで甚平を着ている男の子は何も言わずこちらを見てくるだけで、何も言わない。


不気味に感じていると自分の首にかけていた首飾りを外して私に渡す。



「あげる」


「え、ありがとう」



それは手のひらサイズの鏡をはめ込んだ首飾りで余計な装飾は無いが、なぜかそれが神秘的に感じた。



「これは?」


「持っていて、これが君を守るから」



いきなり部屋に入り込んだ男の子からのプレゼントで怪しさ満点だが自然と信じることができた。


その子の瞳は空洞のように感じられ、目が離せなくなった。



「誰かいるのかえ」



戸が開かれておばあさんが入ってきた。



「え、あ、男の子が入ってき…て」



おばあちゃんを見て、再び男の子を見るといなくなっていた。急いで縁側から庭を見渡すが畑や奥に山が見えるだけで男の子の姿が見えない。



「ほんとに、ほんとに男の子がいて」



確かにいた、そしてこの首飾りを貰った。



「もしかして奈津美ちゃん…座敷童にあったんじゃないの」


「ざしきわらし?」


「子供の姿をした妖怪で、福を呼び寄せてくれるんじゃよ」



笑いながらおばあちゃんは答えてくれる。



「座敷童かな?」



なぜかもやもやした気持ちが襲う、どこかで会っているような感じがして、貰った首飾りを握りしめると少し気持ちが落ち着いた。






高く昇っていた太陽は沈み、暑さから涼しさに変わった。


夜になると外は静かになったが反対に家の中は騒がしくなってくる。



「飲め飲め」


「食え食え」


「歌え歌え」



お父さんが帰ってきたと近所の人たちがやってきて飲み会となっている。


私、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、美女と野獣の高杉夫婦、丸坊主の中年男性の上野さんなど広い部屋だといっても大人数となってしまいひどく狭く感じる。



「奥さんは来なかったのか」


「あいつは僕にひどいことしたんだ。あっちから謝らないと帰らない」



上野さんはお父さんにお母さんが来ていないことに不思議に思い質問している。



「え、何されたんだよ」



深刻そうに高杉の父が聞いているがお父さんは泣くばかりである。


お父さんはお酒が弱く泣く、ひどいことをされたといってもお父さんがとっておいたエクレアをお母さんが食べてしまい、それが原因で喧嘩してしまった。


夏休みを利用して故郷に帰ったのではなく、実家に帰らせてもらいますと言って一緒に帰ってきたのだ。



「適当に仲直りすればいいんだよ」


「こいつは大根役者だから嘘なんてつけねーよ」



周りの大人たちはお父さんをからかっている。



「はあー」


「奈津美ちゃん退屈?」



ため息が聞こえたのか高杉の妻が話しかけてきた。


はいと言ってお辞儀をする。



「次のニュースです。○○市で連続殺人犯は発見されず、いまだ逃亡を図っています」


「物騒ね。○○市て、近くのじゃない」



部屋の片隅に置いていたテレビからニュースが流れてくる。それに大人の1人が心配そうに反応した。


殺人犯の特徴は長身の男性で左頬に大きな切り傷がある。幼い子供を狙い、黒いワゴンで逃亡中のこと。


左頬に大きな切り傷、黒いワゴンの単語で昼間、鳥居で見た男を連想した。



「ねえ、お父さん、黒いワゴンって鳥居になか…た?」



お父さんはお酒を飲んでいてこちらのことには気が付かない。



「飲みすぎたようだね。で、何か気になることがあるのかね?」



上野さんが真剣そうに聞いてくる。



「はい、昼間の鳥居の近くに頬に大きなガーゼをした男の人と黒いワゴンがあったのですこし気味の悪い感

じでした」


「ふむ、もしかするとがあるかもしれないから駐在所の篠原さんにも話しておこうかな」



短く切りそろえられた髭をさすりながら提案をする。


大人に頼んだら安心して眠たくなってしまった。



「奈津美ちゃん、眠たいのかえ」



おじいちゃんが聞いてくる。頷くとおばあちゃんが隣に立って部屋に案内してくれる。


廊下は暗く先が見えにくいがおばあちゃんがいたので安心できた。



「あれ」


「どうしたの?奈津美ちゃん」



窓ガラスの向こう側、裏山の方からチカチカと光の点灯が見えた。



「さっき、光が見えたの」


「そうなの」



眠い目をこすりながらもう一度、裏山の方を見ても光ってはおらず、真っ暗なため山の輪郭が判断できない。


見間違えだろうそう判断して部屋に向かって歩き出す。おばあちゃんも気にしていないようだ。



「おやすみなさい」



布団を出してもらいおばあちゃんは戻っていく。布団に入って目を閉じる。


完全な静寂、奥の部屋なので少しは大人たちの声が少し聞こえるが気にするほどでもない。


何時間寝ていたのであろう不意に目を覚ました。体が震えたこの感じは…トイレに行きたくなった。


布団から出ると薄暗い廊下を歩く、廊下の電気をつけようにもスイッチが見つからない。



「うう…怖い」



このまま漏らすのと恐怖を天秤にかけると漏らしたくない一心で勇気を出して歩き出す。


大広間の近くを通ると大人たちの騒ぎ声が聞こえてきて近くに人がいることと障子越しから漏れてくる淡い光で少し安心する。


トイレを無事に終わらせ、帰りに大人たちがいる大広間のそばの廊下を通る。


障子越しから漏れる明かりがついているが静寂である。


そのことが不気味と感じながら、忍び足で通ると、



「…が…で」


「…であり、…仕方なく」



言葉の途切れ途切れに聞こえてきて、何か真剣に話し合っている雰囲気である。


ふと、足を止めて耳を澄ます。



「私は絶対に反対だ奈津美を生贄にするなんて」



お父さんの声がひときわ大きな声が響く。あまり聞くことがないほどの大きな声。


その前に生贄、何のことだ。


とっさに口を抑えるが心臓がバクバクと鼓動が大きく響く。


その響きは隣にいる大人たちに気づかれるのではないかと思うほどだ。



「バッカ、大きな声を出すな。聞こえたらどうするんだ」


「お前の言いたいこともわかるが、仕方がないことなんだよ」



周りの大人がなだめる。お父さんは泣いているのか鼻水をすする音が聞こえてくる。



「は…あ…は…あ」



ますます心臓の鼓動が大きくなり、大人たちに間違いなく聞こえてしまうそんな思いになる。


息もうまくできない早くここから逃げないと急いで部屋に帰り布団の中に入ると目をきつく瞑る。


これは悪夢だ起きたら何もなく日常が戻ってくる。絶対に…


6月27日19時に投稿します。

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