第6首 肝試しと紅の頬
和「うち、あんたのことずっと好きやねん!」
それは、修学旅行中の出来事だった・・・。
無事行き先が決まった和美・歌衣・楓の三人は、修学旅行先である奈良・京都・大阪を満喫していた。
楓「いや~、迫力満点やったな、東大寺の大仏さん!」
歌「どうやって建物ん中に入れたんやろな?」
和「そんなん、建物を後で作ったに決まっとるやん。」
楓「何や、たいそうご利益ありそうな大仏さんやったな。」
歌「そういや和美、ストラップは買えたん?おばはんから頼まれとったやろ。」
和「買うてへんやった!歌衣が覚えとってくれて助かったわ~。ほんなら、ちょっと行ってくるわ!先にバス停で待っといてや。」
歌「ほんなら、俺も一緒に行くわ。櫛田さんはどうする?」
楓「二人とも行くなら、私も着いてくわ。」
和「二人とも、ありがとう!」
歌「お、おい。起きろや。バスの中で熟睡するなんて、和美は赤ん坊か!」
楓「ええやんか~。かわいい寝顔も見れたんやで?」
歌「なっ!?そらかわいいけど!・・・って、俺何言うとるん!?」
楓「おっ、今認めたな!?和美のかわいさ認めたな。」
和「んっ・・・。うるさいなぁ。」
歌「か、和美!起きたか!もうすぐ降りんで!はよ準備せぇ。」
和「何で顔赤くしとるん?熱あるんとちゃうか?」
楓は笑いをこらえるので精いっぱいのようだ。
楓「それはなぁ、さっき藤原くんが、和美のこと・・・」
歌「うわぁぁぁぁぁっっ!」
和「こら、バスの中やから!二人とも、しーーーっ!」
とにかく元気いっぱいな三人であった。
しかし・・・。
宿泊する旅館に着いた三人(その他大勢の生徒・教師もいるが)。三人に待ち受けていたのは、肝試しであった。
先生「さて、今から、わが校の修学旅行定番行事、肝試しを始めまーす!」
生徒「先生が一番浮かれてへんか?(笑)」
先生「さて、今からクラス別にくじ引きをしてもらいます。二人一組になって、旅館の方々に協力いただいた肝試しルートに入ってください。」
順番にくじを引いたクラス一同。その結果、歌衣は楓と、和美は同クラスの木村くんとペアになった。
和(ちょっと、何で歌衣と同じペアやないん!?最悪やわ・・・。)
木村「百田さん、怖かったらわいに抱き着いてきてええねんで(笑)」
和「はぁ!?何言うとるん!絶対せぇへんで!」
歌「そ、そうや、木村。俺とくじ交換せぇへんか?」
木村「嫌やわ~。わい、百田のことねらっとるんや。」
木村はニヤニヤしながらそう言った。
楓が和美に耳打ちする。
楓「仕方ない、とりあえずこのペアで進もうわ。私が先生に和美たち二人の次に入れるように頼んだるさかい、木村くんは私に任せて藤原くんと一緒に進んだらどうや?」
和「えっ?そやけど・・・。」
楓「そろそろ正直になったらどうや?好きなんやろ?藤原くんのこと。」
和「・・・なんや、気づいとったん?」
楓「気づくも何も、めっちゃ顔に出てんで?ほら、『忍ぶれど色に出でにけり我が恋は ものや思ふと人の問ふまで』ってあるやん。」
和「・・・」
和美と木村が入った数分後、歌衣と楓がルートに入っていく。すると、前から男の叫び声が聞こえてきた。
木村「うわぁぁぁぁぁ・・・!」
歌「お、おい!どうしたんだ?和美はどうした!?」
木村「無理や・・・。怖すぎるわ、この肝試し。旅館の人本気出しすぎやろ・・・。」
歌「そんなら、和美は一人で・・・?」
楓「藤原くん、先行き!木村くんは私が先生に引き渡しとくわ!」
歌「ほんまか?おおきに!ほんなら、先行かせてもらうわ!」
和「グスッ、グスッ、・・・。」
歌「和美~!和美、どこや~~?」
和「歌衣!ここや!!」
歌「大丈夫か?」
和「怖かった・・・。木村くんもどっか行ってまうし、一人になったらもっと怖くて・・・。」
歌「もう大丈夫や。安心せぇ、俺が一緒にゴールするさかい。」
和「楓ちゃんは?一緒のペアやろ?」
歌「木村を先生に引き渡しに行ったわ。お化けにも全然動揺してへんやったし、大丈夫やろ。」
和「後でお礼言うとかんとなぁ。」
歌「そうやな。さぁ、先に進もか。」
暗闇の中、歌衣がゆっくりと歩みを進めると、和美は歌衣の腕をしっかりと握って歩き出した。
歌(さっきから、俺の腕に和美の柔らかいとこが当たっとるんやけど・・・。気づいてへんのか?恥ずかしゅうないんかいな。)
和「歌衣~、怖いわ・・・。絶対離れんでな?」
歌「そんなにしっかり腕に巻きついとるのに、離れられるわけないやろが。」
和「あんた、怖くないん?」
歌「別に。昔は怖かったけど、怖がってばかりもおれんさかいな。」
和美はどうして歌衣がそんなことを言うのか、よくわからないような顔をする。
歌「俺が怖がってたら、和美を守れんやないか。」
歌衣は頬を紅くして言った。
和(・・・これ、もしかしてチャンスとちゃう?うちの気持ち、伝える絶好の機会かもしれへん。)
和「な、なぁ、歌衣?・・・うちな、」
和美は、頬をリンゴのように真っ赤に染めて、ずっと言いたかった歌衣への想いを、口にした。
和「うち、あんたのことずっと好きやねん!」
歌衣は、きょとんとして、和美の顔を見つめる。だいぶ暗闇に慣れ、お互いの顔はしっかりと見える。だが、相手がどれだけ顔を紅くしているか、そして自分もどれだけ紅く染めた顔をしているのかまでは、分からなかった。
歌「・・・俺も、」
歌「俺も好きやで、和美のこと。」
真っ暗な空間で、二人の時間が刹那、止まった気がした。
注釈
和歌『忍ぶれど・・・』:百人一首四十番に収められている、平兼盛の歌。歌意は『私の恋心は、誰にも知られまいと心に決め、耐え忍んできたが、堪えきれずいつの間にか顔に出てしまった。何か物思いがあるのかと、人が尋ねるほどに。』