第5首 修学旅行と大阪の歌
和美・歌衣・楓は、修学旅行で京都・奈良・大阪に訪れることになった。今日は、旅行の班決め。この三人は、同じ班で行動することにした。
和「さぁ、修学旅行のルート決めんで!」
歌「張り切りすぎて倒れんなや?」
楓「楽しみにしてたからなぁ!」
そう言って、和美は学校から配られたガイドブックを開く。
和「さぁ、最初は奈良やで。どこ行きたい?」
楓「東大寺で鹿さんにエサあげたいなぁ。」
歌「俺はこの前ばあちゃんちに行ったばかりやからなぁ・・・、どこでもええで。」
和「そんなら、歌衣のおばあちゃんの家にも寄ってみるか?」
歌「そんなことせんでええわ!」
楓「ええやん!どうせいつかは挨拶しに行くんやろ?」
和「な、何言うとるん!?そんなことあるわけ・・・!」
歌「それに、もしあるとしても、男が彼女の家に出向くのが普通やろ。」
楓「そんなんどうでもええやん!行こうや~!」
和「そういえば、歌衣のおばあちゃんと会ったことない気がする。」
楓「せやろ!よし、決まりや!」
歌「でも、『俺の家』なんて目的地に書けんやろ。」
楓「そうやな・・・。仕方ない、次にするか。」
歌(ふぅ、助かったわ・・・。)「そ、そんなら、次は京都やろ。どこ行くん?」
和「そうやな・・・。金閣・銀閣とか、清水寺とか。」
楓「京都と言えば、百人一首にも京都を題材にした歌が沢山あるんとちゃう?聖地巡礼とかしたくないん?」
和「う~ん、そうやな。天橋立*なんかも、詠まれとるけど。」
歌「俺は、京都の歌より大阪の歌の方が好きやけどな。蝉丸とか。」
和「あぁ、『これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも あふ坂の関』ってやつやな。」
和「でも、うちは三条さん*の歌が好きやけどな。」
歌「『名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな』か。でも、これは大阪で詠まれた歌とは違うかもしれへんな。」
和「そやなぁ、ただ比喩として出してるだけやし。」
楓「あかん、そんなこと言うてたら授業時間終わってもうた!また、明日続き考えよ!」
楓(それにしても、歌衣も鈍感やな。さっきの三条右大臣の歌、恋の歌やろ。何で自分に向けられたかも、なんて考えんのやろ。)
和(さっきのうちの歌、恋の歌やったんやけどなぁ。ちょっとぐらいドキッとしたりせぇへんの・・・?)
歌(焦ったわ・・・。さっきの歌、恋の歌やんけ。俺に向けられたのかと思ってもうたわ。本当、こっちの気持ちには全然気づいてへんのやな・・・。)
*天橋立:小式部内侍『大江山いく野の道の遠ければ まだふみもみず 天の橋立』
*三条さん:三条右大臣のこと。後に出てくる和歌の作者。
※和歌の解釈
『これやこの・・・』:これがあの有名な、(東国へ)下って行く人も都へ帰る人も、ここで別れてはまたここで会い、知っている人も知らない人も、またここで出会うという逢坂の関なのだなあ。
『名にし負はば・・・』:逢坂山、さねかずらが、その名に違わぬのであれば、逢坂山のさねかずらを手繰り寄せるように、あなたのもとにいく方法を知りたいものです。
(逢坂山には「逢う」、さねかずらには『さ寝』の掛詞が用いられている。
さ寝』とは、共寝するということ。)