第2首 鹿の鳴き声とおそろいのストラップ
和美と歌衣は、高校の入学式を終え、中学の時と同じように、一緒に帰ろうとしていた。
和「やっと入学式終わった~!」
歌「えらく長かったなぁ。」
和「そや!帰りに買い物しに行こうや。新しい文房具欲しいねん!」
歌「ええけど、あんま長くは無理やで。」
和「何で?用事あるん?」
歌「旅行の用意せんと。」
和「旅行?どこ行くん?」
歌「この前言っとったやろ。今週の土日、家族でばぁちゃんちに行くんや。」
和「えぇ、何で私も誘ってくれへんの?」
歌「家族でって言うたやんけ。」
和「難波潟短かき蘆の節の間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや」
歌「えっ・・・。」
和「(うそ、声に出てた!?)い、いや、ほら、あんたとはいつも一緒におるから・・・。寂しいとかやないで!(照)」
歌(『難波潟に茂る芦の、短い節と節の間のような短い時間でさえ会いたいのに、それも叶わず、この世を過していけとおっしゃるのでしょうか。』ってことやんな・・・これ、恋の歌とちゃうけ?)
歌「い、伊勢の歌やな。」
和「そうや。(もうこれ以上追及せんといて・・・)」
歌「まあ、それはそうと・・・」
和(ほっ・・・、よかった。)
歌「お土産なにがええ?」
和「そやな・・・。ストラップとか?かわいいのがええな。」
歌「わかった。」
そして訪れた、歌衣のいない週末。和美と楓は女子トークを繰り広げていた。
和「歌衣がいないと、静かでええなぁ。」
楓「そんなこと言うて、本当は寂しいんとちゃう?」
和「そんなことない!歌衣のことなんか・・・」
楓「まさかあんた、私に気づかれてへんなんて思っとらんよね?」
和「えっ・・・?」
楓「歌衣くんのこと好きなんやろ?」
和「そ、そんなこと・・・。」
楓「あるやろ~~~?」
和「な、ないない!そんなことあらへんよ!やめてぇなぁ、楓ちゃん。」
楓(ふーん、あくまで白を切るつもりやな。)
楓「まぁでも、寂しくはあるんとちゃう?今までずっと一緒におったのに、結構長くおらへんのやろ?」
和「そやなー、歌衣がおらんと、言い争う人がおらへんからなぁ。」
楓「歌衣くん、意地悪やからなぁ。」と、ニヤニヤしながら言う楓。もちろん、和美の本心を聞き出すためである。
和「そりゃあツンデレやけど、優しいとこもあるんやで。」
楓「ふーん、私は面倒としか思わないけどなぁ・・・。」
その頃歌衣は、祖母の家のある奈良に来ていた。
歌「ばあちゃん、久しぶり。」
歌衣の祖母「歌衣ちゃん、久しぶりやなぁ!また、大きくなって!」
歌「ありがと。ばあちゃんも、元気そうでよかったわ。」
歌衣の祖母「歌衣ちゃんは、奈良来るのは初めてやっけ?」
歌「そうやな。奈良と言えば、百人一首にこんな歌があったっけ。」
歌「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞くときぞ秋は悲しき」
歌衣の祖母「猿丸大夫の歌やな。歌衣ちゃん、百人一首覚え始めたんか。偉いなぁ。」
歌「あぁ、ちょっとあってな。」
歌衣の祖母「『奥深い山中、一面に散り敷かれた紅葉を踏み分けて鳴く鹿の声を聞く時は、秋の寂しさが、一層悲しく感じられる。』歌衣ちゃんが言うと、優雅に聞こえるのぉ。」
歌「そうか?」
歌(鹿か。和美へのお土産は、鹿のストラップにするかな。喜ぶとええけど。)
歌「帰ってきたで。ほら、お土産や。」
和「わぁ、ほんまに買うてきてくれたんか!」
歌「開けてみ。」
和「ええの?・・・・・・わぁ、可愛い鹿のストラップや!ありがとう!」
歌「俺も、同じやつ買うたんや。おそろやな!俺はケータイにつけたで。」
歌衣は、ケータイにつけた鹿のストラップを掲げる。
和「ほんなら、うちもケータイにつけとこ。」
そう言って、和美もケータイにストラップをつける。
和「これで、おそろやな!なんか、幼馴染って感じやな!」
歌「現実、幼馴染やんけ。」
和「そりゃそやな。」
そうやって、二人は笑い合った。
おそろいのストラップをつけ始めた二人。二人の想いが通じ合う日は、先のようだ。
(後日談)
和(実は、この前のストラップめっちゃ嬉しかったねん!おそろとか、恋人みたいやん!!そうや、歌衣に何かお返ししよ!)
店員「何をお探しですか?」
和「あ、幼馴染に贈り物したいねん。男の子なんやけど、何がええやろか?」
店員「では、香水などはいかがでしょう。今、香水を手作りしてプレゼントにするのが流行っているみたいですよ。」
和「それ、ええな!詳しく聞かせて!」
こうして和美は、歌衣に香水を贈ることにした。
和「これ、この前のお返しや!お店で、香水をあんたの為につくったんや!」
歌「香水か・・・。いつもは全然つけへんけど・・・。ま、気が向いたらつけるわ。ありがとな!」
和「ううん、こちらこそ、この前はありがとうな。」
歌(俺の為に香水を・・・。この前のストラップも、幼馴染みたいなんて言うたけど、まるで恋人みたいで嬉しかったけど、香水はもっと嬉しいわ!)
自分の恋心を楓に知られてしまった和美。歌衣に向かって好き好きオーラを出していることには、全く気付いていないようです。それを感じ取れない歌衣も、鈍男だと思いますが(笑)
幼馴染とおそろいのストラップとか、いいですね!私も、友達と中学の時におそろいのストラップをつけていたことを思い出しました。