成層圏の青・ブルーセンチュリー
「ターマック!」
「はーい!」
「何やってんだお前?」
「こんな物付けたらに二度と飛べなくなるぞ」
「全部やり直せ!」
「すみません」
ビィィィ
「1番ゲートからハッチ開放のカウント開始」
「生命維持宇宙用装備から大気圏用へ確認」
「いいかいあんたたち、こぞって稼げよ!」
「秒刻みで仕事のポテンシャルは変わるぞ!」
「ワラ?」
「ワラサ!」
「ふう・・・ミヨルカ」
「あんたはいつもボンミスの帝王ね」
「いや女帝か」
「マシ締めの女帝」
「うん、コンちゃんもう直ぐ来るよ」
「野郎どもが」
「ミヨルカ、ちゃんと見て組まないとまたバラすぞ」
「はいはい、あんたの王子さまはこの星に居たのよね」
ズズズズウズズ
ファーム星系、第三惑星チーズに到着した。
仕事だよ。
宇宙キャラバン「ホットロッド商会」銀河運航修理業社。
私、ミヨルカ・ターマック(女)が勤務するこの宇宙シップ。
多目的星間シップ「キャットウォーク」整備用宇宙ドッグ。
もちろん大気圏内外のお客にも対応。
主な客は民間のビジネス用だが軍事目的のほうが儲かる。
整備士見習いに入ってから、もう8年目だけど。
周期コースに沿ってもう二週目だ。
まるで彗星の旅ね。私はまだ28歳だ。あの人は・・・
この星「チーズ」は何世紀にも渡る機械兵器との戦争に決着。
いまが記念行事の年。新しい暦が始まったばかりで、稼ぎ時。
ニュー暦001年。
星間ネットワークで調べた、戦う意欲を失った人間の変わりにロボットが戦った。人を守る為に製造された擬人と呼ばれる人型ロボットは、人間以上のやさしさと真心で自分を犠牲にしてこの星を守り抜いたのだと言う。
みな女学生のような女の子だそう、なんかうらやましい。
宇宙ってそうなのよ、魂が叫ぶんだ。「一度きりの生命よ!」て。
ぐずぐずしてたら、あっという間にご臨終よ。
「コンちゃん、この瞬間てなんかすごいよね」
「うん、このキャットウォークが掛ける逆噴射の振動は」
「荒々しくて、なんかたくましいよね」
「中に居る私らが、胎児みたいな錯覚があるのよね」
「え~!?」
「コンちゃん産まれる前から覚えてるのお?」
「うわ、でたよミヨルカのオドロキ天国」
通路で装甲窓から外を見る二人、汎用整備服を着たまま立ち話。
手すりパイプをつかみながら私は布タオルで顔を拭きまくる。
汗と油で女とは思えない形相。
コン・コオロギのほうが腕が良いから余裕ぶってるぞ。
衛星軌道にランディングしてから、少しだけ高度を落とす。
高度三万メートル。
重力航空機が乗り入れ出来る高度まで高出力のパルスエンジンで逆噴射を掛ける。
もの凄い高熱の火の粉が飛んでくる。光粒子の大きな粒。
船外へまだ出れない、空気はもう開放されて流入してるから。
船内へ入ってくる風がむちゃ美味しい。
眼下を見れる床の窓は、足の下に大陸の緑と海の青が広がって。
パノラマの上のお姫さま?
「この仕事も面白いよねえ」
「コンちゃんの先祖はこの星から移民していったの?」
「うん、まあ故郷みたいなもんだけど」
「私らは殆ど知らないんだよ」
「これも宇宙の不思議ちゃんかな」
無重力航行からの重力の飛行は、やっぱ星の歓迎に感じる。
休憩を終えて整備班は大忙しになる。
成層圏に到達、アナウンスが雑音だらけでよく聞こえない。
もう外部で仕事が出来るようになった。
整備ハンガーが滑走路とデッキをつないで、まるで空中空母みたい。
客が前から突っ込んで船体後部のハッチから飛び出せるから。
ウォークスルー、キャットウォークってこの事を言うのかな。
軍用語はタッチ・アンド・ゴーだけど。
これからお客がワラワラと来るから、準備が忙しい。
横から見える眼下の丸い地形は、サーカス一座の巡業気分。
迫力と臨場感は、やっぱ胸がドキドキもんでやばいわ。
「成層圏て何でこんなきれい過ぎるんだろ」
「どこまでも透明な青さが見ていて吸い込まれそう」
「コンちゃんは?」
「あんた酸素マスクつけないと死ぬぞ!」
「早くつけろこのバカ女帝!」
「酸欠で頭がハイに成ったのか?」
「うわわわ」