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人たらしの設楽くん~ワールドエンド要塞の殺戮  作者: 羽野ゆず
ワールドエンド要塞の殺戮
12/23

【event01】第一の殺戮

 まどろんでいた。


 眠りのない世界に順応させられ睡魔は訪れないだろう、と予想していたけど。

 けっして、そうではなかった。


 意識はある。思考がぐちゃぐちゃに溶けて、外の闇に同化するような浮遊感に包まれている。

 今まで生きていて、まどろむ、という表現がこれほどしっくりきた感覚はなかったろう。

 室内は煌々として明るい。永久供給式エネルギーとやらのおかげで、停電などの心配はなさそうだ。


 ファンファンファン……


 それは不穏な警告音だった。

 館内中に響くサイレンで、深海に漂っていたような僕のまどろみは破られた。

 伏せていた机から身を起こす。

 一体何の音だろう?

 おぼろげな恐怖と好奇心とが僕に行動を起こさせる。


 廊下に出ると、天井にはめ込まれたライトが橙色に点滅していた。

 階段ホールで、槇村ナナオがそれを見上げている。


「何かあったんでしょうか?」

「さあ……」


 ナナオは首をひねる。

 並ぶと彼のほうが、十センチほど身長が高い。全体的に造作は整っているが、どこかぼんやりしたような顔立ちだ。


「この音は?」

「火災報知器だと思う」


 火災報知器、だなんて。

 近未来的な設定に似つかわしくないな、と思ったのは後のことである。

 僕とナナオは、階段ホールから一階に下りる。

 警報音はさらに大きくなった。発信源に近づいているのが分かり、緊張が高まる。


「なんだ……この匂い?」


 ナナオが日に焼けた頬をかく。

 焼け焦げたような刺激臭。生理的に受け付けない悪臭がフロア全体に漂っている。


 展示室を足早に横切り、エントランスホールに辿りついた。

 ウォータースクリーンの涼やかな水音と混じり、スプリンクラーが作動がしている音。出入り口周辺に人が集まっていた。


「ナナオくん……」


 僕らに気付き、コスモックル多羅が振り返る。

 ジェントルマン男爵、シスター、ファム少年、そして烈歌老師――彼らが取り囲む中央に、何者かが倒れていた。


「ッ!!?」


 それはあまりに――奇妙で、不可解で、醜悪で。

 絶対的な存在感で、僕を圧倒し、絶望させた。要塞を目の当たりにしたときの衝撃と似ている。


「あ……あ、ああ」


 ナナオが掠れた呻きをもらす。


 水滝の傍に、濡れそぼった華奢な肢体が横たわっていた。

 スプリンクラーの冷たいシャワーを浴び続ける、その身体は、服や皮膚のところどころが焼け焦げている。そして、首から(、、、)上がなかった(、、、、、、)

 赤黒い肉と白い骨の切断面があらわになっている。したたり落ちる血をシャワーが粛々と洗い流していく。


「きゃ……ッ!」


 背後で誰かが崩れ落ちる音がした。

 僕らの後を追って来たらしい、惨状を目の当たりにしたミセスローズが倒れたのだ。シスターとコスモックル多羅が、妊婦の貴婦人に駆け寄る。


 こうして死体の身元は、消去法で明らかになった――ここにいない、唯一の不在の人物。

 焼け焦げて頭部を持ち去られた死体は、槙村クレルだった。

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