ファンタジーショートショート:派遣
魔王の脅威に脅かされつつあったある王国で勇者の召喚が行われることになった。夜通し行われた召喚の儀式により、見事勇者が光の中からあらわれたのである。
「どうも初めまして!今回この世界を救う勇者になりました。Aと申します!」
そんなことを元気よく話す勇者に召喚の儀式に携わった者たちや王は戸惑った。異世界に突如召喚されては自分が一体どうなるのか、ここで何をさせられるのかと怯えられたり、暴れたり。そもそも言葉が通じない場合もあって意思疎通の魔法も用意していたのにそれすら必要なく、しかも自分が世界を救うと役割までわかっていたのだ。
「勇者殿?呼んでおいておかしな話なのだが、随分と物分かりが良すぎはしないか?」
王が不思議そうにそう尋ねた。
「あぁすいません。私勇者でも派遣なものであっちこっちの世界で召喚されまくっているのですよ」
その言葉に王は驚いた。
「何⁉そんなに世界を救っているのか。しかも生き残っているということは、全て救っていると言うことか!ありがたい!そんな勇者を遣わして下さった神に感謝しなければ!」
その言葉に勇者は目を逸らしつつ答えた。
「い、いやーそんなに全て救ってきた訳じゃないんですけどね?勝率は5割位かな・・・買っても負けて死んでもこっちは任務失敗で元の世界に戻されるだけなので・・・」
その言葉に胡散臭さを感じながら王は話を進める。
「一体その派遣の勇者と言うのはどうゆうことなのじゃ?」
「まぁこうやって国の危機だ世界の危機だってなると神の啓示だの古から伝わる伝説だので、無条件で他の世界からの勇者だなんだに頼っちゃうでしょ?そうすると自分たちの世界にいる英雄やら勇士やらで本来なら間に合うところを、異世界から来た勇者に持っていかれちゃうわけですよ。でもその引っ張ってきた異世界も実は切迫した状況かもしれない。そんな時その世界を救える人がいないからそこも召喚に頼ってしまう。そうすると世界を救う人の人材不足に陥るわけですよ。そんな時に召喚に頼っちゃった国に予め世界を救える位の力量あるかも?って人に目星をつけて謎の天の声がかかるんです。そしてOKしてくれた人に派遣の勇者の資格が与えられるわけです。」
「なるほどなぁ。そうやって世界を救う勇者の人数を嵩増ししているわけか」
「言い方があれですけど、まぁそんな感じです」
勇者の説明に納得した王は、早速勇者に様々な支援をし魔王討伐を任せることにした。
魔王討伐の出かける寸前に勇者が王に呟いた。
「様々な支援ありがとうございます。こんなに準備を良くしてくれる国なんて久しぶりですよ」
「ほぅ?そうなのか?」
「なんだか王の座を狙っているだので毒仕込まれたり、自分で準備しろとかで大した装備いただけなかったりですね。こっちは終わったら元の世界に戻るだけだってのに。余程の事をしない限りその世界に永住はできないようになってるんですよ」
「余程のこととは何じゃ?」
「例えばこの世界なら魔物をこの世界から全て消滅させるくらいのことしないと駄目ですかね?でもそうすると逆に魔物を糧にしていた人たちの職を一気に奪うことになるし、難しいものです」
「確かに魔物の中には調教して乗り物にしていたり、魔物から出る素材は食べ物から武具、芸術品まで様々に活用されておるからな。今回も魔王を討伐してくれればそれでいいと思って思っておったしな」
「でしょう?だから永住とか無理なんで後ろから槍で突かないでくださいね?」
「お主も苦労しておるんじゃの。支援はしっかりしてやるから頑張って魔王を倒してきてくれ」
そう言うと勇者はほっとした表情で旅立って行ったのだ。
魔王への討伐の旅はさほど掛からなかった。何度も世界を救ってきたせいか勇者自身相当の力を持っており更に王の支援と言うことでその世界の実力者達とパーティーを組んで旅をすることが出来たからである。様々な魔物を蹴散らしあっという間に魔王の城。そして魔王の間にたどり着いたのだ。
「何かえらく順調に魔王の前まで来れましたね勇者様?」
パーティーの一人が問いかける。
「あぁ。本来なら私一人でも良い所なのにこうやって皆を集めてきてくれたからね。それに支援もばっちりだし、本当に良い王様だよ」
等としみじみ答えていた勇者だったが、魔王を見た途端固まってしまった。いきなりの勇者フリーズに慌てるパーティーメンバー。
「どうされた勇者様!まさか魔王が既に攻撃を⁉」
「そんなバカな!何も感じなかったぞ?」
しかしよく見るとフリーズしているのは、勇者だけでなく魔王も同じようにフリーズしていたのであった。
「まさかまたあなたが魔王で来るとは・・・?」
「その言葉そのままそっくりお返ししよう勇者よ・・・」
その言葉のやり取りに驚くメンバー達。
「勇者様は、魔王を知っておられたのか?」
その問いに申し訳なさそうに勇者は答えた。
「実はこの派遣システム魔王にも同じようなものがあるらしくてですね?この魔王さんとはもう何度もやりあっているんですよ」
「もう勇者とやりあうのは何度目だ?」
そんなやり取りに毒気を抜かれるメンバー達。そこに魔王が話しかける。
「安心しろ勇者に倒されれば勿論消えるし、ある程度魔王として魔物の領域を広げられればお役御免で消えることになっておるからな」
そこに恐る恐るメンバーが問いかける。
「では魔王の永住する条件とは・・・?」
「勿論人類絶滅なのだが、それをするとそれはそれで困ってしまう種族もおるからな?難しいものよ」
若干の緩んだ雰囲気を引き締めるべく勇者が武器を構えた。
「では行きますよ。魔王!これで勝てば私の勝ち越しです!」
「そう言えば前回もお前に負けているわけか。では今度は勝たせてもらおう!」
魔王も全身から真っ黒なオーラを出し、威圧する。
「勝ち越したら何時もの居酒屋で奢ってもらいますからね!」
そんなことを言いながら向かっていく勇者に
「お前たち同郷かよ⁉」
「仲良いんじゃねぇか!」
メンバーから総ツッコミが入る。
こうして派遣勇者と派遣魔王の居酒屋での飲み代を懸けた・・・この世界の命運を懸けた戦いが今始まった。