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「お話したい事は以上です。父様は王様への報告の義務がありますでしょう? 私のことは父様の判断でお伝えして構いません。 ……あ、えっと……それとも、私は追い出されるのでしょうか?」
恐る恐る口にしたその言葉は、抱きしめられた体温の中に消えて行った。
早口でまくしたてるように近況を口にしたが、実際の所どういう判断をするのかを聞いていない事に気が付いたのだ。事実を告げた後、父様と呼んでしまったが、彼らが拒絶するというのなら私は受け入れなければいけない。今までの約五年間、秘密を隠し平然と暮らしていたのだから。
しかし、突然与えられたぬくもりに戸惑い、恐る恐る顔を上げる。ぬくもりの正体など分かっている。隣に座っていた母様だ。顔に振って来たのは、ぬくもりと同じほど温かい雫。
「そんなこと、そんな事言わないでちょうだい……! 何があっても、どうあっても、私の子なの! 私がお腹を痛めて生んだ、私の娘なのよ!」
「……ッ! そうだぞ、ストラーダ。前世? そんな事はどうだって良いんだ。寧ろ、今までそれを察せなかった私たちが悪い。魔導書に触れても、戻って来てくれてありがとう……ッ!」
「そうだよ、ストラ。前世があろうとなかろうと、君は俺の妹だろう? なんにも変らないよ」
あぁ。あぁ、あぁ! 振ってくる言葉が堪らなく嬉しくて、視界が歪む。受け入れられた。ただそれだけが嬉しくて、抱きしめられた腕に縋る。母様だけじゃなく、父様や兄様も私を抱きしめた。傍から見れば四人で丸まった一つの団子のように見えることだろう。しかしそんなこと気にする事もなく、その温かい腕にすり寄るのだ。
私の二番目の家族とも、仲良くやっていけそうだ。
「どうせなら、繕った口調だけではなく、素で話して見たらどうだ? 秘密は少ない方が良いのだろう?」
いやいやいや、お嬢様然として繕って来たのにそこまで言うのは良くないだろう。貴族として暮らしていくのなら、丁寧な口調が普通だろうし。
「そうか、それは残念だ。しかし隠し事が気になるのだろう?」
それはそうだけど、全員貴族として暮らして来て、今まで隠していたとは言えお嬢様していたんだ。そんな奴がいきなり口汚くしたらビビるんじゃないか? 私は前の暮らしで慣れたし、兄弟の影響でこうなった訳だけどよ。
「……ねぇ、ストラちゃん。今の声は?」
「えっ? 母様聞こえて……」
「私も聞こえたぞ」
「俺も……その、ストラの声かと思ったんだけど……」
私の、声? いや、私は声出してないはず……。いや、あれ?
「我である」
「お前かァァアア!!!」
温かい腕から抜け出して、聞こえた声に全力で突っ込む。え? え? ていうか何、喋れたの? 喋れたのに、今まで喋らなかったのか?
「恐らくは今までも言葉を発する事は可能だったと思われる。しかし、感情を受け止めるのに集中し、他の器官の事を放置していた。そなたの話し中、嘘をつきたくないと言いつつ隠し事がある事が気になり、いっそ我が話してしまおうと声を出してみた次第。発声器官を初めて使うが故、つたない部分などあれば指摘してくれ」
「いや、十分だよ!? 初めてでそれだけ喋れりゃ上等すぎるわ。っていうかそれ私の声だな? ちょっと高く感じるけど」
「他者が聞くのと自身が聞くのとでは異なるのだろう? 我の場合はそなたの声を外から聞こえた音と同じようにしている。そなた自身に聞こえる音として発声も可能だが」
「何故私の声にしたし……あ、半分だからか。 ……って、あ……っ」
うっわ、やっちゃった。私の言葉使いに目を見開いている家族たち。そりゃそうだ、こんな言葉使いした事なかったもんなァ!
「ストラーダ、その言葉は?」
「……あー……すいません、昔の……前世では男所帯の平民暮らしだったもので。一人称は直ったなんですけど、男言葉がどうにも……」
ちなみに、矯正前の一人称は「俺」である。そのまま成人したら、大分痛い女になっていたことだろう。男言葉に関しては繕う事も出来たので、大きくはバレなかった。それでも親しい友人の前では良く飛び出したものだが。あと家な。兄とか弟とかのなかで揉まれるとどうしても出てくる。粗暴な兄弟だからな、シカタナイネ。
「それが、ストラちゃんの素、なのかしら?」
「……中身は、そうですね……」
デカい秘密バラしたばかりだというのに……なんてことするんだ、この魔導書のヤロー!