表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

8

少し滞ったので一気更新。番号にお気を付けください。


「大切なお話があります……父様、母様、兄様」


震える唇で、どうにか声を出し家族を見つめた。

あ、因みにこれはお嬢様仕様の私である。内心でもどうにか慣れようと家族に対して様つけをしてはいるが、これ以外はどうにも駄目だった。家族が皆ロイヤルな雰囲気を出していたから、どうになっただけである。前世で培った男口調はそのままだ。一人称は成長する過程で周りに感化されどうにかなったが、こればっかりはどうにも駄目だった。中身だけだから問題ない、問題ない!


『家族がお前の言葉を待っているが?』


 おっといけない。小さく深呼吸して改めて家族を見つめる。父様は何かを察したようで、人払いをしてくれた。使用人たちは皆、部屋の外に出て行き、家族たちは対面の椅子に座り直した。場所は私の私室。体調が良くなり、動けるようになった私だが、未だ彼らは心配し、この部屋に集うようになっていた。


 食後、そのまま移動し、少しの団欒を楽しんだ後改めて私はそう口に出したのである。父様や兄様は対面のソファーに座り、母様は私の隣に腰掛けていた。告げる言葉は決まっている。私の秘密だ。


「この子……の話の前に一つ、話しておきたい事があります。私は、自分の前世を知っています」


 魔導書を撫でながら、間を置く事なく続ける。それぞれに驚いた反応を見せたが、私はそれに構わず言葉を続けた。


「私の前世はこの世界とは違う地球という名の、日本という国に住んでいる女でした。家族が両親、上に三人の兄と下に一人の弟という男盛りの中に産まれた長女、第四子でした。私の最期は覚えておりません。もしくは、亡くなったショックのあまり消し去ってしまったのかもしれません。ただ覚えているのは、私が二十四歳だったこと。仕事で疲れ、帰宅を急いでいたことくらいでしょうか」


 テンプレで言えばそのあと死ぬようなことがあったのかもしれない。でもそれを私は覚えていないのだ。もしくは、覚えているのが二十四までであって、それ以上に人生を全うして死んだのかもしれない。しかしそれも憶測だ。覚えていないのだから。


「私がこのような話をしたのは、知って貰いたかったというのが一つ。もう一つは、これから魔導書の話をするのに対し、説得力もしくはきちんとした説明をするためです。幼児の言語能力では些か難しく、説得力がないと判断しました。故に私がそう言った記憶を保持し、判断した事だと知って貰いたかったのです」


 説明口調になると、どうしても前世で培ったあれそれが出てくる。猫をひっかぶり接していたものだ。特にお客さんに対しては。そこは礼儀として当たり前だけれども。


「……本題に致しましょう。魔導書のことです。私はこの度、魔導書と契約いたしました。やも得ぬ状況下ではありましたが、私の意志です。私には夢があります。その夢への道を共に歩む代わりに、私の人生を半分差し上げました」

「人生、とは?」


少し放心していた父様が声を上げる。それ程に無視できない言葉だったんだろう。ニュアンスだけじゃ寿命にも思えるから。


「寿命、ということではありません。しかし文字通り人生を半分さしあげました。要は二人で一人、という状態です。この子と引き離されるというのは、自分の半分を他者に取り上げられるという事なのです。事実、取られそうになった時、私は言いようのない不安に恐怖にさらされました。落ち着いている筈の精神さえ乱し、みっともなく取り上げないでくれと泣いたのです」


 私の様子を思い出したのか、父様は俯く。兄様は何処か呆けていて、現実世界に戻ってきていないように思えた。隣に座る母様に関しては……怖くて、顔が見られない。

 そう口にした後で改めて思えば、あの時は繕うことなど頭に入っていなかった。ただ、魔導書を取られないように……冷静に頭が考える前に身体が行動したのだ。魔導書を抱きしめ、泣きわめいた。


『……あれは、とてつもない恐怖だな……』


 私の感情を感じた故か、それとも魔導書自身がそう思ったのか。 ……あっ、そういや自分で自分の感情が二倍になるって分析していたわ。今思えば、あれは二倍になったが故の行動だったのかもしれない。


「事実、離れればどうなるのか分かりません。しかし私は、この子がいなければ永遠の恐怖に捕らわれる事でしょう。……まぁ、常に抱きしめておりますが」


 疑心暗鬼って訳じゃないんだけどさ、こうして持ってないと落ち着かないんだよな、事実。手放すのは風呂の時ぐらいだろうか。それ以外はずっと握りしめている。とにかく、自分で握りしめていないと駄目なのだ。……もしかしたら幼さも原因かもしれない。子供は感受性に優れているし。

 時がたてば、多少手放すぐらいは出来るようになるんだろうか? まぁ、魔導書が感情を表現し始めれば、将来的にあり得る話かもしれない。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ