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『そうだな……。まず、我に触れるというものの定義は本に直接触れる、というのが正しい招き方だ』

「えっ、私の魔力が触れたとか言ったぞ? お前」

『やも得ぬ処置だ。王城の禁書庫に入れられて二百年ほどたっていた為にな、対象者が誰もいないというのは避けたい事態だったのだろう。制作者にとっても』

「あぁ、そうかい」


 私はそこらへんで匙をなげた。私が選ばれたのは、恐らくタイミングが合った。つまりは偶然ってやつだろう。あの時間図書館に行かなければ、他の人間が取り込まれていた可能性が高い。こいつが王城全体に範囲を広げたとしても、私が王城に来る確率なんて限りなく低いのだ。基本、自分の屋敷でのんびりしているし。


『現在使用したのは百十九人ほどだ』

「結構いるな!」

『誰にでも叶えたい願いというものはあるものだ』

「へぇ、じゃあざっくり願いと代償教えて」

『代償ではない。対価だ……一人目の対象者は―――』


 そこから淡々と、魔導書は一人目から百十九人目の願いと代償を語った。内容だけでは釣り合っているか分からないものは、聞いたりして保管していく。


 例えば、五十七人目の農民の少年。願いは妹の病気を治してくれ。代償は少年の左目の視力。それだけじゃ、釣り合わないんじゃ? と思ったからその妹の病状を聞けば、流行り病で虫の息だった。それならむしろ代償は軽い方なのではないかと思う。私も家族が死にそうなら、何でも良いから早くって気持ちは分かるので少年の判断は間違ってないだろう。


 七十人目は貴族の男。欲しいものは金。……これはもう不可解の域。ただ金が欲しいという金の亡者だった。背景には金があれば~とかそういうのがあるかと思ったけど、それもなし。ただ金というものに捕らわれていた。で、これの代償は感情。男は金を得て人間性を失った。でも、元々金に捕らわれていたんだよな? 感情を奪ったらどうなるんだろうか、と少し気になったが口には出さなかった。


 そうやって聞いていく内、気が付いたのは代償の内容だ。同じ願いでも、同じものが代償に選ばれることはなかった。そして何よりに気になったのが……代償の内容がまるで人間を形作るように、パーツのようだったこと。


 先程あげた、視力、感情……他にも外見的な部位はあった。目玉とか、右手とか。そう考えると、この魔導書が奪う代償というものは人を形作るのに必要なものばかりなのだ。しかし、百十九もの代償を聞いても何が足りないのか私には分からなかった。むしろ、「人」として形作るだけならば既に十分な材料がそろっている。


 私の考えは魔導書に筒抜けだろうから、と闇に浮かぶ本を見つめる。本なだけあって表情なんてものはまるで分からない。しかし、先程の機械的な対応から奪ったものを使っていないのではないかとは思った。……もしくは奪ったものを何処かに転送しているのか? それなら、この魔導書は窓口でしかない訳だが。


『いや、対価は我の中に仕舞われている。制作主が何を思って我を作ったのか、我も知らぬ。ただ機能として願いを叶えているが』

「……だとしたらやっぱり、人間を作りたかったのか?」

『分からぬ』


 あぁ、そうだったね。知らないって言ったしな! ……でも、そう考えれば納得はいく。人工的……いや、魔術的に人間、または人間の形の魔導書を作りたかったのなら、完成は近いだろう。そうなると、私が差し出せそうなものは決まっている。


「よし、誘拐犯。取引をしよう」

『誘拐犯ではなく魔導書だ。……願いを決めたのか?』

「これで釣り合ってるかは微妙だけどな! まぁ、お前が欲しいものは予想出来てる」

『我も分からぬというのに、か?』

「あぁ。お前が何故あの場で私を呼びこんだのか……これに繋がるんだよ」


 そうじゃなきゃしっくりこない。私の願いが大きいのは分かっているが……それだけで、私が選ばれたなどと不自然も良い所だ。私が居なければ、父様になっただろう。王城まで範囲を広げられるのならば、その中で最も年寄りの者が選ばれていただろう。


「お前がヒトを形作る準備は出来てる。となれば、欲しいのは経験だ。ヒトという経験」


 感情があっても動かないのは、経験がないから。目の前で悲劇を繰り広げられたところで、経験がないとどう反応すべきかも分からない……感情の揺れが、ないのだから。


「お前に私の人生を半分やろう! その代わり、共に夢へ向かって歩もうか!」


 だから、私の人生。お前にベッドしてやるよ!





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