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いやもう、本当に積んでる!? だって、何にも選択できずに思考垂れ流すだけ垂れ流して、このままなんて廃人ルートじゃないか? 確か、私は精神のみでこの世界に来ている的なことをこの本は言っていた覚えがある。ということは外では私の身体の周りで、慌てている訳だ。しかもここは暗闇空間。つまり時間の流れとか、そういうものが全く分からない。そんな状態で、魔導書といつまでも一緒状態とか……。
『……帰るという願いにすれば良いのでは?』
「うるせぇ、ちょっと考えてんだよ。思考読むなよ、黙ってろよ!」
『そうは言っても、ここはそなたの頭の中のようなものだ。そなたが考えたことは全て我に分かるようになっている』
「じゃあいっそ私側に汲みして意見出してくれない?」
『そなたの願いを言うだけだろう? 何を迷う必要がある?』
ほら、これだよ! この魔導書、人間的な葛藤っていうか、感情的なものは一切備え付けられていないようだ。迷いに迷っている私へのアドバイスがこれってことは本当に期待できない。やっぱり自分で答えを出すしかないのか……私はいつ、元に戻れるんだろうか……。
「考え過ぎも良くないか……。あ、誘拐犯よ、ちょっと聞きたいんだが」
『誘拐犯ではない魔導書だ』
「私にとっては誘拐犯……っていつまでこれ続けるんだ? じゃ、なくてさ。私みたいに過去連れて来られた人ってどんな感じだった?」
『どんな感じ、とは?』
「えーと、まず資格ある者って何だ? ってのと、来た人たちはどんな願いと対価を払ったか教えてくれ」
とりあえず、八つ当たりは一通りしたので状況判断の為にそんな事を問う。今までのやり取りでこの本の性格というか、機能的なものはなんとなく理解したけれどそれ以上に分からないことは多々ある。プラス、過去こいつと取引した奴がいるなら願いと対価を聞き出す事でレートが分かるかもしれない。
『そんな事を聞いてなんになる。そなたの願いを聞いているだろう?』
「だから、リスクとリターンが釣り合ってるのかどうか判断したいって事なんだよ! 心読んでる状態なんだから、ツッコミさせんな。ついでに答えてくれんの!?」
『問題はない。資格ある者とは、恐らく強き願いを持つ者だ』
「んんん?」
強い願いと言われてもいまいちピンと来ない。しかも恐らくとか言う推測だ。……否、もしかするとそれは私の夢というか野望のことを言っているのか? それだったら、全力で自分の第二人生つぎ込むつもりなので、叶えるなんてお節介は要らないんだが。
『その上で我に触れたものを招いている』
「おい、私はお前に触れてないぞ」
『魔力が触れた』
アバウト! というか、近くに居た父様か兄様の方が大きい魔力していたと思うんだが?
私も子供にしては多いと言われる魔力を持っているが、それはあくまで子供では。同じ血を引く兄様も似たようなものだし、それだったら父様の方が多いだろう。強い願いだって持っているのではないか、とも思う。妻子を守りたいとか、強くなりたいとか……何? 私の願いってそれよりも大きいものだったのか?
『規模が大きいな。まず我に願わなければ叶えるのは難しい』
「おい!幼気な5歳児の夢ぶち壊しにくるんじゃない!」
『精神年齢は違うのだろう?』
「今世ではまだ5歳児だ!」
そう反論しつつも、あぁやはり規模が大きすぎるのかとは思う。魔法と演出を組み合わせるというだけでも大変な苦労だとは思うが、そこに歌・ダンスと取り入れるのはとても大変なのだろう。が、しかし私はそれで諦めるという選択肢を持てるような人間ではない。無理そうなら延命の方法やら、再度転生できそうな方法を探せばいいのだ。あるという保証はないが、ロマンならばある。2度目の人生なのだ、楽しまなくてどうする?
『ふむ。ならばそれを願いにすればいいと思うのだが』
「いい加減同じような問答は止めよう、誘拐犯。ほら、私の質問に答えろ」
『誘拐犯ではない、魔導書だ』
「良いから話せぇい!」
くっ、こいつと話していると先に進まない……。少しでもヒントを見つけたいのだが。
『ヒント? レート、というやつか。一貫性がないので、目安になるかも不明だが』
「いいから! 話し進めようぜ。というお前は話す気がないのか? それとも話したくないのか? だから話を逸らすのか?」
『話すことに対して抵抗はない。ただ、その時間を費やす意味があるかどうかが疑問なだけだが……』
「なら、話せよ! はよ!!!」